魔王「テレビとはなんだ?」 4/5

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―――王城

勇者「あー、なんすか?王様。急に呼び戻して」

王様「勇者よ、仕事だ」

勇者「仕事ならちゃんとしてるじゃないっすか、開拓を」

王様「いや、これは非常事態だ。この城に敵が迫っておる……かなりの強敵じゃ……」

勇者「そんなの王様お抱えの兵団で何とかなるっしょ?」

王様「劣化ウラン弾を食らっても平気なやつをか?」

勇者「マジ!?すげー強いやつだな!」

王様「あやつを倒せるのはお主しかおらん!頼む!」

勇者「んー、どうしようかなぁ……」

王様「何?何か問題でもあるのか?」

勇者「何か最近うちのハーレムのメイドさんを勝手に引き上げられちゃったりしてるしなぁ……」

王様「メイドが……?それは知らんが……代わりのメイドは用意しよう」

勇者「それだけじゃなぁ……」チラッチラッ

王様「何じゃ、何が欲しい?言ってみろ」

勇者「え?俺別に要求なんてしてないんだけどなぁ……そんな風に聞こえちゃった?」

王様「いいから言え、できる限りのことはしよう」

勇者「マジっすか!じゃ、じゃあハーレムに新しいメンバーが欲しい!」

王様「なんだ女か……用意しよう……どこの誰がよいのだ」

勇者「え、えっと……本当に誰でもいいの?」

王様「くどい!早く言え」

勇者「じゃ、じゃあ……姫様を……」

王様「何……わしの娘を?う……ううむ……」

勇者「駄目なんすか?あぁ……やる気がなくなってきたなぁ……」

王様「いや……別にわしが駄目とかそういう問題ではなくてだな……」

勇者「俺帰っていいすか?」

王様「わ、わかった!姫をおぬしにくれてやる!それでいいじゃろう!」

勇者「いやっほぅー!王様!俺がんばるよ!」

勇者「で、敵の特徴は?」

王様「何か黒くてカサカサしてるやつだ」

勇者「オッケー!黒くてカサカサのやつな!ひゃっはー!」

タタタッ

王様「舞い上がりおって……行ってしまいおった……しかしよりによって姫とは……くぅ……」

大臣「やっぱり姫を差し出すのは親としてつらいですか?」

王様「いや、そういう問題ではなく、倫理上の問題だ」

大臣「倫理上の?えっと……姫っていまいくつでしたっけ?」

王様「……12歳だ」

―――王城前

魔王「ここか……まったく寄り道ばかりさせおって……ん?」

勇者「いたいた!黒いやつ!」

魔王「なんだ?お前は?」

勇者「お前が王国を襲う敵だな?この勇者が相手になってやろう!さあ、ついてこい」

魔王「勇者だと?お前が……ふははははは!なるほど、相手にとって不足はなさそうだ」

勇者「何を笑っている、さっさと来い」

魔王「なぜだ?ここでよいではないか」

勇者「この俺様が戦うんだ、それに相応しい舞台が必要なんだよ」

魔王「なんだと?」

勇者「いいからこい!」バッ

魔王「お、おい!待て!」

―――コロッセオ

魔王「なるほど、確かにここは決闘に相応しい」

勇者「決闘?ははははは、何を言っているんだよ。ここはお前が無様に負ける様を見てもらうための場所だ」

魔王「何?」

勇者「それにここは俺がたまにパフォーマンスで魔法や剣技を披露してるからな、ちっとやそっとじゃ壊れない作りになっている」

魔王「なるほど、遠慮はいらんというわけか、まぁするつもりもないがな」

勇者「カメラもスタンバイオッケーだ。さぁ!ショーの始まりだぜ!」ゴゴゴゴゴゴ

魔王「なにやら分からんが……強いな……これは楽しそうだ」ゴゴゴゴゴゴ

勇者「行くぞ!」

カッ

―――王城

王様「どうだ?勇者と黒いやつとの戦いは?」

大臣「互角……といったところでしょうか」

王様「わははははは、それは結構」

大臣「な、何がいいんですか、もし勇者が負けたりしたら……」

王様「勇者は負けんよ」

大臣「え?」

王様「私はな、大臣……勇者の力の秘密を知っておるのだ」

