勇者「念願の勇者になった。これで夢だった僧侶との二人旅ができる」 4/6

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―――洞窟 外

僧侶「……(ぼー」

ドラゴン「お前」

僧侶「あ……」

ドラゴン「あれからずっとここにいたのですか?」

僧侶「はい」

ドラゴン「それはそれは……忠犬のようですね」

ボストロール「早く連れて行こうぜ」

ドラゴン「そうですね……では、ちょっと失礼しますよ?」

僧侶「え……?」

ドラゴン「―――連れてまいりました」

僧侶「ここは……?」

魔王「来たか……」

僧侶「貴方は?」

魔王「我が魔王だ」

僧侶「そうですか」

ボストロール「貴様!魔王様にひれ伏せ!!」

僧侶「え?」

魔王「よい。勇者の話では、思考することも恐怖を感じることもないという」

ドラゴン「ほぉ」

僧侶「……」

魔王「そこで……我が一つ、手を貸してやろう」

僧侶「はい?」

魔王「勇者の頼みだ……くくく……」

僧侶「……勇者様の?」

牢獄

勇者(―――意識が……溶けていく……)

勇者(きっと、もう……俺は俺でなくなる……)

勇者(魔王め……くそ……)

勇者(俺の頼みは聞いてくれたんだろうか……それだけが……)

僧侶「勇者様?」

勇者「あ……ぁ……」

僧侶「勇者様……なんてお姿……」

勇者「そ、うりょ……?」

僧侶「はい。……勇者様、今、助け出して差し上げます!」

勇者「あ……ぁ……!」

勇者(いま……じぶんの……考えを……いったよな……?)

