《翌朝》
エルフ「……ん?あれ……」
戦士「……よう」
エルフ「あ……」
戦士「……なんだよ。何もしてねーよ」
エルフ「……ずっと」
戦士「あ?」
エルフ「ずっと手を握っていてくれたのか?」
戦士「ち、ちげえよ!お前が離さなかったんだ!」
エルフ「……ありがとう」
戦士「……礼を言われることなんかしてねーよ」
エルフ「…………」
戦士「あー、飯食ってからギルド行かねえか?もうそろそろ稼ぎてえんだがよ」
エルフ「ああ、貴様が望むなら」
戦士「…………」
エルフ「どうかしたか?」
戦士「なんでも、ねえよ」
エルフ「そうか。なら朝食を食べようか」
戦士「ああ、そうすっか」
エルフ「行くぞ」
戦士「へいへい」
~ ~ ~
エルフ「あの宿は安いのだが食事が出ないのがな」
戦士「自分で持ち込んで適当に食えばいいから結構楽なんだけどな」モグモグ
エルフ「…………」シャク
戦士「…………」モグモグ
エルフ「……お、おい」
戦士「なんだ?」
エルフ「飲み物を買ってこようか?」
戦士「……へ?」
エルフ「だから飲み物を買ってこようかと聞いて……」
戦士「……俺に買ってこいの間違いじゃねえのか?」
エルフ「そ、そんなことは言ってない!私が買ってこようかと聞いているんだ」
戦士「…………」
エルフ「……いらなかったか?」
戦士「……お前頭でもぶつけたのか?」
エルフ「そんなことはないが?」
戦士「いや、今までのお前なら絶対そんなこと言わねえだろ」
エルフ「そ、そんなことはないぞ?」
戦士「いーや、お前が俺に気を使うなんてありえねえ。短い付き合いだがそんくらいはわかる」
エルフ「……すまない」
戦士「……なんで謝るんだよ」
エルフ「今まで私のそういう振る舞いは不快だったのだろう?……だからやめただけだ」
戦士「そりゃ……まあ」
エルフ「だから嫌いにならないでくれ」
戦士「……っ!」
エルフ「…………」
戦士「ギルドに行くぞ」
エルフ「……ああ」
戦士「……おいしい依頼とかがあるといいな」
エルフ「ああ、そうだな」
《ギルド》
受付嬢「いらっしゃいませー」
戦士「うーっす」
エルフ「おはよう」
受付嬢「おはようございまーす。……ちょっと耳を貸してくれませんか?」
戦士「……俺か?」
受付嬢「はい!」
戦士「……なんだよ?」
受付嬢「昨日、どうなりましたか!?」
戦士「…………」
受付嬢「教えてくださいよ!」
戦士「……ギルドは冒険者の事情に深入りしねえんじゃなかったのか?」
受付嬢「そうですよ」
戦士「なら……」
受付嬢「私が個人的に気になるんです」
戦士「…………」
受付嬢「で、何があったんですか?」
戦士「…………」
受付嬢「教えてくださいよー。ちょっとでいいですからー」
戦士「……いろいろあったんだよ」
受付嬢「いろいろってなんですか?」
戦士「いろいろは……いろいろだろ」
受付嬢「……食べちゃったんですか?」
戦士「なっ!?ちげえよ!そんなことしてねえ!」
エルフ「……なあ。なんの話をしているんだ?」
戦士「な、なんでもねーよ」
エルフ「……私には話せないことなのか?」
戦士「そういうわけじゃねえ」
エルフ「私には、話してくれないのか……」
戦士「いや、だから……」
エルフ「話して……くれないのか」
戦士「…………」
エルフ「……すまない、無理に聞くつもりはないんだ。……依頼を見てくる」
スタスタスタ……
受付嬢「…………」
戦士「…………」
受付嬢「……本当になにやったんですか?」
戦士「……大したことはしてねえよ」
受付嬢「いや、だってすっごくしおらしくなってるじゃないですか」
戦士「……ただ話を聞いてやっただけだよ」
受付嬢「……へー」
戦士「……どう思う」
受付嬢「んー、ちょっと危うい感じですね」
戦士「……そうか」
