魔王「テレビとはなんだ?」 3/5

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―――草原の町

ヒュー……

側近「風向きで町にまでガスが流れてしまったんですね……」

魔王「自ら同族を殺すとは愚かな……」

側近「魔王様の瘴気も混ざってたんじゃないですか?」

魔王「私はもとより人間などどうなってもかまわんわ」

側近「そりゃそうですね」

魔王「それよりさっきの話の続きだ。テレビ局とはどこにあるのだ?」

側近「それがよく知らないんです」

魔王「なんだと?」

側近「あまりそういう情報気にしてませんでしたから」

側近「あ、でもテレビの中継とかで映りますし、ちょっとテレビ見てみますか?」

魔王「気が進まんが……見ないと情報がないか……」

ガシャ

側近「勝手におじゃましまーす」

魔王「これか。どうやって使うのだ?」

側近「このスイッチを入れて……ほらっうつりました」

テレビ「……では次のニュースです」

テレビ「今日はテレビ局開局25周年としまして、港町より北へ10kmにある、ここ王国テレビ本部より中継です」

テレビ「今日は王国テレビ合衆国イベントということで、各国より料理など……」

魔王「港町の北か、行くぞ!」

側近「おかしいですねぇ?いつもこんな詳しい場所を言ったりはしてなかったような……」

魔王「おい!」

側近「あ、待ってください」

バサッバサッ

―――王国

王様「ガスも効かないとは化物どもめ……だが、見ていろ」

王様「やつらはテレビを目の敵にしておるようだ、次はここを突き止めようとしてくるだろうな」

王様「大臣、言われたとおりにしたか?」

大臣「言われたとおり放送しておりますが、港町の北10kmってただの廃墟の砦があるだけですよ」

王様「廃墟?違うな。あそこにはレジスタンスのアジトがある」

大臣「レジスタンス!?王様はアジトをご存知だったのですか?」

王様「ああ、ずっと前からな」

大臣「分かっててなぜ放っておいたのですか。やつらは魔法の復活やテレビの撲滅を訴えるテロリストですよ」

王様「くくくっ、人数も少なく、たいした力も持っておらんわ。それより何かあったときのスケープゴートに丁度よいと思ってな」

大臣「スケープゴート?」

王様「あの黒いやつらがあの放送を見てどうするか。やつらのアジトに向かってレジスタンスとぶつかるだろう」

王様「どちらも相手を敵と思うであろうな」

王様「共倒れになればよし、ならなくてもとどめは我が軍で行ってやるわ」

王様「わーっはっはっは」

―――レジスタンスアジト

僧侶「まずいですよ。戦士、テレビでここの場所を晒されました」

戦士「なんだと……」

僧侶「王国テレビ合衆国イベントの会場とか……」

戦士「なんだそりゃ?」

僧侶「早くここを離れたほうがいいんじゃ……」

戦士「待て、魔法使いにも連絡してみる」

ザザッ

戦士「こちらブラボー1……ブラボー2応答せよ、どうぞ」

『こちらブラボー2、どうぞ』

戦士「どうやらアジトがつきとめられたらしい」

『なんですって!?どうしてそんな……』

戦士「分からん。とにかくお前も気をつけ……」

ドゴオオオオオオン

戦士「うおおおおお、な、なんだこの振動は……」

『ブラボー1、どうしたの!?」

僧侶「空に何か黒いものが……」

戦士「これはやばいな……行くぞ!」

『ねぇ!何があったの!ブラボー1応答して!』

側近「魔王様、中から人が出てきましたよ」

魔王「ほぉ?剣を持った男に……杖を持った女か……やっとまともなやつらが出てきた」

魔王「なかなかやりそうではないか」ワクワク

側近「うれしそうですね」

魔王「最近下らん道具に頼るやつらばかりが相手であったからな」

戦士「あいつらか!?攻撃してきたのは……」

僧侶「もしかして勇者が攻めてきたんじゃないかと思ったんですが……違いましたね」

魔王「行くぞ!食らえい!」ズバッ

戦士「うおっ!いきなりか!僧侶!」

僧侶「防御結界!」ギィン

魔王「むっ……私の一撃を防ぎおったか……ふははははは、これはいい!今の世にこのようなやつらがおったとはな!ふんっ!」

バリーン

戦士「結界がやぶられた!?くっそう!なんなんだこいつらは!?王国め……こんな隠しだまを用意していたとは……」

僧侶「戦士!次がきますよ!」

