勇者「一人旅の方が楽でいいよな」 5/6

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聖剣「ここに来るまでにたくさんの敵が立ち塞がりましたけどっ、雷剣さんの活躍でばんばんなぎ倒しちゃいましたねっ」

雷剣「えへへ、かっこよかった?」

勇者「聖剣の回復効果のおかげでもあるな。軽い怪我くらいならしばらくほっとけば治っちゃうもんなあ」

聖剣「何よりも、勇者様の成長が著しいですっ。さすがに一人旅で戦闘経験を独占してるだけのことはありますっ」

魔剣「誰も触れてくれないから自分で言うけれど、わたしの豊富な実戦経験に基く的確なアドバイスのおかげでもあるわね」

勇者「ああ、うん。言うまでもない当たり前のことだから誰も触れなかったけどな」

魔剣「……ひょっとしてわたし、役立たずだと思われてないかしら」

勇者「いや、俺よりはるかに多くの実戦を経験してるのは確かだけどその頃にはまだ知能を付加されてなかったじゃんとか全然思ってないよ」

魔剣「邪魔だったらここに置いていってくれてもいいわよ? 剣を3本も持っていたら重いでしょう。帰りに拾っていってくれればいいわ」

勇者「いやいや、何言ってんだよ。ここまで来たんだから最後までずっとつきあってくれよ」

魔剣「でも、雷剣と聖剣がいれば魔王にも勝てるでしょう? 話し相手だって、わたしじゃなくても」

勇者「あ……またやっちゃったか。ごめん、お前を貶すつもりはなかったんだ。軽いジョークのつもりでさ」

魔剣「わかってるわ。別に怒っているわけではないのよ。でも、わたしがいなくてもいいのは事実でしょう?」

勇者「いや、そんなことは……どう言えばいいのかな……俺はお前が好きだから、手放したくないんだ。ずっとそばにいてほしい」

雷剣「えんだああああああいやあああ」

聖剣「わっ、静かにしておきましょうっ。勇者様と魔剣さんは真面目な話をしてますからっ」

魔剣「何それ。わたしと結婚したいということではないのよね?」

勇者「もちろん違う」

魔剣「じゃあどういうことなのよ。『剣にも……穴はあるんだよな……ゴクリ』みたいなこと?」

勇者「いや無いから。あったとしても俺はそんな特殊な性的嗜好は持ってねえよ。何が悲しくて大事なち○こをお前らみたいな刃物に……」

魔剣「刃物に、何?」

勇者「ああすまん。なんかちょっと怖い想像しちゃってゾクッとした。この話やめよう。ち○この話と刃物の話は相性が悪い」

魔剣「よくわからないけれど、まあいいわ。で、何なの? この場合の好きというのは」

勇者「うん。人間っつーか、男の場合は特にそうだと思うんだけどさ、」

魔剣「やっぱり性的嗜好の話?」

勇者「違うって。つまり、道具に対する愛着ってもんがあってな。お前らの場合は喋ったりするから尚更なんだけど」

魔剣「よくわからないわね。必要な道具だけ持って、要らない道具は置いていった方が余分な荷物を持たずに済んで合理的だわ」

勇者「お前からは必要が無いように見えても他者にとっては大切なものってこともあるんだよ。この場合の他者とは、俺のことね」

聖剣「あっ! なるほどっ、わかりましたっ!」

雷剣「静かにしとくんじゃなかったん?」

聖剣「すみません、でも、わかったんですっ。つまりそれは、勇者様がお優しい方だからですねっ」

雷剣「どういうこと?」

聖剣「勇者様は人間だけではなく、わたしたちのようなただの道具にも等しく愛情を注いでくださる、とてもお優しい方だということですっ」

勇者「良く言えばそうなるのかなあ。優しいというか、感受性の問題かな? 道具を人間と同じように扱うってのは」

魔剣「言い方を変えると、あなたは人間を道具のように扱う人であるとも言えるわね」

勇者「人聞きの悪い言い方すんな! 確かにその通りなんだけど意味が変わってきちゃうだろそれ!」