受付嬢「はい。虚勢をはってたのはわかるんですけどここまで一気に変わると……」
戦士「……どうしたらいいんだ?」
受付嬢「さあ?」
戦士「おい」
受付嬢「いや、だって私当事者でもなんでもないですし。話を聞いてあげたのはあなたなんでしょう?あなたが考えてくださいよー」
戦士「……こういうのがわかんねえから聞いてんだろうが」
受付嬢「そういう機微に疎そうですもんね」
戦士「うるせえ」
受付嬢「なるようになりますって」
戦士「…………」
受付嬢「なんですかその目。疑ってるんですか?」
戦士「……疑ってはねえけどよ」
受付嬢「難しく考えちゃいけないんですよ。臨機応変。冒険者ならそれが大事です!」
戦士「……前に山賊退治の時に入念準備が必要だとか……」
受付嬢「お客様ー、ご用がないのなら受付からどいてくださーい。後ろがつかえてるのでー」
戦士「おい」
~ ~ ~
戦士「あ、いたいた」
盗人「げ」
戦士「なんだよその態度。つれねえじゃねえか」
盗人「いや、その……」
魔法使い「うちの人がすみません。それでなんのご用ですか?」
戦士「いや、あー……こいつと仲直りしてよ」
エルフ「……すまなかった」
戦士「前回は悪かったな。また組まねえか?良かったらでいいんだけどよ」
盗人「え……」
魔法使い「どうしたい?」
盗人「…………」
戦士「今回は無理にとは言わねえよ」
盗人「……どんな仕事だ?」
戦士「組んでくれるのか?」
盗人「ああ。正直気まずいが……」
エルフ「…………」
盗人「それは俺のせいだしな」
魔法使い「うっうう、ちゃんと成長してて私嬉しい……」
盗人「……こんなことで泣かないでくれよ」
戦士「今回も街道付近で稼ごうと思ってるんだけどいいか?」
盗人「ああ、問題ない」
魔法使い「わかりましたよ」
戦士「それじゃあよろしくな」
エルフ「今回も頼む」
《ギルド》
受付嬢「今回の買い取り額は以上になりまーす」
戦士「おう、ありがとよ」
盗人「まずまず稼げたな」
魔法使い「やっぱり人数がいると違いますよね」
エルフ「ああ、手数が違う」
戦士「それじゃあ前回は出来なかった打ち上げでもするか?」
盗人「お、いいな」
エルフ「今からか?」
戦士「いや、少ししたらここにまた集まろうぜ。体も洗いたいだろうし」
魔法使い「そうですね」
戦士「んじゃ、一旦解散だ」
エルフ「一緒に宿に戻ろう」
戦士「あー、ちょっと用があるからよ。あとでいくわ」
エルフ「つ、付き合おうか?」
戦士「いや、いいよ。大した用でもねえし」
エルフ「…………」
戦士「先行っててくれよ、な」
エルフ「……わかった」
スタスタスタ……
魔法使い「さーて、お風呂にでも……」
戦士「少し待ってくれ」
盗人「なんだ?」
戦士「その……二人に話したいことがあんだよ」
魔法使い「私たちにですか?」
戦士「ああ」
盗人「……どういう話だ?」
戦士「その……あれだよ」
魔法使い「はっきり言ってくれませんか?」
戦士「……男女の機微って奴を教えて欲しい」
盗人「……なぜそん」
魔法使い「明らかに雰囲気が変わってましたけどそのことですか?」
戦士「ああ」
盗人「……確かに雰囲気は柔らかくなっていたが」
魔法使い「気づかなかったんですか?」
盗人「なにが」
魔法使い「戦っている時もそうでしたけどさっきも。以前と眼が違ったでしょう」
盗人「そんなことを言われても……」
魔法使い「あれは依存する者の眼でしたね」
戦士「……そう思うのか」
魔法使い「はい。昔のこの人にそっくりです」
盗人「……そうだったか?」
魔法使い「はい。以前助けてあげたらなんでも私に助けを求めるようになって……。今のあなたも好きですけど昔のあなたもそれはそれで好きでした」
盗人「……あー、つまり誰かにもたれかかりたがってるってことか?」