僧侶「勇者様、ここの鍵を探してきます!」

勇者「あぁ……ぁ……!!」

僧侶「待っていてください!!」

魔王「―――普通の人間にしてやってくれ、だと」

ドラゴン「あの女は普通の人間ではなかったのですか?」

魔王「うむ。どうやら、人間が作った人間のようだ」

ボストロール「それって、どういうことです?」

魔王「勇者のために作られた人形だ。手足となるな」

ドラゴン「なるほど。以前、ここに攻め入ってきた幾多の勇者たちが従えていた者たちも……あの女と同じだと?」

魔王「そういうことだ。そのため勇者の言葉は絶対だと刷り込まれているようだな」

ドラゴン「人間も中々怖いことをしますね」

魔王「それだけ我の存在が目障りなのだろう」

ボストロール「でも、魔王様ならそんな者たちなど一掃できましょう」

魔王「ふむ……」

僧侶「ここにも、ない……」

僧侶「どこに……?」

動く石像「貴様、なにをしている?」

僧侶「は!?」

動く石像「魔王様……この人間が妙なことをしていました」

魔王「なに?」

僧侶「は、はなして!!」

魔王「早速勇者を救おうとしたのか?くくく……分かりやすくて良いな」

僧侶「勇者様を助ける。鍵はどこですか!!」

魔王「勇者は我の僕となったのだ。貴様に返すわけなかろう」

僧侶「な……!?」

魔王「……ふん。殺せ」

動く石像「はは」

僧侶「そ、そんな!?」

魔王「―――まて」

動く石像「はい?」

魔王「勇者を呼べ」

ドラゴン「しかし、まだ完璧に魔族には……」

魔王「奴も抵抗しているのだろう?……故に抵抗させぬようにしてやればいい」

勇者「……ぁ……あ……」

僧侶「は、はなして……!!」

魔王「勇者よ……そのおぼろげな眼でよく見ておけ」

僧侶「ゆ、しゃ、さま……」

魔王「この女が朽ちるところをな!」

勇者「や、め……」

魔王「やれ」

ドラゴン「はい……」

僧侶「勇者様……!」

勇者「や、めろぉ……!」

僧侶「たす、けて……!!」

勇者「や、めて、くれぇ……!!」

魔王「ドラゴン」

ドラゴン「―――燃えろ」

僧侶「――――あぁああああああああぁああ!!!!!!!!!」

僧侶「」

勇者「あぁ……ぁ……」

魔王「ふん……」

ボストロール「こいつ、食ってもいいんですか?」

魔王「よいぞ」

ドラゴン「くく……では私は頭を」

ボストロール「じゃあ、足から貰うか……」

勇者「あぁ……あぁ……!!?」

魔王「あーっはっはっはっは!!!人間をやめろ、勇者。こんな悲しみなど忘れたいだろう!?」

勇者「あぁ……ああああ!!!!」

魔王「くっくっくっくっく………!」

勇者「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

僧侶「―――は?!」

僧侶「……ここは?」

僧侶「確か……動く石像さんに捕まって……そのあと……ドラゴンさんが……」

僧侶「よくわからない……勇者様……」

僧侶「……(ぼー」

ドラゴン「起きましたか?」

僧侶「あ……」

ドラゴン「さてと……貴方のことを色々と聞かせてもらいましょう」

僧侶「え?」

ドラゴン「―――貴方はやはり普通じゃなかったのですね……匿って正解でした」

僧侶「はい?」

ドラゴン「人間が作り上げたというその技術について、知っていることを話してもらいましょう」

僧侶「え?え?」

ドラゴン「話してもらいますよ……魔王を倒すためにね」

僧侶「はい?」

ドラゴン「知らない!?」

僧侶「私は勇者様の僧侶であるだけで、そんな技術とか言われても」

ドラゴン「……だー!!バカなぁ……!!!」

僧侶「そもそもどうして魔王を倒そうと?」

ドラゴン「私が王になりたいからに決まっているでしょう?」

僧侶「王?」

ドラゴン「竜王ですよ。竜王!!」

僧侶「へえ」

ドラゴン「人間の技術があれば……絶対に魔王なんて倒せると思ったのに……」

僧侶「すいません、期待はずれで」

ドラゴン「全くです」

僧侶「でも、勇者様ならなにか知っているかもしれませんよ?」

ドラゴン「勇者……しかし……魔王様が……」

僧侶「どうせ謀反するなら、早い方が良いと思いますけど?」

ドラゴン「……むむむ……!!」

勇者「……」

ボストロール「もうすぐ魔物化しますね」

魔王「折角、あの女に思考能力を与えてやっても、助けを乞うたところしか見れないとは……悲しいな」

ボストロール「全くです」

魔王「勇者よ、抵抗するだけ苦しいのだぞ?」

勇者「だ……まれ……」

魔王「まあよい。ゆっくりと同胞になるがよい」

ボストロール「では、魔王様。ここは自分が見ておきますので」

魔王「うむ。何か変化があれば知らせろ」

ボストロール「御意」

魔王「あーっはっはっはっは!!!」

ボストロール「―――け!勇者よぉ、さっさと楽になれよぉ!おらぁ!!!」

勇者「ぐふ……!!」

ボストロール「がはははははは!!!」

ドラゴン「―――しめた、奴だけです」

僧侶「倒せるんですか?」

ドラゴン「まあ、任せてください」

ボストロール「ん?」

ドラゴン「見張り、交代しましょうか?」

ボストロール「お?いいのか?」

ドラゴン「構いません……それにそれ以上、勇者に傷がつくと魔王様がお怒りになります」

ボストロール「あ、いや、これは……」

ドラゴン「サンドバックにするのはおやめなさい」

ボストロール「分かってるよ……うっせえなぁ」

ドラゴン「では、交代します」

ボストロール「何かあったら魔王様に知らせるんだぞ?」

ドラゴン「分かっていますよ」

ボストロール「あー、じゃあ、寝るかなぁ」

僧侶「―――やりましたね」

ドラゴン「とりあえず、勇者を解放しましょうか。魔物化も進行していますし」

勇者「……あ……ぃ……」

僧侶「勇者様!お気を確かに!!」

ドラゴン「貴女、何か持ってませんか?」

僧侶「何かって?」

ドラゴン「聖水とか、えっと、浄化させる呪文とか」

僧侶「分かりました!―――ニフラム!!」

ドラゴン「おぉ!それなら勇者の中にある邪気を消せる……!」

勇者「―――あ……え……?」

僧侶「勇者様!大丈夫ですか!?」

勇者「あだだだだ!!!!抱きつかないでくれ!!?傷が!!?」

僧侶「あ、すいません……つい、嬉しくて……」

勇者「……お前……生きてたのか……?」

僧侶「はい!」

勇者「自分で考えて……ここまできたのか?」

僧侶「はい!……あ、いえ、ドラゴンさんにかなり助けてもらいましたけど、あはは」

勇者「よかった……ほん、とに……よかった……」

僧侶「勇者様……そんな、泣くほど痛かったですか?ごめんなさい……」

勇者「ちが、う……これは……うぅ……」

ドラゴン「さて、感動の再会もその変にしてもらってと」

勇者「お、おまえ!?」

ドラゴン「今頃気がついたのですか?鈍感ですねえ」

勇者「僧侶にしたこと、忘れたとは言わせないぞ!!」

ドラゴン「あのときは確かに悪かったです。謝ります」

僧侶「勇者様、このドラゴンさんはそんなに悪い竜じゃないですから」

勇者「でも……!」

ドラゴン「水に流してくれとはいいません。ただ、こうして二人を再会させてあげたことに対しての見返りぐらいは欲しいですね」

勇者「なに?」

ドラゴン「こっちだって完全に魔王様を敵に回す行動を取ってるんですから」

勇者「―――何が望みだ?」

ドラゴン「この女を作りだす技術をください。魔王を倒すために」

ドラゴン「知らない!?!」

勇者「その技術はルイーダというところのモノだ。俺の知るところじゃない」

ドラゴン「だぁぁぁ!!!!!くそぉぉぉ!!!ここまでしたのにぃぃ!!」

勇者「しかし、魔王を倒して竜王になりたいのか……すごい野心家だな」

僧侶「ですねえ」

ドラゴン「ほっといてください」

勇者「じゃあ、とりあえず俺の故郷に行ってみないか?」

ドラゴン「え……?」

僧侶「でも、そんな技術を簡単に教えてはくれないんじゃ……」

勇者「―――俺も少し興味があるし、聞きたいことだってある」

ドラゴン「……では、ここから脱出をするのですね?」

勇者「できるよな?」

ドラゴン「まあ、できますが……100%の保障はないですからね?」

勇者「ああ、頼む」

僧侶「じゃあ、背中に乗せてもらいましょう♪」

魔王「……」

ボストロール「魔王様!!!大変です!!!」

魔王「……分かっている。ドラゴンが勇者と僧侶を連れて逃げたな」

ボストロール「だったら、すぐに追いかけましょう!!」

魔王「よい。偽物の僧侶を我の前に差し出してきたときから泳がせてみたかったのだ……あんな単純な呪文を同胞にかけよって……」

ボストロール「―――呪文?」

魔王「モシャスだ……お前、何も感じなかったのか?」

ボストロール「なんですって!?!?じゃあ、あれは……!!!」

魔王「ふん……ドラゴンめ……この代償は高くつくぞ……!!」

ボストロール「どうされますか?」

魔王「奴の逃げた先を割り出せ。そこへ全軍を突撃させる」

ボストロール「それは……!?!」

魔王「我を裏切った報い……たっぷりと身に刻んでくれよう!!」

ボストロール「―――皆の者!!!集まれ!!!」

魔王「ことのついでだ。人間どもも皆殺しにしてくれる!!!」

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