漁師「おお、アンタらか勇者一行様は」
勇者「ええ」
僧侶「どうも」
魔法使い「……」
漁師「話は聞いてるよ。どれでも好きなのもってきな」
勇者「ありがとうございます。このお礼はいつか必ず」
漁師「ヒヒ……礼なんて……もったいないです」
僧侶「これなんて……良さそうですよ?」
翌日 船着き場
勇者「じゃあ、出発しようか」
僧侶「はい」
魔法使い「……」
勇者「どうかしました?」
魔法使い「……いや。なにも。私はこの船、好きだなーって」
勇者「僧侶さんが選んだ船です。間違いはないでしょう」
僧侶「いや……そんな」
魔法使い「……本当に、私にとってはありがたいね」
勇者「よし!出向の準備を!」
僧侶「アイアイサー!……なんちゃって」
魔法使い「うわ!さぶ」
僧侶「い、いってみただけです!!もう……」
勇者「あはは」
勇者「よし、帆も痛んでいないようですし……行けます!!」
僧侶「はい!」
店主「おーい!!」
勇者「あ、どうも!こんなに立派な船、ありがとうございます!!」
村民「いいよーいいよー、ヒヒ……気を付けてねー」
僧侶「この恩は忘れません!」
勇者「ほら、魔法使いさんも何か」
魔法使い「……ありがとー。殺してくれてー」
僧侶「え?」
勇者「どういう……」
店主「ヒヒヒヒヒ……ウィヒヒヒヒヒ!!!!」
勇者「……!?」
魔法使い「この船、変な呪文が施されてる。多分、爆発系の術式だからそのうち私達ごと爆発して粉々になって海の藻屑になるんじゃない?」
僧侶「貴女!!どうして気づいているなら……!!!」
魔法使い「……言ったじゃん。私は死んだ方がいいって」
勇者「魔法使いさん……」
魔法使い「ほら、助かりたいなら海に飛び込んだ方がいいよ?ま、海中にも魔物はいるし、陸に上がろうとしたら―――」
漁師「ウィヒヒヒヒヒ!!!」
魔法使い「あいつ等の餌食だろうけどね」
僧侶「……っ!!」
パシンッ
魔法使い「―――ったいな!!何するのよ!!」
僧侶「勇者様、海に飛び込みましょう」
勇者「でも、そんなことしても……」
僧侶「ここに残るよりは望みはあります」
勇者「……魔法使いさん」
魔法使い「なによ?」
勇者「……ドラゴンになって俺たちを背中に乗せてくれませんか?」
魔法使い「分かって訊いてるんでしょうけど、嫌よ。私はここで死ぬんだから」
僧侶「勇者様、この人を相手にしても無駄です!早く、海へ!!」
漁師「ヒヒヒ!!奴らはどう転んでもここで死ぬ!!!」
店主「魔王様もあのような人間を警戒するとは……ヒヒヒ!!」
スライム「ぴぎゅー……」
船
勇者「魔法使いさん……死にたいのだったら止めません」
魔法使い「……」
勇者「ですが、俺はアナタをおんぶする必要のないところで、おんぶしましたよね?」
魔法使い「え?」
勇者「なら、今ここでその恩を返してください。そして、その後俺が責任をもって、殺します」
僧侶「勇者様?!」
勇者「俺たちはまだ死ぬわけにはいかない。お願いします」
魔法使い「……」
僧侶「……わ、私からもお願いします」
魔法使い「……っ」
魔法使い「むちゃくちゃじゃない……もう……」
勇者「……」
魔法使い「約束だからね……ちゃんと、私を殺しなさいよ?」
勇者「……はい」
船着き場
漁師「ウィヒヒヒヒ!!!」
店主「そろそろだな……ヒヒヒ!!!」
スライム「あ……ぁぁ……」
村民「―――ばくはーつ!!!」
ドォォォォン!!!!
