盗賊「うわぁ、本物かぁ」
勇者「……って、責めるには日がたちすぎてるな」
盗賊「やっさしー」
勇者「怒るぞ?」
盗賊「そっかぁ……魔王を倒した勇者様が詐欺で逮捕かぁ。世も末とはこのことかにゃ?」
勇者「平和なのにな」
盗賊「しってるぅ?ついに世の中から魔物がいなくなったって」
勇者「そうなのか」
盗賊「これでこの世界は人間と動物だけになったわけだぁ。めでてー」
勇者「そうだな……本当に……」
盗賊「悔しくないの?」
勇者「なにが?」
盗賊「だってさぁ、魔王を倒したんでしょぉ?それに魔物に支配された町や村も救ってきたんでしょ?新聞でいっつも一面だったから知ってるよー」
勇者「そうだな」
盗賊「こんな扱いうけたくないでそ?」
勇者「できればな」
盗賊「なら、逃げようっか?」
勇者「脱獄するのか?」
盗賊「勇者様さえよければね」
勇者「でも……」
盗賊「今更、世間体を気にしても手遅れでしょ?」
勇者「……」
盗賊「にげようぞー」
勇者「しかし……これ以上は……」
盗賊「ま、ゆっくり考えればいいよ」
翌日
盗賊「そうそう。なんで勇者様の家に忍び込んだかというとね」
勇者「金目の物があるとおもったんだろ?」
盗賊「それもあるけど、勇者様に会いたかったってのもあるよ?」
勇者「なんで部屋を荒らすんだよ」
盗賊「あれは私じゃないし。仲間がやったし」
勇者「同じだ」
盗賊「そうかなぁー?」
勇者「そうだよ」
盗賊「ふわぁぁ」
勇者「……」
盗賊「で、脱獄する気になったかしらん?」
勇者「……」
盗賊「まぁいいけど」
数日後
兵士「面会だ」
勇者「……」
兵士「こちらだ」
勇者「……」スタスタ
勇者「……」チラッ
盗賊「やっほ」
勇者(俺より年下じゃないか……)
盗賊「私もつれてけー」
兵士「うるさい」
盗賊「ぶぅー」
勇者「……」
勇者(こんな子が強盗をしなきゃいけないのか……平和には程遠いな)
勇者「あ……」
僧侶「勇者様」
魔法使い「ひどい顔」
勇者「二人とも……」
僧侶「驚きました……」
魔法使い「私たちは戦士から事情をきいたよ。戦士ががんばってるからもうすぐ出れると思う」
勇者「そうか……」
僧侶「勇者様……ここを出たらもう一度教会に来ませんか?」
勇者「え?」
僧侶「……やはり、あの……」
魔法使い「一緒にいたいんだって」
僧侶「ちがいます!!」
勇者「考えとく、ありがとう」
僧侶「はい……」
牢屋
盗賊「出れるの?!やったじゃーん!!」
勇者「ああ……」
盗賊「よかったねー」
勇者「君は?」
盗賊「さぁ?」
勇者「……」
盗賊「私は色々してきたからねー。極刑かもしれんのぉ」
勇者「そうか」
盗賊「あはは、きにしなくてもいいよ」
勇者「気にはしてない。自業自得だ」
盗賊「わぉ」
勇者「でも……事情はあったんだろう?」
盗賊「なんで?」
勇者「理由もなく盗みで生計を立てようなんて普通は考えない」
盗賊「最初に言ったけど、何をしても失敗する屑なんだよ」
勇者「……」
盗賊「親を失って、住み込みの仕事をしても雇い主に襲われるなんて当たり前だし」
勇者「……」
盗賊「それが嫌で逃げ出しても、また同じことの繰り返し」
勇者「君は……」
盗賊「だから盗むしかなかったんだよにぇー」
勇者「そうか……」
盗賊「あっと、同情はいらないよぉー。それでも悪いことせずに生きてる人はいるからねー」
勇者「そうだな」
盗賊「勇者様と話せて嬉しかったよ」
勇者「どうして?」
盗賊「英雄だしね。犯罪者の心も洗われるといいますか」
勇者「なんだよ、それ」
盗賊「えへへ」
数週間後 街
勇者「まぶしい……」
兵士「勇者殿……辛いことが待っているでしょうが、がんばってください」
勇者「……」
僧侶「勇者様」
勇者「迎えに来てくれたのか?」
僧侶「はい」
勇者「あの……」
僧侶「はい?」
勇者「また、教会でお世話になってもいいか?」
僧侶「はい」
勇者「ありがとう」
僧侶「では、いきましょう」
教会
神父「勇者様……」
勇者「もう一度、お世話になります」
神父「はい、構いません」
勇者「すいません。一度、逃げ出した身でありながら」
神父「色々あったのですね。以前とはまるで顔つきが違う」
勇者「はい」
神父「では部屋に」
僧侶「いきましょう」
勇者「ああ」
「あれだよ」
「詐欺師の?」
「こわいわね」
勇者「……」
翌日 街
勇者「買出しの物は……」
「詐欺師だ」
「魔王を倒したのも実はうそなんじゃない?」
勇者「……」
僧侶「勇者様、あの……」
勇者「はやく済ませよう」
僧侶「雑音は気にしないほうが」
勇者「気にしてない」
僧侶「……」
「この街でもなんかする気なのか?」
「やだなー」
勇者「……っ」
数日後 教会
勇者「少し出かけてきます」
僧侶「はい……」
シスター「勇者様……口数が少なくなってきましたね」
神父「仕方ないとはいえ、市民からの中傷の言葉が相当堪えているのでしょう」
シスター「そうですね」
僧侶「どうにかしてあげれないでしょうか?」
神父「そうですね」
僧侶「魔王を倒したのに……この扱いは……」
シスター「ですが一度転落した評価は中々元に戻せません」
神父「ええ」
僧侶「そんな……」
神父「勇者様の誠実な心が皆に届くのを待ちましょう」
面会室
盗賊「わぁ!!勇者さまぁ!!」
勇者「元気だったか?」
盗賊「なんできたの?」
勇者「なんとなく」
盗賊「そっかぁ」
勇者「これ差し入れ」
盗賊「ごっつぁんです」
勇者「……」
盗賊「やっぱり世間の風、冷たいでしょ?」
勇者「え?」
盗賊「犯罪者ってそうなんだよねー。信頼なんて旧知の仲間以外からは得られないし。何か事件が起こるたびに疑われるんだよね」
勇者「みたいだな」
盗賊「辛い?」
勇者「まぁな」
盗賊「……ねえ」
勇者「ん?」
盗賊「脱獄、手伝ってくれない?」
勇者「ば……!!」
盗賊「静かに」
勇者「どうして?」
盗賊「なんか極刑らしいの、私」
勇者「……」
盗賊「死ぬのはいやなのぉ」
勇者「でも……」
盗賊「勇者様のことを蔑むような国なんて捨てちゃってさ、私と一緒に遠くで住もうよ」
勇者「……」
盗賊「ねえ?」
勇者「考えとく」
盗賊「あ、いったな。信じるからねー」
夜 自室
勇者「……」
勇者「遠くで住む……」
勇者「故郷に思い入れがないわけじゃない」
勇者「捨てるなんて考えたこともなかった」
勇者「……」
トントン
勇者「はい?」
僧侶「お邪魔します」
勇者「どうした?」
僧侶「あの……大丈夫ですか?」
勇者「ああ。平気だ」
僧侶「辛いことがあればなんでも言って下さい」
勇者「じゃあ、朝、もうすこし寝かせてくれない?」
僧侶「駄目です」