人間の王都の城
王「ええいっ、使えない勇者め!こんな所まで魔族どもが入ってくるとは」
王の側近「陛下!ここは危険です、お逃げくださ…」
王「ふざけるなー!」
王「逃げろだと。俺にこの城を逃げろだと!」
王「この城には俺の全てが残ってるんだ」
王「財宝が!女が!俺の全てがここにある!」
王「それを失ってしまえば俺は何になるというのだ!」
母魔「ただの屍になってしまえばいいんじゃないかしら」
王「!」
ぐちゃり
王の側近「ひ、ひぃ!魔王!」
母魔「…この城に勇者の母親が居るはずよ。どこに居るか教えなさい」
王の側近「お、おおしえます!教えますから命だけは…!」
母魔「言え」
王の側近「そ、その女は王様が娶った数カ月後に飽きたと他の女たちと一緒に牢屋に…」
母魔「そう、わかった。もういっていいわ」
王の側近「あ、ありがとうございま…」グチャリ
母魔「逝ってよし…と」
母魔「本当に腐ってしまったようね、人間は。魔王の存在も忘れて
自分たちの娯楽に酔っていた」
母魔「これが長く続いた人間と魔族の戦いの終焉とは、複雑なものよ」
側近「魔王さま、城の制圧が終わりました」
母魔「勇者、いえ、子勇の母親を確保しなさい。私直々に話すことがあるわ」
側近「御意」
母魔「その他は各自好きにさせなさい」
母魔「人間を食ってもよし。女を慰み者にしてもよし。自由行動よ」
子勇「ママー」
子勇「ママがどこにも居ない」
子勇「なんか、この城、どこかで見たような気がするよ」
子勇「まるで魔王が居たしろ……」
「勇者」
子勇「…!」
母「……」
母魔「あなたが子勇の母親ね」
母「…」
母魔「あなたは私が知っている母親の中でも最悪よ」
母魔「自分の欲のために子を死地に送り込み、王と堕落した」
母魔「でも、そんなあなたでも母ならまだ少しは人間らしさを保ってるでしょう」
母魔「あなたに最後のチャンスをあげる。
子勇を連れてこの城を出て、人間の国を出なさい」
母魔「どこに行ってもいい。私の目にはいらない所で、
子勇と一緒に以前ように幸せに住みなさい」
母魔「強い子を育てた貴女だからこそ、その罪を許してチャンスを与えるのよ」
母「……ふざけるな」
母「ふざけるな!あんなの私の子じゃない!いや、人間の子じゃない!」
母魔「…」
母「アレは生んだ時から気持ち悪いと思っていた。人間とは思えない強さ」
母「なのにいつも私の近くに居ようとした」
母「怖くて気持ち悪い。アレもお前たちみたいな化物よ」
母「死ね!皆死んでしまえ!貴様ら不気味な魔族どもに負ける人間じゃない」
母「いつかまたどこから勇者が現れて貴様らを倒して新しい人間の王国を作る」
母「その時は貴様ら私たち人間に命を乞ってるでしょうね」
母「でも助けてあげない。何故か分かる?」
母「貴様らのような気持ち悪いやつらはこの世から居なくなった方がいいからよ!」
母魔「…たしかに、ここでこのまま消え去るあなた達人間じゃないわね」
母魔「この戦いがここで終わるわけがない」
母魔「でもね、今はそんなことどうでもいいのよ」
母魔「私が何であの昔あなたたちを生かしたのか知ってる?」
母魔「私が母としての自分を忘れてあなたたちへの憎悪心で自分の息子を殺したからよ」
母魔「でも、今度は人間が魔王の私さえも反吐が出そうな真似をしてくれた」
母魔「母の胸を恋しがる子供に剣を握らせ私を殺そうと送って」
母魔「自分たちは享楽に溺れていた」
母魔「それが許せなかった。そんな生き物がこの世に居ていいはずがない」
母魔「でも、それじゃああの子が可哀想よ」
母魔「ましてや、あの子は人間の全てを救うためで戦ったわけでもない」
母魔「ただあなたをまた見るために」
母魔「あなたと一緒に居て幸せだったあの日々を取り戻そうとその小さな体で」
母魔「この世で一番強い者に挑んだ」
母魔「なのにあなたの口から出る言葉はそれだけ?気持ち悪い?」
母魔「ふざけるな!!」
母魔「貴様がそれでも人間か!母親か!」
母魔「同じ母として恥ずかしい!」
母魔「この世で私が見てきた人間の中で」
