勇者「え?」
戦士「なんだ、お前あれからもう何ヶ月もたってるのに何もしてないのか?」
勇者「え?いや……」
戦士「俺、用心棒の仕事してるけど」
勇者「うそ……」
戦士「勇者からニートはちょっと笑えないぜ」
勇者「……」
戦士「まぁ、報奨金が出たからしばらくは何もしなくていいんだろうけど、でも世間体悪くないか?」
勇者「あの……」
戦士「しかも、ちょっと見ない間にお前、太ったよな?」
勇者「!?」
戦士「旅してるときはあんなに凛々しかったのに……情けない」
勇者「いや……5キロだけだし」
戦士「どうすんだよ?」
勇者「う……」
戦士「仕事、紹介してやってもいいけど?」
勇者「いい。自分で探す」
戦士「そうか」
勇者「他のみんなも仕事してるの?」
戦士「いや、聞いてない」
勇者「そう……」
戦士「じゃあ、そろそろ行くわ」
勇者「うん」
戦士「またな」
勇者「……」
勇者(みんなも遊んでると思ってたのに……)
街
勇者「……仕事かぁ」
勇者「何ができるだろう……」
僧侶「あら、勇者様?」
勇者「あ!久しぶり!!」
僧侶「……少し、太られました?」
勇者「い、いや……むくんでるだけ」
僧侶「そうですか」
勇者「君は今、なにしてるの?」
僧侶「教会のほうで働いてます」
勇者(そうだよなぁ……)
僧侶「なにか?」
勇者「いや、なんでもない」
僧侶「それでは買い物の途中なので」
勇者「ごめん」
僧侶「またご一緒にお食事でもしましょう」
勇者「そ、そうだな」
僧侶「では、失礼します」
勇者「……」
勇者「みんな、もう第二の人生を歩み始めてるんだ」
勇者「……」
勇者「……俺、魔王を倒したあとのことなんて考えてなかったもんなぁ」
勇者「……どうしよう……」
勇者「やりたいことなんてないぞ……」
勇者「はぁ……」
魔法使い「あー!!勇者じゃーん!!」
勇者「おー!!」
魔法使い「久しぶり!!元気だった?!」
勇者「君も相変わらずだな」
魔法使い「まぁね」
勇者「今は何してるんだ?」
魔法使い「結婚して主婦してるよ」
勇者「いつ結婚したんだ!?」
魔法使い「旅が終わってすぐ。両親が見合いしろってうるさくてさぁ」
勇者「……」
魔法使い「まぁ、家系が家系だけに色々あるんだよね」
勇者「そうか……」
魔法使い「で、勇者はなにしてんの?」
勇者「俺は……えっと……」
魔法使い「ふふ、勇者のことだから社会に貢献することでもしてんの?」
勇者「う、うん。まぁ、そんなとこ」
魔法使い「さっすが!!」バンバン
勇者「いたいよ」
魔法使い「あーあ、こんなことなら玉の輿にのっとくべきだったなぁ」
勇者「玉の輿?」
魔法使い「ほら、勇者の一族に嫁げば箔がつくじゃん?」
勇者「君は……」
魔法使い「でも、もう遅いか、あはは」
勇者「……」
魔法使い「それじゃあ、またねー」
勇者「ああ、またゆっくり話そう」
魔法使い「あーい」
勇者「……」
自宅
勇者「……」
勇者「はぁ……みんな、しっかりと未来にむかって歩いてる」
勇者「自分だけが……取り残されている」
勇者「まだ、魔王を倒したあの時間にいるみたいだ」
勇者「……」
勇者「これからどうしよう……」
勇者「このままじゃあ……再会したときに惨な思いをするだけだ」
勇者「働こう」
勇者「……」
勇者「でも……何をしたらいいか……」
勇者「基本的になんでもできるしな……勇者だし」
ルイーダの職業案内所
勇者「ま、とりあえず求人でもみてみるか」
勇者「すいません」
「はい?」
勇者「えっと」
