―――食堂
寮長「あ、隣いい?」
少年「あ、どうぞ」
幼馴染「もぐもぐ……」
寮長「二人とも兵士長から褒められたんだって?」
少年「え……どうしてそれを?」
寮長「うふふ。私、耳年増なの」
幼馴染「なんか意味が違うような」
寮長「でもすごい。あの兵士長、新兵とか訓練生を褒めることなんて滅多にないのよ?」
少年「そうなんですか?」
寮長「うん!もうね、あの人に褒められたいからがんばってる人もいるぐらいだし」
幼馴染「へぇ」
寮長「厳しいけど優しい人だから、人望もあるしね。だから二人ともあの人の期待に応えなきゃだめだぞ?」
少年「わ、わかりました」
幼馴染「がんばります!!」
―――夜 庭
少年「……悪いな、呼びだして」
幼馴染「どうしたの?」
少年「……呪文、教えてくれないか?」
幼馴染「え……?」
少年「剣術は前から趣味程度に齧ってたけど、魔術のほうはさっぱりだったから」
幼馴染「あ、そっか……」
少年「だから……色々、教えてほしい」
幼馴染「良いけど……条件」
少年「条件?」
幼馴染「うん!」
少年「なんだよ……?」
幼馴染「……剣術、教えて?」
少年「……ああ、わかった」
幼馴染「ありがと。……いっぱい訓練して生き残ろう……絶対に」
―――数週間後 訓練場
幼馴染「せぇぇぇい!!!」
「ぐぁ!!?」
兵士長「そこまで!!」
幼馴染「や、った……初めて……勝った」
兵士長「やるな……」
幼馴染「え」
兵士長「とんでもない成長ぶりだ……感服した」
幼馴染「あ、いやいや……そんなことは……」
少年「でぁぁ!!」
「ぁぎゃ!?」
少年「ありがとうございました」
「くそ……」
兵士長(こいつらなら……いや、それでも魔王には到底叶うまい)
兵士長(本当に惜しい……国を担う才能ある若者を見す見す死なせるなんて……)
少年「はぁぁぁ!!!」
魔術師「おぉーー!!えくせれんと!!」
少年「はぁ……いや、まだ火を出せるようになっただけで」
魔術師「いやいや。才能がないと思っていましたが、やはりすごいですね」
少年「え?」
魔術師「あなたには努力の才能がありますね。これからも己を磨いてください」
少年「はい。ありがとうございます」
幼馴染「それそれそれー!!!!」
「ぎゃぁぁぁぁ!!!!」
「火の玉を連射するのはやめろぉぉぉ!!!」
幼馴染「あははー、たのしいー」
魔術師(この二人……成長が著しい……)
魔術師(何か特訓をしてますね……。この歳で立派な事です)
「くそ……あいつら、少し褒められたからって粋がりやがって」
「マジで一度分からせたほうがいいかもしれないな……」
―――夜 寮の庭
幼馴染「せいや!!!」
少年「だめだめ。腰をもっと下げて」
幼馴染「むずかしいなぁ」
「よう」
少年「あ、どうしたんですか?」
「さすが優等生だな。いつもこんなことしてたのか?」
「偉いなぁ。マジで尊敬するぜ」
幼馴染「そ、それはどうも」
「でも、実戦はまだなんだろ?」
少年「え、ええ」
「なら、今度実戦しにいくか」
幼馴染「実戦って……?」
「魔物とのだ」
少年「魔物と……?」
―――週末
「んじゃ、行くか」
少年「あの、勝手に行ってもいいんですか?」
「ちゃんと兵士長の許可は貰ってるよ」
「ああ、問題ない」
幼馴染「それなら大丈夫ですね!」
「おう」
「へへっ」
少年「……」
「なんだよ?」
少年「いえ……どこに行くんですか?」
「ここから西にある洞窟だ。いい感じに魔物が多くて実戦になるぜ?」
寮長「あれ?みなさんどちらへ?」
幼馴染「少し自主訓練に行ってきます!」
寮長「そ、そう……気をつけてね」
―――洞窟
「ここだ」
幼馴染「うわ……暗い」
少年「たいまつとかいるんじゃないですか?」
