【機械工の工場】
勇者「こんにちは。」
機械工の娘「はいはーい、親方は今手離せませんよー。」
勇者「よう。」
機械工の娘「勇者!どうしたんだ、いきなり。」
勇者「ちょっとおやっさんに頼みごとしたくってな。」
機械工の娘「なんだ、モンスターと戦うのに、びびって逃げ帰ってきたのかとおもったぜ!」
勇者「ばかやろ。お前の方がなんぼかおっかないっての。」ポリポリ
機械工の娘「あはは。まぁいつでも雇ってやるから勇者廃業したらいいな!こき使ってやるけどな!」
勇者「うっせーよ。」
僧侶「ふふふ。お二人は仲良しなんですね」
機械工の娘「んんーっ?なんだこいつ?」
僧侶「初めまして僧侶と申します。勇者様の回復支援(ヒーラー)として仕えております。以後お見知りおきを。」
機械工の娘「ふーん」ジロジロジロ
機械工の娘「おい勇者、こんなやつ役にたつのか?」
勇者「それなりにな。」
僧侶「勇者様ひどいです。」(勇者より役にたってるわっての!)
機械工の娘「ふーん、別にいいけど。」
勇者「俺ちょっとおやっさんに用があるから中入るぞ。娘、僧侶の相手してやってくれ。」
機械工の娘「えーなんでアタイが…。」
僧侶「いってらっしゃいまし勇者様。」
機械工の娘「…。」
僧侶「…。」
機械工の娘「…」
僧侶「娘様。」
機械工の娘「あんだよ。」
僧侶「娘様は勇者様のことがお好きなんですね?」
機械工の娘「ば、ばか、そそそそんなわけ、あるわけねぇだろ!」
僧侶(図星か…。)
僧侶「わたしと勇者様は恋仲ではありませんよ?」
機械工の娘「ほっ。 いやいやいや関係ねーし!!」アセアセ
僧侶「フフフ」
【小一時間後】
勇者「じゃあおやっさん頼みます。」
機械工「ひょいっと久々に帰ってきたと思ったらこんな難題、土産にしやがって。」
勇者「すみません。でもおやっさんにしかこんな事頼めないんです。」
機械工「ふん、あたりめーだ。俺以外にできるかよ。」
勇者「はい!ありがとうございます。」
機械工の娘「そんで、勇者のやつよ、『男の子しかそのお化けは襲わない』っていうアタイの嘘を信じて毎日女物のパンツをはいてやがったんだぜ。」
僧侶「あらあら大変うふふ。」(でも俺も今パンティはいてる…。)
勇者「おい。何を話している?」
機械工の娘「やべ。」
僧侶「ふふ、勇者様のお話です。親方様とのお話はおしまいですか?」
勇者「くそ、いくぞ。」
僧侶「あら?今夜のお宿ですか?」
勇者「俺の実家だ。」
【一本杉のある家の前】
勇者「俺はちょっとじいさんに挨拶してくる。お前は宿でもとって先に休んでいろ。」
僧侶「あら、それでしたらわたしもおじい様にご挨拶したいですわ。」(勇者の血筋を確認したほうが今後育てやすいしな。)
勇者「宿で寝てろ。」
僧侶「いやです。」キッパリ!
勇者「ちぃ、ちょっと顔だすだけだ。お前は…。」
祖父「なんじゃあ外に誰かおるんかいのう?!」
勇者「お、おじいちゃん!」
僧侶(おじいちゃんだと?ずいぶん甘えた声出すじゃないか。)
祖父「その声は勇者か?!早く家んなか入ってこい!鍵は空いてるからのう。」
勇者「うん。」
【勇者の実家の中】
勇者「おじいちゃん、ただいま!」
祖父「ずいぶん立派になったのう。」
勇者「おじいちゃんが倒れたって聞いたからびっくりしたよ。」
祖父「なあに、持病の慢性閉塞性肺疾患(COPD)がちょいと悪化しただけじゃあ。」ゴホゴホ
勇者「頼むよ!もう若くないんだからさ。」
祖父「ふんまだまだじゃあ。ところで大魔王は倒したのか?」
勇者「まだだよ。そんな簡単にはいかないよ~。」
僧侶(そっか、おじいちゃん子なんだな。この姿をみられるのが恥ずかしかったんだろうな。愛いやつ。)
祖父「ところでこの方はどなたじゃ?」
勇者「僧侶だよ。一緒に大魔王を倒す旅をしている。」
僧侶「僧侶と申します。勇者様の回復支援(ヒーラー)として仕えております。以後お見知りおきを。」
祖父「こんな立派な方が孫とパーティーをくんでくださるなんてありがたいことじゃ。孫をよろしくお願いいたします。」
僧侶「こちらこそ勇者様にはお世話になっております。」
祖父「それにしても勇者よ、まだいい人はおらんのか?」
勇者「え?」
祖父「正直わしも老い先短い、死ぬ前にお前の嫁に会わせてほしいんじゃ。」
勇者「それは、い、いるよ。」
祖父「なんじゃって!どこのどなたじゃ?」
僧侶(え?)