スライム「わぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
漁師「ウィヒヒヒヒ!!!やった!!やった!!!」
店主「呆気なかったなぁ……ヒヒ…ヒヒ…??!!」
ドラゴン「――――オォォォォォォォン!!!!」
勇者「お前達、覚悟しろ!!!」
漁師「ドラゴンだと!?!?」
村民「ど、どういうことだ……!?!?」
スライム「よ、よかった……」
僧侶「高い!!高いです!!!もっと高度を下げてください!!」
ドラゴン「うっさいなぁー!!高いとこから攻撃した方が有利でしょ!!」
勇者「お前達、一つ訊く!!この村にいた人たちはどうした!!」
店主「ヒヒヒ……全員くっちまったよ……ウィヒヒヒ!!!」
漁師「ウィヒヒヒ!!!ああ、うまかったぜ!!!」
勇者「―――魔法使いさん、焼き払ってください。ここにはもう人間がいない」
ドラゴン「オッケー!!―――食らえ!!!しゃくねつ!!!」
店主「ぎゃぁああああああああうぃひぃぃぃぃいいいいいい!!!!!!」
村民「ウィヒヒヒィィィィィィィィイ!!!!!!!」
スライム「ぴぎゅー!!!あつい!!あついよー!!!」
勇者「……あれは!?―――魔法使いさん!あのスライムは狙わないようにできます?!」
ドラゴン「難しい事いわないでしょ!!馬鹿じゃないの!?」
勇者「なら、俺が降ります!少し高度を下げてください」
僧侶「勇者様、どうされたんですか!?」
勇者「あのスライムは北の街で助けてくれたスライムです。理由もなく殺すわけにはいきません」
僧侶「え……じゃあ」
勇者「はい。あのスライムがいなければ、きっと僧侶さんを救えていなかった」
僧侶「……魔法使いさん!!高度を下げて!!早く!!」
ドラゴン「竜の扱いが酷いっつーの!!!もう!!」
勇者「―――ありがとうございます!はっ!!」
スライム「もえるー!!!もえるよー!!!!!」
勇者「大丈夫か!?」
スライム「あ!勇者さん!!」
勇者「さ!こっちへ!!」
スライム「で、でも……ぼくは魔物……だし……」
勇者「俺は君を助けたい!魔物だからじゃない!君だからだ!早くきて!!火が迫っている!!」
スライム「ぴぎゅー!!!!勇者さーん!!!!」
勇者「よし!魔法使いさん!!」
ドラゴン「何回降下させりゃあ気が済むのよ!!馬鹿ー!!!」
勇者「よっと!」
スライム「ぴぎゅー……勇者さん……ごめんなさい……」
勇者「何が?」
スライム「ここに勇者さんがくるって教えたの……ぼくなんです……」
勇者「そうか……」
スライム「ぼくは悪い子なんです……」
勇者「でも、北の街では俺に僧侶さんが危ないことを教えてくれた……そうだろ?」
スライム「それは……あの……」
勇者「ありがとう……心から感謝する」
スライム「ぴぎゅー!!魔物に頭を下げるなんて!!!いけません!!!」
ドラゴン「ちょっとー!!もう炎だすのつかれたんだけどー?」
僧侶「そろそろ少し離れたところに降りましょう」
勇者「そうしたほうが良さそうですね。魔法使いさん、どこか人目に付かない場所に降りましょう」
とある森
勇者「ふう……」
ドラゴン「ふう……じゃないわよ!全くもう」
勇者「感謝しています」
ドラゴン「当たり前でしょ!?」
スライム「ぴぎゅぅぅ」
僧侶「貴方が私を救ってくれたのね?ありがとう……(ナデナデ」
スライム「く、くすっぐたいです……・」
僧侶「かわいい……」
魔法使い「モシャス!!―――で、これからどうするの?」
勇者「スライム、色々と訊きたいことがあるんだけど、いいかな?」
スライム「ぴゅぎぅ!なんでも訊いてください!もう、ぼくは勇者さんについていくしかないですし!!」
