国王「名づけて……勇者ドッキリ大作戦!」 5/5

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勇者「いやぁ~……なんというか、ほっとしたというか……」

勇者「つまり、あの他国での悲惨なニュースは全てウソだったということですよね!?

実際には、あんな目にあった人たちはいないってことですよね!?」

勇者「あぁ~……ずっと胸の奥で俺を苦しめていた痛みが、ウソのように消えました」

国王(なんだこれは)

国王(なんだこれは──)

国王(なんだこれは!?)

国王(ナンダコレハ)

ザワザワ…… ドヨドヨ……

勇者「メイドさん」

メイド「!」ビクッ

メイド「私は、私は……!」

勇者「ふふっ」

勇者「いつも俺に対して申し訳なさそうにしてたのは、

このことを知っていたからなんだろう?」

メイド「は、はい……ごめんなさい……!」

勇者「謝ることはない」

メイド「え……」

勇者「君の昨日の言葉──メイドさんにとって俺は絶対に勇者だと、君はいってくれた」

勇者「アレがあったから、俺はこの真実に耐えられた」

勇者「俺の中に君一人のためだけに残ってた勇者ってヤツが、

俺が絶望するよりも先に、魔王の存在がウソだったことに安堵してくれたんだ」

勇者「こうして今、清々しい気分でいられるのは君のおかげだ。

ありがとう……!」

メイド「いえ……私は最低です……!」

勇者「もういいんだ」

勇者「俺にとって、この一年は最高の一年になった……」

「スゴイ……」 「まったく動じてない……」 「なんだあの幸せそうな顔は」

「俺だったらムリだ」 「どんだけタフなんだよ」 「一年間ずっと騙されてたのに……」

だれかがつぶやいた。

「アンタ、本当の勇者だよ!」

すると──

ワアァァァァァッ!

「お前は勇者だ!」 「かっこいいぞ!」 「すごいぜ、アンタ!」

ワアァァァァァッ!

「さっきは笑って、申し訳ない!」 「本物の勇者だ!」 「偽物なんかじゃない!」

ワアァァァァァッ!

魔術師「……これは予想外でしたね」

兵士長「青年が一年間で育み、彼女のためにとっておいた勇者としての心が──

好奇心と悪意の塊だった群衆たちの琴線に触れたということか……」

ワアァァァァァッ!

大臣「なんということだ……。まさか、こんなことに……!」

国王(ナンダコレハ)

国王(なんだこれは)

国王(なんだこれは!?)

国王(ワシはこんな茶番を見るために一年間、手間と金をかけたわけじゃないんだ!)

国王「ふ……」

国王「ふざけるなっ!!!」

シ~ン……

国王「なにが勇者だ!」

国王「こんな田舎木こりが、勇者のハズがなかろうが!」

国王「自分が勇者と信じ込んだ凡人が、真実を知った時、

どのような歪み方、崩れ方をするか期待していたのに──」

国王「期待を裏切りおって!」

国王「許せん……!」

国王「青年と……ワシの作戦を台無しにしたメイド! おぬしらは牢獄行きだ!

一生出られないものと思え!」

勇者「…………」

勇者「分かりました」

メイド「私も……この人と一緒ならば地獄の底までもついていきます」

国王(くっ……まだ茶番を続ける気か!)

「ええい、コイツらをひっ捕らえて牢獄に叩き込め!」

どこからか野次が飛んだ。

「ふざけてるのはテメェだ!」

国王「ぬっ、だれだ今いったのは!?」

「下らんイタズラに税金使いやがって!」 「何考えてやがる!」 「ふざけんな!」

「自分が牢獄に入れよ!」 「このお子様国王が!」 「引っ込みやがれ!」

暴動でも起きかねない雰囲気になっていく。

大臣「ひ、ひぃぃぃ……!」

大臣「い、今のはまずかったですよ……火に油を注ぐようなものです。

この場には、国中の人間がいるのですから……!」

国王「ぬぅぅ……!」

(元々は青年の壊れっぷりを期待して集まったんだろうに……

なんという勝手なヤツらだ!)

国王「兵士長、魔術師!

群衆どもが手出しできないよう、念のためあの二人を捕えろ!