大臣「勇者の力の秘密?」

王様「そうだ、勇者の力とは神より与えられしもの……その力の源はなんだと思う?」

大臣「力の源?言っている意味が分かりませんが……」

王様「勇者の力は愛と勇気と希望の力」

大臣「?」

王様「人々が愛と勇気と希望を持てば持つほど勇者は神に祝福され、その力となる」

王様「そして私はそのために何をしたか、そう!テレビだ」

王様「勇者を人々のヒーローとして常々持ち上げ、褒め称え、期待させてきた」

王様「そして、この事態だ。今この王都は非常事態宣言をだし、住民はほとんど避難させておる」

王様「そこで、あの黒いカサカサしたのと勇者が戦うことになる」

王様「それをテレビ中継するのだ」

王様「平和教育で国民からその牙を奪ってきたのは、反逆の目をつぶすという目的もあるが、日ごろから暴力を否定されて欲求不満にする目的もある」

王様「欲求不満な人々は食いついてヒーローを応援するだろう。最高のエンターテメントだ、まったく愚民どもはそういうものが好きだからのぅ」

王様「念のための事態を考えて5分遅れの生放送とするか。その間に不都合なシーンはカットしてな」

王様「そして、それが勇者の力となる!人々は愛と勇気と希望を持って応援するであろうからな」

王様「視聴率はすごいことになるだろうな。そう!視聴率こそ勇者の力となるのだ!」

王様「さぁ!放送開始だ!」

―――民家

テレビ「番組の途中ですがここで緊急特番です」

テレビ「王国から大規模な避難命令がでて数日、ついにその真相が発表されました」

テレビ「王国政府によると、各地で発生している町の消失事件や人々の失踪事件の原因とされるものが王国に現れました」

テレビ「その名も『黒くてカサカサしたもの』。その討伐のため、現在、王国のコロッセオで勇者様が立ち上がりました」

テレビ「その黒いものを見事コロッセオに誘い込み、今現在、苛烈な戦いが行われています」

テレビ「我々国民を守るため!一人立ち上がった勇者様……私はその勇気に感動を隠し切れません」

テレビ「現在、その様子を生中継しております。みなさん、ごらんください」

子供「すっげぇー!なにあれ!すっごい光ってる!」

父「あれが勇者様だよ。俺たちのために戦ってくれてるんだ」

子供「かっこいー!あの黒いのは?」

父「あれが敵だよ……でも……勇者様の動きについていってる……ああ!」

母「どうしたのあなた!」

父「いや、勇者様が押されるとこなんてはじめてみたから」

子供「勇者様がんばれー!」

父「ああ!応援してやろう!俺たちのためにがんばってくれてるんだ!」

子供「うんっ!黒いカサカサしたのなんてやっつけろー!」

―――コロッセオ

勇者「くっそ!つええな……」

魔王「ふはははは!どうした!お前の力はそんなものか!」

側近「魔王様やっと見つけましたよ、炎の将魔置いてきました」

勇者「新手か!?これは……まずいな」

側近「あ、私この辺で見物しますからお構いなく、ちょうど観客席がありますし」

魔王「お前な……」

勇者「くっ……なら……二人まとめてやってやらあ!はああああああああ!爆裂魔法!」

ドゴオオオオオオン

魔王「おおおおおおおお」ビリビリッ

側近「あたたたたた……いてえだろごらああああああああああ!」バッ

勇者「なっ……こいつ速い……」

側近「オラオラオラオラオラ」ドガガガガガガ

―――王城

大臣「視聴率……20%超えました!」

王様「まだまだだな。バックにかっこいいBGMを入れよ」

王様「それから勇者声には声優を使え……顔の修正も忘れるな?」

王様「相手も悪そうなほうがいいな。黒いやつの顔は暗く影を落とす感じに加工しておけ」

大臣「分かりました!」

王様「勇者の感動エピソードも交えろ。過去の撮影したシーンも使ってな」

王様「CMはいいところで切り替えるのだ。勇者がピンチのシーンとかな」

大臣「……30……35……40%超えます!」