魔王「これならどうだ!」ドガッ

戦士「ぐぐっ……つ、つよい」ギリギリッ

魔王「まだ耐えるか……」

側近「魔王様がんばれー」

戦士「くそ!魔法使いさえいれば……勇者を倒すための秘策を使えたものを……」

側近「弱音はいてる場合じゃないですよ!疾風魔法!」スパパッ

魔王「おおおおおおおっ!」

戦士「うりゃあああああああ!」ドガッ

魔王「ぐぐっ……やりおる……」

戦士「よしっ!効いているぞ!」

魔王「なんだ、魔法を使えるものがおるではないか、側近」

側近「あれぇ?おかしいですねぇ」

魔王「ならばこちらもゆくぞ!はぁあああああ!」ゴゴゴゴゴッ

戦士「な、なんだ……この魔力は……」

僧侶「結界を張ります!伏せて!」

魔王「極大破滅魔法!」ドキャアアアアアアアアアアアン

戦士「うおおおおおおおおおおおおおお!」

僧侶「きゃああああああああああああああ!」

魔王「ふははははは!どうだ、砦ごと吹き飛ばしてやったわ。あれがテレビ局とやらだろう」

側近「そうなんでしょうかね」

戦士「がはっ……俺たちのアジトがテ、テレビ局だと……?」ガクガクッ

僧侶「ごほっ……」ボタボタッ

魔王「おおっ、こやつら生きておるぞ、やるではないか」

側近「虫の息ですけどね。生きてるなら尋問でもしますか」

魔王「そうだな、おい。貴様らテレビ局とかいうところのやつらだな?」

戦士「ちが……う……お前らこそ……王国の手先だろう……」

魔王「私が王国の?何を馬鹿な!我が名は……まぁ今は言わぬが……あのようなやつらと一緒にするな!」

側近「あ、私側近です」

戦士「違う……だと……まさか王国の勇者以外にこれほどの力を持ったやつがいたとは……」

側近「前の勇者には負けちゃったんですけどね」

魔王「べ、べつに敗れてなどいない!ちょっと休憩してただけだ!」

側近「魔王様……負け惜しみはちょっと恥ずかしいですよ」

魔王「ま、負け惜しみではないもん!」

側近「ないもんって……」

魔王「とにかく私たちのことは分かっただろう。お前たちの素性を教えろ」

戦士「俺たちは……王国を……テレビをぶっつぶすために立ち上がった……レジスタンスだ」

魔王「何?レジスタンス?テレビ局じゃないのか?」

戦士「ちが……う……どうしてそう思った……」

魔王「いや、テレビで言っておったのでな……はっ!?」

魔王「『テレビで言っていた』だと……私の口からそのような言葉がでるとは……」

側近「あちゃー、もしかして私たちだまされちゃいました?」

魔王「恐るべし……テレビ……」

戦士「釣られた……のか……」

側近「なんかこの人たちに悪いことしちゃいましたね」

魔王「だが、久しぶりに楽しかったぞ。お前たちの攻撃なかなかであった。ふははははは」

魔王「どうだ?望むのであれば我が配下に加えてやってもよいぞ?」

戦士「てめぇ……ふざけん……な」ガクガクッ

魔王「まだ闘気が衰えないとはますます気に入った!まぁ断るのであればもう言うまい」

戦士「テレビ局を……探しているのか?」

魔王「知っておるのか?」

戦士「ああ……長年の俺たちの目標だからな……」

魔王「どこにあるのだ」

戦士「王国の王城……その中枢だ……」

魔王「よし、側近、行くか」

側近「あいあいさー」

戦士「ま……て……」

魔王「何だ?」

戦士「テレビには……電力が必要だ……」

魔王「電力?どこかで聞いたな」

側近「テレビのエネルギー源ですよ」

戦士「ここから西……火の町にそれはある……」

魔王「なぜそんなことを教える?」

戦士「……」

魔王「まぁ、よかろう。テレビのエネルギー源だな!先にそこをつぶしておくか」

バサッバサッ

―――レジスタンスアジト跡

戦士「いつつ……回復サンキュー」

僧侶「死ぬかと思いましたね」

戦士「あいつら、ここをテレビ局と間違えて襲ったってことは王国を襲うってことだな」

僧侶「そうでしょうね」

戦士「ならば我々もそのときがチャンスか……よし!魔法使いを呼び戻そう」

僧侶「え……でも勇者はどうするんですか?」

戦士「とにかく今がチャンスだ。勇者が出てきたら……全力で叩く!」

僧侶「勝てるでしょうか……」

戦士「そのための俺たちだろ?それにもしかしたらあの黒いやつらが王国をかきまわしてくれるかもしれん」

僧侶「ところでなんであの黒いのに火力発電所の場所を?」

