数週間後
神父「……そうですか」
勇者「すいません。折角、拾っていただいたのに」
神父「いえ。勇者様が決めたことならば我々に止める権利はありません」
勇者「それでは」
神父「勇者様に幸あらんこと」
勇者「……」スタスタ
僧侶「勇者様……」
勇者「ごめん、一ヶ月もしないうちに去ること決めて」
僧侶「いえ。私はもう少し勇者様と一緒にいたかったですが……」
勇者「自分に合ったことを模索してみる」
僧侶「見つかったときは是非とも教えてください」
勇者「勿論」
僧侶「お元気で」
勇者「ありがとう」
街
勇者「無職になったな……」
勇者「なんかすごい開放感があるなぁ」
勇者「ふぅー」
勇者「心が軽いぞ」
勇者「でも、頼んでおいて辞めるなんて……」
勇者「少し、後ろめたいな……」
勇者「さてと……どうしようかな、これから」
勇者「とりあえず自宅に戻るか」
勇者「ゆっくり寝よう……」
自宅
勇者「!?」
勇者「な、なんだ……家が荒らされてる……!?」
勇者「なんで……!?」
勇者「だれが……こんなことを……!?」
勇者「……」ウルウル
兵士「―――あの」
勇者「は、はい?」
兵士「申し訳ありません。もしかして盗賊の被害に遭われましたか?」
勇者「今、家に帰ってきたんです」
兵士「最近、盗賊による被害が相次いでまして、それについて注意をして回っていたのですが……まさか、勇者様の自宅があらされるとは」
勇者「一ヶ月ほど空けてましたからね。当然かもしれません」
兵士「盗賊一味は必ず見つけます」
勇者「……」
夜
勇者「やっと片付いたな」
勇者「酷いことするやつもいるな……」
勇者「……」
兵士『―――盗賊捕獲に協力したい?』
勇者『ぜひ』
兵士『勇者様のお手を煩わせることもありません。我々に任せてください!!』
勇者「あわよくばと思った俺が間違いだったな」
勇者「……そうだよな。城の兵士になるには学校に行って、きちんと卒業しないと駄目だもんなぁ」
勇者「魔王を討伐したからといってそこ捻じ曲げちゃあ、兵士を目指している人が不満を漏らすだろうし」
勇者「考えてみれば魔王の討伐で得られたのは金と一時の名声だけか……」
勇者「……」
勇者「寝るか」
数日後 街
勇者「仕事……ないなぁ」
「いらっしゃいませー!!やすいよー!!」
勇者「……」
「どうですか!!見ていってください!!」
勇者「……新聞ください」
「どうぞ」
勇者「……」ペラッ
勇者「盗賊団のアジト発見……しかし、いまだ首謀者見つからず」
勇者「……」
勇者「あ……これもください」
「どうぞどうぞ」
勇者「……」
勇者「来たれ商人。新しい人生を見つけてみませんか?」
勇者「新しい町ができたのか……行ってみようかなぁ」
商人の町
勇者「ここだな」
商人「ここかぁー!!」
勇者「ん?」
商人「わぁ?!勇者様だぁ!!」
勇者「なにか?」
商人「新聞でよく見ました!!いやぁ、実物はかっこいいですねえ!!」
勇者「それはどうも」
商人「勇者様はどうしてここへ?」
勇者「なにかできないかと思って……魔物もめっきり少なくなりましたし」
商人「つまり……転職!?」
勇者「そういうことになりますね」
商人「じゃあ、私と一緒になにかしませんか!?」
勇者「え?」
商人「まだ半人前ですけど、私ここで一旗あげたいって思ってるんです!!」
酒場
商人「まま、一杯どうぞ」
勇者「どうも……」
商人「ふふ、幸運だなぁ……まさかあの勇者様と出会えるなんて」
勇者「でも、俺は……」
商人「何をします?道具屋?武具屋?それともカジノ?!」
勇者「えーと……道場とか?」
商人「道場?」
勇者「俺にできるのってやっぱり旅で培った腕っ節ぐらいだから」
商人「だめですよぉ」
勇者「え?」
商人「もう世の中は平和になってるんです。勇者様のような我流剣術よりも型が洗練された武術のほうがニーズは高いですよ?」
勇者「そうなのか……」
商人「シェイプアップにも効果ありますしね」
勇者「……」
商人「やっぱり時代はカジノだと思うんですよね」