王様「わははははは、いいぞ……さぁ勇者よ!視聴率を力とせよ!」

―――コロッセオ

勇者「く、くそ!離せ!」グググッ

魔王「側近!そのまま押さえつけておけ!」

側近「はい!」

魔王「めり込むがいい!おおおおおおおおおおおおお!」ドゴオオン

勇者「」

魔王「ふはははは!さすがに地面にこれだけ刺されば身動き取れまい!」

側近「じゃあ、次は王城のほうへ……あ、あれ?」

バキバキバキ

勇者「効くかあああああああああああ!」ボゴン

魔王「こいつ……あそこから出てくるとは……だが無傷ではあるまい」

側近「魔王様!あれを見てください!」

魔王「なに……あれだけの傷が……治っていく……」

側近「治癒魔法……でしょうか……しかしあんな速さで治るなんて……」

勇者「はははは、何か知らないが体に力がわいてくるぜ!くぅー!ちっと効いたがな」

魔王「ふっ……なるほど、さすがは勇者というところか……だがあれが私の本気だと思うでない!」

魔王「殺してしまってはつまらんと手加減しておったが……はああああああああ」ゴゴゴゴゴ

側近「おお……魔王様が本気に……あ、私避難しておきますね」

魔王「本気でいくぞおおおおおおおお!くらえええええええええええええええい!」

カッ

―――王城

王様「どうだ、コロッセオの様子は」

大臣「まだ互角のようです……なんなんでしょうね、あの黒いの」

王様「視聴率はどうだ」

大臣「今50%を超えたところです」

王様「そうか、では次は動物だ」

大臣「動物?」

王様「視聴率をとるのに動物は鉄板だ。とりあえず勇者のペット紹介としてでも出しておけ」

大臣「はっ、早速指示します」

王様「あとは大家族だな、これも視聴率が狙える」

大臣「いや、大家族はさすがに無理があるかと……勇者は一人者ですし……」

王様「いいからねじこめ!」

大臣「は、はぁ……」

王様「どうだ、視聴率は」

大臣「視聴率……60……70……80%超えます!」

王様「わははははは、これだけ応援してやってるのだ!勝てよ……勇者!」

―――コロッセオ

魔王「うおおおおおおおおおおおお!魔神斬り!」ズバッ

勇者「うおっと」キィイ

魔王「な、なんだ……攻撃が……効かなくなってきた?」

側近「いえ!違います!斬られた瞬間に治癒が完了しています!」

魔王「なんだと……それではいくら攻撃しても……」

勇者「今度はこっちから行くぞ!おらああああああああああ!」ズバッ

魔王「おおおおおおおおおおおお!」バキンッ

魔王「ぐおおおおおお!剣をはじいただけで腕が折れ……」

勇者「とどめだあああああああああああ!」

カッ

―――王城前

僧侶「何とか間に合いましたね」

魔法使い「あたしはね……でもなんてあの馬鹿はいないのよ!」

戦士「はぁはぁ……わりぃ、遅れた」

魔法使い「遅いわよ!ブラボー1」

戦士「別に無線じゃないんだから普通に呼べよ」

魔法使い「何やってたのよ、この非常時に」

戦士「ちょっと野暮用でな。それより準備はいいか?」

僧侶「大丈夫です!」

魔法使い「このために訓練してきたんだからね!」

戦士「よし、行くぞ。王は勇者の力の秘密を自分だけが知ってると思っているんだろうが……」

戦士「過去何度も勇者に辛酸をなめさせられた俺たちレジスタンスが何も考えないと思ったのか」

戦士「勇者の力の秘密!それは人気!視聴率!すなわちテレビの力だ!」

魔法使い「まずはテレビってことね」

僧侶「テレビの力を奪ってやりましょう!」

戦士「行くぞ!おおおおおおおおお!土流激!」ドガガガガ

戦士「おっしゃ!土を巻き上げたぞ!」

僧侶「はい!はああああああ!疾風魔法!」ゴオオオオオオオオオオオ

僧侶「砂嵐完成しました!」

魔法使い「最後はあたしね!いくわよ!雷撃魔法!」バリバリバリッ

ゴゴゴゴゴゴゴ

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