勇者「ありがとう。じゃあ、まずは魔王の動向なんだけど―――」
魔王城
魔王「―――ほお。勇者があの漁村の罠を掻い潜ったと?」
魔物「はい。どうやら仲間の中に例のハーフがいるようで」
魔王「なるほど……昔、人間に捕えられたドラゴンの血を分かつ者か」
魔物「はい」
魔王「我が同胞を玩具にするだけには飽き足らず、ついに兵器としての運用を始めたか……」
魔物「ええ……」
魔王「我々をどこまで愚弄する気なのだ……!!」
魔物「魔王様……我々魔族一同、いつでも戦をする心構えであります」
魔王「そうか……」
魔物「勇者など敵ではありません。魔王様の敵は……人間の王です」
魔王「……そうだな……勇者という人間の希望を砕いたとしても、悪戯にやつらに時間を与え、そして同胞がまた悲鳴をあげるだけ、か……」
魔物「はい」
魔王「―――全魔族に告げる!!魔王の名の下に人間を駆逐する!!皆の者!!牙と怒りを憎悪に変えろ!!戦だ!!!」
魔物「「オォォォォォォォォォ!!!!」」
王城
兵士「―――報告します。勇者が漁村を壊滅させたとのことです」
王「なんじゃと!?どういうことだ!?」
兵士「詳細は不明ですが、船を強奪するために村を焼いたのではないかという情報もあります」
王子(何を馬鹿な。勇者殿がそのようなことをするわけあるまい。……誰がそんな情報を)
兵士「(やっぱり、例の娘のせいか?このデマカセ)」
兵士「(だろうな。あのドラゴン娘のことを公にしたくない連中は多いって聞くぜ)」
兵士「(勇者もその仲間も政治のために生かされて、殺されるのか……救えないな)」
王子(なるほど)
王「仕方あるまい……勇者を探してこい!!奴らに事情を聞き出せ!!」
兵士「はっ!!」
王子(ちっ……魔王の討伐が遅れるだけではないか……何を考えているのだ……)
王「全く……我が息子のように真直ぐに生きてほしいものだ。勇者だからと全てが許されるわけではない。なぁ?」
王子「ええ……」
王子(だが、これは好都合かもしれない。勇者殿にもう一度接触できる好機だな)
スライム「近いうちに戦争を起こすかもしれません……それは間違いないと思います」
勇者「原因は?ここ数年はそういった動きなんてなかったけど……」
スライム「恐らく……」
魔法使い「私の所為でしょ?」
僧侶「え?」
魔法使い「同胞の体を好き勝手にいじくって、黙ってられるやつなんていないでしょ?」
勇者「ええ」
スライム「そのことが分かってから……魔王様は人間のことがお嫌いになられました……」
僧侶「その言い方だと……魔王は人間が好きだったんですか?」
スライム「好きというか……同じ世界に住む生物という認識でした。人間を支配しようなんて考えは持ってませんでしたし。小さな争いは昔からありましたけど」
勇者「それって……」
魔法使い「人間がぜーんぶわるいんじゃないの?」
僧侶「ですが、魔王を人を殺めています!!」
魔法使い「魔王が脅威だから、魔物が凶暴化したから相手を殺して、体を弄んでもいいって考え?馬鹿じゃないの?」
勇者「……やっぱり、一度王と話をしたほうがいいのかもしれない……俺自信、信じられなくなってきたよ」
翌日 森
勇者「おはよう……」
魔法使い「―――勇者さん?」
勇者「なに?」
魔法使い「早く殺してくれない?昨日から待ってるんだけど?」
勇者「それは……」
スライム「ぴぎゅぅぅ?」
僧侶「……勇者様……」
兵士「―――いたぞ!!!勇者一行だ!!!」
勇者「なんですか!?」
兵士「大人しくご同行お願いします」
魔法使い「ちょっと!!放してよ!!なによ!!スケベ!!!」
僧侶「な、なんですか!!?」
兵士「貴方たちに漁村の壊滅、および大量虐殺の容疑がかけられております」
勇者「……なんですか、それ?」