魔王「そうだ、敵だ。 相容れぬものだ。 それを、友達だと?」
側近「か、彼女は、純粋です。 ただの、少女ですよ! 勇者などでは、ないです」
魔王「勇者だ。勇気ある者。正義の為の力に責任を持ち、意思を力に変える人間。 それはまさしくあの娘の事だ」
側近「・・・しかし、本当は魔王殿も愛おしく思っているのでは!? 私は知っていまする。魔王殿の彼女に向ける、瞳を!」
魔王「黙れ」
側近「!」
魔王「・・・・・・・・・確かに、愛おしいな。 あの者を、ただの人間とは思えぬ。 だが、だからこそ・・・・・・」
魔王「・・・・・・私は、拒絶が怖いのだ。 たった一人の人間の拒絶が、非道を尽くす魔王にとって最も恐ろしいのだ」
魔王「側近よ。私は魔王だ。ならば魔王らしく振舞う。 だから・・・・・・口出しするな」
側近「っ・・・・・・・・・・・・は」
魔王「もう、下がれ」
側近「は・・・・・・」ガチャ
魔王「・・・母上、人間とは意思を力に変えることが出来る。しかし魔王には・・・剣を自分の為に扱う魔王には無理なのだ」
魔王「・・・・・・母上、貴女は何故あの剣を使えたのですか・・・・・・意思を力に変える、あの剣を・・・」
魔王「さて、女勇者には構え、始め魔力量による斬撃の強化まで指南した結果」
魔王「・・・・・・威力ならば私の全力の三分の二程度まで到達した」
女勇者「はいッ!」
魔王「よって、これからは実践訓練のみだ。 犬はもう相手にならんだろうから、コイツを連れてきた」
天狗「・・・・・・」
魔王「速さ等の身体能力はお前の遥か上を行く。 この天狗に一撃当ててみろ」
女勇者「あの・・・・・・騎士さん」
魔王「なんだ」
女勇者「騎士さんって、変わった友達・・・多い、ですよね・・・・・・」
魔王「う、む。 ・・・・・・コイツはシャイでな。天狗の面を被ってないと落ち着かんのだ」
天狗「・・・・・・」
女勇者「は、はぁ・・・・・・」
天狗「・・・・・・」
魔王「構えろ、女勇者。 もう始めるぞ」
女勇者「は、はいッ!」キッ
天狗「・・・・・・」シュッ
女勇者「わっ・・・・・・!」
魔王「速さに翻弄されるな。 教えただろう、見えない敵は見ようとするな」
女勇者「はい・・・・・・っ!」スッ
天狗「・・・・・・!?」
魔王(・・・・・・綺麗な構えだ、加護を抜きにしても隙が無い。 あの天狗を警戒させるとはな)
天狗「・・・・・・」チラリ
魔王「不服だろうが近接攻撃だけだ。 翻弄してやれ」
天狗「・・・・・・」ダッ
魔王(さて、どう攻撃する・・・・・・? 今の女勇者では、攻略に一週間掛かるはずだ・・・・・・)
天狗「・・・・・・!」ダッ ドッ ドンッ
魔王(・・・・・・天狗にしてはえらく警戒しているな。 もっと変わり身を使ってガンガン攻める奴なんだが)
女勇者「・・・・・・すぅ」
天狗「・・・・・・ジャッ!」シュドッ
魔王(おお、女勇者の後ろから様子見の刺突・・・・・・。っな!?)
女勇者「っ、いやああああああっ!!!」ドジュッ
天狗「!!? ・・・・・・グボッ・・・・・・!」ドサッ
魔王「馬鹿な・・・・・・後ろへ振り向いての一撃を、あの速さで・・・・・・!」
魔王(確かに最終的に構える事が出来る体制に持っていけばいいと教えたが・・・・・この実戦の中で・・・・・・)
側近「天才、ですね・・・・・・」
魔王「う、む。 私、以上だ・・・・・・」
女勇者「うわあっ! て、天狗さんが! 天狗さんがぁ!」
魔王「問題は心か・・・・・ふふ。 側近、天狗の本体を呼べ」
側近「は」タタッ
魔王「・・・・・・実戦に自分の実力を出し切れるものはそういない。 まさか私が嫉妬するとはな・・・・・・くく」
側近「天狗、出てきなさい」
天狗「・・・・・・」トッ
女勇者「うわぁ、天狗さんが二人!?」
側近「違います、此方は変わり身です。 操っていたのですよ」
天狗「」シュウウ・・・
女勇者「ほ、ほんとだ、消えた・・・・・・。 よかったー死んじゃったのかと・・・・・」
側近「どうやら、一撃で脱帽したそうですよ。貴女の実力に」
女勇者「え、天狗さんがですか?」
天狗「・・・・・・」コクリ
女勇者「そ、そうですか! あ、有難うございますっ」
魔王「・・・・・・女勇者の実力を見誤っていたな。今回は変わり身だが、他の魔物ではそうはいかん」
魔王「ふむ。父上ならば問答無用であったろうな・・・・・・。私は、まだまだ甘い・・・・・・」