雷剣「そっかー、あたしにもわかった。あたしたちは仲間だってことだな。戦友ってやつかー」

勇者「そうそう。人間だとか剣だとか、役に立つ立たないとかは関係ない。俺たちは仲間だからみんなで戦うんだ。うん、俺今いいこと言った」

魔剣「むしろ人間の方が、役立たずな人は置いていかれがちな気もするわね。弱いと死んでしまうから」

聖剣「『修行はしたがハッキリいってこの闘いにはついていけない……』みたいなことを言われて置いていかれてしまうかもしれませんっ」

雷剣「その台詞を言ってる本人もついていけてなかったりしてなー」

勇者「いい話っぽい感じでまとめようと思ったのに台無しだ! おまえらほんと3本揃うと姦しいなあ!」

魔剣「まあ、だいたいわかったわよ。あなたは思い込みが激しい人だから、わたしに過度の思い入れを持ってしまっているということね」

勇者「もうそれでいいや。そう、だから俺はお前を離したりはしない。最後までつきあってもらう。さあ、あと一息だ。魔王を倒しに行くぞっ」

聖剣「再び敵を蹴散らしながらたどりついたこの扉の向こうに魔王が待ち受けてるような気がしますっ」

雷剣「それっぽい扉だなー」

勇者「さて、どんな作戦で行こうか」

魔剣「そうね。まずは敵が何かしてくる前に、ここまで温存してきたあなたの魔力を使い切るつもりでフルパワーの爆炎魔法を連発」

勇者「先手必勝ってやつだな」

雷剣「うまく先手をとれるかなー」

聖剣「魔王といえば、戦う前になにやら長ったらしい前口上を述べるものと相場が決まってますから、大丈夫なんじゃないでしょうかっ」

魔剣「その後、一気に走り込んで接近戦に持ち込む」

雷剣「あたしの出番だな。まかせろー」バチッバチッ

魔剣「そして必殺技でとどめ」

勇者「何それ?」

魔剣「何って、必殺技よ。敵のボスにとどめを刺すときは、やっぱり必殺技でしょう?」

勇者「いや……そんなん、俺、無いんだけど」

魔剣「なんで無いのよ! 普通、ラスボス戦の前に必殺技くらい会得しておくものでしょう!?」

勇者「そう言われても」

魔剣「しかたないわね。今からここで必殺技の特訓を」

勇者「この部屋の扉の前で?」

聖剣「騒音で部屋の中の人に迷惑そうですっ」

雷剣「人っていうか魔王だけどなー」

聖剣「そうでしたっ。あっ、だったら、ここでうるさくして魔王に精神的なストレスを与えるという戦法もアリかもしれませんっ」

勇者「ただの嫌がらせじゃん」

魔剣「じゃあもう必殺技はいいわ。とにかく魔法をばんばんぶちかまして剣でざくざく斬り刻めば勝てるわよ」

勇者「そんなんでいいの? 単純すぎるような」

聖剣「でもっ、シンプルイズベストって言いますからっ」

雷剣「そうそう。『下手の考え休むに似たり』って、あたしを作ってくれた爺ちゃんがよく言ってた」

勇者「お前らの生みの親の発言だと思うとすごく説得力があるよなあ」

魔剣「む……なんだか馬鹿にされているような気がするわね」

勇者「いや、俺にも他にいい考えがあるわけじゃないしな。お前の作戦で行こう」

魔剣「上手くいかなくても恨まないで頂戴」

勇者「上手くいったら褒めてやるよ。さあ、扉を開くぞ」ガチャッ ギィッ

魔王「よくぞここまd」

勇者「『爆炎』!!」ピロリロリンッ

魔王「ちょっ」ドカーン!

勇者「最初からクライマックスだぜぇ! 『爆炎』!『爆炎』!『爆炎』!」ピロリロピロリロピロリロ

ドカーン! ドカーン! ドカーン!

勇者「オラオラオラオラオラオラアアアァーッ!」ピロリロリロリロリロリロリロリロリロリ

ドカーン! ドカーン! ドカーン! ドカーン! ドカーン!

勇者「はぁ、はぁ、はぁ……」

魔剣「次は接近戦よ! 走って!」

勇者「よっしゃあ! うおおおおおおおっ!!」

雷剣「あたしの体が光ってうなる! 魔王を倒せと輝き叫ぶっ!」バチバチッ!

