女神「魔王が人間界に攻め込んだようです」 8/9

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魔法「この状況で戦闘じゃない方がおかしいでしょうに」

戦士「……四人、四天王か?」

四天王A「そんなところだ」

B「貴様らを我が主の下へ行かせる訳にはいかぬ」

C「大人しくここで死んで頂戴」

D「盛大に葬儀を行ってやろう」

戦士「二人は先に行け。魔法使いの魔力は温存したい」

勇者「せ、戦士さん?!」

戦士「なーに、すぐに追いつくさ」

A「愚かな……我々の足止めを一人で? その間にその二人が魔王様を討つと?」

B「下らんな。貴様らも如何なる魔法も効かぬ魔王様を見たのだろう」

C「もしかして、あの障壁は城に張られたものだと思っているのかしら?」

魔法(こちらには石がある……その殆どは私が預かっているし、最悪魔王と交戦する事になっても)

戦士「二人とも、行け!」スラン

勇者「必ず、必ず追い着いて下さい!」バッ

魔法「任せたわよ」バッ

A「三人は二人を仕留めて来い」

戦士「おや? 四人がかりじゃ、俺を瞬殺できないと踏んだか」ザッ

B「……この男を始末してから向かえばよかろう」

C「挑発してくる辺り、何かあるんじゃないかしら?」

D「だが、なめられたままというのも気分が悪いな」

A「……仕方がない。一撃で終わらすぞ」ゴォ

戦士(これでなら力が出せるな……)

戦士(乱用はしたくないが、五分でこいつらを片付けられるのならば)

戦士(屋内に入った以上、魔法使いも派手な魔法は使えないからぐいぐいと進む事はできないだろうし)

戦士(後は魔王の間までに俺が追いつき、魔石を使い魔王の障壁を消滅させて魔法使いに魔法を撃たせれば終わりだ)

戦士(……)

戦士(待て、その状況だと魔法使いは魔法を撃てないぞ! 何の為の温存だ?!)ゴァ

戦士(あ、向こう戦闘態勢に入った、やるっきゃねぇ!)

勇者「うぅ……戦士さんがいないと不安だ……」

魔法「用心するに越した事は無いけど、そこまで心配する事ないんじゃないかしら?」

勇者「だってこんな場所じゃ魔法使いちゃんも全力で魔法は撃てないだろうし……あたしが頑張らないと!」

魔法「あら、別にここでも使える魔法はあるわよ」キィィン

魔法「電撃魔法・強!!」ビシャアァァ

勇者「ゎー……狭い通路を稲妻が駆け巡っていった」

魔法「一撃必殺ではないでしょうけども、よほどの耐性が無い限り麻痺はするでしょうね。さ、行くわよ」

黒焦げの何か「」ブスブス

勇者「何がないだろうって?」

魔法「戦士、遅いわね」スタスタ

勇者「戦士さん……」スタスタ

魔法(考えてみれば大半の石を私に預けた事を考えると彼は……)

勇者「魔法使いちゃん?」

魔法「何でもないわ……物々しい扉ね」

勇者「ここに魔王が……」

魔法「……ここで待っていて不意打ちを食らう訳にもいかないわ。行くわよ」

勇者「……戦士さん」クル

勇者「うん……行こうっ」ギィ

魔王「ふっ。仲間を捨石にしてまで来たか」

魔王「だが貴様達二人で何が出来る?」

側近「……」チャキン

魔王「良い、人間二人程度で構える事もあるまい。下がれ」

側近「……畏まりました」スッ

勇者「……魔法使いちゃん」

魔法「電撃魔法・強!」ビシャアァァ

魔王「……」バシュゥゥ

魔王「ほう……大した魔力だ。これほどの魔力、魔王でさえ持っている者はそうはいないだろう」

魔法「それでも攻撃が通らない。それが貴方の魔力の障壁……」

魔王「知っていて尚立ち向かうか。健気な者だ」

魔法「そうね……だけども無策ではないわ」ジリ

勇者「……」チャキン

魔法「受けなさい!」ヒュンッ

勇者「!」バッ

魔王(なんだ? 周囲の魔力が消失していく?)ギュワァァ

勇者「たあああ!!」ビュォ

魔王「っぐ!」ガキィン

側近「魔王様?!」

魔王「なるほど……確かに無策ではないな」グググ

勇者(……あれ?)

