魔王「テレビとはなんだ?」 1/5

1 2 3 4 5

魔王(動け…動け…)

魔王(動け…私の心臓…)

魔王(はぁぁ・・・)ドクンドクン

魔王「(動け……動け……動くのだ)

魔王「はぁああああああああ!」カッ

魔王「ふはははははは!皆の者!待たせたな!復活したぞ!」バッ

魔王「さぁ、皆の者!はじめるとするか!」

魔王「ふははは…は…は?」

魔王「?」

魔王「んん?」キョロキョロ

魔王「私が復活したのに誰もおらんとは…」

魔王「側近!側近はどこだ!」ガシッ

パラパラ

魔王「むっ…扉が…朽ちておる」

魔王「なんだこの城の荒れようは…」

魔王「誰かおらぬのかー!」オラヌノカー オラヌノカー

魔王「どうしたことだ。なにがあったのだ」スタスタ

魔王「ここは魔王城のはず…」チラッ

魔王「んっ…?」

魔王「んんっ!?」

魔王「この窓から見える景色は…砂漠…?」

―――砂漠

魔王「はぁ……はぁ……どこまで言っても砂ばかりではないか」

魔王「まさか、魔族も人間も滅びてしまったのか?」

魔王「そうするとこの世界には私一人きりということに……」

魔王「この広い世界に……」

魔王「私一人きり……」

魔王「これは……」

魔王「世界征服が完了したということか!」

魔王「さすが私だ!寝ている間に世界を征服してしまうとはな」

魔王「ふはははははは!神よ!お前の負けだ!」

キラッ

魔王「ん?何か光ったか?あれは……町?」ザッザッ

魔王「おおっ!町だ!なんだ、世界征服できておらんかったのか」

魔王「ふはははは!楽しみが増えてしまったではないか!支配してやるぞ!人間どもよ!」

―――砂漠の町

魔王「なんだ……この町は……人間と魔族が……両方いる?」

魔王「もしや、我が魔族がすでに支配して人間を奴隷にしておるのか!?」

魔王「おい、そこの人間」ガシッ

町人A「いたっ、な、なんですか?」

魔王「貴様、この町は魔族の支配下にあるのだな?そうだろう?」

町人A「な、なんのことですか?そ、それに相手を貴様なんて呼んじゃいけないよ。乱暴なひとだなぁ」

魔王「何?では貴様は魔族の敵か?」ギロッ

町人A「て、敵とか何言ってるんですか。こんな平和な世の中で……」

魔王「平和?何を馬鹿な。この世界で人間と魔族は殺すか殺されるかであろうが!」ゴスッ

町人A「あうっ……い、痛い……ひぃ!血!血が出てるよ!」

ザワザワ

町人B「ひどい!あの人殴ったよ!」

町人C「警察!警察を呼んで!」

魔王「なんだ?貴様ら!文句があるならかかって来い!」バッ

町人A「痛いよ……ぶつなんて……」

町人B「ぼ、暴力反対!人を殴ったりすることはいけないことだ!」

町人C「み、みんな手を出しちゃだめよ!話しあいで解決するの」

側近「そのとおりだよ。人にはやさしくしましょう、そうテレビで言ってた」

魔王「側近!」

側近「え?」

魔王「生きておったのか!?どういうことだ、これは?」

側近「ま、魔王……様?」

魔王「ああ、久しぶりだな。1000年ぶりくらいか?やっと復活を果たせたぞ」

側近「魔王様が……暴力を振るうなんて。だめですよ!暴力は絶対!」

魔王「はぁ!?」

側近「争いは争いを生むだけ、非暴力不服従、そうテレビで言ってました」

魔王「テレビとはなんだ?」

側近「テレビを知らないとか魔王様どこの田舎ものですか」

魔王「お前も同郷だろうが」

側近「それよりさっきぶった人に謝ってください。ほらっ」グイッ

魔王「な、何を言っておるのだ!?お前……私にむかって人間に謝れと言うのか?」

側近「悪いことをしたら謝るんですよ」