魔王「側近! こちらへ来い」
側近「! はっ」
魔王「明日から、私が相手をする。 女勇者に手加減など憶えてもらっては困るのでな」
側近「!! そ、それは・・・・・・っ」
魔王「天狗以外に呼んでいた奴らを小さい姿に戻しておけ」
側近「は、速すぎます。 魔王殿は最後にと!」
魔王「もう、奴らでは敵わぬよ。 命を奪われるだけだ。 私が、相手をする」
側近「何を仰りまする! 魔物達全て命を奪われる覚悟と・・・・・!」
魔王「私は・・・・・・甘いのだ。道具を棄てきれぬ。情を棄てきれぬ。 父上の様にはいかんのだ」
側近「・・・・・・」
魔王「命を賭けるのならば自分の命を賭ける。 ・・・・・・お前達は、黙っていろ」
側近「私は・・・・・・!」
魔王「今までのお前は、私が一度決めたことに対して喩え自分の意見と違えども、私を支えてくれた。・・・今回は違うのか」
側近「ッ・・・・・・! ・・・・・・承知、致しました・・・ご無事をお祈りしておりまする・・・・・・」
魔王「・・・・・・お前はいい側近だ。 ・・・すまん、すまんな」
女勇者「騎士さんたち何の話をしているんですかー?」タタタッ
魔王「ん、ああ。明日からの訓練を、な。 もう今日は休んで良いぞ」
女勇者「え!? まだ朝早いですよ!?」
側近「明日からは、非常に難しい訓練です。 英気を養っておいてください」
魔王「・・・・・・」
女勇者「そ、そうですかー・・・・・・。分かりました、明日に支障が出ない程度に素振りしておきます!」
魔王「ふ、熱心なことだ。 まぁ、それが強さに繋がるからな。 頑張れ」
女勇者「はいっ!」タタッ
側近「・・・・・・昔の、魔王殿そのものですね・・・・・・力を手に入れようと」
魔王「いや、違う。 あの娘は護る力を手に入れようとしている。 私は・・・・・・魔王としての力だけだった」
側近「一緒ですよ。 魔王殿の父上殿と母上殿の様に、似ていない様で似ているんです・・・・・・」
魔王「・・・・・・そう、だろうか。 私には・・・・・・わからぬ」
女勇者「え・・・・・・!?」
魔王「聞こえなかったか? 今日から私が相手をすると、言ったのだ」
女勇者「そ、そんな、私が、勝てるわけ・・・・・・」
魔王「勝て。 勝たねば、お前は昔の自分のままだ。 甘さは棄てろ!」
魔王「優しさと甘さは違う。 優しさには複数あるが、甘さは一つ。 唯己の命を削る行為」
女勇者「・・・・・・でも、でも・・・・・・!」
魔王「・・・命を奪うことが怖いか? くく、見くびるな。 私が今のお前に殺られるものか」
女勇者「ど、どうして・・・そこまで・・・・・・!」
魔王「・・・・・・」
女勇者「お願いします。 それを聞かないと、私、私、騎士さんに剣を振るなんて出来ません!」
女勇者「昨日だって、私に親切にしてくれた人を殺してしまったのかって、怖くて・・・・・・」
女勇者「剣で命を奪うことがこんなに苦しいものだったなんて知らなくて・・・・・・!」
魔王「・・・・・・倒して貰いたい者が、いるのだ」
女勇者「ぐすっ・・・・・・へ・・・・・・?」
魔王「その者は、私では勝てぬ。 お前にしか、倒せぬのだ。 そして今のままではお前にも倒せぬ」
魔王「その約束の期限まで、もう後少ししかない。 私を越えねば、皆死んでしまう」
魔王「沢山の命を護るために奪わねばならぬ命がある事を知れ。 勇者よ」
女勇者「わ、私は・・・き、騎士さん、しんじゃうかも、しれないんですよ・・・・・・?」
魔王「・・・・・・何か勘違いをしているな。 私は強い。 お前は弱い。 万が一でも私は死なぬ」
魔王「本当ならば他の友人に声をかける所だったが、無駄に命を散らす可能性があるのでな」
魔王「絶対に死なぬ、私が相手をする。 どうしても怖ければ・・・・・・教えただろう?」
女勇者「え・・・・・・? な、なにをですか・・・・・・?」
魔王「お前が振るうは虚空へ。 殺すのは震える空気。 私ではない」
女勇者「本当に・・・・・・やるんですか・・・・・・?」
魔王「くどいな。 今のお前如きに殺られると思うか? お前が私を越えたと思えば、その時訓練は終らせる」
女勇者「ほんとーなんですね? 騎士さんの強さ。信じて良いんですね・・・・・・?」
魔王「ああ。 ・・・・・・私の実力、見せてやる」
側近「女勇者殿。 構えてください。 構えた時、戦いが始まります」
