魔王「これからも宜しく頼むぞ勇者よ!」勇者「あぁ、こちらこそな」 4/6

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―――パァァァ

族長「……うぅっ」

勇者(……どうだ?)

族長「……すぅ……すぅ……すぅ」

勇者(呼吸が安定してきた!?)

勇者(うん。顔色もさっきと比べて、大分良くなってきたぞ!)

族長「う、うっ……」

勇者「気がついたか?」

族長「……お主は……誰だ?」

勇者「俺は魔王様の命でこの村に来た」

族長「魔王様の……? うぐッ……」

勇者「まだ動くな。病気の原因は取り除いたが、大分体力を消耗しているはずだ」

族長「そ、そうか……お主が病を……」

勇者「おい、ちょっと来てくれないか?」

獣族娘「……どうかしたのか?」ガチャッ

族長「おぉ……娘ではないか」

獣族娘「父上! 気がつかれたのか!!」

族長「うむ。どうやら、この方が病を取り除いてくれたようだ」

獣族娘「代官殿が!?」

勇者「……多分だが、これで大丈夫じゃないかと思う」

獣族娘「一体何を……顔色も良くなられて……」

勇者「体力を消耗しているだろうから、しばらくは安静が必要だとは思うが……ってうわ!?」

獣族娘「ありがとう! 本当にありがとうございます!」ペロペロ

勇者「こ、こら!? 抱きつくな! 顔を舐めるな!」

獣族娘「父上にもしもの事があったと思ったら……ぅぅ」グスッ

族長「これ、その辺にしておけ。代官殿がお困りではないか」

勇者(しかし、本当に解毒の呪文が効くとは……)

勇者(……病気の原因は毒で間違いないのか)

~~村外れにて~~

獣族娘「今の者で病に罹っていたのは最後だ」

勇者「そうか、ひとまずはこれで安心だな」

獣族娘「少しお疲れのようだが……大丈夫か?」

勇者「あぁ、問題ない。お前の方こそ、少し顔色が悪そうに見えるが……大丈夫か?」

獣族娘「父上に代わって、族長の任を代行してきたからだろう。疲れが出ているだけだと思う……」

勇者「そうか、あまり無理はするなよ」

獣族娘「お気遣い感謝する」

勇者(ぶっきら棒だが礼儀正しい娘だ)

勇者(父親の意識が戻った時は、歳相応の態度になっていたが……)

勇者(獣族の誰もがこの娘に会うと、親愛の情を持って接しているのがわかる)

勇者(獣族もこうして接していると、人間と全く変わらないように思う)

勇者(魔物だという事を思わず忘れそうになる程に……)

獣族娘「代官殿は、これからどうなされるおつもりですか?」

勇者「……ん、そうだな。今度は妖精族の集落の方に行ってみるつもりだ」

獣族娘「妖精族の?」

勇者「あぁ、今回の病の原因が本当に妖精族にあるのか、確かめなければならないからな」

獣族娘「しかし危険なのでは?」

勇者「危険も何も、妖精族は元々大人しい一族と聞いている」

獣族娘「それは、そうですが……」

勇者「その妖精族が農作物に何か細工をして、病気を広めるなど考え難い」

獣族娘「私にはよくわかりません。ただ、皆が倒れた事のみが事実なので」

勇者「よくわからないからといって、水場を封鎖して妖精族を隔離するのはやり過ぎではないか?」

獣族娘「よくわからないから封鎖したのです! あの状況で危険を冒すわけにはいきません!」

勇者(魔王『よくわからないから恐れ、蔑み、敵視する。人間とはそういうものだろう?』)

勇者「!?(……クソっ……お前の言う通りだ、魔王)」

獣族娘「……代官殿?」

勇者「あぁ、何でもな……」

獣族娘「う……ぅぅ……」バタッ

勇者「おいっ! どうした? しっかりしろ!?」

獣族娘「ぅぅ……っ」

勇者(呼吸も荒いし、どんどん顔色が悪くなってきてる。他の連中の症状と同じだ)

獣族娘「はぁはぁはぁ……」

勇者(今までの病人達は意識もなかったから、人払いをして解毒魔法を使って治療したが……)

獣族娘「ぐふっ!?」ビクン

勇者(獣族娘にはまだ意識が……くっ、そんな事言ってる場合じゃない!)