魔法使い「そうですよね?」
戦士「……ああ」
魔法使い「それで何を教えて欲しいんですか?」
戦士「……どうしてやることがあいつのためになるんだ?」
魔法使い「……知り合って間もない相手に聞く話じゃないですよね?」
盗人「俺もそう思う。自分で考えるべきだ」
戦士「てめえで考えてもわかんなくて、知り合いにはもう相談した」
盗人「なんて言われたんだ」
戦士「なるようになるだってよ」
魔法使い「なら、それでいいんじゃないんですか?」
戦士「……前のあいつに戻って欲しいんだよ」
盗人「え」
魔法使い「それはまた物好きな……」
戦士「うるせえな。で、どうしてやることがいいんだ?考えてみたが俺にはわかんねえ」
魔法使い「そんなの知りませんよ」
戦士「……お前もか」
魔法使い「だっていちいち責任に取れませんしね」
戦士「…………」
盗人「……なあ?」
戦士「なんだよ」
盗人「お前はあのエルフのことをどう思ってるんだ?」
戦士「それは…………まだ付き合いもみじけえし、よくわかんねえよ」
盗人「…………とにかく自分が正しいと思うことをすればいいだろ」
戦士「はあ?なんだよそれ」
盗人「俺から言えるのはそれだけだ」
魔法使い「かっけつけちゃって」
盗人「たまにはいいだろ」
魔法使い「それじゃあ、また」
戦士「あ、おい!」
~ ~ ~
《宿屋 個室》
戦士(自分が正しいと思うことってどうすりゃいいんだよ……)
エルフ「……少し飲みすぎたな」
戦士「打ち上げ、どうだったよ」
エルフ「悪くは、ないな」
戦士「…………」
エルフ「その……今日も手を……」
戦士「……なあ」
エルフ「なんだ?」
戦士「前みてえに振る舞ってくんねえか?」
エルフ「……どうして?」
戦士「……なんとなく」
エルフ「……嫌だ」
戦士「……なんで」
エルフ「お前に嫌われたくない」
戦士「…………」
エルフ「私の話を、想いを受けとめてくれた人の前では素直でいたい」
戦士「……お前は俺にどうして欲しいんだよ?」
エルフ「……えっ」
戦士「……お前が急に変わって、まるで別人になったみたいでよ。すげえ戸惑った」
エルフ「…………」
戦士「俺はその変化が急すぎて……なんつうか不安になった。以前のお前に戻さないとダメなんじゃないかってよ」
戦士「でも周りの奴らはなるようになるって言うしよ。わけわかんねえよ。俺はどうしたらいいんだ?」
戦士「……いろいろ考えたけどよ。俺馬鹿だからお前に何したらいいのかわかんなかったわ。そのまま手を掴めばいいのか。叱咤激励すればいいのか。ほっときゃいいのか」
戦士「……そんでわかんねえからお前に聞く。どうしたらいい。どうして欲しい?」
エルフ「……手を」
戦士「…………」
エルフ「手をつないでくれ」
戦士「……ん」ギュ
エルフ「……抱きしめてくれ」
戦士「……おう」ギュ
エルフ「ずっと一緒にいてくれ」
戦士「……ん」
エルフ「……そして」
戦士「…………」
エルフ「……私を」
戦士「…………」
エルフ「……愛してください」
戦士「……俺は馬鹿だから言われた通りにするぞ」
エルフ「……それでいい」
戦士「……ああくそ。俺ってこんなに惚れっぽかったのかよ」
エルフ「私も同じ気分だ」
戦士「……弱みにつけ込んだようなもんじゃねえか」
エルフ「ふふつ」
戦士「笑ってんじゃねえよ。俺が悪人だったらどうしてたんだよ」
エルフ「お前は悪人なのか?」
戦士「……」
エルフ「……これからお前のことをたくさん教えてくれ。お前だけが知っているんじゃ不公平だからな」
戦士「こんなあっという間に情にほだされる奴のことで良ければな」
エルフ「ああ。……これからはその、ずっと……ずっと……」
戦士「ああ。ずっとずっとそばに居てやる。たとえ嫌がってもな」
エルフ「こちらのセリフだ」
おしまい