戦士「おーい」
エルフ「少しいいか?」
受付嬢「はいはーい。依頼の確認ですかー?」
エルフ「いや、賞金首の情報の確認だ」
受付嬢「そうですか。あっ、そういえば情報が更新されましたよー」
戦士「へー」
受付嬢「以前あなたが見ていらした賞金首がいるじゃないですか」
エルフ「ああ」
受付嬢「なんと無事討伐されましたー!」
戦士「あのおっさんだろ?」
受付嬢「はい。とーっても悪知恵が働く犯罪者さんだったんですけど寄る年波には……」
エルフ「嘘だっ!」
受付嬢「……へ?」
エルフ「そいつは!そいつは死んだのか!?」
受付嬢「え、えーと……死んでますね、はい」
エルフ「そん……な」
戦士「ど、どうしたんだよ?」
エルフ「あは、あはは……」
戦士「……おい?」
エルフ「あはははははは!傑作!傑作だ!」
受付嬢「……なーんか事情があるっぽいですね」
エルフ「あははははははははははは!」
受付嬢「彼女が泊まっている宿を知っていますか?」
戦士「あ、ああ。俺と同じ宿だ」
受付嬢「なら送ってあげて落ち着かせてあげてください」
戦士「俺が!?」
受付嬢「はい、そうです」
戦士「こ、こういうのは同じ女の方が……」
受付嬢「私は仕事中ですし、ギルドは必要以上に冒険者に対して深入りはしません。それに、あなたは仲間なんでしょう?」
戦士「……わかった」
エルフ「くくくっ、あはははははは!」
戦士「……行こうぜ」
エルフ「……どこへ?」
戦士「俺達が泊まっている宿だよ」
エルフ「ふふふ、そうか。好きしてくれ」
戦士「……ああ」
受付嬢「…………はぁ」
《宿 エルフの部屋》
エルフ「…………」
戦士「ほら、水だ」
エルフ「……ああ」
戦士「落ち着いたか?」
エルフ「……ああ」
戦士「大丈夫か?」
エルフ「……ああ」
戦士「……何があったのか聞いても大丈夫か?」
エルフ「……突然笑いだして狂ったとでも思ったか?」
戦士「…………」
エルフ「……あはは、もうどうでもよくなった。……知りたいのなら話してやる」
戦士「……ああ」
エルフ「どこから話そうか……。そういえばこの話は誰にも話したことがなかったな」
エルフ「……さて、どこから話すかな」
戦士「……どこからでもいい。全部吐き出しちまえ」
エルフ「……そうするか」
エルフ「……私はな、エルフではない。人の血が混じったハーフエルフだ」
戦士「…………」
エルフ「人間でもエルフでもない半端者。エルフなら誰でも使えるはずの魔法がなぜ私が上手く使えないかわかっただろう?」
エルフ「……そして、察しているとは思うが」
エルフ「……私の父親はあの賞金首だ!」
戦士「……そうか」
エルフ「……たまたま母が森で一人で居たときに襲われたのだそうだ。母は体が弱かったためろくに抵抗出来ず……そうして孕んだのがこの私だ」
エルフ「……ハーフエルフ、ましてやあの屑の子供だ。普通なら私は産まれた瞬間に殺されていただろう」
エルフ「……だが私は殺されなかった。なぜだと思う?」
戦士「……そいつを殺すためか?」
エルフ「ああ。体の弱い自分では復讐はできないと母はわかっていたのだろう」
エルフ「……そいつを殺すためだけに母は私を産み、そして育てた」
エルフ「……だがハーフエルフなんて所詮鼻つまみ者。ましてや私の出自ではな……」
エルフ「エルフ達は私に冷たかった」
エルフ「嫌がらせなんか当たり前。私を見ただけで怪訝そうな顔をした」
エルフ「ましに扱ってくれたのは母だけだった。……私に復讐を果たさせることしか考えていなかったがな」
戦士「…………」
エルフ「あははは。言葉を失っているようだな」
戦士「…………っ!」
エルフ「そんな顔をしてくれただけでも話す甲斐があると言うものだ」
エルフ「さて、エルフ達に冷たく扱われながら母にしごかれ私は日々、弓の鍛錬をしていた」
エルフ「……私が魔法をまともに扱えないと知った母はな、落胆しながらこう私に言ったよ」
エルフ「やはり、あれの子供なのか。とな」
エルフ「……なぜ貴様がそんな顔をする?他人ごとなのだ、もう少し肩の力を抜いたらどうだ?」
戦士「……悪いな」
エルフ「謝まらなくともいい。……そして私がそうやって過ごして幾年が経ち、母が死んだよ」
エルフ「元々体が強くなかった母だ。憎しみ捕らわれて寿命が縮まったのだろう」
エルフ「……死に間際の母は私に遺言を残した」
エルフ「必ずあれを殺すこと。可能な限りむごたらしく」
エルフ「あははは。遺言がこれだ、笑えるだろう?」
戦士「…………」
エルフ「……母が死んだことにより私に対する風当たりもますます強くなり……私は里を抜けた」
エルフ「あとはお前の知っての通りだ。金を集め、経験を積み、装備を整えて……あいつを殺すことだけを考えていた」
エルフ「だが……先をこされたようだがな」
エルフ「……話はこれでおしまいだ。……なあ?」
戦士「……なんだ?」
