魔王「勇者を育成・・・・・・」 2/8

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魔王「あ、ああ、勿論・・・・・・。あ、敬語を使い忘れていた、すまない・・・・・・許してくれ」

女勇者「え、今気付いたんですか?」

魔王「すまない。 ずっと普通に話していた・・・・・・」

女勇者「ふ、ふふっ。 いいですよ。 騎士さんは私の師匠になるんですから。 年上ですし敬語なんていいです」

魔王「そうか、ならそうしよう」

女勇者「なんだか、あっさりしすぎても・・・・・・」

魔王「ん?」

女勇者「いえ! 何でもないです!」

魔王「そうか。 それより、これから何処か行くあてなどあったのか?」

女勇者「いえ、数日過ごせば森を抜けようかなと思っていただけです」

魔王「ふむ。 なら、森でお前の戦いを見せて貰おう。 森を抜ければ鍛練のメニューを決める」

女勇者「だぁっ、やあっ!」

魔王「・・・・・・」

女勇者「いやぁーっ! てぇーぃ!」

魔王(悉く空振り・・・・・・、成程。多数を相手にすれば反れた攻撃が他者に当たるから勝てたわけか・・・・・・)

女勇者「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・だぁっ!」

魔王(一対一ではどちらも攻撃が当たらず、疲労した方から離脱、・・・・・と)

おおなめくじ(ど、どうしたら・・・・・・?)

魔王(いや、もう下がって良いぞ)

