勇者「通常なら徒歩で三日はかかる行程だ。幾ら速度を落としているとはいえ、疲れていないか?」
獣族娘「お気遣いありがとうございます。ですが、我らは体力には自信がありますゆえ」
勇者「そうか。もうすぐ城に着くから頑張ってくれ」
獣族娘「はいっ!」
勇者(……城に着いたら、獣族娘達の事を魔王にどう説明したものか)
勇者(ややこしい事にならなければいいんだが……)
勇者(そういえば、妖精族の長は俺の事を何か察していたのか、何度か何か言いたそうにしていたな)
勇者(別れ際にも何か言いたそうにしていたが、俺が目で制すると何も言わずに頭を下げた)
勇者(魔物とはいえ、やはりああいう慎み深い女性が……)
獣族娘「代官殿、城が見えて参りましたぞ!」
~~魔王城にて~~
勇者「お前達はここで待っていてくれ」
獣族娘「はい」
…………
勇者「おーい骸骨ーどこにいるんだー?」
骸骨「おかえりなさいませ。随分と早いお帰りでしたね。村の方は如何でした?」
勇者「あぁ、まぁ無事に片づいたかな」
骸骨「さようですか。それは上々にございます」
勇者「それで村での事を魔王に説明したいんだが、ちょっと困った事があってな……」
骸骨「お連れの方々ですか?」
勇者「何だ知っていたのか!?」
骸骨「この城に掛けられた探知魔法がございますので、勇者殿にお連れがいらっしゃる事は」
勇者「城にそんな仕掛けがあるのか?」
骸骨「……詳しい事は申せませんが、この城に近づく者がいればわかるようになっております」
勇者「……それじゃあ、最初にここに来た時も、俺が来たってはわかってたんじゃないのか?」
骸骨「……魔王様はご存知だったと思いますが、私には何も仰られませんでした」
勇者「どういう事だ?」
骸骨「さぁ? こればかりは魔王様にお尋ねしなければ……私には何とも申せません」
勇者「……」
骸骨「その魔王様が勇者殿をお待ちになられています。お連れの方々もご一緒にと」
勇者「あいつらも一緒に?」
骸骨「はい。そのように仰せつかっております。それと……」
勇者「まだ何かあるのか?」
骸骨「以前お会いした執務室ではなく、玉座の間に来るようにとの事です」
勇者「玉座の間だと?」
骸骨「勇者殿はご存知の場所ではありませんか?」
勇者「……俺達と先代の魔王が戦った場所。そうだな?」
骸骨「その通りです。では確かにお伝えしました」スッ
勇者(……どういうつもりだ、魔王?)
~~魔王城 玉座の間入口にて~~
獣族娘「まさか、本当に魔王様にお目どおりが叶うとはな」
獣族A「駄目だ……緊張で心臓が止まりそうだ……」
獣族B「わ、我らはどうすればよいのでしょうか、代官殿?」
獣族C「う、うろたえるな、情けない」
勇者「お前達、少し落ち着け。誰も取って食いやしないんだから」
獣族娘「代官殿の仰る通りだ。我らは何一つやましい事などないのだからな」
勇者(……ふぅ、獣族娘は大丈夫そうだが、他の連中は完全に舞い上がっているな)
勇者(しかし、こうしてこの扉の前に立つと、半年前の戦いの事を思い出すな)
勇者(まさか……戦いになるなんて事はないだろうが……)
勇者(……考えても仕方ない)
勇者「おい、お前達。入るぞ?」
獣族娘「お願いします」
獣族ABC「「「お、お願いしますっ!」」」
―――ガチャッ……ギィィィィ
~~魔王城 玉座の間にて~~
骸骨「皆の者よく参った。前へ」
勇者(骸骨の奴……わざわざ先回りしてここに来ていたのか)
獣族A「ほ、骨だ……」
獣族B「ま、前へって言われたって……」
獣族C「ど、どうします?」
獣族娘「……代官殿?」
勇者「……余計な事を言わずに、俺の後ろについて来い」
勇者(玉座に魔王の姿がない……どういう事だ)
骸骨「そこで止まり、控えるがよい」
獣族A「ひ、控えろって??」
勇者「膝まづいて待てという事だ」
獣族B「そ、そうか……」
獣族C「す、凄い……この絨毯足が埋まるぞ?」
獣族娘「お前達ときたら……」
―――10分経過―――
獣族A「な、なぁ……?」
獣族B「な、何だ?」
獣族A「俺達、いつまで待てばいいんだ?」
獣族C「だ、代官殿?」
獣族娘「お前達、少しは静かに待てないのか」
勇者(こいつらじゃないが、いつまで待たせるつもりだ?)
