女神「魔王が人間界に攻め込んだようです」 9/9

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戦士「演説、頑張ったな」

勇者「え? 何の事かワッカラナーイ」

魔法「途中完全に真っ白になっていたわね」

戦士「誰がどう見ても話す内容を忘れたって顔だったな」

勇者「もう止めてっ」

魔法「……私はちょっと食べる物をとってくるわね」

戦士「おう。にしても意外と早く来れたな」

勇者「ええ?! 何処が! もうお祭りが始まって二時間は経っているよ!」

戦士「早い早い。もっとこうもみくちゃにされて質問攻めだったりなんだったりするもんだろ」

勇者「あー……そこは王様が気を利かせてくれてさ」

戦士「そりゃ良かったな」ナデナデ

勇者「……♪」

勇者「戦士さん……あたし、戦士さんにずっと言いたかった事があるんです」

戦士「なんだ? 言ってみろ」

勇者「……」ジッ

戦士「……」

勇者「あたし、戦士さんの事が好きです。ずっと、ずっと貴方の事を慕っていました」

勇者「戦士さんさえ良ければ……あたしとお付き合いして下さい」

戦士「……」グッ

戦士「……すまない、それはできないんだ」

勇者「」ビクッ

勇者「は、はは……そうですよね」

戦士「違う、そう意味では」

勇者「分かっています。戦士さん、神様の遣いの方、ですもんね……」

戦士「何故、それを……」

勇者「盗み聞きする気じゃなかったんです……でも、その別の方と話しているのを」

戦士「……そうか」

勇者「あ、あたしの傍に来てくれたのも、あたしの事を見ていてくれたのも、全部使命なんですよね」ハハ

勇者「あたし一人で舞い上がって……戦士さんはその」

戦士「違う!」

勇者「!」ビクッ

戦士「俺は……俺は」

戦士「違うんだ……そうじゃない……」ギュウ

勇者「戦士、さん?」

戦士(俺はどうしたい……何を望む……)

