王「では勇者よ、いくがよい!!」
勇者「はい!必ず魔王を倒します!!」
兵士「(あんな小さな子供に魔王の討伐をさせるのか……)」
兵士「(世も末だな……勇者の父を持つというだけで……)」
兵士「(あんな少年じゃあ旅半ばで死ぬだろうな)」
兵士「(100Gとこんぼうと旅人の服だけだもんな、支給品)」
兵士「(可哀想に……女の子ともろくにお付き合いしてないんだろうなぁ……)」
勇者「おっしゃー!がんばるぞー!!」
勇者「えい!えい!おー!!」
街の外
勇者「よし、まずは北にある街を目指そう」
勇者(母上、父上!俺は必ずこの世界に平和を―――)
スライム「ぎゃっぴー!!」
バブルスライム「びゅー!!!」
キングスライム「ぶるぶるー!!!」
メタルスライム「しゃ!しゃ!!」
勇者「な!?」
勇者「なんて数……」
勇者「――――くそ」
数日後 王城
兵士「さあ、こっちへ」
王「……傷は癒えたのか?」
勇者「……はい」
王「勇者よ、情けないぞ!!」
勇者「申し訳……ありません」
王「全世界の希望であることを忘れるでない!!」
勇者「はっ」
兵士(よく言うぜ……)
兵士(なら仲間の一人や二人ぐらい用意してやれよ)
王「二度目はないぞ、勇者。さあ、行け!!」
勇者「はっ!!」
勇者(そうだ……もう負けるわけにはいかない……)
城下町
勇者(この街周辺の魔物がここまで凶暴だったとは誤算だった……)
勇者(こんな装備では心もとないな……しかし、所持金が少ない)
勇者(どうしたら……)
兵士「勇者殿」
勇者「あ、これは」
兵士「ルイーダの酒場に行ってみてはどうですか?」
勇者「ルイーダの酒場?」
兵士「はい。そこには屈強な者たちがよく出入りしていると聞きます。そこで力を貸してもらえるように交渉してみては?」
勇者「なるほど……わかりました!ありがとうございます!!」
兵士「どうか……死なないでください」
勇者「はっ!」
兵士(……代われるなら代わってあげたい……)
ルイーダの酒場
勇者「ここが……」
ヒソヒソ……
勇者「あの、すいません」
店員「なんだい、ぼうや?」
勇者「俺と一緒に魔王を倒してくれそうな人はここにいますか?」
店員「魔王……?」
勇者「はい」
店員「いないね」
勇者「え……?」
店員「ここに集まるのはそこらへんの魔物を倒して日銭を稼いでいるような連中ばっかりだ。そんな志を持つ奴はいない」
勇者「しかし……!!」
男A「坊主、いい加減にしとけよ」
勇者「む……?」
男B「へっへっへ。俺たちを雇うって言うならそれなりの金を用意しろ、へっへっへ」
勇者「100Gで足りますか?」
男A「は?」
男B「ぶぁっはっはっはっはっは!!!!」
勇者「なにか?」
男A「そんなはした金で俺たちを雇えるかよ!!出直してこい!!!」
勇者「……今はこれだけですが、魔王討伐の暁には王直々に褒美が―――」
男B「うっせえ!!そんな与太話を誰が信じるかよ!!」
勇者「嘘ではありません!!」
男A「坊主……大人をからかうのもいい加減にしとけ?」
勇者「ぐっ……!?」
男A「こうやって首を絞められてもなんの抵抗もできないお前が魔王なんて討伐できるかよ」
勇者「し、かし……ど、んな、理由があ、っても……人を、傷つける、なと……」
男A「大金持って出直してこい、ガキが!!」
勇者「ぐぁ!?」
男B「へっ。一日100万Gで俺たちを雇えるから頑張れよ」
城下町
勇者「……ルイーダの酒場はダメだった」
勇者「仕方ない……周辺の魔物を狩って日銭を稼ぐしか……」
勇者「一日100万Gか……大金だな」
街の外
勇者「……」
スライム「きゅぴー」
勇者「よし!」
スライム「きゅぴ!?」
勇者「悪いが死んでもらうぞ!!」
スライム「きゅぴーーー!!!!!」
勇者「……」
スライム「……(プルプル」
勇者「―――何をやっているんだ……魔物とはいえ無抵抗の者を傷つけてはいけないと父上が言っていたじゃないか……すまない……」
スライム「……?」
夜 城下町
勇者「……まだ旅立てないな」
勇者(今日の宿はどうすれば……)
兵士「勇者殿?」
勇者「あ……」
兵士「待ってください」
勇者「申し訳ありません。恥知らずなのは十分承知しています……」
兵士「宿は?」
勇者「実家にも戻りにくく、路銀も乏しいので今晩は野宿に……」
兵士「勇者殿……申し訳ありません」