勇者(骸骨の奴もじっと突っ立ったままだし……)
魔王「……おぉ、もう来ておったか」
勇者(……やっと、お出ましか)
魔王「何を畏(かしこ)まっている。さぁ面(おもて)をあげよ」
獣族A「えっ!?」
獣族B「あ、あれが……」
獣族C「……魔王、様?」
獣族娘「こ、子供……?」
魔王「よく参ったな。僕が第72代の魔王だ……って何を呆けている?」
獣族娘「あ、あの……」
骸骨「許しもなく魔王様に直接口を訊こうなど、無礼であるぞ!」
獣族娘「は、ははっ! 申し訳ありません!」
魔王「良い良い、彼らは僕の民だ」
骸骨「はっ……」
魔王「お前達、言いたい事があるなら、何なりと申せ」
獣族娘「はっ……し、しかし……」
魔王「……時間がもったいない。僕が申せと言っているのだぞ?」
獣族娘「わ、私は近郊村の獣族族長の娘にございます」
魔王「おぉ、お前が族長の娘か、久しいな。此度(こたび)は対応が遅れてすまなかったな」
獣族娘「そ、そんな……勿体無いお言葉です」
勇者(……久しい? どういう事だ?)
勇者(獣族娘は、場の空気に飲まれて気づいていないみたいだが……)
勇者(まるで、獣族娘の事を知っているような口ぶりじゃないか)
魔王「して、族長は息災か?」
獣族娘「は、はい」
魔王「そうか息災であるか。お前も父親は大事にしろよ」
獣族娘「あ、あの……」
魔王「なんだ?」
獣族「ま、魔王様は父をご存知なのですか?」
魔王「……そうか。お前が憶えておらぬのも無理はないか」
獣族娘「え、えっと……」
魔王「父さま……先代の魔王に随行して、僕がお前の村に行ったのは、お前がまだ赤ん坊の頃だからな」
獣族娘「は?」
魔王「……何か、おかしな事を言ったか?」
獣族娘「し、失礼ですが、魔王様はお幾つなのでしょう?」
勇者(いい質問だ。それは俺も疑問に思っていた)
魔王「僕の歳? 確か今年で113歳だが……それがどうかしたか?」
勇者「ひゃくじゅうさんさい!?」
魔王「突然大きな声を出すな。驚くではないか」
勇者「す、すまん。いや、しかし……」
魔王「しかし何だ?」
勇者「いや、まさか俺より年上とは思ってなかったから……」
魔王「一体幾つだと思っていたのだ?」
勇者「じゅ、10歳ぐらいかと……」
魔王「馬鹿め、僕は魔族だぞ。お前達と一緒にするな」
勇者「そ、そうか……」
魔王「まあいい。して勇者よ。首尾はどうであった?」
勇者「おいっ!!!」
骸骨「ま、魔王様……勇者である事は内緒のはずでは?」
獣族A「ゆ、勇者?」
獣族B「どういう事だ?」
獣族C「さ、さぁ?」
獣族娘「だ、代官殿……」
勇者「ま、待て。こ、これはだな……」
獣族娘「やはり、そうでしたか……」
勇者「なっ? 落ち着いて話を聞け?」
獣族娘「やはり、代官殿は伝説にある魔界の勇者だったのですね!!」
勇者「……はい?」
獣族娘「我らを癒した術といい、父上も敵わぬ武といい、只者ではないと思っておりました!」
勇者「い、いや……」
獣族娘「何より、魔王様の命により、我らの村を救ってくださったのがその証拠!」
勇者「ちょ、ちょっと待て……」
獣族娘「数々の無礼、重ね重ねお詫びいたします!」
勇者「な、何を言って……」
魔王「獣族娘よ。お前が言う通り、この者は伝説にある魔界の勇者だ」
勇者「ど、どういうつもりだ、魔王!」
魔王「現在の魔界の現状を憂いて、僕の手助けをしてもらっておる」ニヤリ
勇者「は、はめられた……」
~~翌日 魔王城にて~~
魔王「それでは、お前達はこの城に残るというのだな?」
獣族娘「はっ、私の忠義は魔王様と勇者殿に捧げております」
魔王「頼もしい言葉ではないか。なぁ、勇者よ?」
勇者「……お前、最初から企んでたな?」
魔王「何の事だ? 企むなどと勇者の言葉とは思えんな」
勇者「……ふん」
魔王「まあいい。お前には手伝ってもらいたい事がまだ山ほどあるからな」
勇者「まだ俺に何かやらせるつもりか!」
獣族娘「ご安心ください。私も微力ながら勇者殿のお手伝いをさせていただきます」
魔王「聞いたか勇者よ? 健気な娘ではないか」
勇者「うるさい!」
獣族娘「や、やはり私などが一緒では、ご迷惑なのですね……」
勇者「い、いや、あんたに言ったんじゃなくて……」
獣族娘「では!」
勇者「……もう勝手にしてくれ」
骸骨「うんうん。微笑ましい光景ですね、魔王様」
魔王「ふん。馬鹿騒ぎも程々にして欲しいな」
勇者「お前が言うな!」
魔王「僕と勇者の利害は一致しているはずだ。そうだな?」
勇者「くっ、それはそうだが……」
魔王「それに、僕には勇者の力が必要なんだ」
勇者「……急にしおらしくなるなよ」
魔王「悔しいが、今の僕の力だけでは、な」
勇者「わかったよ。但し、道を外れるような真似は困るぞ?」
魔王「これからも宜しく頼むぞ勇者よ」
勇者「あぁ、こちらこそ」
おわり