勇者「えっと、そ、僧侶だよ。この僧侶と旅を終えたら結婚するんだ。」ポリポリ
祖父「なんとこんな綺麗な方とか!!本当か?」
僧侶(おいおい)
勇者「う、うん。」(僧侶すまん頼む。)
僧侶「はい。未だ僧籍の身ですが、もしわたしにも平和な時をいただけたら勇者様の伴侶として過ごさせていただきたいと思っております。」ペコリ
(仕方ないじいさん孝行だ。)
祖父「尼さんに手を出すとは我が孫ながらあっぱれ!僧侶さんこんな家ですが末永くよろしくお願いいたします。」
僧侶「そんな、お顔を上げてください。もったいないことです。」
勇者「そうだよ、おじいちゃん。」
祖父「馬鹿者!お前なんかに嫁に来るなんて奇特な方もう二度と現れんわい!」
勇者「それひどくない?」
僧侶「うふふ」(こういうのもいいな。)
【勇者の実家 夜更け】
勇者「おじいちゃん喜んでいたな。」
僧侶「そうですね。でもあんな嘘をついてよかったのでしょうか。少し心が痛みます。」(嘘は嘘だからなー俺男だし。)
勇者「うん…。」
僧侶「あの、明日たつ予定でしたがもう少しここにいませんか。」
勇者「え?」
僧侶「おじい様に、少しの間でもそばにいてあげませんか?」
僧侶「わたし達が大魔王に勝てなければおじいさまは一人です。わたし少しでもおじい様のために何かしてあげたいのです。」(俺もお人よしだな…。)
勇者「…。ありがとう僧侶。」
僧侶「いいえ。」
(何故か不思議に勇者のじいさんをかまいたくなった。きっと大魔王の呪いの所為なんだろう。早く勇者XXXに戻りたいものだ。)
【勇者の実家 朝】
祖父「うん?朝か。なんかいい匂いがするのう?」
僧侶「あ、おはようございます。」トントントン
祖父「僧侶さん。何をしているんじゃ、貴女様に朝飯なんか作らせては申し訳ない。」
僧侶「いいんですよ。こういう風に誰かのために作るのって久しぶりで楽しいんです。おじいさまは具合が悪いんですから寝ていてください。」(まぁ一人旅でよく料理していたしな。)
祖父「いやいや僧侶さん ゴホンゴホン!」
僧侶「ほら!もう。スープを先に入れておきました。それを飲んで待っててください。」(じじい!寝ろ!)
祖父「すまんのう、お言葉にあまえるとするか。」
勇者「ただいまー腹減ったよー!」
僧侶「おかえりなさい、朝のおけいこお疲れ様です。」
勇者「お、うまそうじゃん!」ヒョイ パク
祖父「馬鹿もん!!先にお祈りをせんか!!お祈りを!!」
勇者「ゴ、ゴメ」
僧侶「ふふ、もっと言ってあげてください。」
(勇者の祖父に料理を作り。)
祖父「おろ、わしの長そでとメリヤスは?」
僧侶「はい!昨日あらっておきました!」シンピン!
祖父「おお、すまんのう。」
勇者「僧侶~素振りしたらズボン汚れた、頼む!」ッポイ
祖父「こら!」
(衣服をそろえ)
祖父「あーいい湯じゃあ」
僧侶「おじいさまーお背中ながしますよ?」
祖父「うは、いやいやいや!けっこうじゃ!!」
僧侶「遠慮しなくていいんですよ?」(俺男だし。)
勇者「僧侶それやりすぎ。」
(身の回りのお世話をして数日を過ごした。)
僧侶「おじいさま、ここですか?」トントン
祖父「そこじゃそこじゃ、肩までもんでいただいてありがとうございます。」
僧侶「いいええ。」
祖父「僧侶さんは優しい。孫の嘘につきあってくださってありがとうございます。」
僧侶「え?」
祖父「隠さなくてもいい。本当は勇者と結婚の約束なんてしていないんじゃろ。勇者の嘘をつくとき鼻をポリポリと掻く癖はいまだに治らないからのう。」
僧侶「…。」
僧侶「だますような真似をしてすいませんでした。」
祖父「はっはっは!いいんじゃいいんじゃ!」
祖父「勇者はのう、わしの本当の孫じゃないんじゃ。町の橋の下に棄てられておったのをわしがひろってきた。幸い勇者はわしを本当の祖父のように慕ってくれた。」
祖父「勇者はわしと同じ炭鉱夫になるつもりだったのじゃがな、数年前からこの町では石炭が取れなくなってしまった。そして国はこの町への援助を終わらすと言ってきたのじゃ。」
祖父「もちろん困った。わしらは炭鉱のこと以外何もできなかったからのう。」