―――パァァァ

獣族娘「あ、うぅ……これ……は?」

勇者「……大丈夫か?」

獣族娘「あぁ……私も知らないうちに病に侵されていたのか……不覚だ」

勇者「原因が何かわからないからな、不覚も何もない」

獣族娘「ところで……先ほどの代官殿が使われた術は一体?」

勇者「……」

獣族娘「病を一瞬にして治す……代官殿はまるで……伝説の勇者のようだな」

勇者「っ!?」

勇者(マズいマズい……こいつはマズい!?)

獣族娘「代官殿もご存知だろう、伝説の勇者の話を?」

勇者「さ、さぁ……よくは……」

勇者(勇者『バレたら大変な騒ぎになるだろうな』)

勇者(骸骨『そうなった場合、勇者殿が魔王様の名前を騙ったいう事で処理しますゆえ』)

勇者(勇者が魔王の名前を騙ったなど、償っても償い切れない恥だぞ!?)

獣族娘「何と!? 子供でも知っている話ですぞ?」

勇者「お、俺は人間界に派遣されて長かったから……よくは……」

勇者(どうする……どうやって誤魔化せばいい?)

獣族娘「そうでしたか……人間界に派遣など……随分と苦労されたのだな」

勇者(あれ……何だか様子が? バレた訳じゃないのか?)

獣族娘「簡単にで宜しければ、私がお聞かせしようか?」

勇者「そ、そうだな。少し休憩するのに丁度いいかもしれない」

獣族娘「伝説の勇者の話とは、魔界に大昔から伝わるおとぎ話の一つだ」

勇者(魔界に?)

獣族娘「私も幼い頃にを父上からこの話を聞いて、心をときめかせたものだ」

勇者「こ、心を?」

獣族娘「そ、そうだ。おかしいか?///」

勇者「い、いや、そんな事はない。続けてくれ」

獣族娘「……んんっ/// その勇者は混乱した魔界に突如現れ……」

勇者「ふむ……」

獣族娘「魔王様の片腕として獅子奮迅の働きをし、混乱した魔界を治めていく」

勇者(魔王の片腕……)

獣族娘「小さな子供であれば、自分がその勇者となって、魔王様をお助けしたいと、夜な夜な夢見たものだ」

勇者「そうなのか?」

獣族娘「我らの村は魔王様の直轄地であり、城に近い事もあって、特にそういった意識を持つ子供が多かったと思う」

勇者「その忠心、魔王様が聞けばお喜びになられるだろう」

獣族娘「そう思うか!? そうであってくれれば、どれだけ嬉しい事か……だが……」

勇者「だが、どうした?」

獣族娘「我らは先代の魔王様を人間共が手に掛けた時、何もする事が出来なかった……」

勇者「……」

獣族娘「先代の魔王様は……」

獣族娘「事ある事に我らを気に掛けてくれ、この村にお立ち寄りくださる事さえあったのだ」

勇者「魔王……様が?」

獣族娘「ん?」

勇者「いや……続けてくれ」

獣族娘「魔王様が気晴らしに狩りをされる時など、我らの村をよく休憩所としてお使いくだされた」

勇者「……」

獣族娘「私の父上は族長だからという事もあり、よく魔王様のお世話を仰せつかったものだ」

勇者(お世話……魔王が滞在する事があるから、あんなに立派な造りになっていたのか)

獣族娘「私も小さい頃に、何度かお声を掛けて頂いた事があってな」

勇者「魔王様にか?」

獣族娘「そうだ。『早く大きくなって私の手助けをしてくれ』とな」

勇者「……」

獣族娘「も、もちろん今になってみれば、子供に対する社交辞令だというのはわかっているぞ///」

勇者(あの俺達と戦った魔王が……)

獣族娘「だか、当時は嬉しくて夜も眠れない程だった。周りの仲間からも羨ましがられてな」

勇者(世界征服を企む邪悪の徒と決めつけ……)

獣族娘「魔王様にお声を掛けて頂いた事も、魔王様のお世話を父上が仰せつかった事も……」

勇者(俺達が戦い、倒したあの魔王が……)

獣族娘「全ての事が誇らしく思えたものだった」

勇者(こんなにもこの娘に……いや、この村の獣族に慕われてる)

獣族娘「だが、いつ頃からだろうか……魔王様のお姿を見なくなって……」

勇者「姿を見なくなった?」

獣族娘「そうだ。いつだっただろうか? 一部の勢力が魔王様の治世を快く思っていないと……」

勇者(魔王のやり方に不満のある者達……力を誇示しようとしている者達……)