「バカ。そういうのは全部魔術で代用するんだよ」
「じゃないと訓練にならないだろ?」
幼馴染「なるほど……それもそうですね!」
少年「えと……どうすれば?」
「この洞窟の奥にある光る石をもってこい。それが訓練成功の証になる」
「がんばれよ」
幼馴染「あれ?二人は行かないんですか?」
「まずはお前らが先だ」
「へへっ、そうだ」
少年「わかりました」
幼馴染「じゃあ、いってきまーす」
幼馴染「く、暗いね……」
少年「あんまりくっつくなよ。動きにくいだろ」
幼馴染「で、でも……怖いし」
少年「俺が守るから」
幼馴染「ほ、ほんとに?」
少年「ああ」
幼馴染「じゃ、信じる、よ?」
少年「……守るに決まってるだろ」
幼馴染「ど、どうして?」
少年「俺が……勇者になった……理由……だから」
幼馴染「……」
少年「お、おい、なんか言えよ……恥ずかしいだ―――」
幼馴染「ま、まえ……」
少年「え?」
魔物「―――」
―――寮
寮長「……自主訓練であの装備……どこか魔物の巣でも行くような……」
兄「―――ごめんください」
寮長「あら。あなたは」
兄「ご無沙汰しています」
寮長「あはは。久しぶり!」
兄「お変わりないようで」
寮長「君もね」
兄「退役してまだ2年です。変わりようがありません」
寮長「そっか。君が抜けてからそんなに経つか……早いね」
兄「貴方も昨年、一線を退いたと聞きました。勇者と共に旅立ち、唯一生き残ったというのに」
寮長「戦うことが怖くなっただけ……ただの臆病者なの」
兄「そんなことは……」
寮長「それで、用件は?」
兄「ああ、妹に渡したい物があったんですが。いますか?」
寮長「あ、ごめんね。妹さんは今、外に」
兄「外?そうか……参ったな……」
寮長「私が渡しておきましょうか?」
兄「助かります」
寮長「これは……?」
兄「魔道書です。そろそろ渡しておこうかと思いまして」
寮長「へえ……すごい年代物ね」
兄「我が家系に受け継がれてきたものですから」
寮長「そうなんだ」
兄「本当は妹に渡したくなんてなかったんですけど」
寮長「……」
兄「アイツはバカだから……真直ぐで……」
寮長「お兄さんも大変ね」
兄「いや……まあ」
寮長「じゃあ、これは預かっておくわね」
―――洞窟
少年「―――はぁぁぁ!!!」
魔物「ァァァァァ……」
少年「よ、よし……」
幼馴染「大丈夫!?」
少年「あ、うん……平気……」
幼馴染「ね、戻らない?」
少年「大丈夫……いける」
幼馴染「……私、怖い……」
少年「俺がいる……大丈夫だ」
幼馴染「う、うん……」
少年「行こう」
幼馴染「……」
少年「はぁ……はぁ……うぇい!!」
魔物「ォォォォォ……」
少年「いっ!?」
幼馴染「今、治癒を……」
少年「悪い……」
幼馴染「……はい。もう痛くない?」
少年「ああ、大丈夫だ。サンキュ」
幼馴染「それにしても、結構歩いたよね……まだかな?」
少年「きっともうすぐだ……」
幼馴染「だといいんだけど……」
―――ヴァァァァァァァン!!!!!!!
少年「!?」
幼馴染「な、なに……今の雄叫び……」
少年「この奥に何かが……」
幼馴染「や、やだ……帰ろうよ!」
―――王城
兵士「―――次の遠征はこのように」
兵士長「そうだな」
寮長「――あのぉ」
兵士長「む……おお!!どうした?」
寮長「えっと……少し聞きたいことが」
兵士長「なんでも言ってくれ」
寮長「あのですね、自主訓練の許可って出されました?」
兵士長「自主訓練?内容は?」
寮長「恐らく、魔物の討伐かなにかじゃないかなって」
兵士長「それは知らないな。どうかしたのか?」
寮長「やっぱり……」
兵士長「どうかしたのか?」
寮長「実は……」