―――王城
ザザッ……ザー
王様「な、なんだ……テレビが……」
大臣「王様!テレビが映らなくなりました!」
王様「見れば分かるわ!どういうことだ、この大事なときにトラブルか!?」
大臣「今調べてます……な、何?それは本当か?」
王様「どうした」
大臣「そ、それが……このあたり一帯に磁気嵐が吹き荒れて電波が乱されていると……」
王様「そんな馬鹿な!ここは砂漠でもないし磁気嵐など聞いたこともないわ!」
大臣「嵐に砂鉄が含まれているらしく……チャフのような効果が……」
王様「そんな説明はどうでもいい!何とかしろ!視聴者が離れるぞ!」
大臣「はっ……」
王様「早く修復しろ!視聴率が落ちては勇者の力も弱くなるということを忘れるな」
王様「電波障害の原因はあとで究明するとして、視聴者にはお詫びのテロップを忘れるな」
―――数分後
大臣「お、王様!やっと復旧しそうです!」
王様「よし!さっさと映せ!」
テレビ「私はな、大臣……勇者の力の秘密を知っておるのだ」
テレビ「勇者の力の秘密?」
王様「な、なんだ?これは……大臣……」
大臣「え?え?私に聞かれましても……この映ってるのは……私と王様?」
テレビ「そうだ、勇者の力とは神より与えられもの……その力の源はなんだと思う?」
テレビ「力の源?言っている意味が分かりませんが……」
テレビ「勇者の力は愛と勇気と希望の力」
テレビ「?」
王様「なぜ私が映っておる……何かの演出か?どういうことだ?」
大臣「す、すぐ調べます!」
テレビ「人々が愛と勇気と希望を持てば持つほど勇者は神に祝福され、その力となる」
テレビ「そして私はそのために何をしたか、そう!テレビだ」
王様「おい!すぐ放送を中止しろ!はやく切り替えるんだ!この先は放送されたらまずいぞ……」
ザッ
戦士「おっとそうはさせねぇよ?」
魔法使い「勇者をあの黒いのがひきつけてくれてたから助かったわね」
王様「なんだこいつらは!さっさと排除しろ!」
僧侶「あ、兵士さんたちはもう眠らせましたよ?」
王様「大臣!」
大臣「はっ!お任せください。これでも食らえ」ターン
戦士「銃か……まったく誰でも彼でも人を殺せる道具なんぞつくりやがって……」キィン
大臣「なっ……はじかれた……」
戦士「僧侶の防御結界が銃の弾程度で壊れるかよ」
王様「な、なぜこんな映像があるのだ……どうやってお前たちは……」
戦士「俺たちレジスタンスをなめるなよ?お前たちのことはずっと研究してきた」
戦士「テレビの力とやらもな、だから俺はテレビ局に潜り込み、お前たちが口をすべられるのをまってたのさ」
戦士「そして、あの黒いのだ。お前たちは非常時につい本音をいってしまったな?ばっちり撮影させてもらったぜ!」
王様「なん……だと……」
王様「レジスタンスどもが!いったい何が不満だというのだ!今のこの平和な世の中を見ろ!」
王様「平和教育で争いはなくなり、国民は自ら進んで働くことに喜びを感じている」
王様「昔のように人々が争うような時代はわしのおかげで、テレビのおかげでなくなったのだぞ!」
戦士「平和教育?それは国民から思考力を奪って争う力をなくしてるだけだ」
戦士「そして働くことを喜んでいる?そのほうがお前たちが旨い汁をすすえるだけだろう」
戦士「はっ、何が平和だ。この不自然な世の中が?ふざけんじゃねえ!お前たちの都合のいい情報を一方的に送りつけてるだけだろうが!」
戦士「俺たちはな、テレビなんぞに言われずに自分で考えたい!たとえ争いや間違いがあろうが自分で選びたいんだよ!」
戦士「王よ……勇者とテレビの終焉のときだぜ。さぁ、放送再開だ!」
テレビ「勇者を人々のヒーローとして常々持ち上げ、褒め称え、期待させてきた」
テレビ「そして、この事態だ。今この王とは非常事態宣言をだし、住民はほとんど避難させておる」
テレビ「そこで、あの黒いカサカサしたのと勇者が戦うことになる」
テレビ「それをテレビ中継するのだ」
テレビ「平和教育で国民からその牙を奪ってきたのは、反逆の目をつぶすという目的もあるが、日ごろから暴力を否定されて欲求不満にする目的もある」
テレビ「欲求不満な人々は食いついてヒーローを応援するだろう。最高のエンターテメントだ、まったく愚民どもはそういうものが好きだからのぅ」
王様「や、やめろ……」
テレビ「念のための自体を考えて5分遅れの生放送とするか。不都合なシーンはカットしてな」
王様「やめろおおおおおおおおおおおおおおお!」
―――コロッセオ
勇者「うらあああああああああ!」ドガッ
魔王「ぬおおおおおおおお!」グググッ
勇者「この……やろう最後の馬鹿力か……」
魔王「何?貴様が手加減しておるのだろうが……本気でかかってこんか!」