獣族娘「『その対処の為に、しばらくはこの村に来られないかもしれない』」

獣族娘「魔王様がそのように仰られたと、父上から聞かされた事があってな……」

勇者「魔王……様がそんな事を?」

獣族娘「私が直接聞いた訳ではないがな」

勇者「そうか……」

獣族娘「その時程早く大きく、そして強くなりたいと願った事はない」

勇者「どうしてそう願った?」

獣族娘「魔王様に逆らう連中を、私が懲らしめてやろうと思ってな。笑ってくれ、子供の浅薄な考えだ」

勇者「笑わないさ。俺と違って立派な動機だ」

獣族娘「代官殿も小さな頃に『大きくなりたい、強くなりたい』と思った事があったのか?」

勇者「あぁ……早く大きく、そして強くなりたいとな」

獣族娘「よければ、理由を聞かせてもらえないだろうか?」

勇者「……復讐心だよ」

獣族娘「えっ!?」

勇者「小さい頃に家族を殺されて、その復讐の為に大きく、強くなりたいと願ったんだ」

獣族娘「嫌な思いをさせてしまったな……すまない」

勇者「もう目的は果たした……だからもういいんだ……」

獣族娘「そうか!? それは良かったじゃないか」

勇者(そう……目的は果たした……はずだ)

獣族娘「私がそう思いながら過ごす内の事だ……先代の魔王様が人間共の手に掛けられたのは!」

勇者(そう……俺達が殺した……)

獣族娘「先代の魔王様が崩御された後、その一粒種が後を継がれたと聞いてな」

勇者(世界平和という立派な名目を隠れ蓑にして、自分の復讐の為に……)

獣族娘「我らは哀しみの中で、新しい魔王様を盛り立てようと心に誓ったのだが……」

勇者(俺が魔王を殺した事を言えば、この娘はどんな顔をするだろうか?)

獣族娘「お姿を見る事も、お声を聞く事も叶わないまま、今回の事件が起こってな」

勇者(……馬鹿な考えだ。もう……やめよう)

獣族娘「訴状を上申してみたものの、何の音沙汰もなく……正直、見捨てられたと諦めた者もいた」

勇者「魔王様は、お前達の事を気にかけておいでだ」

獣族娘「はい! そして代官殿を遣わされた。そうですね?」

勇者「その通りだ。『本当なら、自ら出向いて何とかしてやりたい』とも仰られていた」

獣族娘「魔王様がそのようなお言葉を……我らは見捨てられたなどと、何と愚かな事を考えていたのだ……」

勇者「さて、そろそろ妖精族の所に向かうか」

獣族娘「も、申し訳ない。私のつまらない話で時間を取ってしまい……」

勇者「いや、お前達の考えている事がわかって嬉しかった。ありがとう」

獣族娘「そ、そう言って頂けると私も嬉しく思う///」

勇者「妖精族の所へはどう行けばいい?」

獣族娘「それなら、私が案内を……」

勇者「いや、獣族が一緒だと揉め事になる可能性もある。場所だけ教えてくれ」

獣族娘「しかし……代官殿を一人で行かせたとあっては、私が父上に叱られてしまう」

勇者「……土地勘のあるお前が一緒なら、確かに心強い事もあるだろう」

獣族娘「だったら!」

勇者「しかし、いざ何かあった場合、族長殿に俺が顔向け出来ない」

獣族娘「私が弱いと侮られるか!」

勇者「勘違いするな。お前が弱いと言ってるんじゃない。病み上がりの体を厭(いと)え」

獣族娘「……そうまで仰られるのなら、私の実力を見ていただこう!」

勇者「……は?」

~~村 中央広場にて~~

獣族男「若君ー負けるな!!」

獣族女「若様~頑張ってくださ~い♪」

勇者「……どうしてこうなった?」

族長「まぁまぁ、ワシらの習慣みたいなものですな」

勇者「習慣?」

族長「ワシらは互いの意見を通す時に、こうして戦うのが決まりでしてな」

勇者「良い意見と強い事とは等しくないだろう?」

族長「意見を出して、それを通す事には責任が伴う。違いますかな?」

勇者「それは……確かにそうだが」

族長「その意見を採用した結果、物事が悪い方に向かったとしますな」

勇者「あぁ」

族長「その悪い方に向かった時に、責任を以ってそれを覆す力が必要とは思いませんか?」

勇者「……ひどい暴力主義だ」

族長「少なくとも、ワシらはそう考えています。まぁ……そういった訳で、頑張ってくだされ」

勇者「それにしても族長殿」

族長「何でしょうかな?」

勇者「起きていて、体は大丈夫なのか?」

族長「……元気な姿を皆に見せる事も族長の仕事ですからな」ヒソヒソ

勇者「そうか……大変だな、族長というのも」

族長「それに……」

勇者「それに……何だ?」

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