おぬしらなら、あんな木こりを捕えるのはたやすいだろう!」

兵士長「お断りします」

魔術師「同じく」

国王「なんだと!? おぬしら、王であるワシに逆らうのか!?」

兵士長「あの二人になにひとつ落ち度はない……。

ましてやあの勇者は私の教え子です。捕えたくはありません」

魔術師「もちろん陛下にも落ち度はありません。

もし落ち度があるとするなら──それは我々二人でしょう」

兵士長&魔術師「今の今まで罪のない青年を弄ぶような

あなたのご命令に逆らえなかったのですから!」

国王「な、なんだと……!」

「国王を許すな!」 「追い詰めろ!」 「みんな、かかれぇっ!」

勇者「こ、これは……!? なにがどうなってるんだ!?」

メイド「勇者様!」

勇者「君だけは守る!」ギュッ

ワアアアァァァァァァァッ!!!!!

前代未聞の大暴動であった。

剣術大会でのやらせ強制の件や、兵士長らの造反もあり、

国王につく兵士はほんの一部だけであった。

やむをえず、国王はわずかな手勢を率いて、辺境へと落ち延びた。

国民たちもこれを追撃することはなかった。

その後、勇者を新たな統治者にしようという運動が起こったが、

当の勇者はこれを固辞。

残っていた王族の中でも心ある人物が、新たな王となることで決着がついた。

しかし、前国王はまだ王位を諦めたわけではなかった。

各地をゲリラ戦のように暴れ回り、王国の平和を脅かした。

いつしか人々は前国王のことを、魔に堕ちた国王“魔王”と呼ぶようになった。

まもなく魔王討伐隊が組織され、リーダーにはもちろん勇者が選ばれた。

そして──

勇者「国王様……もう止めて下さい!

すでに大臣様の軍勢も全面降伏しています!」

勇者「俺がこの討伐軍のリーダーを引き受けたのは、

あなたを討つためではなく、あなたを止めたいからです!」

勇者「俺はあなたに感謝しています!

あなたのおかげで剣と魔法を覚えることができ、

さまざまな人と出会えました」

勇者「悪いようにはしません。潔く降伏して下さい!」

魔王「だまれ、だまれぇっ!」

魔王「元はとはいえば、勇者!

ワシがおぬしなどに目をつけなければ……

いや、おぬしさえいなければ、こんなことにはならなかった!」

魔王「知っておるぞ、今やこのワシは魔王と呼ばれていることを!」

魔王「おぬしも勇者なら勇者らしく、いざ尋常に勝負せい!」

勇者「……分かりました!」

歴史に残る一騎打ちが始まった。

ガキィンッ! キィンッ! ギィンッ!

武芸の才能に乏しい若者と、つい先日まで君主であった老人の対決。

はっきりいって低次元の争いだった。

ギィンッ! キンッ! ガキンッ!

しかし両者ともに気迫だけは凄まじく、

両軍の人間は固唾を呑んで一騎打ちを見守った。

勇者「はああああっ!」

魔王「ぬおおおおっ!」

ザンッ!

体力で勝る勇者の剣が、ついに魔王を切り裂いた。

魔王「ぐ、ぐぶぁっ……!」

魔王「ゆ、勇者──……」

ドサァッ……

勇者(国王様……)

勇者「…………」スゥ…

勇者「魔王、討ち取ったりぃぃぃぃぃっ!!!」

勇者は剣を天に掲げた。

ワァァァァァァッ!!!

こうして勇者の手によって魔王は討ち取られ、世の中に平和が戻った。

現在、勇者の称号を返上した青年と、メイドを辞めた妻は

ある小さな村で二人暮らしをしている。

青年「さぁ~て、今日も張り切って木を切ってくるか!」

青年「剣術を融合させた切り方を編み出したら、

前よりスピードがだいぶ速くなったよ」

妻「速いだけじゃなく、仕事は丁寧にやらないとね」

青年「分かってるよ」

青年「ん」

青年「まぁ~た、父さんと母さんから詫びの手紙が来てるよ。

もう俺をだましたことは気にしてないって返事したのに」

妻「ふふっ、ここでの生活が落ち着いたら、一度帰ってあげましょうよ」

青年「そうだな」

青年「ところで、君のご両親は大丈夫かい?」

妻「えぇ、あなたが勇者としてもらった謝礼を全部回してくれたから……

本当にありがとう」

青年「なぁに、俺はもう勇者じゃないけれど、

君にとっての勇者ではあり続けるつもりだからな」

妻「あら、じゃあこれからは私と……もう一人のための勇者になってね」

青年「え、それってまさか──」

妻「うん……できたみたい」

青年「やったぁ!」

<おわり>

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