妃の部屋
勇者「はぁ……」
メイド「おかえりなさいませ」
勇者「どうも」
メイド「お疲れのようですね。マッサージでもいたしましょうか?」
勇者「いいですいいです」
メイド「さようですか」
勇者「この街は……いいところですね」
メイド「え?」
勇者「活気もあるし、街には笑顔が満ちていました」
メイド「王と王子の尽力によるものです」
勇者「……」
メイド「それと勇者様のご活躍があってこその平和ですから」
勇者「そういわれると……嬉しいですね」
メイド「晩餐まで時間がございます。ごゆっくりお寛ぎください」
晩餐会場
王「そうか!この街を気に入ってくれたのか!!それはよかった!!」
勇者「ええ」
王子「これであとは婚姻の儀を済ませるだけですね」
勇者「しません!!」
王子「時間の問題です」
勇者「ひっ……」
王「これこれ。無理やりはいかんぞ」
王子「ふっ……私としたことが、すいません」
勇者「もう謝らなくて結構です。全然反省してないんですから……貴方は」
王子「流石は勇者様、慧眼でいらっしゃる」
勇者「あなたは酔眼です」
王子「確かに。もう私は貴女の美貌に酩酊しているようだ」
勇者「くっ……こののれんに腕押し感……悔しい……」
王「あっはっは!!仲がいいな!!実に素晴らしい!!」
城内 廊下
勇者「―――だれもいない?」キョロキョロ
勇者「今日こそ逃げないと……」
勇者「またお風呂場に王子が入ってきたし……いつ寝込みを襲われるか……!!」
勇者「……」コソコソ
勇者「ん?」
王子「―――」
メイド「―――」
勇者「またあの二人……」
勇者「明日の僕の衣装を決めているんだな……」
勇者「……」キョロキョロ
勇者「そうは行きません……!!」
勇者「今日は逃げる……!!」
街
勇者「はぁ……なんとか外に出られた」
勇者「さてと。変装でもして宿に……」
「きゃー!!」
勇者「……!?」
勇者「悲鳴……!?」
勇者「こっちか……!!」
「やめてー!!」
盗賊「へへ、これは頂いていくぜ」
「あぁ……」
勇者「―――そこまでだ!!」
「え!?」
盗賊「だれだぁ!!」
勇者「武器を捨てろ。さもなくば……斬る」
盗賊「おもしれぇ……ガキのくせにいきがんじゃねえぞ!!!」
盗賊「がはぁ!!」
勇者「大丈夫ですか?」
「は、はい……あ。貴女は……王子の……」
勇者「あ、いえ……人違いです……」
盗賊「ちくしょう……おぼえてろよ!!」
勇者「まて!!」
盗賊「へへーん!!」
勇者「くそっ……!!」
「うっ……」
勇者「怪我をしているじゃないですか」
「私は平気です……それよりも盗賊を……」
勇者「安心してください。顔ははっきり見ました。すぐにでも捕まえてみせます」
「あぁ……ありがとうございます……やはり妃にふさわしいわぁ」
勇者「えっと……僕は―――」
兵士「何かありましたか!?」
兵士「―――なるほど。わかりました」
勇者「すぐに手配を」
兵士「はっ!!」
王子「勇者様!!」
勇者「王子……」
王子「お怪我は!?」
勇者「大丈夫です」
王子「なんて無茶なことをしたんですか……!!」
勇者「この程度、なんてことありません」
王子「しかし……貴女の身に万が一のことがあれば……私は……自殺してしまう!!」
勇者「やめてください!!」
王子「自殺は冗談ですが。でも心配はします。一報をきいたときは臓物を吐き出しそうになりました」
勇者「王子……そこまで……」
王子「勇者様を部屋にお連れしろ」
兵士「はっ!」
妃の部屋
メイド「お怪我は?」
勇者「なんともありません」
メイド「そうですか」
勇者「心配をおかけしました」
メイド「このようなことはもうないようにして頂きます」
勇者「すいません」
メイド「王子のためにも……」
勇者「え……?」
メイド「いえ」
勇者「……」
メイド「では失礼します。お着替えはそこに」
勇者「あ、ありがとうございます」
勇者「はぁ……」
勇者「盗賊が捕まるまで……この地を離れるわけにはいかないな……」
翌朝
王子「勇者様!!今日も太陽は高く上り、その燦々と輝く陽光は一片の雲すらも散らしてしまいました!!」