おおなめくじ(へ、へへぇ)ズズズ

女勇者「ぜーぜー・・・あ、ど、どうですか騎士さん! おっ、追い払いましたよ!!」

魔王「ん、・・・・・・うむ(しかし、ここまでとは・・・・・・)」

魔王「とりあえず、剣筋が大振りすぎる。 小さい体に重い剣が振り回されて、無駄に体力を消耗しているのだ」

女勇者「は、はぁ・・・・・・」

魔王「疲労が顔に出ている。 負ぶされ。 後は私が戦おう」

女勇者「え、え、い、いいです! そ、そんな、あ、歩けますよ!!」

魔王「違う。 私の剣の振り方。 体捌き。 体で感じるのだ」

女勇者「え、えぇーっ・・・・・・。わ、わかり、ました・・・・・・恥ずかしい、ですけど」トサ ギュ

魔王「ん、森を抜ければとりあえずお前にあった剣を選ぶぞ、っと・・・ん、マンドリルか。見ていろ、お前の戦い方の最終目標を」

マンドリル「キキ、キキキキッ!」グワッ

魔王(知能の低い魔物で助かった。 魔王と認識されれば殺り難くなる)ヒュオッ

女勇者「わ、わわっ!」グルン

マンドリル「キキ!? ギッ」ドッ! ゾンッ

魔王「感じたか? 今の踏み込み、構え、そして一刀両断。 一撃必殺の太刀筋だ」

魔王「これだけだ。 これだけ習得すれば、魔王すら屠る事が出来る」

女勇者「一撃、必殺・・・・・・」

魔王「どうだ、出来そうか?」

女勇者「え、えーっ、む、無理ですよ。 あんな速い剣・・・・・・」

魔王「ふ、丁寧に教えてやる。 しかし、まずは森を抜けねばな。 また魔物に出会えば次はもっとゆっくり振ってやる」

女勇者「・・・・・・思ったんですけど、何であの時態と負けたんですか?」

魔王「? ああ、勝負の事か」

女勇者「騎士さん程強い人が何で、私の剣を?」

魔王「一撃先に、という勝負だったろう。 私はお前の加護を突き破ることが出来なかった。 だから私の負け」

魔王「しかし、思いついたのが、お前の剣を受けた後どうなるかと思ったのだ。案の定お前に簡単に触れることが出来た」

女勇者「あ、それで私の首から・・・・・・」

魔王「そうだ。 だからこそ一撃なのだ。 一撃で相手を殺す。 触れられる前に。 一撃で命を持っていく」

女勇者「・・・・・・出来るでしょうか」

魔王「ふ、この技術など修練を積めば何とでも。 問題は・・・・・・お前の心かもしれんな」

女勇者「心・・・・・・ですか」

魔王「うむ。 優しい者はいつだってそうだ。 他人の命を自分の命と同じように意識してしまう」

魔王「他人の痛みも、苦しみも、悲しみも、辛さも、自分が感じてしまう。 命を殺す事の責任で押し潰されていく」

女勇者「責任・・・・・・」

魔王「優しさを捨てろとは言わんが、生物としての厳しさを忘れてはならん。その厳しさを忘れた時、お前は死ぬ」

女勇者「よく、わかりません・・・・・・」

魔王「ふ、そうだろうな。分からないうちは迷うなよ。 迷いは剣を鈍らせ時間を奪う。時間は無いのだ、お前にも、私にも」

女勇者「は、はぁ」

魔王「と、話しながら歩いているうちに森を抜けそうだな」

女勇者「はい・・・・・・やっとですね・・・・・・」

魔王「さて、剣を買って宿を見つけた後、本格的な訓練を始めようか」

女勇者「わ、わかりました。私は何をすればいいですか」

魔王「宿を見つけてきてくれ。 私はお前に合う剣を探しておこう。 集合は、夕刻。 この広場で」

女勇者「は、はいっ。 頑張ります!」ダッ

魔王(・・・・・・さて、この街の剣では物足りんだろう。 側近に連絡して魔王城で良い剣を見つけようか)ピ

側近「は! 大丈夫ですか魔王殿! ここ暫く連絡が来ず、私は、私は・・・・・・」

魔王「ふむ、心配をかけたな。 だが案ずるな女勇者の一行に加えてもらった」

側近「・・・・・・そういう事では、無いのですが」

魔王「む? まぁいい、空間転移の出来るものをこちらに遣せ。 これから魔王城の剣を女勇者にくれてやるのだ」

側近「それは・・・・・・はい、分かりました。 私自ら参りまする。 街をお教え下さい」

魔王「レスカ・・・・・・だ。 待っているぞ」

側近「これは・・・どうでしょうか?」

魔王「いや、駄目だ。 徹底した一撃必殺の剣でなければ」

側近「むむ、私には思いつきませぬ・・・・・・」

魔王「いや、無理を言っているのは私だ。 気に病むな」

側近「は」

魔王「ふむ。 やはり母上の剣を持ち出すしかないか・・・・・・」

側近「! それは・・・・・・お言葉ながら、私にはその娘が扱えるとは思えませぬ」

魔王「しかし、もし扱えれば大魔王様に勝てるやもしれぬしな。 大それた事だが・・・・・・」

側近「もし、扱えるのならば、私は悔しいです。人間に、あの宝が扱われるなど・・・・・・それに」

魔王「それに、なんだ」

側近(父上殿の黒剣を魔王殿が持ち、母上殿の白剣をあの娘が持つなど・・・・・・)

魔王「・・・・・・何か問題があるか?」

側近「・・・・・・いえ、やはり、なんでも、ありませぬ(出来ることなら、私が持ちたかった・・・・・・)」

魔王「む? そうか。 遠慮なく次からも言え。まぁ、物は試しあの剣を持っていく」

側近「はい、用意致します。 お待ちを」

魔王「相変わらず白く輝いて素晴しい剣だな。しかし何故か、あの娘にくれてやるのは勿体無いとは感じぬ。不思議なものだ」

側近「・・・・・・あの、他の剣はどうするので?」

魔王「いらぬ。 人間であるあの娘なら扱える筈だ。 これ一本で構わぬ。 送ってくれ」

側近「は」シュン

魔王「ふむ、一瞬か。便利な魔法だ。 私も使いたいが難しいのでな」

側近「いえ、魔王殿のお役に立てるが至上の喜び。 今のままで構いませぬ」

魔王「ふはは、言ってくれる。 良かろう、これからもお前に頼るさ」

側近「は、はい・・・・・・」

女勇者「あの、す、すいません。 人を待っているので・・・・・・」

魔王「ん?」

街人「いいじゃねぇか。 ちょっとだけ付き合ってくれよ。な? 良い宿紹介するから」

女勇者「こ、困ります。 もう宿は決めてるので・・・・・・」

魔王(ふむ、絡まれたのならさっさと追い払えば良いものを・・・・・・間に入るか)