祖父「そこで勇者が、勇者に志願したんじゃ。勇者の出身地ならば国も援助をやめるわけにはいかんからのう。おかげで町は生き残り、今では新しい鉄鋼の鉱脈がみつかり、工業も国でいちにを争うまでに発展したんじゃ。」
祖父「勇者を守っていたつもりが、気が付いたら守られていた。そんなまぬけな話じゃ。」
祖父「僧侶さん。あのこは優しい子じゃ。いつも自分より他人を優先する。あの子の事をよろしく頼みますぞ。」ポロポロ
僧侶「泣かないでください。わたしが必ず勇者様を守ります。」
祖父「この数日、本当のお嫁さんが来たようで幸せでした。やさしい嘘をどうもありがとう。」
僧侶(じいさん…。)
【勇者の実家】
勇者「いってくるよおじいちゃん。」
祖父「おう、いってこい!」
(勇者の祖父との別れはそんなそっけのないものだった。それでもこの二人には十分なのであろう。)
僧侶「勇者様、おじいさまから聞きました。勇者様が勇者になった理由。」
勇者「おじいちゃん…」ヨケイナコトヲ
僧侶「この町のみんなのためだったんですね?」
勇者「お前勇者XXXって知っているよな?」
僧侶「ええ名前ぐらいは。」(俺よりそいつに詳しいやつはいないけどな。)
勇者「馬鹿、超有名人だろ。唯一大魔王を一人で追い詰めた勇者だぞ。」
僧侶「そうでしたね。」(おい、もっとほめろ。)
勇者「みんな色々いうけどな。あの人特に身寄りもなかったし、勇者になったのは教会の信託で選ばれたからなんだってよ。」
僧侶「すごい方ですね。」(そうだった。羊飼いをしているところを教会の奴らがおしよせてきやがったんだった。)
勇者「そうだ。でもあの人は守るものもなく、言われるがままに他人のために大魔王と一人で戦ったんだ。」
僧侶「…。」
勇者「何て孤独だったんだろうって思う。勇者XXXの事を考えるといつもかなしくなる。」
僧侶「!」
勇者「彼はとても寂しい人だ。」
僧侶(あ…。)
(勇者の言葉を聞いて俺は初めて自分が孤独だったことを知った。)
(どんなに強くなっても消えない焦燥感。)
(民衆の声援や王侯貴族の賛美でも満たされない心の理由。)
(一人で戦う心細さ。戦う理由のわからない日々。)
(俺は孤独だったのだ。)
勇者「それを考えると戦う理由がある俺は何て幸せなんだろうって思…、おいどうした?」
僧侶「いえ…」ホロリ
勇者「なんで泣いてるんだ?」アセアセ
僧侶「えぐ…」ポロポロ
(えんもゆかりもない勇者だけが唯一俺の孤独を知り、いたわってくれていた。)
僧侶「うぇええええん…」ポロポロポロ
勇者「お、おいい、飴あるぞ?いるか?」
僧侶「えぐ、えぐ、勇者様…。」
勇者「な、なんだ?」
僧侶「勇者様にはわたしがいますからね?」
勇者「そうだな、よろしく頼むぞ僧侶。」
僧侶「はい!」
(‘勇者XXX’の孤独は彼の言葉で癒されたのだ。)
【機械工の工場】
機械工「おう、じいさん孝行はしてきたのか?」
勇者「はい。」
機械工「そうか。お前にたのまれたものできてるぜ?」ホラヨ
僧侶「わーすごい!大きな風船」
機械工「気球っていうんだよお嬢ちゃん。ガスを抜いてたためば持ち運べるサイズになる。これさえあれば渦潮の海を渡れるだろう。」
勇者「ありがとうございます!」
機械工「気球の礼はうちの娘をもらってくれるってんでいいぜ。」
機械工の娘「ば、ばかあに言ってんだよ父ちゃん!」
機械工「まぁしかしお嬢ちゃんがいたんじゃあきらめるしかねえか。そうなんだろ?」
僧侶「それは実はおじいさまを喜ばそうとしたデマなんです。でもおじいさまにはばれてしまいました。」
機械工「なにデマ?じゃあうちの娘も脈があるってことだな。」
機械工の娘「やめろってくだらねえ!」ホッ
勇者「おやっさん相変わらずだなぁ。気球ありがとうございました。そろそろ俺ら冒険にむかいます。」
機械工「おう、達者でな!」
勇者「いくぞ僧侶。」
僧侶「はい、でもちょっと待っててください。」トテトテトテ
機械工の娘「?」
僧侶「娘さん、でもわたしたちがライバルなのは本当ですよ?」ボソ
機械工の娘「ち、ようやく本性表しやがったか。上等だぜ。」
僧侶「いざ尋常に勝負です。」
機械工の娘「おう!」ニヤ
勇者「何を話してたんだ?」
僧侶「女の子同士の秘密です!」
勇者「なんだそれ?」
(わたしは勇者XXX。大魔王の呪いで機械工の娘にちょっと意地悪をいってみたんだと思う。)