勇者「いくぜ! これが俺の必殺技! ライトニングスパーク!! ……って、あれ?」

魔王「 」プスプス

勇者「えっと、あれっ? もしかして爆炎魔法だけで倒しちゃった? せっかく即興で技の名前とか考えたのに?」

魔王「 」

聖剣「勝ちましたっ」

魔剣「ふん。思ったよりたいしたことなかったわね。わたしたちの時代の魔王の方が100倍は強かったわ」

雷剣「話で聞いただけだけどなー」

魔王「 」

勇者「俺が強くなりすぎちゃったのかもなあ。ははっ」

魔王「 」モゾリ

聖剣「お城に帰りましょうっ。早く王女様に会いたいですっ」

魔王「 」メキ…

魔剣「帰ったら聖剣とはお別れということになるわね……」

雷剣「なんか魔王がぴくぴくしてる」

聖剣「あ……そうでした……皆さんとお別れするのは寂しいです……」

雷剣「なんか魔王がもこもこしてきた」

魔剣「この人が王女と結婚すればあなたともずっと一緒にいられるんじゃないかしらね」

雷剣「なんか魔王がおっきくなってきた」

勇者「王女様と結婚してハッピーエンドか……でもそれは、まだ……先の話になりそうだなあ! 見ろ、魔王の体を!」

魔剣「魔王の体が、変形して……」

雷剣「なんか尻尾が生えてきた」

聖剣「あの姿は……」

魔剣・聖剣・雷剣「「「ドラゴン……」」」

ズシン ズシン

雷剣「魔王じゃなくて竜王だったのかー」

聖剣「すごく……大きいです……」

魔剣「質量保存の法則とかどこへ行ってしまったのかしらね。非科学的だわ」

勇者「そんなこと言ってる場合じゃねえ! 戦うぞ!」

雷剣「よーし、あたしにまかせろー」バチバチッ

勇者「うおおおおお!」ブンッ

ガキン! クルクル グサッ

聖剣「わっ、雷剣さんが竜王の爪で弾き飛ばされて遠くの床に刺さってしまいましたっ」

魔剣「ブレスが来るわ! 避けて!」

勇者「うわっ! くそっ、一旦退くか!? おわっとぉ! 危ねっ、なんとか奴の突進をかわしたけど……やべえ、退路を絶たれた」

竜王「……」

魔剣「……入り口の扉の前に居座ったまま動かなくなったわね」

勇者「くそ、むやみに攻撃して逃げられるより退路を塞いで何が何でもここから生きて帰さないってつもりか」

聖剣「その傍の床に雷剣さんが突き刺さってます……」

魔剣「あそこに居座られたままだと雷剣を回収することもできないわね……近づいたらブレスで焼かれてしまうわ」

勇者「この位置はブレスの射程圏外なのか……? ちょっと近づいてみよう」ジリジリ

竜王「……」カパ

勇者「……そういうことみたいだ」ススス

聖剣「えっと、つまり……根くらべってことですか……?」

魔剣「ふむ。ここで一生暮らすことになりそうね。着替えとか持ってきた?」

勇者「アホか、そういうわけにもいかんだろうが。俺が疲れて眠っちまいでもしたらそれで終わりだ。他に出口は無いのか……?」キョロキョロ

魔剣「あら。雷剣を見捨てて逃げ帰るつもり?」

雷剣「たすけてー」

勇者「そういうわけじゃないけど、爆炎魔法の連発で魔力も使い果たしちゃったし、一旦退いて出直してきた方が今の状況よりはましだろ……」

聖剣「あっあのっ、隠し扉とかは無いんでしょうかっ」

魔剣「玉座の後ろとか怪しいわよね」

勇者「あー、隠し階段とかありそうだよな。調べてみるか」

聖剣「でもっ、罠があるかもしれませんっ。落とし穴とかっ」

勇者「なるほど、何かありそうな場所には罠もありそうだな」

魔剣「ロープとか持ってないの? 落とし穴があっても命綱を繋いでおけば」

勇者「あるなあ。こんなこともあろうかと持ってきてよかった」スルスル

魔剣「ロープの長さは?」

勇者「10mだな」

魔剣「それ、穴の深さが9mだったら死ぬんじゃない?」

勇者「ん、それもそうか。じゃあちょっと短めに、5mにしとくか」

聖剣「穴の深さが4mかもしれませんっ」

勇者「えっと、じゃあ、2mで」

魔剣「穴の深さが1mだったら……」 聖剣「50cmくらいかもしれませんっ」

勇者「ガキの悪戯か! いいよ別にそんなんだったら落ちても!」

竜王「……」 雷剣「たすけてー」

勇者「よし、命綱もちゃんと結んだし、玉座の後ろを調べるぞ」

魔剣「ええ」

勇者「えーと、このへんに何かスイッチ的なものはないかな……」ウロウロ ガタン ウロウロ

魔剣「何か音がしたわ。そこのちょっと色が違ってて少し浮いてる感じの床を踏んだ時に」

ガチャン ギリギリギリギリ…

聖剣「わっ、逃げてくださいっ!」 魔剣「罠だわ! 上からなんか凄く重そうなものがっ!」

勇者「うわっ! ちょっ、ロープがっ!」ビーン

ズシーン!

