戦士「おいそこの誰か」 3/7

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エルフ「黙れ」ドガッ

盗人「ぐぁっ」

エルフ「……なぜ止める?」

戦士「いちいちスリなんかにそこまでしてたらきりがねえだろ?」

エルフ「関係ない。話はそれだけか?」

戦士「あとこれから飯食いに行くんだろうが」

エルフ「……」

戦士「朝っぱらからそんなスプラッタなもん見たくねえんだよ。飯がまずくなる。というわけで逃げな」

盗人「あ、ありがとうございます!」

エルフ「あっ」

戦士「次はバレないようにやりなー」

エルフ「……」

戦士「おいおい、そんな眼で睨むなよ」

エルフ「なぜ勝手に逃がした」

戦士「ああ?」

エルフ「なぜ勝手に逃がしたと聞いているんだ!あいつは私から盗みを働こうとしたんだぞ!」

戦士「別に盗られなかったからいいだろ?あんだけ脅せばもう盗る気も起きねえだろうし」

エルフ「そういう問題じゃない!」

戦士「ったくなにカリカリしてんだよ。女の子の日……」

エルフ「死ね」

戦士「……冗談だっつうの。というか周りに人が集まってきてたから止めねえとやばかったしよ。やりすぎで臭い飯なんか食いたくねえだろ」

エルフ「……」

戦士「そんなことより飯食おうぜ飯」

エルフ「……わかった」

~ ~ ~

戦士「……」モグモグ

エルフ「……」シャリッ

戦士「……落ち着いたか?」

エルフ「……ああ」

戦士「まあ、なんだ。頭にくるのはわかるけどよ。やりすぎちまったらよくねえよ」

エルフ「……」

戦士「逆恨みとかされたら面倒くさいしな」

エルフ「……そうだな」

戦士「人の恨みってのは怖いぜ?自分がやったことが何倍にもなって帰ってくる。上手くやっていきたきゃ恨みを買うような真似はやめとけ」

エルフ「……ああ」

戦士「ま、俺もそんな偉そうなこと言える立場じゃねえけどな。俺だって頭にくることはあるし」

エルフ「……なあ」

戦士「ん?」

エルフ「……恨みを買ったら復讐されるのは当然か?」

戦士「んー、まあ仕方ねえんじゃねえか?」

エルフ「なぜだ?」

戦士「やられた側ってのは忘れねえからな。俺が村に居た頃よ、移住してきた奴らに対する差別があってよ」

エルフ「ほう」

戦士「昔からここに居るから偉いって今思うと馬鹿馬鹿しいけどよ。村だとそれが普通だったんだ」

戦士「それでも何年か経つとそんなこともなくなったんだが……移住してきた連中が集まって愚痴ってた所を見ちまってな」

エルフ「……」

戦士「いつもは仲よさげにしてる相手に対してぼろっくそに言っててよ。些細な意地悪をしただとか実はあれをやって罪をなすりつけたのは俺だとか言って笑いあっててよ。その時思ったんだよ。やられた側は忘れねえんだ

エルフ「そのくらいなら可愛いものだろうに」

戦士「そんときゃ俺はガキだったからよ。軽く人間不信になりそうだったぜ」

エルフ「……同じ人間でもそのようなこともあるのだな」

戦士「というか日常茶飯事だと思うぜ?でけえことからちっちぇえことまで差別が大好きだからな。それにエルフだって人間を差別する奴はいるだろ?エルフを差別する人間もいるけど」