戦士「構わない……君になら……全てを」

勇者「え? え?」

戦士「俺は癒しの女神の従者だ……生前はシルバースノウで生き、三百年前の魔獣の暴走で死んだ」

勇者「百年前に討伐された……?」

戦士「そうだ。そして君は……君は」ギュウ

戦士「当時、唯一の肉親だった俺の……妹の生まれ変わりなんだ」

勇者「……」

勇者「戦士さんは……あたしを通して妹さんを」

戦士「ああ……だが違う」

戦士「初めこそはそうだった。だが分かりきった事だ。君はあの子じゃない」

戦士「例えその魂の本質的な部分が同じだったとしても君は君だ」

戦士「それでも尚、俺は君を想わずにはいられなかったっ……」ギュウ

勇者「戦士さん……」

戦士「俺には……従者には人間界に降臨し、使命を果たした際に人間界に留まる選択肢が与えられる」

戦士「だが俺にはこれが奇跡に思えてならないんだ……死して尚、こうして大切な人の生まれ変わりと出会えた事」

戦士「従者だからこそ得られた神々の奇跡を受けて尚、人智を超えた奇跡を授かる事など……俺には出来ない」

戦士「それに俺はもう……人間に戻るには長く生き過ぎた」

戦士「すまない……勇者。俺と出会えた奇跡だけで、許してくれ」ギュ

勇者「いいんです。覚悟はしていましたから……ただどうしても、伝えたかったんです」ポロポロ

勇者「それに……幸せでした。戦士さんと過ごせたこの数ヶ月が」

勇者「全てが新鮮で……時には色々な事を教えてくれて」

勇者「少しでも戦士さんが見てきた世界を一緒に見れて楽しかったです」ギュウ

魔法「あら、お帰り……目が真っ赤ね」

勇者「えへへ……やっぱりね」

戦士「……」

魔法「何処かで座らないかしら。もうすぐこの通りにもパレードが来るわ」

戦士「じゃああそこにするか」

勇者「ちょっと離れているけども、よく見えそうですね」

魔法「そうね」

勇者「……そういえば」

勇者「***って……妹さんの名前なんですか?」

戦士「なんだ……寝ぼけて言ってしまっただけなのに、まだ覚えていたのか」

魔法「あら、妹だったの。てっきり故郷に残した想い人かと思ったわ」

戦士「……魔法使いは俺の事を勇者から聞いているのか」

魔法「そりゃあね……」

戦士「そうか……」

戦士「死んで神の従者となって、これまでに数度降臨したが」

戦士「死後、名乗るのは二人が最初で最後だろう」

戦士「俺の名前は*****だ」

勇者「……*****さん」

戦士「なんだ?」

勇者「ふふ、名前を呼びたかっただけです」

魔法「*****」

戦士「えっ?!」

勇者「おお」

魔法「なによ? 私が貴方を真名で呼んじゃいけないかしら?」

戦士「いや、以外というか……」

勇者「ほら、デレデレだって言ったじゃん」

戦士「そんな素振り一度も無かったのになぁ」

魔法「ま、私の知る男の中で貴方が一番まともだってだけよ」

戦士「そりゃあどうも」

勇者「……*****さんは、何時天界に戻るんですか?」

戦士「内緒だ。俺自身名残惜しくなってしまうからな。静かに去るとするよ」

魔法「……そう」

~♪ ~♪

勇者「パレード、来ましたね」

戦士「やはり……故郷の楽器の音は沁みるな」

魔法「……そうね。十年も離れていないけど、私もそう思うわ」

勇者「……♪」

戦士「……」ボロ

戦;";,`;. . ブァ

;`:."ありが う;`; , `

勇者「*****さん? *****さん?!」バッ

勇者「そんな……早すぎるよ。あたしもっと、貴方と……」

勇者「う、うう……うあああ、うああああぁぁん!」

魔法「*****……そう、さようなら」

従者「……」バシャバシャ

従者(目が赤いのはどうにもならないか。仕方もあるまい)

従者「ただいま戻りました」

女神「ぅぅ……こんな」

従者A「ひぐっえぐ」

従者B「うぅ、こんな事……」

従者C「ぐす、ぐす……」ビー

従者「なんだこの状況」

酒場

従者(大した謁見も無かったのは有り難いか)カラン

女神「珍しいですね。こちらにいるだなんて」

従者「そういう時の気分もあるんですよ」

女神「……」

従者「……」カラン

女神「私のした事は貴方にとって正しかったのでしょうか?」

従者「苦しい決断を迫られました」

女神「……」

従者「それでも……俺にとっては身に余る奇跡です。本当にありがとうございました」

女神「……私は貴方に恨まれてもいいぐらいなのに」

従者「そんな事はありませんよ」

従者「体が弱かったあの子があの時に願った事、世界を旅する姿を見る事ができたんです」

従者「幸せな……事ですよ」

女神「……無理に堪える必要はないのですよ」

従者「……」ボロ

従者「……う、ぐっ」ボロボロ

従者「見苦しいどごろをお見ぜじまじだ」ズビズビ

女神「貴方には私の前で無理をしなくて結構ですよ」

従者「それでも無理を通そうとするのが男なのですよ」

女神「もう大丈夫そうですね」

従者「そうですね十数分後には何時でもぶり返せるようになっているでしょうが」

女神「……そうですか」

従者「思った以上にきつくって」

女神「ですが自棄酒というものは従者の身でも良くはありませんよ」

従者「大丈夫ですよ。ちゃんと限度を見て飲んでます」

従者「それにそろそろ休みますよ」

女神「そうですか……ではその前に」

従者「流石に今、人間界に何かを取って来いってのはナシで」

女神「まさか。最後に一杯付き合いなさい」フフ

従者「……それでしたら喜んで」カラン

女神「魔王が人間界に攻め込んだようです」 終

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