側近「いえ、そんな事は」
女勇者「あ、よかったー。 喜んでるの私だけかと・・・・・・」
側近「なぜ、そんな簡単に私達を信用するのですか?」
女勇者「へ・・・・・・?」
側近「こんな見ず知らずの場所に連れられて、魔王を倒すなどというためだけに」
女勇者「・・・だって、悪い人には見えないんですもん」
側近「それだけですか?」
女勇者「はい。 普通私に悪意持ってたら弾かれちゃうのに。 弾かれないし・・・・・・」
側近「ああ、それは確かにいい証明かもしれませんね」
女勇者「それに、私を強くしてくれるなんて、とっても助かりますし、感謝してます」
側近「そうですか。 なら何も言いません。 明日から地獄の苦しみを味わってください」
女勇者「え、ええーっ!」
側近「ふふ」
魔王「やっと風呂か・・・・・・」
側近「は。 申し訳ありません」
魔王「いや、いい。 随分信用される為に策を打っていたようだしな」
側近「ぁ、覗かれていたので・・・・・・?」
魔王「の、覗いてはいないぞ。 聞こえだけだ」
側近「は、はぁ。 しかし、ただ会話していただけです。 策など・・・・・・」
魔王「なに・・・・・・? なら、何故あれ程仲良さそうに?」
側近「・・・・・・それは」
魔王「・・・・・・人間を扱ったのは、初めてか? 側近。 注意しておいてやろう」
魔王「今何故あの娘が我等を信用しているか。 それは我等が魔族だと知られていないからだ」
魔王「人間とは自分と違う者は悪と決め付ける生物。 所詮、相容れぬ者だと思え」
側近「しかし魔王殿は彼女を気に入っているのでは・・・・・・」
魔王「ふ、私は確かにあの娘を気に入ってはいる。だがただ駒としてだ。 大魔王を殺す為の駒」
魔王「あまり情を掛けるな。側近がそれほどまで甘いとは思わなかった」
側近「しかし、人間にも、例外が、いるのでは・・・・・・」
魔王「ならば、正体をあかせ。 それであの娘が去らねば、例外として認めよう」
側近「・・・・・・」
魔王「・・・・・・お前は優しい。 あの娘も優しい。 私は知っているよ」
魔王「だが、だからこそ、傷ついて欲しくない。 二人を選ばねばならないのなら、お前を」
魔王「お前が大事なのだ。 娘が傷つくよりも、お前が傷ついたほうが私は悲しい」
側近「魔王・・・・・・殿」
魔王「さて、風呂上りに大魔王討伐の相談があるのだ。 少し待っていろ」
側近「は、・・・は!」
側近(ふ、私に先程まであった娘に対しての想いが消えている。 魔王殿、私は貴方のためだけに・・・・・・)
魔王「ふぅ・・・・・・(なんとも、娘の無垢さは恐ろしい。 あれ程人間を嫌っていた側近が)」
魔王(私は、・・・優しくない・・・・・・甘いだけだ。 言葉にしなければ娘を愛して、護ってしまいたくなる)
魔王「くく・・・・・・。 側近に偉そうにいえんな、これでは・・・・・・」
侍女「おはようございます。 女勇者様」
女勇者「ふにゅー・・・おはようございましゅー・・・・・・」
侍女「失礼」ガサガサ ゴシゴシ ペタペタ
女勇者「ふにゅ、ふにゃ、んにゅ」
侍女「顔拭き終わりました。お着替え下さい」
女勇者「いまなんじですかー」
侍女「早朝の6時です。 朝食の後訓練ですので遅れないように」
女勇者「え、あ、うわ、ほんとですか!? ごめんなさい侍女さん!!」
侍女「お急ぎ下さい」
魔王「む、おはよう。 なんだ、今日は顔色が悪いな。 素振りは一週間しか訓練していないのにもう草臥れたか?」
女勇者「い、いえ、そんな事は・・・・・・」
側近「・・・・・・」トン
女勇者「ひぎぃ・・・・・・!」
魔王「ふ、構えの時と同じ筋肉痛か? 素振りの訓練を追加しただけだろう」