勇者「んなろう!」ググッ
魔王「なんだ?本当に力がだんだん弱くなってきて……おおおおおお!」ガッ
勇者「うおっ!」フラッ
勇者「な、なんだ……体が重い……ぞ……」
魔王「本当に弱っているのか?」
側近「これはチャンス!私にお任せください!とうっ!」バキッ
勇者「ぐはぁ……い、痛い……何これ……すごい痛いよ……」ガクガクッ
側近「や、やりました!勇者を倒したのはこの側近です!」
魔王「やかましいわ!都合のいいときだけ出てきおって!それより勇者よ、まだやるか?」
側近「うらっ、うらっ……このこの!」ゲシゲシッ
魔王「やめんか!側近!」
勇者「も、もうやめて……いたいよぅ……もう殴らないで……」ブルブル
側近「なんか性格まで弱くなってますね……」
魔王「ふんっ、まあよい!こんなやつほうっておけ!王城へ行くぞ!」
―――王城
僧侶「視聴率はかなり下がりましたけど、まだ見ている人はいるみたいですね」
魔法使い「さっき勇者がやられるところ映したらちょっと上がったわ」
僧侶「それでさらに勇者が弱くなっちゃいましたね」
魔法使い「で、こいつらどうする?」
王様「わ、わしに何をする気じゃ……」
大臣「殺さないで!私は王様の命令に従っただけで……」
王様「おい、ずるいぞ大臣」
戦士「そんな場合じゃないだろ。やつがくるぞ、準備をしろ」
魔法使い「やつ?」
僧侶「ああ、あの黒くてカサカサした人たちですか」
側近「黒くてカサカサしてるのはこの人だけですよ!」
魔王「おい」
戦士「来たか……」
魔法使い「ちょ、ちょっと待って!この人たちもテレビ局をつぶしにきたんでしょ?なんで戦うムードになってるの!?」
魔王「ふんっ、人間などと馴れ合うつもりはない」
魔王「それにな、貴様らのような強そうなやつを見たらどうなるか、戦士、お前には分かるのではないか?」
戦士「ああ、ちょっと分かる気がするぜ。だが、そんな体でやる気か?」
僧侶「片腕動かないみたいですね……これなら……」
魔法使い「全身ボロボロでまっくろね……」
魔王「ふははははは、私はたとえどのような状態でも背中を見せるようなことはせん!」
側近「そんなんだから前の勇者に負けちゃったんですよ……もう……でもそこがいいんですけどね」
魔王「さぁ!どっちが強いか決着をつけようではないか!」ゴゴゴゴゴ
戦士「来るぞ!僧侶!魔法使い!」
カッ
―――王城
側近「いやぁ、勝った勝った、あっはっは」
魔王「お前何もしとらんではないか」
側近「あ、カメラスタンバイできましたよ?」
魔王「そうか。しかしそんなもので映像が送れるとは不思議なものだな」
側近「準備いいですか?」
魔王「ああ、もう言うことは決まっておる」
側近「じゃ、3、2、1……キュー!」
魔王「我が名は……ううむ……」
側近「どうしました?魔王様?もうまわってますよ?」
魔王「違うな……こうではない……こんなはじまりではないのだ……」
側近「何言ってるんですか?」
魔王「ああ!もういい!テレビを見ている者どもよ!放送はこれで最後だ!」
魔王「今後テレビが放送されることはない!食らえ!火炎魔法!」
ゴバァ
側近「あっちぃーー!何するんですか!カメラ燃えちゃいましたよ」
魔王「私は魔王城に帰ってやることがある、お前は散り散りになった魔族たちを集めて来い」
側近「やること?何をするんです?」
魔王「まったく……時間を無駄にしたわ。復活してからこれだけ時間がかかってしまうとはな」
側近「魔王城に帰ってはじめるって?」
魔王「何を始めるか?そんなもの決まっておるだろう!」
魔王「プロローグだ」
―――プロローグ
ゴロゴロゴロ
男A「な、なんだ……空が急に暗く……」
男B「テレビが見えなくなったと思ったら天変地異か?」
ふははははは!世界は……闇につつまれた!
僧侶「頭の中に……直接声が聞こえます」
魔法使い「あの黒いやつの声よ」
戦士「まったく……俺たちのとどめもささずに何がしたいんだ。あいつは」
水の将魔「水力発電ー!水よー……って魔王様?もしかしてはじまるの?」
風の将魔「風よふけー!風車を回せー!……おお……いつもの懐かしい声が……」
側近「まったく……これがやりたかったんですね……」
我が名は魔王!世界を絶望につつむ者だ!
この世界を恐怖と絶望で埋め尽くし、破壊の限りを尽くしてくれる!
さぁ!恐れよ!敬え!そして我に従え!
そして!我を恐れぬものはいつでもかかってくるがよい!
さぁ!はじまりのときだ!
おしまい
転載元:http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1361530041/