街人「あんなボロイ宿なんてやめとけって。お金ないんだろ? 面倒見てやるから、な?」スッ

女勇者「きゃ」バチッ

街人「アギャッ!」

魔王「!? なんだ、加護か?」

女勇者「あ、騎士さん!! 助けてください、なんか変な人が・・・・・・」サッ

街人「いってぇ・・・・・・何しやがった女ぁ・・・・・・!」

魔王「おい、失せろ」

街人「は・・・・・・」

魔王「失せろ、と言った」ジャキ

街人「な、なんだよ、マジになりやがって・・・・・・」

魔王「・・・・・・」

街人「く、くそ・・・・・・」タッ

魔王「なんだあの男は」

女勇者「宿を借りたときから引っ付いてきて・・・・・・。 追い払ってくれて有難うございます」ギュ

魔王「いや、それより先刻の加護は何だ?」

女勇者「え?」

魔王「え、じゃない。 お前に触れようとした手が弾かれたように見えたが」

女勇者「あ、そういえばそうですね。 な、なんでだろ・・・・・・」

側近「・・・・・・」

女勇者「あれ? この女の人は誰ですか・・・・・・?」

魔王「あ、ああ、私の部下だ。 この街にはお前に合う剣が無かったのでな。 故郷から持ってきて貰った」

女勇者「そ、そうですか・・・・・・それは、どうもすみません・・・・・・」

魔王「ここでは少し人目につく。街の外れに行こう。 側近」

側近「は」シュン

女勇者「え、い、いつのまに・・・・・・」

魔王「では、これを持ってみろ、女勇者」チャキン

女勇者「え、なにこれ・・・・・・綺麗・・・・・・」

魔王「・・・・・・どうだ、軽いか?」

女勇者「は、はい。 凄く軽いです」

魔王「側近、これは・・・・・・」

側近「・・・・・・ええ」

魔王「私達は離れておくから、自由に剣を振ってみろ」

女勇者「は、はい」

女勇者「・・・・・・すぅーはぁー・・・・・・。 っ、たぁい!!」ブワァッ

側近「なんと・・・・・・」

女勇者「す、凄い・・・・・・いやぁッ! ふぅーっ・・・・・・・はぁぁっ!!」

魔王「全てが拙い筈なのに、風が・・・・・・これは・・・・・・」

魔王(そうだ・・・・・・この光景は・・・・・・懐かしいぞ、あの姿だ・・・・・・見たことがある・・・・・・)