側近「昨日の時点で筋肉の限界が来ていましたよ。 私が洗いっこしようとしても拒んでいましたから」
女勇者「そ、それは別の理由ですよーっ。 側近さん最近手つきが・・・」
魔王「手つきが?」
女勇者「うーー・・・・・・・なんでもありません」
女勇者「・・・・・・すぅーーーっ・・・・・・やあッ!!」ブン
魔王「そうだ、一撃一撃丁寧に。 振ればゆっくり構えを戻し、体全体に酸素を取り込め」
女勇者「はいっ!」
魔王(だいぶ板についてきたな。 さて、そろそろ次の段階に・・・・・・)
側近「魔王殿」
魔王「ん、なんだ」
側近「女勇者の顔色が悪いです。休息をとったほうが・・・・・・」
魔王「ふむ、そうか。 ならば午後から休息をとらせよう」
女勇者「ほんとですか!?」
魔王「ああ、だが今は集中しろ。 気を抜けば休息は無しだ」
女勇者「ひぃいい」
側近「失礼します」コンコン
魔王「ん、どうした?」
側近「女勇者の実力はどうでしょうか? そろそろ次のステップに?」
魔王「ふ、お前も思ったか。 よし、ならば明日から別の訓練だと女勇者にいっておけ」
側近「は」
魔王「ああ、そうそう犬にも・・・・・・」
側近「承知しております」
魔王「ん、お前は相変わらず優秀だな。 頼んだぞ」
側近「は」
魔王「・・・・・・順調だ。 ・・・・・・勇者、か」
魔王「さて、お前は今日この、犬を相手にして貰う」
ケルベロス「グルルル・・・・・・!」
女勇者「ひ、ひぃいいいいいい・・・・・・!!」ビクビク
魔王「・・・・・・。そう怯えるな、コイツにお前の加護は突き破れぬよ」
女勇者「で、でも・・・・・・こんな大きくて顔が三つもあるのなんて犬じゃ、な」
ケルベロス「ガァァアアアアアッ!!!」
女勇者「ひやぁああああっ!!」プルプル
魔王「・・・・・・見事一撃。一撃だ。 コイツに当てろ」
女勇者「ひぇえぇええ・・・・・・!」
ケルベロス(攻撃重視でいけば宜しいので?)
魔王(うむ。 暴れて構わん)
ケルベロス(は)
ケルベロス「ッガァッ! ギャオゥッ!!」ブオンブオン
女勇者「ひゃ、いやぁ・・・・・・! きゃぁあああ!!」ドタドタ ドサッ
魔王「おい、お前が逃げ回ってどうする。この犬は動きは緩慢で、剣は当て易い筈だ。どっしり構えろ!」
女勇者「だ、だって・・・・・・」
ケルベロス「ジャゥッ! ギャァオオッ!」ドンドゴン
魔王(ふむ、石の破片も女勇者に届かぬとは・・・やはり強力)
魔王「絶対に当たらぬ。当たる時は弱い剣が当たった時だけだ。 教えた一撃を思い出せ!」
女勇者「う・・・・・・うぅ・・・・・・がんばれわたしがんばれわたし・・・・・・!!」ジャキ
ケルベロス(!? 空気が・・・・・・)
魔王「そうだ、目を瞑れ。どうせ当たらぬ。 空気の震えを感じ取れ、犬が攻撃する瞬間に剣を振るえ」
ケルベロス(ど、どうすれば・・・・・?)
魔王(お前のタイミングで攻撃して構わん。 ただし剣が当たれば攻撃を止めろ)
ケルベロス(む、無茶を言う・・・・・・)
ケルベロス「グ・・・ルルル・・・・・・」
女勇者「すぅーーーっ・・・・・・はぁーーーーっ・・・・・・」
魔王「そうだ、恐れるな。お前が振るうは虚空へ。 全力で震える空気を切れ」
女勇者「・・・・・・すぅ」ピィィン
ケルベロス「・・・・・・・グ、グオアアアアッ!! ダァヤォオオッ!!」グワッ
女勇者「・・・・・・いやあああッ!!!」カッ
ケルベロス「・・・・・・!?」シュゥウ・・・
女勇者「・・・・・・?」
魔王「うむ。 合格だ。 見事一撃入れることが出来たな」
ケルベロス(魔王様!! 何故間に入られたのですか!!)
