魔王「勇者を育成・・・・・・」 3/8

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魔王「いや、それは(人に変化できなかったものが、唯小さくなっているだけなのだが・・・・・・)」

側近「ええ、立地が悪いので醜くなって生きられぬ者を我が主が拾っていると、こんなに」

女勇者「へえー。優しいんですね、騎士さん」

側近「ええ、醜いものばかり拾って・・・・・だから皆不細工でしょう?」

魔物達(ひでえよ、姐さん・・・・・・)

女勇者「そう、ですか? けっこーかわいいですけど・・・・・・」

魔物達(おお、嬉しいこと言うじゃねえか)

魔物達(でも、怖がらせるのが仕事だから不細工でも良いんじゃ・・・・・・)

魔物達(うるせぇ、小さい時ぐらい愛らしくていいじゃねえか)

側近「我が主が許せば、何時でも遊べますよ。 今は、まだ駄目でしょうが」

女勇者「そうなんですか?」

魔王「ん、んむ。 今はまだ、危険だな」

女勇者「危険・・・・・・?」

魔王「おお、そうだ。 女勇者に聞かねばならん事があるのだ」

女勇者「は、はい。 なんですか?」

魔王「勢いで連れてきたが、ここで戦いを学ぶか、それとも冒険しながら戦いを学ぶか。選んで欲しい」

側近「!」

魔王「冒険は勇者には欠かせぬ。 人との出会い、出来事によって、勇者としての心と技が研磨、洗練されていく」

魔王「しかし、私はその冒険を捨ててでも、一年。ここで修行して欲しいと思っている」

魔王「・・・・・・変な話だが、選んで欲しいのだ。お前に」

女勇者「私は・・・・・・うん」

女勇者「私はきっと・・・冒険に出るにはまだまだなんです」

女勇者「目の前で、人が倒れてても、助けることが出来ない気が、します」

女勇者「・・・・・・だから、騎士さん、ここで私に大事な人の救い方を! 護り方を! 教えてくださいッ!!」

魔王「ふ、勿論だとも。 ・・・一年、一年だ。途中で折れるなよ?」

女勇者「は、はい!」

魔王「では、早速広場でやろう。 側近、女勇者の剣とあいつを用意してくれ」

側近「・・・・・・は」

女勇者「あいつ・・・・・・?」

女勇者「な、なんですか? これ」

魔王「全ての物理攻撃を吸収する軟体生物だ」

側近「そして、攻撃が大きければ大きいほど細かく露散し、また集まります。つまり、一撃の大きさを測れるのです」

女勇者「ま、魔物じゃないですか・・・・・・!」

魔王「うむ、だが私の従順なペットだ。 攻撃能力は無いに等しいし、火に弱いから安心しろ」

スライム(・・・・・・)プルプル

女勇者「は、はぁ・・・・・・。そ、それなら・・・・・・確かに、良く見たらかわいいですし・・・・・・」

魔王「ほら、これがお前の剣だ。 あの生物に振ってみろ」

女勇者「は、はい・・・・・・。 はぁーーーっ・・・・・・てぇい!!」シュ ポン

側近「・・・・・・7粒ですか。 まずまずですかね」

魔王「うむ。 力の入れ方に変な癖がある。 力の入れ所を知れば20はいったな」

女勇者「う、そうですか・・・・・・頑張ったんですけど」

スライム(ふぅ・・・・・・よゆー・・・・・・・よゆー)プルルン

魔王「・・・・・・よし、お前が目指すべき一撃を示しておこう。 今度は目で、私の斬撃を感じろ」

スライム(え? まおうさまのいちげきなんてもらったらもとにもどれなく)プルプル