勇者「え?」
兵士「王がもう少しだけ良心があれば……勇者殿を苦しめないで済んだのですが……」
勇者「いえ。王も大変なのは知っています。これだけの施しを与えてくださっただけでも感謝しています」
兵士「勇者殿……くっ……あの!教会に行ってみてはどうですか?こちらからも話を通しておきますので」
勇者「教会、ですか?」
教会
勇者「夜分に恐れ入ります」
神父「おお……これはこれは」
勇者「あの……」
神父「どうぞ。お話は聞いております。今晩だけでもゆっくりしていってください」
勇者「申し訳ありません。ここはそのような場所ではないのに……」
神父「頭をあげてください。貴方は世界の希望なのです。協力を惜しむつもりはありません」
勇者「はっ……その言葉を裏切らぬよう、精進いたします」
神父「では、寝室へ案内させます。―――おい」
僧侶「はい」
神父「お連れしてあげなさい」
勇者「初めまして」
僧侶「こんばんは。どうぞ、こちらです」
勇者「はい」
寝室
勇者(まさかこんなにいい部屋を用意してくれるなんて……)
勇者(情けない)
僧侶「――勇者様、失礼いたします」
勇者「あ……どうも」
僧侶「どうぞ。空腹だと思ってパンとシチューをご用意いたしました」
勇者「そんな!!ここまでしていただく必要は!!」
僧侶「いいのです……勇者様、これは気持ちなので」
勇者「しかし……俺は……まだなにも……」
僧侶「勇者様……」
勇者「すいません……」
僧侶「遠慮せずにお召し上がりください」
勇者「はい……真に申し訳ありません……」
僧侶「そんなに頭を下げないでください……困ってしまいます」
勇者「……頂きます」
神父「――どうでしたか?」
僧侶「やはりまだまだ幼い少年……といったところでしょうか」
神父「……」
僧侶「勇者であることに相当な重圧を感じているのが分かりました」
神父「王も民も先代勇者の一人息子というだけで彼に絶大な期待をしていますからね……」
僧侶「ええ……彼は天才だ。あの年齢でも魔王を倒す力があると、私も思っていました」
神父「実際はどうです?」
僧侶「ただの子どもです。仲間もなしに魔王を討伐することなど到底不可能でしょう」
神父「私も同じです……」
僧侶「神父様……あの……」
神父「わかっております……準備は万全にしておきなさい」
僧侶「……今までありがとうございました」
神父「孤児の貴女がここまで成長してくれたことに、私は誇らしく思います」
僧侶「……神父様に出逢えたことが、私の誇りです」
神父「ありがとう……いってらっしゃい」
早朝 城下町
勇者(何も言わずに出ていくことをお許しください)
勇者(せめてもの謝礼として100Gを置いて行きます)
勇者(パンとシチュー……大変美味でした。もうどうお礼をしたらいいのかもわかりません)
勇者(さようなら……神父様、僧侶さん……)
勇者「―――よし、行こう。魔物に注意していけば、北の街ぐらいには」
僧侶「勇者様」
勇者「え……?」
僧侶「お忘れ物を届けに参りました」
勇者「これは……このお金は……!!」
僧侶「気持ちだと言ったはずです」
勇者「ですが……何もせずに……」
僧侶「あともう一つ忘れ物です」
勇者「え?」
僧侶「―――私は僧侶。傷の治療はお任せください。さあ、出発いたしましょう」
街の外
勇者「いいのですか、本当に?」
僧侶「構いません。神父様にも許可を頂きました」
勇者「……」
僧侶「それとも私では勇者様のお力にはなれないと?」
勇者「い、いえ……そんなことは!!」
僧侶「そうですか。それは良かったです」
勇者「……これから、よろしくお願いします」
僧侶「はい。傷ついたらすぐに言ってくださいね?」
勇者「助かります」
僧侶「では―――」
バブルスライム「ぎゅぴーー!!!!」
勇者「魔物!?」
僧侶「気を付けてくださいね!」
勇者「はい!!」
勇者「はぁ!!」
バブルスライム「ぎゃぴーーー!!」
僧侶「てい!」
バブルスライム「きゅぷ?!」
勇者「ふう……」
僧侶「やりましたね」
勇者「ええ」
スライム「ぷるぷるーー!!」
勇者「む!?」
僧侶「まだいましたか……ここはニフラ―――」
勇者「待ってください!!」
僧侶「え?」
勇者「襲ってくる気はないようです。行きましょう」
僧侶「……はい。分かりました」
スライム「……?」