勇者「カジノか……旅の途中で一度寄ったことがあるけど……」
商人「カジノはいいですよ。夢がありますよ、やっぱり」
勇者「カジノ……確かカジノは用心棒いるよな」
商人「いますねえ」
勇者「俺が用心棒になれば」
商人「勇者様のカジノじゃないと駄目ですよ」
勇者「どうして?」
商人「勇者様が経営しているカジノなら信頼度が上がって、お客さんがいっぱいきますし」
勇者「そうか?」
商人「そうですよぉ」
勇者「うーん」
商人「どうですか?この町でカジノを開きませんか?」
勇者「どうしようかな……」
商人「一緒にこの町の繁栄に貢献しましょうよぉ」
宿屋
勇者「……」
勇者(経営か……考えたこともなかったな)
勇者(でも、新しい人生を歩むにはいいかもしれない)
勇者(いつまでも後ろ向きじゃ駄目だしな)
勇者「……よし!!」
勇者「やろう……カジノ」
勇者「俺に何ができるかわからないけど……やれるだけのことはやるんだ」
勇者「そうじゃないと皆に……苦楽を共にした三人に合わせる顔がない」
勇者「第二の人生……ここから始めてやる」
酒場
商人「やってくれるんですかぁ!?」
勇者「ああ」
商人「ありがとうございます!!勇者様がいれば鬼に金棒!!虎に翼ですぅ!!」
勇者「で、何から始めるんだ?」
商人「なによりも資金がないと駄目ですね」
勇者「資金か……いくらぐらいいるんだ?」
商人「建設費……土地……そのた諸々で……1億Gぐらいは」
勇者「そんなに?」
商人「でも、すぐに戻ってきますよ」
勇者「半分ぐらいなら出せるが」
商人「十分ですよぉ。残りの半分は私がなんとかしますから」
勇者「そうか」
商人「がんばりましょうね!!」
勇者「ああ!!」
数週間後
商人「いやぁ……いい感じです」
勇者「ここに建つんだな……俺たちの店が」
商人「ふふ、違いますよ」
勇者「え?」
商人「夢が叶うんです」
勇者「夢か」
商人「でも、ここは始まりにすぎません」
勇者「どういうことだ?」
商人「ここは第一号店ですから。世界各国に私たちの店舗を建てるんです!!」
勇者「すごいな」
商人「はい」
勇者「そうなるといいな」
商人「そうするんです!」
勇者「そうだな。実現してみせるか」
数ヵ月後
商人「できたぁー!!」
勇者「あとは従業員の確保と経理のこととかを―――」
商人「あ、勇者様」
勇者「ん?」
商人「勇者様は経営者として社長をしていただきます」
勇者「社長?!」
商人「会社の顔になっていただかなくては」
勇者「務まるかな……」
商人「安心してください。雑用は全て私が引き受けます!!」
勇者「いいのか?」
商人「はい。でも社長も大変ですよ?従業員の尻拭いをしないといけないこともありますし、他店との契約の場にも出席しないといけませんし」
勇者「……やれるだけのことはやる。任せてくれ」
商人「はい。ま、勇者様ならどんな交渉事もスムーズに行きそうですけどね」
勇者「そうかな?そうだといいけど」
一ヵ月後
「ここが勇者様のカジノか?」
「いこうぜ。馬なんかより信頼できそうじゃね?」
「だな」
商人「いやぁ、いい感じですねえ」
勇者「開店してから一週間……賑わいが衰えることがなくて安心だ」
商人「当然ですよ。何せ、勇者様のカジノですからねー!!」
勇者「そうか?」
商人「はい」
勇者「……なんだか、まだ実感ないな」
商人「すぐに社長として自覚も芽生えますって」
勇者「ああ……」
商人「一緒にがんばりましょう」
勇者「そうだな。夢を叶えるために……!!」
数週間後
「では、契約をしてもらえるのですか?」
勇者「はい。こちらとしましてもやはり安全は確保したいので」
「助かります」
勇者「では、これから店の警備はお願いします。今まで、自分が兼任していましたがどうにも片手間になりますので」
「任せてください」
勇者「お願いします」
「はい」
勇者「―――ふぅ」
商人「お疲れ様」
勇者「業務契約は意外と面倒なんだな」
商人「まぁ、そんなものですよ」
勇者「そうか」
商人「……」