魔王「側近、お前、昔人間にどんな目に合わされたか忘れたのか!?」

女「あなた、どうしたの?」

側近「ああ、なんでもないよ。家に入ってなさい」

魔王「今度はなんだ?」

側近「ああ、私の妻です」

魔王「人間を妻にしただと!?」

側近「妻くらいいますよ。社会人として結婚もしないなんて恥ずかしいですよ?テレビで言ってました」

魔王「この愚か者があああああああああああ!」ドガッ

側近「げふっ」ズササー

魔王「人間などと馴れ合うとはどういうことだ!?恥をしれ!あのような下賎の種族なぞに!」

町人A「うわぁ……こいつ差別主義者だ」

町人B「人権を尊重しろ!憲法にも書いてあるぞ!」

町人C「人間差別反対!人間差別反対!」

町人A「ジンケンガー」

町人B「ジンケンガー」

町人C「ジンケンガー」

側近「ジンケンガー」

魔王「ええい!意味が分からん!側近!ちょっと魔王城までこい」グイッ

側近「ちょっ、離して」

女「あなたー」

バサバサッ

―――魔王城

魔王「さぁ、今までの経緯を話してもらおうか」

側近「あ、あの魔王様」ソワソワ

魔王「なんだ?」

側近「も、もうすぐ毎週見てるドラマがやるんで見せてくれませんか?」

魔王「ドラマ?なんだそれは?」

側近「テレビ番組です。どこですか?テレビは?」

魔王「テレビというのがどういうものかよく分からんが……ない!」

側近「え!?うそでしょ?」

魔王「それより話をだな」

側近「そんな!じゃあドラマのあとのスポーツ中継は?深夜アニメは?」

魔王「ちょっと言っている意味が分からないのだが」

側近「今週見逃しちゃったら来週から話分からなくなっちゃうじゃないですか!録画予約してないんですよ!」

魔王「ちょっと落ち着け」

側近「落ち着けって、テレビが見えないんじゃ何も分からなくなっちゃうじゃないですかぁ!」

魔王「テレビを見ないと何もわからない?」

側近「そうですよ!ニュースみないと!明日の天気も!」

魔王「なんだ?テレビとはうらない師のようなものか?」

側近「違いますよ、色々教えてくれるんです。それに面白いし」

魔王「よくわからんが、お前が変だということは分かった」

側近「変じゃないですよぉ!」

魔王「以前のお前なら私にであろうと殴られたらその瞬間殴り返してきておるわ」

側近「暴力はだめですよぉ」

魔王「それが気持ち悪い……」

側近「ええ!?」

魔王「なんだあの場にいたやつらは!全員が全員、暴力はだめだだめだと同じことを言いおって」

側近「だってテレビで……」

魔王「しばらく牢にでも入って頭を冷やせ」

側近「そんな!ドラマが!スポーツ中継が!アニメがあああああああ!」

魔王「諦めろ」

側近「せめて予約だけでもさせてください!」

―――王城

大臣「王様、今年はやくそうが豊作で取れすぎてしまったようです」

王様「そうか、では逆に不作でどこでも品薄だと放送しろ」

大臣「はっ」

王様「あとは料理番組で使って、やくそうブームでも作っておけ」

王様「芸能人にうまいと言わせ続けろ、どうせ庶民はそれを真似する」

王様「他に報告はあるか?」

大臣「たいしたことではないと思うのですが、砂漠の町で暴力事件があったようです」

王様「珍しいな。暴力などという力と発想を庶民に与えるないようにしてきたつもりだが……」

王様「公共放送で暴力反対を訴えておけ、それから徹底的に犯人を批判する放送をするのだ」

大臣「それが犯人は逃げてしまって誰だか分かりません。一人の町人とともに姿を消したとか」

王様「ではその町人でよい。徹底的に叩け、家族もろともな」

大臣「その町人が関係あるとは限りませんが……」