魔王「側近よ、手を出すな。ここまで来たのだ。我一人で相手をするのが道理であろう」ガッ

勇者(魔王って……まさか)ズザァ

魔法(3……2……)

魔王(大気中の魔力が?)

魔法「電撃魔法・強!」ビシャアァァ

勇者「流石魔法使いちゃん! 完全なタイミング!!」ブシュゥゥ

魔王「なるほど、持続時間は10秒か……」ゥゥゥ

勇者「なっ!」

魔法「直撃する直前に障壁を張ったのね」

魔王「少し焦げたがな……だが手の内を知ってしまえば、その魔力も恐れるに足らん」

魔王「残るはそこの少女の剣と我の剣だけだ」

勇者「……」ゴクリ

戦士「くそ……天界の薬二つでやっと普通に動けるとは」タタタ

戦士「そこか!」バァン

勇者「せ、戦士さん?!」

魔王「……なんと、四人を倒したのか」

戦士「お前ら! なんでここまで来てんだ!」

魔法「もうダメかと思ったのよ」

戦士「すぐ追いつくって言っただろう!」

勇者(だってそれ死亡フラグですし)

魔法(それで本当に追いつくと思う奴の方が少ないわ)

魔王「一人増えたところでどうとなると言う」チャキン

戦士「石は?」

魔法「まだまだ」ジャラ

戦士「おっし」バッ

魔王(早い!)ガキン

戦士「なんだ? 魔王という割には力が弱いな。吹っ飛ばされるかと思ったぞ」ギリギリ

魔王「吠えるだけの力はあるという事か」ググ ガキン

戦士「勇者! 回りこめ!」

勇者「了解です!」バッ

側近「魔王様!」バッ

魔王「我の顔に泥を塗るつもりかっ!!」

側近「ぐ……」ビタッ

魔王「人間二人如きで! 我が押されるなど!」キィンキィィン

戦士(隙を見てリミッター解除すれば勝てるな……計三回か。意外と楽にいけそうだな)ガギィン

魔王「ぐぬぅ!」

勇者「たあ!」ギィィン

魔王(この二人……一人は勇者だろうが、この男は!)キィィンギィン

魔王(全力でない。この力で全力でないというのか? 人間ではない……?)ギィン

戦士「考え事か? 余裕だな!!」ガッギィィィン

魔王「ぬぁっ!?」.ィン ガラァン

戦士(このタイミングだろう!)キュィン

戦士「魔法使い!」

魔法「ええ!」パキィン

戦士「この10秒で終わりだ、魔王!」

側近「お許し下さい、魔王様」

側近「魔王様にとって屈辱な事でしょうが」キィィィン

魔法「なに、この反応は?!」

戦士「魔力、じゃない……」

魔王「ここまで来て……また地を這い生き延びねばならんか……」

魔王「思うようにはならんものだな」

勇者「せ、戦士さん!」

戦士「二人とも下がれ!!」

戦士(まさかこれは……術式? 魔界ではいまだに残っていたのか!)

側近「憎たらしい人間ども……次はお前達のいない世だ。後悔して生きろ」カッ

戦士「……」

勇者「消え、た?」

魔法「どうなっているの?」

戦士「……町に戻ろう」

「突如魔物達が消えたんだ!」

「勇者様が魔王を倒したのだ!」

「勇者様万歳! 勇者様万歳!」

勇者「な、なんで……?」

戦士「……」

戦士(あれは……なるほど。魔法ではないが確かに時を止めるものだな)

戦士(俺が生きていた時代であっても幻に近い術式だが……魔界ではまだ残っていたのか)

戦士(何より全ての魔物達と契りを交わし眷属にしていたとは……)

戦士(対象者とその下に続く繋がり、部下丸ごとに作用する。発動すればその者は世界から消滅し)

戦士(遥か未来にてまた現れる……封印魔法の最上位の術式)

戦士(やはり魔族は恐ろしいな……人間だったら一流の術士十人が命を張ってもできないだろうに、たった一人それも生きたままやってくれて)

