コック長「知りません」
黒騎士「ねえさああああああああん!!」
勇者「くんな! ジリジリと近寄ってくんな!」
黒騎士「姉さん……、僕だよ……、わからないのかい?」
勇者「いや分かるけど! お前は覚えてるけど!」
勇者「色々とトラウマなんだよお前は!」
黒騎士「トラウマ……?」
勇者「当たり前だろ!」
勇者「事あるごとに私の旅を邪魔し!」
勇者「装備という装備を破壊する技を使用し!」
勇者「アイテムを使用しようとすると、使う前に奪われ!」
勇者「呪文を使おうとすると、詠唱中に大技を使い!」
勇者「うっかりすると普通にエンカウントに出てくる始末!」
勇者「トラウマじゃなくてなんだ!」
黒騎士「最愛の弟だよ姉さん!」
黒騎士「兄さんと義妹が消えた今、ただ一人の肉親だ!」
勇者「兄さん……? 義妹……?」
勇者「うっ、頭が痛い……、思い出せない……」
勇者「何だろう、思い出そうとしてもそれを拒む自分がいる……」
黒騎士「まさか、洗脳!?」
黒騎士「魔王貴様ぁああああ!!」
黒騎士「僕だけではなく姉さんまで洗脳したのかぁあ!」
魔王「あー……、そうなような……、そうでもないような……」
勇者「ま、魔王はそんな人じゃないよ!」
勇者「魔王は、その、私が勇者なのにも拘らず」
勇者「仲間に裏切られた私を養ってくれる……」
勇者「それどころか社会復帰のために花嫁修業までさせる!」
勇者「そんな良い人だよ!」
勇者「色々と外道なところもあるけど……」
黒騎士「花嫁修業だと……?」
ワナワナワナワナ……
黒騎士「姉さんを嫁にするのはこの僕だぁああああああ!!」
黒騎士「最大暗黒呪文!!」
黒騎士「黒き闇に飲まれよ! 邪なる礎にて地の底へと埋れ!」
魔王「……お家芸?」
勇者「ま、まずいよ魔王! ここら一体が吹き飛ぶ!」
ガシィ!!
コック長「させん!」
黒騎士「くそっ! 骸骨コック風情が!」
黒騎士「僕と姉さんの逢瀬を邪魔するつもりか!」
コック長「魔王様! 今のうちにお逃げください!」
魔王「二代目……、お前……、消えるのか……?」
コック長「あなたと勇者の夫婦漫才……、私、楽しみにしてます……」
魔王「二代目ぇええええ!!」
ギュ!
勇者「魔王っ! 飛ぶよ!」
魔王「飛ぶってどこにや!?」
勇者「どこでも良いから!」
勇者「移動呪文展開!!」
キィイイイン
ヒュン!
黒騎士「くそぉおおお!! ねえさああああん!!」
黒騎士「必ず洗脳を解いてみせますからああああああ!!」
コック長「ふ……、あの方達のアレは洗脳などではないさ……」
黒騎士「何? 骸骨コック風情が何が分かる!」
コック長「分かるさ!! 例え骨だけのこの体でも!」
コック長「もっともお前には永劫分かるまいがな!」
黒騎士「何の話だ!」
コック長「あの二人の間にあるもの……、それは」
コック長「ボケとツッコミの調和……」
黒騎士「何だそれは!」
コック長「調和とはまさしく笑い! 笑いは世界に愛を与えます!」
コック長「そう、この気持ち! まさしく愛だぁああああああ!!」
ゴォオオオオオオオオオ!!
魔王「――その日、魔王城(二代目)はコック長(二代目)と共に」
魔王「闇の彼方へと消えていったのだった……」
第三話:プロローグがとてつもなく壮大な話:完 続く
魔王「あの爆発は……、かっこいい事言おうとして滑った時に発動する」
魔王「最大自爆呪文……」
魔王「二代目ェ……」
魔王「という訳で第四話や」
勇者「血も涙もねぇな」
魔王「おおー! そのツッコミや!」
魔王「何か調子戻ってきたみたいやな」
勇者「だって今、私しか一緒に居ないじゃん……」
勇者「それに聞いてたんだ。お前の夜中の話……」
勇者「ツッコミ役が欲しいんでしょ?」
勇者「それなら私、頑張ってツッコミ役するよ!」
魔王「うん、キャラが迷子やな」
勇者「それは言わない約束だよ……」
魔王「魔王っていうのかお前って言うのかはっきりせいや」
勇者「じゃあ魔王って呼んで良い……?」
魔王「お前呼びでお願いします」
勇者「という訳で私達は今、移動呪文を使い」
勇者「盗賊の国、その端っこの村の宿にいるんだ」
勇者「しかも夢の同室――」
勇者「お前のせいだー―――!!」
魔王「何がや!」
勇者「あのヤンデレシスコン弟と」
勇者「出会ったショックでけっこう記憶治ってきたんだよ!」
勇者「まだちょっとぼやけてるけど!」
勇者「うう……、お兄様……、義妹……」
魔王「もっかい記憶消しとこうっと……」
……
……………
…………………
勇者「ねー魔王魔王ー」
勇者「一緒の布団で寝よ?」
魔王「記憶を消したら消したでデレ期……」
魔王「めんどくさいやっちゃ……」
勇者「ん? なんのこと?」
魔王「ええい! なんでもあらへん!」
魔王(さてどないするか……)
魔王(態度はもうちょっと軟化してほしいけど)
魔王(ツッコミは惜しい……)
魔王(くっ、この究極の二択……、一体どうするか……!)
