魔王「これからも宜しく頼むぞ勇者よ!」勇者「あぁ、こちらこそな」 2/6

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勇者「俺達の……俺のせいなのか?」

魔王「……厳密に言うなら、お前達のせいとばかりも言えない」

勇者「何故だ? お前の父を殺したのは俺達だぞ」

魔王「命令を聞かなかった者達を抑え切れず、処罰も出来なかった。父さまにも責任はある」

勇者「しかし……」

魔王「人間を襲う魔物がいた事は、揺るがしようもない事実だ」

勇者「あぁ……」

魔王「だから、お前達が取った行動は正当防衛といえるだろう。結果はどうであれ」

勇者「お前は俺が憎くないのか?」

魔王「父さまを殺した敵(かたき)だからな。憎くないといえば嘘になる」

勇者「…………」

魔王「しかし、さっき言ったように父さまには魔王としての責があった」

勇者「魔王としての責……」

魔王「それにお前を殺して、父さまが生き返る訳でもない」

勇者「それはそうだが……」

魔王「更に言うなら、僕は父さまが残した魔界を建て直すのに忙しい」

勇者「建て直す?」

魔王「そうだ。幾ら力がないとはいえ、僕が第72代魔王だからな」

勇者「……」

魔王「個人的な事を言わせてもらえば、父さまの残した国が荒廃していくのは見たくない」

勇者(こんな子供が……そこまで考えているのか)

魔王「だから僕にはお前の相手をしている暇が……どうした、さっきから黙って?」

勇者「いや……勇者としての責というものを考えていた」

魔王「勇者としての責?」

勇者「あぁ、そうだ。お前の父は魔王としての責を真っ当した。俺は……どうなのだろう?」

魔王「勇者の責など、人助け以外に何があるというのだ」

勇者「人助け……」

魔王「勇者のお前がそんな調子では、父さまも報われないな」

勇者「…………」

魔王「…………」

勇者「…………」

魔王「全く……暇な奴はくだらない事で頭を悩ますな」

勇者「……そうだな」

魔王「ちょうどいい。暇なら忙しい僕を手伝え」

勇者「はぁ? 一体何を言い出すんだ?」

魔王「僕は忙しくて困っている。困っている人を助けるのが勇者の責だろう」

勇者「お前は人じゃないだろ!」

魔王「細かい事を……お前みたいな細かい奴はモテないと相場が決まっている」

勇者「う、うるさい、ほっとけ!」

魔王「図星か。勇者のクセにモテないとか……哀れな奴め」

勇者「くぅ……言いたい放題言いやがって……」

魔王「とにかく、僕が忙しいのはお前にも責任があるんだ」

勇者「……痛いところを突く奴だな」

魔王「治世が安定すれば、人を襲う魔物は減る。僕達の利害は一致するはずだが?」

魔王「安心しろ。勇者としての道に背くような事をしろとは言わないし、些少だが報酬もちゃんと出す」

勇者「報酬はいらない……が、手伝うかどうかはまだ……」

魔王「考える時間が欲しいか? よかろう」チリンチリン

……コンコンコンコン

魔王「……入れ」

―――ガチャッ

骸骨「お呼びですか、魔王様?」

勇者(骨だ……しかも執事服を着た骨だ……)

魔王「客間を一間用意してくれ。あとは食事の準備もな」

骸骨「はて、お客人とは珍しい。どなた様で?」

魔王「あぁ、勇者殿だ。くれぐれも失礼のないようにな」

骸骨「さようでございますか……って勇者ですと!?」

魔王「何を驚いている」

骸骨「あ、当たり前です! 先代様を始め多数の方が勇者の毒牙にかかったのですぞ!」

勇者(これが当然の反応だな。それにしても毒牙とか……)