魔王「すーーーっ・・・・・・、・・・・・・ぬ、ぅえあ!!」ドッ パァン

女勇者「う、わぁ・・・・・・・」

側近「お見事です」

女勇者「凄い、だって水滴が見えないぐらい小さくて・・・・・・」

魔王「このレベルまで、一年で到達してもらう」

女勇者「そ、そんな・・・・・・!」

魔王「でなければ、お前はいずれ死んでしまうだろう。 この方法が一番理に適っているのだ」

魔王「さて、コイツが元に戻るまで暇だろう。 一撃を極める為の構えを教えよう」

女勇者「は、はい」

魔王「剣は、腕先だけの力で振るえば威力も無く弾かれる。 体全体の力を剣に乗せることが出来る構えが必要だ」スッ

女勇者「は、はぁ。 え、あ、腕を、はい」

魔王「そうだ上段に構えて・・・・・・利き手は右だろう。 なら右手を・・・・・・そう」

側近「・・・・・・」

女勇者「こ、こうですか。 はい、えっと・・・・・・」キュッ

魔王「足を踏ん張る為に前へ出して・・・・・・出しすぎだ。 もう少し、自分が踏ん張れる・・・・・・そうだ」

側近「・・・・・・」

女勇者「えっと、脇を・・・・・・。 ぁ・・・・・・きゃっ」

魔王「ん、くすぐったかったか? 悪い」

女勇者「い、いえ、いえっ・・・・・・な、なんでもないです・・・・・・」

側近「・・・・・・」

魔王「よし、そうだ。 もう少し腰に力を入れて体を固定させろ。 うん」

女勇者「で、できましたか・・・・・・?」

魔王「うむ。 よし、その体制で目を瞑れ。ゆっくり深呼吸しろ。 呼吸で体全体の力を感じるんだ」

女勇者「・・・・・・ふぅーーっ・・・・・・はぁぁーーーっ・・・・・・」

魔王「さて、そろそろ・・・・・・なんで睨みつけるんだ。側近」

側近「・・・・・・なんでも、ありませぬ」

魔王「? なんだ、まだコイツは元に戻ってないのか。側近、魔法をかけてやれ。ただし出現は女勇者の目の前だ」

側近「・・・・・・は」ブツブツ

スライム(っぷ・・・・・・ひゃーー・・・・・・・やっともどれたお・・・・・・つかれたお・・・・・・)プルル

魔王「・・・目を閉じたまま、規則正しい呼吸の中で力が一番大きく集まる瞬間だ。 それを見極め、振り落とせ」

女勇者「すぅ・・・・・・はぁ・・・・・・すぅ・・・・・・」カッ!!

スライム(!? ちがう、さっきのとは・・・・・・まるでまおうさまの・・・・・・)プルッ

女勇者「・・・・・・・っだッ!!!」ドン ボワッ

側近「! ・・・・・・な、んと」

魔王「ふむ、40は、下るまい」

女勇者「や、やった、出来ましたよ、騎士さん!! 私も!」

魔王「ああ、見事だ。後は垂直の振り方と細かな体運動で三桁近くいく。今日はもう暗い。明日教えるから飯にしよう」

女勇者「は、はい! あ、も、もしかして側近さんがつくるんですか!?」

側近「え? ええまぁ、その積もりですが」

女勇者「うわぁい、楽しみです!」

魔王(そういえば、余り食べずにあの剣を振ったのだったな・・・・・・)

側近(は、はい。 少しの軽食のみです)

魔王(末恐ろしいな、普通は構えを言われたとおり実践するなど並大抵の事ではないのに・・・・・・)

側近(・・・・・・そうですね、昔の魔王殿を見ているようです)

魔王(そ、そうか。・・・・・・憶えていたのか? 父上に私が指導されていた頃は、まだお前小さかったろう)

側近(忘れませんよ。・・・・・・魔王殿の、事では)