魔剣「……」

聖剣「……」

雷剣「……」

竜王「……チッ」

勇者「怖かった……死ぬかと思った……」ガクブル

聖剣「危く押し潰されてしまうところでした……」

魔剣「わたしを抜いてロープを切るのが間に合ってよかったわね。凄い早業だったわ」

勇者「くそっ、竜王の奴、これを狙ってやがったな」

聖剣「他の場所にも罠が設置してあるかもしれませんし、これで八方ふさがり、でしょうか……」

魔剣「ふっ。わたしの活躍のおかげで命拾いしたわね」

勇者「うん、まあ、そうだけど、お前的にはロープ切っただけで満足なの?」

魔剣「……一応、この窮地を脱する方法も考えてはいるけれど」

勇者「何か思いついたのか?」

魔剣「ええ、まあ……結論から言えば、あの竜王を倒せばここから大手を振って出て行けるわね」

勇者「そりゃそうだけどさ、どうやって倒すんだ?」

魔剣「えっと……つまり今の状況は、まずあなたが斬りかかったのだけれど、剣を弾き飛ばされてピンチになったわけよね」

勇者「……」

魔剣「だから、ここでわたしの秘められていた真の力が発動して、みたいな感じで」

勇者「……あるの?」

魔剣「ええ、まあ、……あるわよ」

聖剣「すごいですっ。どんな力なんでしょうかっ」

魔剣「そ、そうね。あまり見せびらかすようなものでもないから今まで黙っていたけれど」

勇者「いや、ほんとにあるなら出し惜しみしないで見せろよ。もう使う機会ってここしか無いぞ」

魔剣「そうね、でも……あまり見せたくないというか」

勇者「なんで見せたくないの?」

魔剣「それは、ほら、だから、あれよ」

勇者「どれ?」

魔剣「……は、恥ずかしいじゃない」

勇者「……はい?」

魔剣「あ、あなたがどうしてもみ、見たいと言うなら見せてあげるけれどっ」

勇者「見られると恥ずかしいような能力なのか……?」

魔剣「なっ! ばっ、違うわよっ! そんな、あなたが想像しているようないやらしい能力ではないわっ!」

勇者「してねえよそんなもん。なんだよいやらしい能力って。つーかお前人工知能だろ? 羞恥心とかあんの?」

聖剣「あのっ、昔のご主人様の話によると、魔法使いさんはかなりの恥ずかしがり屋さんだったとか……」

勇者「いらんとこまで再現してんのな……」

魔剣「とにかくわたしが真の力を見られるのは、人間で言えば裸を見られるようなものなのっ。だから恥ずかしいのっ」

聖剣「よくわかりませんが、能力が常時発動してるわたしって常に全裸でいるようなものなんでしょうか……」

魔剣「でもこの状況を打破するにはもうこれしか無いし……いいわ。見せてあげるわ。言っておくけれど見ても別に楽しいものではないわよ?」

勇者「いや別に楽しくなくてもいいよ勝てれば」

魔剣「じゃあ、いくわよ。…………トランスフォーム!」ピカッ! パァアアア

勇者「うわっ、ほんとにあったのか」

聖剣「姿が……変わって……魔剣さんの能力は、変身……!」

勇者「これは……銃……異世界の武器か!」

魔銃「あら、知っているの? それなら話が早いわ」

勇者「うん、書物で読んだだけだけど、どういうものかは知ってる……引き金を引くと弾が飛び出すやつだろ?」

魔銃「ええ、そうよ」

勇者「お前の能力めちゃくちゃすげーじゃん! ……でもなんかちっちゃくないか?」

魔銃「えっ? そうかしら」

勇者「異世界の武器とはいえ、こんな片手で軽く持てるようなサイズで、あの竜王を倒せるほどの威力があるものなのか……?」

魔銃「威力? そうね、人間が相手なら当たりどころ次第で殺せたり殺せなかったりくらいかしら」

勇者「駄目じゃん! 相手は竜王だぞ! めっちゃ凄いことやってるわりに効果は妙に地味なところがお前らしいなあ!」

聖剣「あっあのっ、他の武器にも変身できるんでしょうかっ」

勇者「そうか、他の武器……おい、何でもいいからもっと威力がある武器に変わってくれ。そういうこともできるんだろ?」

魔銃「できないわ」

勇者「やっぱりか! ちくしょう!」

魔銃「……何よ、あなた、前に自分で言っていたことを忘れてしまったのかしら。わたしたちの力に頼るばかりで、あなたは満足なの?」

勇者「うっ……それは……そうなんだよな。戦うのは俺なんだから、俺が強くなきゃ……」

魔銃「ドラゴンと戦った時のことを思い出して頂戴。今度はもっと上手く戦えるのでしょう?」

勇者「ドラゴン……そうか、竜王の目に弾を当てることができれば……」

魔銃「ふっ。とどめはあの雷剣に譲ってあげるわ」

雷剣「そろそろたすけてー」

勇者「よし、やってみるか」

魔銃「わたしの上面の、先の方に突起があって後ろの方には凹みがあるでしょう? その2つと標的がぴったり合わさるように狙いをつけて」

勇者「こうか、よし……撃つぞ」

カチッ

勇者「弾が入ってねええええええ!」

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