魔王「だが今は僕の客人だ。何か問題があるのか?」

骸骨「い、いえ。魔王様がそう仰るのでしたら……」

魔王「では、すぐに客間の準備を頼む」

骸骨「承知致しました」

---ガチャッ

魔王「すまんな。騒がしくて」

勇者「いや、あれが普通の反応じゃないか?」

魔王「そうか? 僕の手伝いをしてくれるのなら、人間だろうが勇者だろうが大歓迎だ」

勇者「流石に大雑把過ぎるだろう。それにまだ、お前の手伝いをすると決めた訳じゃない」

魔王「僕を殺しても、魔物が人を襲い続ける事はわかってもらえたと思うが?」

勇者「それは……」

魔王「僕の事を手伝えば、魔界の統治が進み魔物が人を襲う事が減るぞ?」

勇者「うっ……」

魔王「ちなみに勇者に手伝って貰いたい案件は……うむ、これだ」

勇者「こ、これは!?」

勇者「……すまないが何が書かれてるのかわからない」

魔王「魔物の言葉だからな。そこの眼鏡があるだろう?」

勇者「……これか?」

魔王「あぁ、それを着ければ、大抵の言語は読めるはずだ」

勇者「おぉ、本当だ。読めるようになったぞ」

魔王「便利だろう? 辺境では独自の言語を使う種族もいるからな。こういう道具は欠かせんのだ」

勇者「んん……これは、訴状か?」

魔王「ああ、ここから三日程の距離にある村で、妖精族と獣族が水場を巡って争っているようだ」

勇者「水場を?」

魔王「そうだ。本来なら両種族で、仲良く水を使っていたはずなのだがな」

勇者「ふむ……」

魔王「両種族から自らの正当性を主張する訴状が届いているが、現地に行ってみなければ原因が見えてこない」

勇者「誰か人をやって、状況を確認すればいいんじゃないのか?」

魔王「その誰か達をお前達が殺してしてまったのだが?」

勇者「うぐっ……」

魔王「……実際のところ、信用の出来る者は別の案件で出払っている」

勇者「そこで俺が現地に行って、状況を確認してくるという事か……」

魔王「その通りだ。状況を確認した上で、出来るものなら揉め事を解決して欲しい」

勇者「これじゃあ、まるでお役所仕事じゃないか」

魔王「当たり前だ。魔王の仕事の大半は、そのお役所仕事だぞ」

勇者「そうなのか?」

魔王「先ほど説明したと思うが……お前は魔王を何だと思っているんだ?」

勇者「えっと、世界の支配を目論む悪の首領、と思ってた」

魔王「……小鬼も呆れる程の低脳な発想だ」

勇者「だ、だから『思っていた』と言っただろう!」

魔王「……まぁいい。人間に我々の生活を見てもらう、良い機会であると思う」

……コンコンコンコン

骸骨「お部屋の準備が整いました」

魔王「そうか。では勇者殿を案内してやってくれ。勇者殿、前向きな回答を期待しているぞ」

骸骨「……こちらです」

勇者「すまない」

骸骨「いえ……お気になさらずに」

勇者「…………」

骸骨「…………」チラッ

勇者「え……と、何か?」

骸骨「……いえ」

勇者「そうか」

骸骨「…………」

勇者「…………」

骸骨「あ、あの……」チラッ

勇者「うん?」

骸骨「ゆ、勇者殿はいつまでこちらに滞在のご予定で?」

勇者「さぁ……俺にもわからない」

骸骨「……さようですか」

骸骨「こちらです、どうぞ……」

―――ガチャ……ギィーッ

勇者「これは……凄いな」

骸骨「お気に召して頂けましたでしょうか?」

勇者「気に入るも何も、こんな豪奢な部屋に泊まるは初めてだ。王様の城よりも凄い」

骸骨「そう仰って頂けると、魔王様もお喜びになられます」

勇者「……なぁ?」

骸骨「なんでございましょう?」

勇者「今の魔王には、信用出来る部下があまりいないのか?」

骸骨「……勇者殿によって、先代魔王派幹部の大半は命を落としてしまいましたので」

勇者「そうだったな」

骸骨「魔王様は……」

勇者「……」

骸骨「魔王様は例え御一人になられようとも、父上様の残されたこの国を建て直すお覚悟です」

骸骨「数少ない信用も力のある者は、問題を治める為に各地を飛び回り」

勇者「……」

骸骨「この城にいるのは、私を含めて魔王様の身の回りのお世話をするのが関の山程度の者ばかり」

勇者「だから、魔王の部屋に行くまで誰とも会わなかったのか」