侍女「では、ここでお待ち下さい」

魔王「うむ、ご苦労。 さ、女勇者」

女勇者「え、あ、は、はい・・・・・・」

魔王「どうした?」

女勇者「え、えと・・・・・・こんな綺麗な所で食べたこと無いので、マナーとか・・・・・・」

魔王「ふ、気にするな。私も貴族のマナーなど無い、気にせず何時も通りで構わん」

魔王「ふむ。 後ろの侍女が気になるようなら下がらせる」

侍女「・・・・・・」

女勇者「いえいえ、そんな・・・・・・」

魔王「ああ、そうそう、その侍女はこれからのお前のお付だ。 何かあればそいつに言え」

侍女「よろしくお願い致します。 女勇者様」

女勇者「は、はぁ」

側近「夕飯、出来ました。 女勇者殿はお酒、飲まれますか?」

女勇者「あ、いえ、私、駄目です・・・・・・」

側近「そうですか。 主殿もお酒は飲めないので、私だけですね」

女勇者「え・・・・・・!? 騎士さん飲めないんですか?」

魔王「・・・・・・そうだが?」

側近「ふふ、意外ですか」

女勇者「は、はい・・・・・・」

魔王「ふん、放っておけ」

側近「そう、不機嫌になさらず。 侍女達、開けなさい」

侍女「は」カパ

女勇者「わぁ・・・・・・!」

側近「では、好きなだけ」

女勇者「いいんですか!?」

側近「ええ、それに、貴女の訓練はこれから熾烈を極めるでしょう。 女勇者殿は食べれるだけ食べたほうがいいですね」

女勇者「え・・・・・・。 それを聞くと食欲が・・・・・・ほんとですか?」

魔王「ああ。 ここに居る限り、睡眠と飯を十分にとらねば、体が持たぬだろう。 食べておけ」

女勇者「は、はぁ・・・・・・」モソモソ ・・・・・・パァアッ

女勇者「お、おいしい・・・・・・!」パクパク モッキュモッキュ

魔王「・・・・・・現金な奴だな」

側近「いえ、これ程まで喜ばれるのは久しぶりなので気分が良いです」

魔王「ん、そんなに私は反応が薄かったか・・・・・・?」

側近「いえ」

魔王「お前は最近私に冷たい気がするな・・・・・・」

側近「そんなことは、・・・・・・ありませぬ(・・・・・・・誰のせいだと思っているのですか)」

女勇者「はぁ、お腹一杯・・・・・・!」

侍女「女勇者様。 お湯浴みの時間です」

女勇者「え・・・・・・・?」

侍女「どうぞ、こちらに」

女勇者「湯浴み? 水浴びじゃなくて・・・・・・?」

侍女「タオルを体に巻いてくださいね」

女勇者「す、すごい・・・・・・湯気が・・・・・・」

側近「やはり驚かれますか。 近くに火山があるのでこうして温泉を作ることが出来たのです」

女勇者「あ、じゃぁ火を熾す必要がないのか・・・・・・というか側近さん!?」

側近「私も湯浴みに。 何時もは水浴びでしょう、温かい水にどっぷり浸かるのは癖になりますよ」

女勇者「は、はぁ・・・・・・」

女勇者「ほんとーですねー・・・・・・すごいきもちーです・・・・・・」ムフー

側近「でしょう。 この世界の何処よりもこの温泉が一番な筈です」ムフー

女勇者「・・・・・・」じー

側近「? どうかしましたか」

女勇者「え、いや・・・・・・・おっきいな、と思って・・・・・・」

側近「ぁ・・・・・・、そそ、そんな事は」

女勇者「いやおっきーですよ! わ、私なんか・・・・・・」グス

側近「・・・・・・だ、大丈夫ですよ。 まだ成長期です」

女勇者「・・・・・・そうでしょうか」

側近「はい。 私も120年前はこれぐらいだったので・・・・・・」

女勇者「120・・・・・・?」

側近「あ、いえ2年ぐらいま、前です。 間違えました」

女勇者「えへへ、側近さんて結構お茶目な人だったんですね」

女勇者「側近さん、側近さん、洗いっこしませんか?」