魔王「ふ、ふはは・・・・・・、は、母上だ・・・・・! 母上の剣が・・・・・・見えるぞ・・・・・・」

側近「・・・・・・」

女勇者「はぁ、はぁ、ふぅ、ふぅ・・・・・・」ドサリ

魔王「ふ、飯も食わず、あれから日付が変わるほどに剣を振ったのだ。よほど、その剣が気に入ったと見える」

女勇者「は、はいぃ・・・・・・。 凄くよかったです・・・・・・まるで自分じゃないような・・・・・・」

魔王「そうか、それは良かった。 側近」

側近「・・・・・・」

魔王「側近!」

側近「は、はっ! な、なんでしょうか魔王殿」

魔王「女勇者にあの剣はくれてやる。 それでよいな?」

側近「私は、魔王殿の決定に逆らうつもりはありませぬ。 どうぞご随意に」

魔王「・・・・・・今まで一言も喋らなかったが、どうかしたのか」

側近「! ・・・・・・そんな事は、ありませぬ」

魔王「まぁ、よい。 ところで女勇者、何処の宿を・・・・・・寝ている」

女勇者「ん、すぴー・・・・・・んんぅ・・・・・・・」

魔王「ふん、全く、これでは宿をとらせた意味が無い。 側近お前はどうする」

側近「は?」

魔王「一緒にあの街で泊まるか?」

側近「・・・・・・いえ、遠慮しておきまする。 それよりも、魔王城で休まれた方がいいのでは?」

魔王「起きた時に風景が魔物だらけではおかしいだろう。 宿にキャンセルを入れて来ねばならんし」

側近「しかし、訓練も魔王城の方が滞るのではないですか? 人間の姿に化けれぬ者達は追い出せば宜しいのです」

魔王「ふむ、一理ある。 しかし追い出すのはな・・・・・・」

側近「心配要らずとも出て行った魔物たちの住処は早急に作らせまする。 是非私の目の届く場所で!」

魔王「わ、わかった。あ、相変わらずお前の意見は頼りになるな、そのようにしよう」

魔王「・・・・・・しかし宿を探してキャンセルを入れてからな」

女勇者「ん、っ、・・・・・・え、あれ?」

側近「起きられましたか。 ご気分はどうです?」

女勇者「あ、騎士さんの、部下さん。 おはようございます、だ、だいじょぶです。あの、ところで・・・」

側近「なにか?」

女勇者「ど、どこですか? ここ・・・・・・」

側近「貴女の言う騎士殿の家です。 そして私の事は側近と御申し付け下さい」

女勇者「は、はい側近さん。 ・・・・・・で、なんで私は騎士さんの家に・・・・・・?」

側近「貴女が昨日疲労からの昏睡状態となってしまって宿の場所を聞けなくなったのです」

側近「その為、已む無く我が主が貴女を家まで連れて来たのです」

女勇者「え、ええー。 そ、それはごめんなさい・・・・・・」

側近「いえ、どうせ強くなるならばここで修行した方がよろしいですから。 いずれ来たと思います」

女勇者「はぁ」

女勇者「あ」グゥ

側近「ふふ、丸一日程何も食べてないんでしたね。今は昼過ぎなので軽食ですが、持って来ましょう」

女勇者「ほ、ほんとですか? わぁい」

側近「どうぞ」

女勇者「わぁ、さ、さんどいっち・・・・・・頂きます!」

側近「どうですか?」

女勇者「お、おいし・・・・・・側近さんが作ったんですか?」

側近「ええ、主殿への料理は私がたまに。 普段は侍女達がほとんどですがね」

女勇者「いいなぁ、私料理できないんです・・・・・・教えてくれませんか? さんどいっち」

側近「ええ、それぐらいなら。あ、食べ終わったのなら主殿に挨拶へ行かれて下さいね」

女勇者「あ、は、はいわかりました」

魔王「おお、やっと回復したのか」

女勇者「は、はい。ごめんなさい。なんだか迷惑かけたみたいで・・・・・・」

魔王「いや、いい。寝ている間に勝手に連れてきたのは私だから、本来なら責めて貰っても構わぬ」

女勇者「い、いえそんな・・・・・・。 あ、あの、ここ凄い城ですね・・・・・・」

魔王「ん、あ、ああ。 えっと、土地が悪いから安いのだ。 仕え人も少ないだろう?」

女勇者「そ、うですか・・・・・・?」

側近(十分富裕層レベルです・・・・・・)ヒソヒソ

魔王「(そ、そうか。すまん)ま、まぁ、あまり気にするな。 自分を鍛えるのには良い場所なのだ」

側近「・・・・・・我が主は、各地で様々な功績を立てている為、こうして富裕層の仲間入りをしていまする」

女勇者「そうなんですか! はぁ、騎士さん凄いんですね・・・・・・・」

魔王(すまん、助かった側近)ヒソヒソ

側近(いえ)

女勇者「それに、凄く大きなペットとかもいるし・・・・・・。騎士さん動物好きなんですか?」

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