骸骨男「はい。年端も行かぬ魔王様が、御一人で国政に頭を悩ましているお姿は、見るに耐えません」

勇者「俺に……どうしろと?」

骸骨「勇者殿は先代様の敵(かたき)。魔王様も思う所はおありでしょう」

勇者「当然、だな」

骸骨「その勇者殿のお力すら借りようとなされている、魔王様の苦渋をお察しください」

勇者「……話を聞いていたのか?」

骸骨「はい、大変失礼ながら。勇者殿と対峙されている魔王様の安全がわかりかねたもので」

勇者「魔王は良い部下を持っているんだな」

骸骨「勇者殿のお言葉は嬉しく思いますが、魔王様に知れて御不興をかいましょう」

勇者「子供扱いするなって?」

骸骨「……プッ!?」

勇者「見た目で判断して悪いが、骨でも笑うんだな」

骸骨「……いえ。私の方こそ見苦しい姿をお見せしました」

勇者「いや、何だか安心したよ。魔物でも冗談が通じるんだな、ってさ」

骸骨「我々も笑い、喜び、怒り、哀しみ、そして泣きもします」

勇者「人間と同じなんだな」

骸骨「はい、姿形は違うとはいえ、感情を持ち合わせているのはあなた方と同様です」

勇者「そうか……」

骸骨「少し無駄話が過ぎましたようで。では私はこれで失礼します」

勇者「あぁ、ありがとう」

骸骨「お食事は後でお部屋にお持ち致します」

勇者「そこまで気を遣わないでくれ」

骸骨「魔王様の御命令ですので。お口に合うかどうかはわかりませんが」

勇者「口に合う合わないの問題じゃないんだが……」

骸骨「では、僭越ながら目の前で私めがお毒見をしましょうか?」

勇者「……骨に毒は効かないだろう」

勇者「ふぅ……何だかんだでお腹がいっぱいだ」

勇者(出てきた料理は見た目も味もおかしな所はなかった)

勇者(おかしいどころか、非常に美味しかったと言わざるを得ない)

勇者(結局……出された料理は全て食べてしまった)

勇者(……魔王城の料理に舌鼓を打つ勇者ってどうなんだ?)

勇者(…………)

勇者(さて、これからどうしたものか……)

勇者(魔王『困っている人を助けるのが勇者の責だろう』)

勇者(骸骨『魔王様の苦渋をお察しください』)

勇者(やる事は一つなんだろうが……)

勇者(本当にいいのか、それで?)

勇者「ふぁぁ……」

勇者(駄目だ。お腹がいっぱいになったせいか、眠くて頭が働かない……)

勇者(魔王城で……寛ぎ……過ぎ……だ、ろ……)

勇者「……すぅ……すぅ」

~~翌朝 魔王城にて~~

勇者「ふぁ……久しぶりに腹いっぱい食べたせいか熟睡だったな……」

骸骨『……魔王様、せめて何か口になさってください』

魔王『僕にはそんな暇はない』

勇者「……入るぞ」

骸骨「これは勇者殿」

魔王「……昨夜はぐっすりと休んだようだな」

勇者「美味しい食事にふかふかのベッド。これでゆっくりと眠れない方がどうかしている」

魔王「そうか、それは良かった」

勇者「で、一体何の騒ぎだ?」

骸骨「実は……魔王様が朝食をお召し上がりになってくださらないのです」

魔王「おい、余計な事を言うな」

勇者「いつもこんな調子なのか?」

骸骨「はぁ……お恥ずかしながら」

魔王「何度も同じ事を僕に言わせるな。僕は食事を摂る時間も惜しいんだ」

勇者「一つ確認なんだが?」

魔王「何だ?」

勇者「俺はお前の客人という事でいいんだよな?」

魔王「……そうだが?」

勇者「なら、客の食事につきあえ。それが主人の役目というものだろう」

魔王「何!?」

勇者「お前は骸骨に対して、俺の事と客として扱えと命じたはずだ」

骸骨「はい! その通りでございます」

魔王「…………」

勇者「なら、お前は主としての役目を果たすべきだと思うが?」

魔王「……骸骨、貴様の入れ知恵か?」

骸骨「と、とんでもございません!?」

勇者「俺自身の考えだ。こいつは関係ない」

魔王「ふん……いいだろう。食事の準備をしろ」

骸骨「は、はいっ!」

魔王「僕の貴重な時間を使っているんだ。有意義な話を聞かせてくれるんだろうな?」

勇者「食事の時ぐらい小難しい顔をするのは止めろ。せっかくお前の為に作ってくれているんだぞ」

魔王「何を……」

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