側近「え、はぁ、いいですが」

女勇者「洗いっこなんてお母さんとやった時以来です」

側近「・・・・・・そうなんですか」

女勇者「側近さんはやった事ありますか?」

側近「私は・・・・・・母上がいなかったので、ありませぬ」

女勇者「そうなんですか・・・・・・。 じゃぁやってみましょう! すっごい楽しいですよ!」

側近「・・・・・・はい」

女勇者「あ、今ニコッてしましたよね! 凄いかわいいかったです! 側近さん」

側近「え、あ、そんな・・・・・・」

魔王「随分短時間で仲良くなっているな」

侍女「そうですか」

魔王「ああ、側近は私以外にはキツい性格だったのだが、不思議なものだ」

侍女「とりあえずお覗きを御止めになっては」

魔王「何を言ってる。 湯気で何も見えん、声しか聞こえぬわ」

侍女「はあ、しかし女勇者は本来敵の筈では?」

魔王「そう、だな。 献上物には違いは無い。 が、あの娘を徹底的に信用させるには側近の態度は正解だ」

魔王「それとも、同じ年頃の娘などと話したことは無いから、戸惑っているのか」

魔王「しかし、側近は私等より優秀だ。大魔王に歯向かうなどと考えるのは私だけ・・・・・・」

侍女「本当にあの大魔王を倒せると」

魔王「さぁな、あの娘次第だ。 だから側近にも、情を移すなと言っておかねばならぬ」

侍女「魔王様はどう思っていらっしゃるので」

魔王「女勇者をか? ・・・・・・どうとも思っておらぬよ」

魔王「魔王とは言うならば無責任に力を振るう者の象徴だ。大きな力にあるべき責任を放棄した者の末路」

魔王「しかし、だからこそ強い。 乱暴にただただ暴れ狂う。 勇者とは真逆の存在だな」

魔王「その私が。 女勇者と共に戦う事が出来ると思うか? あやつは大魔王への献上品。 それだけだ」

侍女「はぁ、その台詞を側近様には言わないので?」

魔王「何故、言う必要がある? 側近も同じ考えだろう」

侍女「・・・・・・しかし、その割には私達下々を気にかけて頂いていますが」

魔王「何を言っている。 お前達は道具という私の力だろう。 自分の道具を愛おしく思うのは当たり前だ」

侍女「・・・・・・私達は今の魔王様で感謝していますよ」

魔王「・・・・・・ふん。 魔女めが、いっちょ前に意見しおって。 女勇者の面倒だけ見ていろ」

侍女「は」

魔王「ふん、私で良かったなど・・・・・・」

魔王「女勇者、か。何とも不思議な人間だ。 悉く私と真逆。まるで・・・・・・」

魔王(父上と母上の様な・・・・・・)

魔王「くっくっ、何を私は。 ん、さて、大魔王を殺す算段を考えねば・・・・・・」

魔王(しかし、女勇者に倒せるのか。もし倒せたとしてもその後どうする。私の正体がばれれば私も死ぬ)

魔王(・・・・・・いや、まずは倒す手段だな。 そしてあわよくば女勇者も・・・・・・)

魔王「ふぅ。 側近がいなければ、私には思いつきもせんな。 相変わらず頼りっぱなしだ」ドサッ

魔王(私にはわからぬ。今の自分の気持ちが。素直に私を信用するあの娘が)

魔王「はやく、風呂に入りたい・・・・・・」

女勇者「うわー、すべすべ・・・・・・」

側近「あ、あの、あまり触られると。 困るのですが・・・・・・」

女勇者「なぜですか、これは洗いっこなんですよ? 側近さんも私を洗ってください」

側近「は、はぁ」

女勇者「・・・実をいうと、私一人っ子なので、こうやって姉妹みたいに洗いっこするの嬉しくて」

側近「そうですか・・・・・・」

女勇者「もしかして、迷惑ですか、側近さん・・・・・・・?」

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