勇者「晴れてますね」
王子「このような日はもう二度と訪れないかもしれません」
勇者「明日も晴れると思います」
王子「さあ!!この過ぎ行く今を切り取る為に、婚姻を―――」
勇者「しません」
王子「……」
勇者「あと四日ですよ。いいですね」
王子「ふむ……私のどこがいけないのでしょうか?」
勇者「王子はいい人だと思います。民からも慕われているようですし、悪い人にはみえません」
王子「では……?」
勇者「無論、性別です」
王子「勇者様に男根があるのがいけないと……!?なんとも健気な……。ですが親から賜った体に手を加えるなどと―――」
勇者「なんでそうなるんですかぁ!!」
勇者「今日は自由にさせてください」
王子「ええ。構いません。城の者にも伝えておきましょう」
勇者「では」
王子「ええ。また後ほど」
勇者「……」
勇者(すごい熱烈だけど近づ離れずを保っているというか)
勇者(付き纏うことはしないんですよね……)
勇者「さてと……城内を散策しようかなぁ」
勇者「……」スタスタ
メイド「勇者様」
勇者「あ、どうも」
メイド「どちらへ?」
勇者「今日は城内を散策しようかと思いまして」
メイド「お供させていただいても?」
勇者「ええ、構いません。一緒に行きましょう」
中庭
勇者「すこし休憩しましょうか」
メイド「はい」
勇者「いい天気ですね」
メイド「ええ」
勇者「……」
メイド「勇者様。もうドレス姿が板についてきましたね」
勇者「もうなんだかスカートになれてきました」
メイド「下着のほうは?」
勇者「違和感ありません」
メイド「それは重畳」
勇者「あのですね……」
メイド「ですが後四日です」
勇者「……」
メイド「王子の傍にいてあげてください」
勇者「傍にって……」
メイド「……」
勇者「あの……一つ訊きたいんですけど」
メイド「なんですか?」
勇者「えっと……貴女と王子って何か関係があったりするんですか?」
メイド「側室です」
勇者「……」
メイド「まだ候補ですけど」
勇者「そ、そうなんですか……」
メイド「はい」
勇者「側室ってどんなものなんですか……?」
メイド「この国の場合ですが、妃に身体的な問題があるときだけに用意される女性のことですから」
勇者「それって僕が来たから……!?」
メイド「そうですね」
勇者「……」
メイド「どうかされましたか?」
勇者「あの……僕は……」
メイド「気にしないでください。この城に雇われている以上、その可能性は常にありましたし、私も覚悟はできています」
勇者「でも……」
メイド「お気になさらず」
勇者「王子のことは……?」
メイド「勿論……嫌いではありません。あのように良い人ですから」
勇者「……」
メイド「そろそろ戻りましょうか」
勇者「あの……僕がここを離れたら……貴女は解放されるのですか?」
メイド「……王子が新たな妃候補を選び、その女性になんの問題もなければ」
勇者「そうですか」
メイド「でも……私、個人の意見を言わせていただくと……」
勇者「は、はい?」
メイド「貴女には妃になってほしいですね」
城内 廊下
兵士「いくぞ!」
兵士「はっ!」
王子「……」
勇者「なにかあったのですか?」
メイド「……」
王子「これはこれは勇者様。ええ、実は盗賊のアジトが見つかったのです」
勇者「そうなんですか……」
王子「それで今、討伐隊を編成したところです」
勇者「僕も……」
王子「いけません。その雪原のような肌に傷がついてしまったらどうするのですか?」
勇者「……」
メイド「では、お部屋に」
王子「ああ、頼むぞ」
勇者「別に傷ついても問題は……」
妃の部屋
メイド「王子は貴女のことを本当に愛しています」
勇者「本当ですか、それ?」
メイド「ええ。王子は貴女が来て以来、貴女のことを口にしない日はありません」
勇者「……」
メイド「嫌ですか?」
勇者「まあ、僕、男ですし」
メイド「でも、王子になら……」
勇者「……」
王子『勇者様……さあ、こちらへ……貴女の初めてを……もらいます……』
勇者『や、やさしくしてください……ね……ぁ……』