―――街
勇者「……貴方達は!?」
戦士「これでも現役だ。戦える」
武道家「寮の戸締りは完璧です。行きましょう」
賢者「魔王に訊いてみればいい。蘇生術はな」
勇者「………いいんですか?」
戦士「もう国に仕えるのが嫌になった。だから、行こう」
勇者「……はい」
―――街道
勇者「――――はぁぁぁぁ!!!!」
戦士「ふん!!!」
武道家「せいやぁ!!!」
魔物「ガァァァ……」
賢者「みなさん、流石ですね」
勇者「……先を急ぎましょう」
戦士「……」
武道家「あの、そんなに焦らなくても……」
勇者「……焦ってなんて」
賢者「落ち着け……浅慮な行動は命を縮めるだけだ」
勇者「ちゃんと考えてますよ」
戦士「ふむ……ならばいいが」
勇者「……」
―――数週間後 夜営
戦士「まだ寝ないのか?」
勇者「はい……魔道書を見ていました」
戦士「何かあるのか?」
勇者「最後のページに……この世の者では扱えない魔術として記載されているものが」
戦士「それを覚えようとしているのか?」
勇者「はい」
戦士「なぜだ?」
勇者「魔王を倒すため」
戦士「……」
勇者「それしかないじゃないですか」
戦士「そんなことをしても魔王は……倒せんよ」
勇者「何故です?」
戦士「私は目の前で多くの部下を失った……兵士長になったばかりのときだ」
勇者「魔王の討伐に……?」
戦士「勇者による討伐が悉く失敗していたとき、私が王に願い出たのだ。兵を連れて魔王を倒すとな」
勇者「……」
戦士「お前をみていると、まるであの時の私のようだ」
勇者「え?」
戦士「何も考えず、自分の実力を過信し、前を見ることしかしない」
勇者「自分はそんなこと……」
戦士「目の前で愛する人を失ったことをもう忘れたのか?」
勇者「……し、死んでなんかいません!!」
戦士「お前が死んでは意味がない。だから、焦るな」
勇者「自分は……」
戦士「見張りは私がしよう。もう休め」
勇者「はい……」
戦士「……必ず見つける」
勇者「……」
戦士「蘇生させる術を……」
―――山脈
賢者「―――この最後の魔術?」
勇者「うん」
賢者「よく知らないな。習得した者は大昔の大賢者だけだと聞くし」
勇者「……魔王でも一撃で倒せる魔術なら……」
賢者「どうだろうな……だが、そんな魔術は使わない方がいいだろう」
勇者「どうして……?」
賢者「術者の身が滅ぶだけだ」
勇者「……」
武道家「―――はぁぁ~つかれたー」
戦士「もう少しだ。がんばれ」
武道家「もう少しって景色全部山ですけど!?」
戦士「もう少しだ」
武道家「詐欺だ!!」
―――荒廃の村
勇者「酷い……」
武道家「……ここからは魔王の領地ってことですね」
戦士「……数年前は平和だったのに」
武道家「私の時もここはまだ普通の農村でした」
賢者「では、この先はもう危険な魔物が……」
戦士「いるだろうな。それともう街や村はないと思った方が良い」
勇者「そう、ですね……」
賢者「いこう……墓も作ってやれないよ。こんな場所では誰も眠りたくないはずだ」
勇者「わかった」
戦士「いくぞ」
武道家「……っ」
勇者「どうしたんですか?」
武道家「う、ううん……なんでも……」
武道家(足の震えが……なんで……!?)