母魔「貴様のその姿が一番醜くで、気持ち悪い!」
母魔「この世から消え去ってしまえ!」
子勇「ママ」
母魔「!」
子勇「ママ」
母魔「子勇、どうしてここに…!」
母「子勇」
子勇「…ママが、二人?」
母「子、子勇、助けて!ママよ!ママを助けなさい!」
子勇「…ママ?」
母魔「」
子勇「…」
母「何してるの?ママがこの卑劣な魔族に殺されそうになってるじゃない!」
母「早く助けなさい!あなたは『勇者』でしょ!」
子勇「…!」
子勇「ママ…」
母魔「…」
子勇「そう、ボクは勇者」
子勇「魔王を倒すのがボクの使命」
母魔「子勇…」
母「そう、そうよ!だからあの魔王を早く倒してしまいなさい!」
子勇「でもね」
子勇「もう疲れたの」
子勇「ボク、子供なんだよ」
子勇「結局、誰も助けられない」
子勇「人たちを、魔王から救えないよ」
母「そんなのどうでも良いわ!」
母「ママだけでも良い!」
母「ママ一人でも助けなさい!」
子勇「……分かった」
子勇「…直ぐに、助けてあげる」
子勇「魔王」
母魔「子勇、あなたのママは外道よ。こんなの人間とも言えないほど腐ってる」
子勇「それでも…ボクのママだよ」
母魔「…わかったわ」
子勇「ありがとう。おかげで…久しぶりに、ううん、
生まれて初めて幸せだったよ」
母「ゆう……しゃ…」ペチャ
子勇「ママ、ボクは、勇者じゃないよ」
子勇「ボクは、一度も『勇者』だったことなんてなかったよ」
子勇「ボクはただ、ママの『子勇』で居たかった」
子勇「好きだったよ、ママ」
母「……」
母魔「どうして…」
子勇「ボクがママに出来ることはこれぐらいしかないから」
子勇「せめて自分の手で終わらせるぐらいしか出来ないから」
子勇「知ってたよ」
子勇「実はママは最初からボクなんて愛してなかったって」
子勇「でも魔王を倒したらね、きっとママも振り向いてくれるだろうと思ったの」
子勇「ボクが想ってきたママに会えると思ってたの」
子勇「でも、駄目だった」
子勇「だから、ありがとう、魔王」
子勇「最後にボクが欲しかったママを見せてくれて、ありがとう」
母魔「やめなさい」
子勇「…」
母魔「死なないで」
子勇「ボクはもう休みたいよ」
子勇「もう、ママも居ないから」
子勇「もう頑張る必要もないよ」
母魔「もうたくさんよ」
母魔「あなたのこんな姿を見ようとここまでやったわけじゃないのに…」
母魔「どうして私の気持ちをわかってくれないの?」
母魔「なんで自分だけ晴れた気持ちで消えようとするの?」
母魔「ずるいじゃない」
母魔「私にも償わせて」
母魔「私に償わせて」
母魔「あなたの幸せも」
母魔「あの子の幸せも守れないというのなら」
母魔「私は何のためにここまでやらなければいけなかったの?」
母魔「私がどうすればよかったの」
母魔「ね、『子勇』」
子勇「…」
子勇「魔王」
母魔「……」ブルブル
子勇「泣いてる?」
母魔「……」ギューッ
子勇「…泣かないで」
子勇「ボクは……ボクはどうすればいいか分からないよ」
子勇「ボクは子供だから、こんな時どうすれば良いのか……あ」
母魔「子魔…」
母魔「ごめんね」
母魔「ママが…馬鹿で…出来損ないのママで……」
母魔「守れなかった」
母魔「何も…誰も守れなかった」
チュッ
母魔「あ」
子勇「泣かないで」
母魔「子…勇」
子勇「ボクね、勇者じゃない」
子勇「ママに愛された子でもない」
子勇「だけど、ボクのせいで誰かが泣くのは見たくない」
子勇「コレ以上、誰かが不幸せになるのは嫌」
子勇「だから……もう泣かないで
『ママ』
その後
人間は世界から消し去った。
もちろんそれが種が絶えたというわけではないだろう。
人間はとてもしつこく生きる生き物だから、
きっと今頃また新しい勇者がどこかで生まれているかもしれない
でも、今はそんなことはどうでもいい。
だってこの物語は、魔王と勇者、剣と魔法の物語ではないから。
少なくとも、今この場で繰り広げられている物語は
母「子勇」チュッ
子勇「ママ」チュッ
母と子との幸せな日々、ただそれだけのお話だから。
はい、終わり!