……
…………
………………
魔王「そんなわけで勇者は」
魔王「昼はツン期、夜はデレ期に変わる設定が加えられたんやった」
魔王「まあ、ワイのさじ加減一つやねんけどな」
勇者「何言ってんだ、お前」
魔王「アンタの設定の話や!!」
勇者「設定……? 何の話だ……?」
勇者「くそ、それと! 勝手に私の記憶を弄るな!」
勇者「キャラが不安定になる……」
魔王「そう言いながら、昨夜はめちゃくちゃ甘えてきたしな」
魔王「相手にせェへんかったけど」
勇者「うう……、そー言う記憶はしっかり残ってるから」
勇者「自分が厭になる……」
勇者「もう今後、記憶弄るの禁止!」
魔王「でも夜になったら大国の事は忘れるよう、術式かけといたで?」
魔王「寝首かかれても厭やし」
勇者「大国……、そう言えばそんな事もあったな……」
勇者「お兄様……、義妹……、懐かしい」
魔王「そんな昔の事やないけどな」
魔王「まー昼でもうっすらとしか思い出せよう、しといたから」
魔王「ずいぶん昔のことに思えるんやろうけど」
勇者「洗脳されてる……、私……」
魔王「しかしアンタにとったら大国が」
魔王「ワイに楯突く動力源にして原因みたいやね」
魔王「追い出されたのに、魔王を討伐して自国に平和を――」
魔王「みたいな思いでもあったんかい?」
勇者「そんな自分でも分からないこと、私に聞かれても困る」
勇者「でもまあ、お前に思いっきり甘えたいと思うのは」
勇者「大国のことを完全に忘れてるときだけだな」
勇者「……うん。自分で言ってて恥ずかしい」
魔王「順調に悪墜ちしてる証拠やね」
勇者「お前のせいだー―――!!」
勇者「くそっ! 我ながら確かに故郷の思いがなかったら」
勇者「とっくに悪墜ちしてる自信がある……」
勇者「その……なんだかんだで」
勇者「優しくしてくれるのはもはやお前だけだし……」
魔王「やめて、そういう恋愛色の空気出すの」
魔王「ワイはボケに生きる男なんやー!!」
魔王「ボケに恋愛なんていらんのやー――!」
勇者「まったくこれだから童貞は……」
魔王「自分は経験者ですみたいに言うとるけど」
魔王「アンタのどうせそーゆー事は未経験なんやろ?」
勇者「ふん! この私が未経験のはずが無いだろ!?」
勇者「なんなら初体験を賭けたっていいぞ!?」
魔王「……そのボケにはつっこまんとこ」
魔王「さて。これからどう動こうかな」
魔王「下手に城とか作ると、また黒騎士が飛んできそうやし」
勇者「うう……、あいつの顔はなるべく見たくない……」
魔王「そんなこというなや。ただ一人の肉親やろ?」
勇者「まともだったらな!? でも見たろ昨夜のアレ!」
勇者「うう、思い出しただけでも寒気がする……」
勇者「ちょっと昨夜の記憶だけ消してくれないか?」
魔王「そこ消すと、アンタデレ期入るからなー」
勇者「うっ……」
勇者「ま、まあとりあえず今後の方針については、私はどうこう言うつもりはない」
勇者「一応、お前の家来……、それも奴隷なわけだしな」
魔王「完全に人類側から寝返りおったな」
勇者「ふーんだ」
魔王「まあ、とりあえず三国を支配することにしよか」
魔王「黒騎士は恐ろしいけど、アンタとワイのコンビやったらなんとかなるやろ」
勇者「滅ぼすとかいうボケは? どうするんだ?」
魔王「アレは別にもうええわ。何なら今から魔界に帰ってもええぐらいや」
勇者「……じゃあ一緒に魔界に帰らないか?」
魔王「ハァ? なんでやねん」
勇者「だって……、もう人間界には居場所はないわけだし」
勇者「私にはお前しか居ないし」
勇者「それなら魔界で暮らすのも悪くないかなーっと」
魔王「意外と昼間でもデレ期はいっとるよね、アンタ……」
勇者「えへへー」
魔王「……まあ、アンタを嫁にするかはともかくや」
魔王「別にええ相方やから魔界で養ったってもかまへんけどな?」
勇者「べ、べべ、別にお前の嫁になるつもりはないんだからなっ!?」
魔王「どうしてこうなった」
勇者「……お前のせいだ」
魔王「とにかくあの黒騎士をなんとかせなあかん」
魔王「そうせな魔界に帰っても、追いかけてくるであの執念やと」
魔王「一番ええのはアンタの仲間をとっちめて」
魔王「真実を黒騎士に話させる……かな?」
勇者「あとは封印魔術で黒騎士を封印するとかな」
魔王「肉親にも容赦ないね……」
魔王「さて、それやったら早速この宿屋から出て」
魔王「三人がおる城へと向かうか」
勇者「魔術師の城は確かぶっ壊しただろ?」
魔王「その流れで大国も滅ぼしたな」
勇者「懐かしいなぁ……」
魔王「ノスタルジィに浸れるぐらい薄れてくれてなによりや」
勇者「それじゃあ移動するよ?」
勇者「ココから一番近いのは盗賊の国の城かな……」
魔王「なんで盗賊の国やのに城なんてあるん?」」
勇者「一応統治はされてるんだよ」
勇者「意外と他の国より治安は良かったりする」
魔王「盗賊の国やのに……」
勇者「その代わり、国境とかはとんでもなく治安悪いけどな」
勇者「まさにイメージどおりって感じ」
勇者「この国に入るまでに、何度雷呪文を撃ったことか……」
魔王「恐ろしい女や……」
勇者「えへへー」
魔王「ほめてへんからな?」
勇者「んじゃ、手を繋いで?」
ギュ……
勇者「……(カァァ)」
魔王「赤くなんなや」
勇者「移動呪文!」
ビュー!!
勇者「という訳で、今、盗賊の国の城の内部」