戦士「少しでも王国にダメージを与えたいということもあるが、時間稼ぎもある」

僧侶「時間稼ぎ?」

戦士「電力は王国の根幹のひとつだ。それが滞ればやつらの動きも鈍るだろう」

戦士「その間に魔法使いを呼び戻して作戦を練るぞ」

―――火の町

魔王「ここが火力発電所か」

側近「ここでテレビに必要な電力を作ってるみたいですね」」

魔王「電気を作っている施設か」

側近「さっそく壊してしまいますか?」

魔王「いや、どんな風に作っているのか少し興味がある」ワクワク

側近「あ、私も興味あります。どんな仕組みで電気をつくってるんでしょうねぇ」

魔王「私の予想では、大量の電気うなぎから電気を放電させているのではないかと思う」

側近「いやいや、それはないでしょう。きっと雷撃魔法を使ってるんですよ」

魔王「まぁ入ってみれば分かるだろう」

側近「な、なんかドキドキしますね」

ガチャ

炎の将魔「おおおおおおお!燃え上がれ!俺の魂!」ゴゴゥ

炎の将魔「発熱せよ!俺の肉体!」ゴオオオオオオオ

炎の将魔「ファイアあああああああああ!!」ゴオオオオオオオオ

炎の将魔「ふぅ、今日はこのくらいっすね」ガシャ

作業員「発電おつかれ」

炎の将魔「いやぁ、労働は気持ちいいっすねぇ。今日はよく働いたっす」

作業員「ご苦労さん。どうだ、今夜いっぱいやってくか?奢ってやるぜ」

炎の将魔「先輩、あざーっす!ごちになります!いやぁ、やっぱ労働の後の一杯は最高っすもんね!」

作業員「いやいや、この火力発電所の動力源としてお前はすっげえ世の中の役に立ってるよ」

炎の将魔「この世の中、仕事があるだけ幸せっす!」

作業員「だなぁ、不況で仕事がないとかテレビで言ってたからなぁ。仕事があるだけでうれしいよな」

炎の将魔「ほんとっすね……ん?誰か来たっすよ」

魔王「……」

側近「……」

炎の将魔「あ、誰かと思ったら魔王様じゃないっすか!ひさしぶりっす!」

魔王「何をやっとるんだ……お前は……」

炎の将魔「俺っすか?この火力発電所のエネルギー源やってるっす」

炎の将魔「いやぁ、これでも俺人気者なんすよ?俺が元の戦隊ヒーローの番組もできてるんすから」

炎の将魔「放火戦隊モエルンジャーっていってね。俺がモチーフになってるんすよ」

炎の将魔「毎週火曜日にやってるんすけどね、この間なんて子供が社会見学に来たときにサインねだられちゃったりしてね」

炎の将魔「やっぱ子供はかわいいっすね。あ、色紙は持ったとたん燃えちゃったんでサインはできなかったんすけど」

炎の将魔「あ、今の笑うとこっすよ?」

炎の将魔「やっぱこの仕事楽しいっすわ。世のため人のために……」

魔王「ふんぬあああああああああああああ!」ボゴォ

炎の将魔「ぐはぁ……」バターン

魔王「側近……私は……」

側近「あ、魔王様……何も言わなくてもいいです、私も何かむかついたんで」

魔王「こいつを魔王城に持って帰って牢に放り込んでおけ……」

側近「これで電力はなくなったんですかね?それで私は魔王城に戻りますけど、王城はどうするんですか?」

魔王「こんな腑抜けばかりの国など私一人で十分だ、任せておけ」

―――王城

大臣「王様、大変です!火力発電所が停止しました!」

王様「何!?どういうことだ」

大臣「燃料の炎の将魔が例の黒いカサカサしたのに奪われました」

王様「なんだと……やつらレジスタンスと戦ったばかりでそれだけの力があるとは……」

大臣「風力発電と水力発電は無事ですが……このままでは電力不足に……」

王様「とりあえず固形燃料で火力発電所を動かせ」

大臣「しかし、それではコストが……」

王様「電気料金を値上げしろ。そうだな、地震で火力発電所が被害にあったと報道しろ」

王様「それから電力不足になったと分からせるため何回か計画停電をしてやれ」

王様「それで国民は金がかかっても電気をくれと自分から言ってくるだろう。それからガス抜きのために電力会社の社長を徹底的にテレビで叩け」

大臣「はっ」

王様「しかし、電力会社までやられるとは……アンテナ引っこ抜く程度の頭しかない黒いやつと思っておったが……」

大臣「意外と頭を使ってきましたね」

王様「ここまでやられては本気でやらねばなるまい。やつを呼ぶしかないか……」

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