エルフ「私はこれからどうしたらいいの?」
戦士「…………」
エルフ「お父さんを殺すことだけが私の生きる理由だったの」
戦士「………」
エルフ「……私には……私には……」
戦士「…………」
エルフ「……私にはお母さんしかいなかった!」
エルフ「私と接してくれる人はお母さんしかいなかった!」
エルフ「私の世界には!」
エルフ「……味方はお母さんしかいなかった。母親らしいことなんてほとんどしてくれなかった。でも、お母さんしか……いなかった」
戦士「…………」
エルフ「……ねえ、何か言ってよ」
戦士「…………」
エルフ「黙ってないでなんとか言ってよ。私、どうしたらいいの?」
戦士「……俺にはわかんねえ」
エルフ「……あは、あははははは!そうだよね!あなたなんてただの他人だもん!お母さんじゃないもん!」
戦士「…………っ」
エルフ「……ねえ」
戦士「……なんだよ」
エルフ「……私を抱いて」
戦士「なっ!?」
エルフ「私のこと、少しそういう目で見てたんでしょう?」
戦士「だ、だとしたらなんだっつうんだよ!」
エルフ「好きにしていいよ」
戦士「……てめえ何言ってやがる?」
エルフ「もうね、全部どうでもよくなっちゃった」
戦士「ふざけるのも大概に……!」
エルフ「だから頼む。私のそばに居てくれ。……一人にしないでください」
戦士「…………」
エルフ「もう……私には何もないんだ。たった一つ寄りどころにしていた復讐すら出来なくなった……」
戦士「……違うだろ!?」
エルフ「……何がだ?」
戦士「そんなのてめえじゃねえだろ!本当のてめえはもっと偉そうで!短気で!」
エルフ「あなたに何がわかるのっ!?」
戦士「……っ!?」
エルフ「たった数日一緒にいただけの癖に!私の何がわかるっていうの!?」
戦士「それは……」
エルフ「…………」
戦士「…………」
エルフ「ねえ、抱いて」
戦士「…………」
エルフ「私の……孤独を癒やしてくれ」
戦士「…………」
エルフ「……お願いだから……頼むっ……!」
戦士「……できねえ」
エルフ「……私を、拒絶するのか?」
戦士「……そんなことをしたらお前は立ち直れなくなる。……そんな気がする」
エルフ「……そんなこと言って」
戦士「…………」
エルフ「そんなことを言って貴様も私を拒むのか!?」
戦士「……違えよ」
エルフ「何が違うんだ!?私が手を伸ばしているのにっ!みんな、みんなそうだ!みんな私の手をとってはくれない!」
戦士「違えっ!」
エルフ「違わない!」
戦士「……俺は……一度組んで一緒に馬鹿やった奴を見捨てたりしねえよ」
エルフ「なら……!」
戦士「……全部吐き出せよ。毒食らわば皿までだ、全部受け止めてやる。……だからそんな自暴自棄になるなよ」
エルフ「……っ!」
戦士「…………」
エルフ「…………」
戦士「……いまさら遠慮すんな」
エルフ「……っ!……お母さんは」
戦士「…………」
エルフ「お母さんは最後まで私を見てくれなかった……」
戦士「……そうか」
エルフ「最後まで私のことを愛してくれなかった」
戦士「……そうか」
エルフ「誰も私を愛してくれなかった」
戦士「……そうか」
エルフ「それどころかみんな私をいじめてきたんだ」
戦士「……そうか」
エルフ「みんな私のことを忌み子って罵ってきたんだ……!」
戦士「……そうか」
エルフ「なにもしてない、私はなにもしてないのにっ……!」
戦士「……そうか」
エルフ「私がどうしようもないことでっ!私は、私は虐げ続けられてきたんだっ!」
戦士「……そうか」
エルフ「羨ましかった!友達と楽しそうに遊んでるみんなが!母は私に弓の鍛錬を強要し続けてきた!」
戦士「…………」
エルフ「妬ましかった!仲が良くて暖かい家族が!私にはなかったから!」
戦士「…………」
エルフ「……私はっ!私はっ!」
戦士「……つらかったな」
エルフ「……ああっ。つらかった!全部……全部……!」
戦士「…………」
エルフ「こっちに来てもつらかった!知らない人だらけで……頼れる人はいなくて……」
戦士「…………」
エルフ「だからスリをされた時には頭にきたんだっ!お前達も、私を虐げるのかって!」
戦士「…………」
エルフ「だから……!だからぁ……!」
戦士「…………泣けよ」ギュ
エルフ「う、うわあああ!うわああああああん!」
戦士「……頑張ったな」
~
エルフ「……すう……すう」
戦士「……泣きつかれて寝ちまったか。ったく、ガキかっての」
戦士「それにしても知り合ったばかりの奴にここまで話すか普通?そりゃ修羅場をくぐった仲だけどよ……」
エルフ「…………ん」
戦士「……手をしっかりと握ってやがる。赤ん坊かてめえは」
戦士「……こんな無防備に……」
戦士「……こん……な……」ゴクリ
エルフ「……すう……すう」
戦士「……断って後悔してる自分を殺してぇ。何を考えてんだよ俺は……!」
戦士「……はぁ」