エルフ「そうだな。そういう奴らは基本森からは出ない」

戦士「そいつは嬉しいね」

エルフ「……」

戦士「さーてと、腹も膨れたしギルドに戻るか。適当な依頼でもこなそうぜ」

エルフ「ああ」

戦士「それにしてもよ、冒険者って儲からねえよなあ。武勇伝だともっとこう……」

エルフ「ああいった話は大概尾ひれがついているからな。成り立ての冒険者が財宝を手に入れるなど夢物語だ」

戦士「……畑耕してるのよりはいいけどよ」

エルフ「ぼやいてないでさっさと行くぞ」

《ギルド》

戦士「おーっす」

エルフ「また来たぞ」

受付嬢「いらっしゃいませー。何のご用でしょうか?」

戦士「依頼の確認だよ」

受付嬢「今受けられる依頼はこちらとなっておりまーす」

戦士「んー……」

受付嬢「それはそうとやっちゃいましたねー」

エルフ「……何がだ?」

受付嬢「またまたー、こっちまで噂が届いてますよー。エルフがもめ事を起こしたって」

エルフ「あれはスリを働こうとした相手が悪い」

受付嬢「まあそうなんでしょうけど……ね?」

エルフ「言いたいことがあるのならはっきりと言え」

受付嬢「目立ちやすいんだから気をつけた方がいいってことですよ。エルフは数が少ないんですし」

エルフ「……」

受付嬢「噂が広がるなんてあっという間ですからねー。この仕事は何よりも信頼が大事なんですからねー?」

エルフ「……わかった。ところでどうだ?何かいい依頼はあったか?」

戦士「……んー、大したのはねえな。もう少し人数がいりゃ受けれるのも増えるんだが……」

エルフ「あてはあるのか?」

戦士「あるならお前を誘ったりなんかしねえよ」

エルフ「どういう意味だ」

戦士「言わなきゃわかんねえのか?」

エルフ「……」

戦士「……」

受付嬢「……あなた達なんで組んでるんですか?」

エルフ「仕方なく」

戦士「なんとなく」

受付嬢「そうですか……。とりあえずパーティーメンバーを探してみたらいかがですかー?駆け出しの方もいらっしゃるでしょうしー」

エルフ「足手まといはいらない」

受付嬢「またまたー。あなたも駆け出しのくせになに言ってるんですか」

戦士「人数居た方が楽になるだろうけどなぁ……。あ、そういや前の山賊はどうなったんだ?」

受付嬢「残念でした。もう人数が多いという情報を得た人たちが徒党を組んで討伐しちゃいましたー。なかなか財宝を溜め込んでいたらしいですよー?」

戦士「ちくしょう!やっぱりか!」

受付嬢「討伐した皆さんほくほく顔でしたよー。それも情報を持ち帰ったあなた達のおかげですね!」

戦士「うるせえよ!」

エルフ「くぅ……!」

戦士「まあでもやっぱり人数がいるってのは力だよなー」

受付嬢「私としても駆け出しさん達は組んでいた方がいいと思う思うんですけどねー。たまに安心しすぎて油断する人もいますけど」

戦士「そんじゃあ試しに組んでみる奴らでも探してみるか。それでいいか?」

エルフ「……」

戦士「いやなら言えよ?」

エルフ「……いやと言ったらどうなる?」

戦士「お前を置いてパーティーを探す」

エルフ「なんだそれは!」

戦士「いや、お前にそこまで気をつかうほどの義理もねえし」

エルフ「貴様が組もうと誘ったんだろう!?」

戦士「とりあえずで、だろ?」

エルフ「……」

戦士「そんでどうするよ?」

エルフ「……付き合おう。一人でやるのも得策ではないだろうしな」

戦士「お前が魔法使えたら一人でもやっていけただろうによ」

エルフ「……!」

戦士「はいはい、悪かったから睨むなよ」

受付嬢「…………」ニコニコ

戦士「誰に声をかけるか……」

エルフ「……」

戦士「おいどうしたんだ。何かあったのか?」

エルフ「ああ、見てみろ」スッ

戦士「……ほっほっーう。これはこれは」

エルフ「たっぷりこき使えそうだろう?」

戦士「そうだな。とりあえず組むのを断りはしなさそうだ」

エルフ「行くか?」

戦士「行くしかねえだろ」

エルフ「なら貴様に任せる。私だと警戒されるだろう」

戦士「あいよ、任せな」

戦士「おーい」ポン

盗人「ああ?なんだいきなり馴れ馴れしい……」

戦士「よう」

エルフ「また会ったな」

盗人「げぇっ!?」

戦士「おいおいそんな反応するなよ。悲しくなるじゃねえか。なあ?」

エルフ「ああ、そうだな」

盗人「な、なにしに来たんで?」

戦士「いやー、ちょっとお願いがあってよお。ここに居るってことは冒険者なんだろ?」

盗人「ま、まあ一応……」

戦士「よっしゃ!……で頼みっていうのはよ」

盗人「む、む無理は言わないでくださいよ?」

戦士「俺はそこのエルフと違って無理は言わねえよ」

エルフ「おい、どういう意味だ」

戦士「頼みっていうのはよ。俺達とパーティー組んでみねえか?」

盗人「えええええ!?」

戦士「おいおいそんなに驚くなよ」

盗人「いやだって……」

戦士「二人じゃちょっと厳しいからよ。人を探してたんだよ、快く引き受けてくれるよな?」

盗人「え、あ、いやその……」

エルフ「なんだ、言いたいことがあるのならはっきり言え。それともちゃんと喋れるように手伝ってやろうか?」

盗人「あの……その……」

戦士「なあ頼むよー」

エルフ「さっさと了承しろ」

盗人「それは……」

魔法使い「待ってください!」

戦士「ん?」

エルフ「む……」

魔法使い「その人が嫌がってるでしょう!やめてください!」

戦士「あーっと……お嬢ちゃん?」

魔法使い「子供扱いしないでください。これでも成人してますので」

戦士「ああそう……」

エルフ「それで何のようだ?」

魔法使い「嫌がってるじゃないですか!私の恋人を離してください!」

戦士「恋人ぉ!?……マジで?」

盗人「はい……」

戦士「いいなあお前、こんな可愛い恋人がいてよ」

盗人「はははは……」

魔法使い「それで何をしてたんですか?」

戦士「俺達はただこいつをパーティーに誘ってただけだぜ?」

魔法使い「それだけならなんでこんな困った顔をしてるんですか!」

エルフ「こいつには財布を盗られかけてな」

盗人「ああっ!?」

エルフ「その負い目があるからこんな顔をしているのだろう」

魔法使い「へえ……」

盗人「あああのこれには理由があってだな……」

魔法使い「やめるって言ったですよね?」

盗人「はい……」

魔法使い「盗みなんかやめて冒険者として生きていくって言ってくれましたよね?」

盗人「言いました……」

エルフ「……なんだこれは?」ヒソヒソ

戦士「とりあえず見ていようぜ」ヒソヒソ

魔法使い「私にこれから真っ当に生きていくって」

盗人「…………」

魔法使い「言 い ま し た よ ね ?」

盗人「はい……」

魔法使い「ならなんで約束を破ったんですか?」

盗人「…………」

魔法使い「なんで破ったのかと聞いているじゃないですか。答えてくださいよ」

盗人「すみませんでした……」

魔法使い「謝るくらいならなんで約束を破ったんですか?」

盗人「その……出来心で……」

魔法使い「私を愛してるから真っ当に生きていくって。嘘だったんですか?」

盗人「嘘じゃないです……」

魔法使い「本当に?」

盗人「本当に!」

魔法使い「……嘘だ」

盗人「えっ」

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