数日後 面会室
勇者「脱獄の計画は?」
盗賊「やってくれんの?」
勇者「聞くだけ聞く」
盗賊「あんがと!」
勇者「早く言え」
盗賊「勇者様は西の門扉の前にいて」
勇者「それだけでいいのか?」
盗賊「だって、外からじゃなにもできないでしょ?」
勇者「まぁ、な」
盗賊「決行日は一週間後の午前0時」
勇者「……」
盗賊「西門に勇者様がいなければ私はなんとかして一人で逃げるけど」
勇者「……俺がいたほうがいいのか?」
盗賊「成功率が跳ね上がるからにぇー」
一週間後 夜 教会
勇者「……」
僧侶「勇者様?もうすぐ消灯の時間ですよ?」
勇者「……」
僧侶「あの……」
勇者「ありがとう」
僧侶「え?」
勇者「それじゃあ」
僧侶「あの……」
勇者「……」スタスタ
僧侶「……」
僧侶「どこに……いくんですか……?」
勇者「……お風呂」
僧侶「……湯冷めしないように暖かくしてくださいね?」
勇者「うん」
西門
勇者「ここか……」
勇者「ふー……」
勇者「もうこの国に俺の居場所はない」
勇者「第二の人生を歩むなら……知人が一人もいない場所を選ぶべきだったんだろうな」
勇者「……」
勇者「そろそろか……」
勇者「……」
盗賊「―――あ、いたいた」
勇者「早く降りて来い」
盗賊「よっと」
勇者「どこにいく?」
盗賊「勇者様、ありがとう」
勇者「気にするな」
盗賊「私の村……魔物から救ってくれて」
勇者「え?」
盗賊「お父さんとお母さんを殺した魔物を勇者様が倒してくれたんだ」
勇者「君……」
盗賊「だから、お礼が言いたかった。ずっと……ちゃんと」
勇者「そうか」
盗賊「あと恩返しもね」
勇者「そんなこと」
盗賊「……私、盗賊団の首領だから極刑になるんだと思う」
勇者「君が?!」
盗賊「すごいっしょ?」
勇者「すごいってもんじゃないな」
盗賊「だから……私を捕まえればきっとみんなは信頼してくれるよ」
勇者「なにを―――」
盗賊「ぎゃぁぁ!!!つかまったぁぁ!!」
兵士「―――いたぞ!!こっちだぁ!!!」
勇者「おい!!」
盗賊「おのれー!!まさか勇者がいるとはぁぁ!!!」
勇者「ちょっとまて!!」
盗賊「くっそー!!しくじったぁ!!」
兵士「勇者殿!!ありがとうございます!!」
勇者「いや、ちが……」
盗賊「流石だな。私の計画を事前に調べていたとは」
兵士「お見事です」
勇者「あの……」
兵士「こっちにこい!!」
盗賊「ひっぱんじゃねえ!!」
勇者「あ……」
盗賊「(バイバイ、勇者様)」
勇者「……」
翌日
神父「聞きましたぞ、勇者様。まさか盗賊首領の脱獄を未然に食い止めるとは」
勇者「いや……」
シスター「街は勇者様の話題で持ちきりです」
勇者「……」
僧侶「戦士さんの話も皆やっと信じてくれました」
神父「勇者様の活躍からすれば当然でしょう」
勇者「俺……」
僧侶「勇者様?」
勇者「あの……少し出かけてきてもいいですか?」
神父「どこへ?」
勇者「首領の顔を見に行ってきます」
神父「そうですか、どうぞ」
勇者「失礼します」
面会室
勇者「……」
盗賊「あ、きたぁ」
勇者「どうして……」
盗賊「だって、今まで死ぬ思いで魔王と戦ってきたのに、みんなに振り回されて不幸になるとか見てらんなくてぇ」
勇者「死にたくないんじゃなかったのか?!」
盗賊「死にたくないけど、私の村を救ってくれた勇者様が馬鹿にされるのはもっと嫌だしにぇ」
勇者「君は……」
盗賊「明日、絞首刑だってさ。苦しいのかなぁ?」
勇者「……」
盗賊「今まで世界のためにありがとね。これからは騙されないように生きないとだめだぞ?」
勇者「俺は……」
盗賊「救いようのない屑が一人死ぬだけじゃん、同情の余地はないって」
勇者「……」
盗賊「それじゃあ、バイバイ」
翌日
兵士「上がれ」
盗賊「はいよー」
兵士「……勇者殿が一枚上手だったな」
盗賊「だねー、まいっちゃうよ」
兵士「……」
盗賊「私も勇者様の一味なら死なないで済んだかなぁ?」
兵士「かもな」
盗賊「ま。一度、勇者様に救ってもらった命だし、勇者様のために使うのは当然かにゃ?」
兵士「なんのことだ?」
盗賊「なんでもありませーん。ほらほら、はやくしてよ」
盗賊「……手の振るえがとまんないんだから」
兵士「わかった……」
盗賊(今度生まれ変わったら絶対に勇者様と―――)
教会
勇者「……」ゴシゴシ
僧侶「勇者様?」
勇者「ん?」
僧侶「どこかお元気がないようですが……」
勇者「そんなことない。みんなの信頼が戻ってきたんだ、嬉しいに決まってる」
僧侶「……」
勇者「これからは裏切らないように生きていこう。そう思っただけ」
僧侶「そうですか」
勇者「じゃないと、あの子に申し訳ないから」
僧侶「あの子?」
勇者「なんでもない……」
僧侶「なら、いいのですが……」
数ヵ月後
戦士「久しぶり」
魔法使い「よう!!」
僧侶「おかわりないようで」
勇者「元気そうだな」
戦士「ま、色々あったけどな」
魔法使い「そっちの進展は?」
僧侶「な、なんのことですか!?」
戦士「教会暮らし、もう慣れたか?」
勇者「ああ……すっかりな」
戦士「そりゃよかった」
勇者「なぁ……旅に出ないか?」
魔法使い「え?なんでいきなり?」
勇者「ちょっと行きたいところがあるんだ」
戦士「どこだよ?」
勇者「遠く」
魔法使い「遠くって……」
僧侶「漠然としすぎですよ」
戦士「でも、いいな。行ってみようぜ」
魔法使い「じゃあ、私もいこっかなぁ。退屈してたとこだし」
僧侶「み、みなさんがいくなら私も!!」
勇者「ありがとう」
勇者「もう一度、見ておきたんだ」
戦士「何を?」
勇者「あの子が笑顔でいられた、場所を―――」
END