「あれー?勇者様?」
勇者「ええ」
「どうかしたんですか?」
勇者「えっと」
「もしかして、視察?」
勇者「え?」
「王様のところで騎士をしているんでしょう?いやはや、ご立派ですね」
勇者「……」
勇者(まさか……)
「これからもがんばってくださいね」
酒場
「勇者様じゃねーか」
勇者「どうも」
「なんでも国の客員剣士になったんだってな」
勇者「……ええ」
「通りで最近、顔を見せないとおもった」
勇者「……」
「で、今日は何をのんでく?」
勇者「……」
勇者(勇者……すごい出世してるな……)
勇者(ありえないことじゃなかった……)
勇者(世界を救った者がただのニートに成り下がっているなんて、確かに普通の人は想像もしない)
勇者(普通の仕事にも就けないぞ……)
自宅
勇者「どうする……」
勇者「用心棒や城の兵士なんかも……皆を失望させるだけだ……」
勇者「くそ……」
勇者「王に頼むか……」
勇者「でもなぁ……」
勇者「魔王討伐後、王からなんの誘いもない時点で絶望的だろうし」
勇者「……」
勇者「いや……物は試しだ」
勇者「明日、王に頼んでみよう」
勇者「勇者が直接頼みにいけば騎士ぐらいはさせてくれるだろう」
勇者「よし」
翌日 王城 謁見の間
王「―――すまんが騎士は十分に足りておる」
勇者「え」
王「それに勇者ほどの実力者を雇うほど、もう世の中に危険はないのでな」
勇者「あの……客員剣士でも」
王「いや、必要ない」
勇者「……」
王「それよりアレから何をしておるのかの?」
勇者「えと……魔物の残党を狩ってます」
王「すばらしい。がんばってくれ」
勇者「はい」
勇者(平和が憎い)
街
勇者「……」トボトボ
勇者(世の中が荒れているときは、何も考えなくてよかったな)
勇者(いや、何を考えているんだ)
勇者(平和が一番じゃないか)
勇者(でも……)
僧侶「あ、勇者様」
勇者「あ」
僧侶「また会いましたね」
勇者「……」
僧侶「どうかされました?」
勇者「教会……人手足りてる?」
僧侶「はい?」
僧侶「―――なるほど、働き口を」
勇者「そうなんだ」
僧侶「では、私のところで働いてみますか?」
勇者「いいの!?」
僧侶「でも、勇者様とて新人として扱いますからね?」
勇者「あ、ああ!!」
僧侶「では、参りましょう」
勇者「ありがとう!!」
僧侶「いえいえ」
勇者(教会か……)
勇者(神に仕える職ならまあ、みんなも納得してくれるだろう)
教会
神父「事情はわかりました。では、明日からここで働いてもらいましょう」
勇者「即決してもらうのは嬉しいですが、いいのですか?」
神父「勇者様の人格を疑うなどだれができましょう」
勇者「ありがとうございます」
神父「では、まずは自室を決めましょう」
勇者「え?」
神父「ここでは寮に入っていただきます」
勇者「でも、自宅があるんですが」
神父「決まりです」
勇者「……わかりました」
神父「案内してさしあげて」
僧侶「はい」
勇者「寮か……予想外だ……」
寮
僧侶「ここです」
勇者(せま……)
僧侶「必要な荷物があれば今日中に運んでください」
勇者「あ、ああ」
勇者(あれ……なんか厳しくなってないか……?)
僧侶「毎朝4時に起床。ベッドのシーツを畳んだあと大聖堂にてミサを執り行います」
勇者「4時?!早くないか?!」
僧侶「決まりです」
勇者「……」
僧侶「その後、聖堂の掃除を行い、6時に朝食です。そのあとは―――」
勇者(なんだよ……なんでこんな厳しいんだよ……)