女勇者「き、騎士さん。 なんで・・・・・!?」
魔王「なに、この馬鹿犬が一撃受けたぐらいでは止まらなかったのでな」
ケルベロス(す、すいません魔王様、どうにも止めることが・・・・・・)
魔王「犬はよい。 この女勇者の一撃がまだまだ甘いから、押し切られる。 明日からも訓練だな」
女勇者「き、騎士さん・・・・・、すみません未熟なばっかりに・・・・・・」
魔王「いや、未熟なものか。 空気の震えへ反射的に剣を振った時点で予想以上だ。 才能か」
女勇者「そ、そうですか? 私夢中で・・・・・・えへへ」
魔王「しかし、威力に関しては及第点以下だ。 本気ならばこの豪腕を真っ二つに出来た筈」
女勇者「・・・・・・はい」
魔王「筋力で威力を上げようと考えるな。体中に満ちている魔力で己を強化する、明日からは突き詰めて教えよう」
女勇者「え、じゃぁ今日は・・・・・・」
魔王「うむ。 休め」
女勇者「やたーっ!」
魔王(ふふ、可愛いものだ。 ・・・・・・・待て、私は何を思った。 無意識に、何を・・・・・・)
側近「・・・・・・」
女勇者「側近さん、今日も一緒にお風呂入りましょーっ!」
側近「あ、はい。 わかりました。 先に入っておいてください」
女勇者「はい、待ってますね!」
側近「・・・・・・」
女勇者「ふーっ・・・・・・、この温泉のお蔭でなんとかもってるかんじがしますー・・・・・」
側近「ふふっ・・・・・そうですね・・・・・・」
女勇者「・・・・・・ねぇ、側近さん。 なんだか最近、・・・・・・悩んでますか?」
側近「! ・・・・・・そ、そんな事は、・・・ありませぬ」
女勇者「うそだぁ、元気ないですもん。 相談ならうけますよ! 側近さんにはいつもお世話になってますし!」
側近「・・・・・・女勇者殿は、純粋ですね。 羨ましいです・・・・・」
女勇者「じゅ、純粋・・・・・・? そ、そんな事ないですよ!」
側近「そうですか? ふふ」
側近「・・・・・・貴女は、身近な人が敵だと分かったら・・・・・・どうしますか?」
女勇者「? てき・・・・・・?」
側近「分かりませんか? たとえば、私が、敵だったら・・・・・・」
女勇者「え!? 側近さん敵だったんですか!? 誰の敵ですか!」
側近「え、貴女・・・・・ふふふ、あははっ。 女勇者殿は可愛いですね」
女勇者「え、そんな、可愛いなんて・・・・・・」
側近「・・・・・もし、もし貴女の敵が私だったなら、どう、思いますか?」
女勇者「? ・・・うーん、側近さんはどうなんですか? もし、私が側近さんの敵だったら・・・・・・」
側近「それは・・・・・・嫌いに、なれないと、思います」
女勇者「そうですよね! だから私も側近さんを嫌いになったりしません、だって、友達ですもん!」
側近「と、ともだち・・・・・・」
女勇者「いや、お姉ちゃんかな、やっぱり・・・・・・、あ、それとも、こんなの、迷惑ですか・・・・・・?」
側近「いえ・・・・・・・とても・・・嬉しいです・・・・・・」
女勇者「はぁ、良かった・・・・・・・あ、えっと、悩んでたのってその事なんですか?」
側近「え、ええまぁ、そんなとこです・・・・・」
女勇者「そうですか! よかったです、解決して! じゃぁ、久しぶりに洗いっこしましょうか」
側近「・・・・・・いいのですか? 念入りに洗いますよ?」
女勇者「う・・・・・・。い、いいですよ、でも側近さんは二分です、二分だけですよ!」
側近「ふふ、いいですよ。 二分で、余裕です」
女勇者「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」
側近「あら、どうしたのですか? まだ一分ですが」
女勇者「うぅ・・・・・・いじめっこです。 側近さんは・・・・・」
側近「ふふっ・・・・・・(魔王殿、私にはこの少女を・・・・・・)」
側近「魔王殿、よろしいですか」コンコン
魔王「ん、側近か、入れ」
側近「は」
魔王「で、どうしたのだ?」
側近「・・・ええ、実は、女勇者殿の訓練について全体の予定を聞いていなかったので」
魔王「ああ、うむ。 呑み込みの速さから見て、この予定で十分な筈だ、見てくれ」
側近「・・・・・・まだ半年ある筈ですが、これは余りにも激務なのでは・・・・・・?」
魔王「もう、剣の型は出来ている。 後は実践だ」
側近「しかし、このリストを見ても生半可な訓練ではありませぬ。 私より遥かに強いものばかりではないですか!」
側近「今日は魔王殿が止めに入れたものの、この連中では万が一に間に合いませぬ! 殺す気ですか!?」
魔王「だが、大魔王はそれらより遥かに強い。そして最後は私も女勇者と相手をするつもりなのだ」
側近「な・・・・・・!」
魔王「側近、大丈夫だ。私の目の前であいつが死ぬ様な事態にはさせぬ。心配するな」
側近「・・・・・・」
魔王「・・・・・・情を移すな、と言わなかったか? 女勇者の苦しみをいかにもお前が味わっている様だ」
側近「・・・・・・はい、申し訳、ありませぬ」
魔王「ふぅ。 側近、もう、戦いが始まるのだ、後半年で。 それまでに間に合わせる」
側近「はい・・・・・・」
魔王「話は終わりだ。そのリストの魔物に声をかけておけ」
側近「・・・・・・あの」
魔王「ん?」
側近「女勇者は、どうなるのでしょうか・・・・・・?」
魔王「・・・・・・どういう意味かな」
側近「大魔王に匹敵する力を得た後は・・・・・・どうするので」
魔王「殺す。 私が。 私の力を護る為に、な」
側近「・・・・・・」
魔王「なんだ、本当はどう思っているのだ、側近。 聞いてやる」
側近「友達・・・・・・です」
魔王「・・・・・・」
側近「・・・・・・」
魔王「ふん。 残念だ、お前がそこまで毒されていようとは・・・・・失望したぞ。 勇者とはなんだ? 言ってみろ」
側近「敵、です」