―――魔王城
勇者「……」
戦士「準備はいいか?」
賢者「いつでも」
武道家「は、はい……」
勇者「あの」
武道家「な、なに……?」
勇者「生きて帰りましょう、絶対に」
武道家「……もっちろん!!」
勇者「大丈夫。自分もみなさんも強いです……きっと勝てます」
武道家「ごめんね……一度逃げた身だから……」
勇者「……」
武道家「魔王の強さを知ってるから……どうしても心が怖がってる」
―――魔王城内
魔王「―――来たか」
勇者「魔王……」
武道家「ひっ……」
戦士「久しぶりだな」
魔王「すまんな。人間の顔など覚えておらん」
戦士「貴様……?!」
賢者「挑発に乗ってはいけない」
魔王「ふふふ……ここまでたどり着ける人間がいるとは思わなかったぞ……」
勇者「魔王……」
魔王「―――死人たちよ!」
ゾンビ「おぉぉぉお……」
戦士「こ、こいつらは!?」
魔王「かつては人間だったものたちだ。ここまでこれたのだ、死人ぐらいわけもないだろう?」
武道家「……外道」
ゾンビ「おぉぉぉお……」
賢者「すいません……もう眠ってください。―――はぁぁぁぁ!!!」
ゾンビ「「おぉぉぉぉぉおおおお!!!!」」
魔王「ほお……業火で一掃とは……ふふふ」
勇者「やはり……魔王は死人を甦らせる術を知っているんだ」
魔王「ああ、その通りだ」
勇者「その術、教えてもらう」
魔王「なんだ?生き返らせたい者でもいるのか?」
勇者「そうだ」
魔王「くくく……ならばここに連れてこい。すぐに蘇生させてやるぞ?」
勇者「え……?」
戦士「なんだと?」
武道家「う、うそよ……そんなこと……お、おまえがするわけ……」
魔王「ふん、信じられんのならば我を倒せばいい。それだと生き返らせる術は手に入らんがな……」
賢者「……」
魔王「さあ、どうする?」
勇者「その蘇生術だけを教えては……?」
魔王「やれんな」
戦士「なら、何故蘇生させてやるなどと?」
魔王「敬意だ。ここまで辿り着いたな」
賢者「嘘だな。なにを企んでいる?」
魔王「信じられんなら我を倒せと言っている」
武道家「し、信じちゃだめ……アイツは息をするように嘘を吐く……から」
魔王「くくく……」
勇者「……」
魔王「どうするのだ?連れてくるか?それともここで我と戦うか?」
戦士「……」
勇者「……それは」
賢者「……」
魔王(ふん……どちらを選んでも絶望を見せてやろう)
戦士「焦るな」
勇者「え……?」
戦士「奴の蘇生術は先ほどのようなゾンビを生むだけかもしれん」
勇者「あ……」
賢者「魔王……一つ訊ねたい」
魔王「なんだ?」
賢者「この世に蘇生術などないのではないか?」
魔王「お前は何を見ていた?」
賢者「先ほどのはただの化物だ」
魔王「死んだ人間が生き返る。どんな形でもそれは嬉しいだろう?」
武道家「そ、そんなこと……」
勇者「死んでない」
魔王「なに?」
勇者「意識が戻らないだけで……・まだ、死んでない」
魔王「なるほど……なるほど……くくく、ならばもっと簡単だ」
勇者「簡単、だと……?」
魔王「この宝石を使えばいい」
戦士「それは?」
魔王「これにとある魔術をかけることで特殊な宝石へと変化する」
賢者「まさか」
魔王「賢者の石と人間は呼んでいるな」
武道家「それって……?」
賢者「様々な幸福を得られるという大賢者が作り出した魔法石の一つだ」
魔王「そう。これさえあればすぐだ」
勇者「じゃあ……」
魔王「これをくれてやってもいいが、条件がある」
勇者「な、なに……?」
魔王「人間の領土を全て渡せ」
勇者「な……!?」
魔王「人間が生き返るのだ……悪い取引ではあるまい?」
勇者「そんなこと……」
戦士「できんな」
魔王「ならば交渉決裂だ」
武道家「奪えば―――」
魔王「奪うだと……?これは我が長年かけて見つけたものだ。そう簡単には渡さんよ」
戦士「お前が賢者の石を持っていても、仕方ないだろ」
魔王「そんなこはない。この石は持っているだけで効果を発揮する」
賢者「傷が自動で癒えるというのは本当なのか」
魔王「その通り。お前らでは……いや、人間では我を倒すことなどできんよ」
勇者「そんなこと、やってみないと分からない」
魔王「ならばこい。そして絶望を味わえ」
勇者「はぁぁぁぁ!!!」
魔王「―――ふふ」
勇者「……そ、んな、斬ったのに……傷が……!!」
魔王「無駄だといっただろ?」
魔王「ふん!!!」
勇者「うわぁ!?」
戦士「危ない!!」
勇者「―――あ、すいません」
戦士「気にするな」
魔王「くくく……」
賢者「くらえ!!!」
魔王「ほお……立派な炎だ……だが、こうして賢者の石を翳せば」
賢者「炎が消えた!?」