勇者「せ、戦士さん……あたし、どうしたら」

戦士「……一度、シルバースノウに戻ろう。今日の事については、宿で話し合おう」

魔法「自らを封印……そんな馬鹿げた事を?」

戦士「あれはそういうものなんだ……何十年、何百年かは分からないが」

戦士「遠い未来の果てに封印が解ける。それまでは魔王による被害は起こらない。聞こえだけならいいものだな」フゥ

勇者「あの……すこし思ったのですが、あの魔王って実は凄い弱いんじゃ?」

魔法「そうね……一太刀で私達を吹き飛ばすぐらいできると思っていたけども」

戦士「俺の与り知るところでは……あの魔王は巨大な魔力と魔力操作が突出しているだけらしい」

戦士「だからああして障壁を張っていたのだろう。そして魔力の大きさだけを武器に魔法を撃つ戦い方をしていたらしい」

戦士「何処かの鉱山では魔王と鉢合わせしてしまい、為す術無く全滅した軍の部隊がいたと聞く」

勇者「そんな……」

魔法「……」

戦士「表向き魔王は死んだ事にすべきか、一時的な封印とすべきか。それは俺にも判断がつかない」

戦士「今回の魔王討伐の命令はシルバースノウの国王だ。戻って相談する他ないだろうな」

勇者「えぇー王様に相談かぁ」

魔法「あら? 勇者はあの王様嫌いだったかしら?」

勇者「いやいや、凄いあたし達人々の事を考えてくれるから大好きだけど、謁見だけでも凄い緊張したのに」

戦士「現国王……というよりも歴史的に見てもシルバースノウの王は良き王だ」

戦士「魔王を討った国、などという下らない名誉の為に、思慮の足らない行動はしないだろう」

勇者「そこは……うん、信頼できるけどさー」

戦士「それと早馬を用意してもらえるようだ。帰り道はぐっと楽になるな」

勇者「魔物の襲撃も恐れなくていんですもんね」

戦士「というか二人は馬に乗れるのか?」

魔法「これでも私達は子供の頃から乗馬経験があるわよ」

戦士「意外だな。シルバースノウでどうやってまた」

勇者「行商の方達が乗ってくる馬に乗せてもらっていたんですよ」

戦士(俺の時代はそもそも馬が洞窟を抜けられなかったからなぁ。ジェネレーションギャップ酷すぎるな)

魔法「……むしろ戦士は乗れるの?」

戦士「何とかなるだろ」

シルバースノウ

勇者「魔王は封印された、って線で各国に発表するってさ」

戦士「そうか……まあそうなるよなぁ」

魔法「この石の作り方は? 早めに作り方が確立していれば、未来の役に立つわ」

戦士「それは……分からないんだ」

勇者「……そもそもこれ、一体何処で手に入れたんですか?」

戦士「夢で貰った」

魔法「……は?」

戦士「ローブを着た初老の男だ。氷の塔の賢者と名乗ったよ……」

勇者「そんな……御伽噺じゃあるまいし」

魔法「何百年と語られこそすれど誰一人目にした者はいない氷の塔……本当にここシルバースノウにあるのかしら」

戦士「さあな。魔王が復活した時にまた力を貸してくれるだろう……」

戦士(シルバースノウ大好き。伝承の氷の塔ガーとか最高の言い訳)

戦士「祭りは一時間後か……」

勇者「あ、あたし……演説させられる」ガタガタ

魔法「頑張ってね」

戦士「頑張れよー」

勇者「かわ、変わって下」ガタガタ

戦士「俺らじゃあな」

魔法「私に至っては五年ぶりの里帰りだし」

戦士「もうちょい帰ってきてやれよ……」

魔法「結構お金がかかるのよ……子供の時なら行商の人達も簡単に相乗りさせてくれたけども」

勇者「あたし! 今はあたしの事のが大事!」

戦士「いや、どうしようもないだろう」

戦士(祭りまでは勇者は準備、魔法使いはその付き添いか)ザッザッ

戦士(シルバースノウの外れに住んでいたからなぁ……故郷を拝む事はできないが)

魔獣による犠牲者の慰霊碑

戦士(何だかんだでこの地には縁があるな……ん?)ガサ

戦士(手紙か……)カサカサ

戦士(あと四時間で天界に帰還か……)

戦士(きっと今回の件は女神様が無理を通したのだろう……)

戦士(勇者の事を、知っていたのだろうな)ガササ

戦士(俺は……)

勇者「あーいたいた!」

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