王様「かまわん、庶民とはどんな事件でも責任を誰かにとらせたがるからな」

大臣「わかりました」

―――砂漠の町

町人D「この家だぜ?テレビでやってた暴力事件の犯人の家って」

町人E「おっ、女がいるな。あいつが犯人の奥さんか?」

女「ちょっとやめてください!毎日毎日!私は知りません!」

リポーター「知らないなら正直に答えてくれればいいじゃないですか。どうなんです?あなたのご主人は人間差別主義者だったんでしょう?」

女「人間差別なんてあの人はしてません!」

リポーター「でも近所でご主人が『人間なんて死ね』と言ってたとか言ってないとか」

女「あの人は人に死ねなんて言いません!いい加減にしないと怒りますよ」バッ

リポーター「ちょっ、その箒で何をする気ですか!」

女「もう帰れ!帰って……帰ってよぉ……」ブンブン

リポーター「や、やめてください!みなさん、ご覧ください!今まさに暴力が振るわれようとしております」

リポーター「しかし、私リポーターは勇気を振り絞り、真実の報道をさせていただきます!」

―――1ヵ月後

側近「……」

魔王「おい、側近……側近?大丈夫か?」ペチペチッ

側近「あ……はい」

魔王「思い出したか?お前が人間にされたことを」

側近「はい……私の妻は……人間に……」

魔王「ああ!殺されたのだ!」

側近「うおおおおおおおおおおお!人間めええええええ!絶対ゆるさねぇ!ぐあああああ」ドガッ

魔王「ぐおっ」ドゴーン

側近「人間をぶちころしてやるうううううううう!ぐおおおおおおおん!」バキバキッ

側近「……はっ!?私……またやっちゃいました?」

魔王「あたたっ……ふははははは!それでこそ我が側近だ。いいぶち切れ具合だぞ」

側近「魔王様……復活したんですね」

魔王「ああ、だがこの世界の変わりようには驚いたぞ。側近よ、何があったか教えろ」

側近「それが……魔王様が勇者に敗れてから我らは人間どもに復讐すべく、その力を蓄えておりました」

側近「しかしそのうち人間どもからあるものが送られてきたのです」

魔王「あるもの?」

側近「ええ、それがテレビでした」

魔王「それがよく分からんのだが」

側近「要するに情報を一方的に与える箱です。通信はできません」

魔王「一方的な思念のようなものか」

側近「また人間の町でご覧になるといいでしょう。そのテレビが送られてきてからおかしくなりました」

側近「テレビでは毎日娯楽を放送していて、その間に情報を伝えたりしてくるのですが」

側近「その娯楽が面白く、魔族たちはすっかりそれに魅了されてしまいました」

側近「そして、そのうちテレビの言うことは何でも正しいと思うようになり……」

魔王「で、お前のような腑抜けなってしまったのか」

側近「お恥ずかしい……」

魔王「まったく下らんものを作りおって……こんなものがあっては世界征服の邪魔だな。魔族どもも魅了されたままであろうし」

魔王「人類の前にテレビを破壊してやろうぞ!」

側近「本気ですか?」

―――砂漠の町

魔王「おい、側近。こんな小さな町よりもっと大きな町を襲ったほうがよいのではないか?」

側近「いえ、その前に人間の妻に一言だけお別れを言っておこうかと……」

魔王「テレビに魅了されて結婚してしまっただけだろう?人間などほうっておけばよいではないか」

側近「それでも一度夫婦の誓いを交わしたんですから」

魔王「変なところが律儀だな、お前は」

側近「この先の家です……え……」

魔王「あの家か。ずいぶん荒れたところに住んでおったのだな」

側近「な、なんですかこれ!?壁に落書きが……」

『差別主義者死ね!」

『暴力夫婦」

1 2 3 4 5