女勇者「は、はい! ・・・・・・すぅーーーーーーっ・・・・・・やッ!!」チャキ
魔王「では・・・・・・参る!!」ドッ
女勇者「!? は、速い・・・・・・(昨日の天狗さんの数倍・・・・・・! でも!)」スッ
魔王「ふふふ、そうだ、見えない相手は見るな。 体全体で空気の変化を感じるのだ」
魔王「では、そろそろ・・・・・・斬り込むぞ・・・・・・! ぬぅうぇあ!」ドゴァ
女勇者「・・・・・・」
魔王「ふふ、惑わされないか。 敵の言葉は信じるな。 だが、次は本当に斬り込むぞ・・・・・・」
魔王・女勇者「「はぁああっ!!」」シュド シュド
魔王「・・・・・・・剣筋が鈍いぞ。鎧を掠った時お前の首を刎ねることが出来た。 もう一度だ」シュウウ
女勇者「・・・・・・騎士さんは、本当に凄いんですね・・・・・・」
魔王「そうだ、言わなかったか? 何にせよ攻撃は一度ではない。 私が悠々と話している間にも斬り込んで構わん」
女勇者「はいっ! 分かりました」バッ
魔王「とにかく側近にお前の死亡回数を数えて貰おう。 側近」
側近「はい。 一回目、という事で」
魔王「では、次の攻防だ」ドンッ
女勇者「ふぃいいいい~。 つ、かれ、ましたーっ・・・・・・」チャポン
側近「お疲れ様です。 温泉でゆっくり疲れを癒してください」チャポン
女勇者「・・・・・・死亡回数、今日だけで72回ですかー・・・・・・」
側近「ふふ。 まだまだ、という事ですね」
女勇者「そうですねー。 騎士さんの鎧を掠るだけですもん」
側近「その行為も女勇者殿に攻撃を当てる為ですからね・・・・・・」
女勇者「はい・・・・・・。 しんじゃうかも知れないですよとか言ったのが恥ずかしいです」
側近「ふふ、そうですか・・・・・・」
女勇者「騎士さんがいってた倒したい人って誰なんですか?」
側近「え・・・・・・」
側近「そ、それは・・・・・・魔王、です」
女勇者「魔王、ですか・・・・・・」
側近「ええ、じ、実は魔王は私達に宣戦布告しまして・・・・・・それで」
女勇者「許せないですね! あんなに悲しそうに騎士さんが言うんですもん。 ただ事じゃ無かったんですね」
側近「そう、ですね・・・・・・」
女勇者「それで、やっと疑問がとけました。 何で時間が無いと言ったのか! 私、明日からも頑張りますね!」
側近「はい・・・・・・。 でも主殿は・・・・・・」
女勇者「あ、そう、ですね・・・・・・。 ど、どうしたら・・・・・・」
側近「いえ。 主殿は強いです。 手加減なんかなさらずに・・・・・・どうかお願いします」
女勇者「それで・・・・・・いいんですか?」
側近「え・・・・・・はい。 主殿が決めたことは逆らいません」
女勇者「・・・・・・凄いですね、騎士さんと側近さん。 なんだか信頼しあってて羨ましいです」
側近「そんな事・・・・・・ないです。 私は、貴女の方が羨ましい」
女勇者「え?」
側近「喩え命を失う可能性が低くても貴女に命を賭けています。 愛していらっしゃるんです。貴女を」
女勇者「え、そ、そそそそそ、そんな、あ、愛なんて・・・・・・!」
側近「ふふ。 好きですか? 主殿を・・・・・・・」
女勇者「え、あ、あぅ、あ、う・・・・・・・・・・・・・・は、はぃぃ・・・・・・」
女勇者「最初はお父さんってこんな人かなと、思ってたんですけど・・・・・・なんだか・・・・・・」
側近「ふふ、いいですよ。 理由は言わなくても。 私も好きですから」
側近「でも、私より、多分、貴女を・・・・・・」
女勇者「そ、そんな事ありません!」
側近「え?」
女勇者「私、何時も羨ましかったんですよ。二人の間に入れなくて・・・・・・凄く近くて・・・・・・」
女勇者「命を賭けてる事だって、きっと側近さんが危ない目にあえば、騎士さんは命を賭けます! 魔王じゃないんですから!」
側近「!」
女勇者「? ど、どうしたんですか・・・・・・?」
側近「い、いえ・・・・・・そうですね。 魔王ではないですね・・・・・・」
女勇者「そうです! だから、側近さんも自信を持って!」
側近「はい・・・・・・貴女も。 女勇者殿」
女勇者「あ・・・えへへ」
側近「私と貴女、あの人はどちらをとってくれるんでしょうか」
女勇者「ライバル・・・・・・ですか」
側近「その言葉が一番あっている気がします。 でもどちらも譲り合って・・・・・・ふふ」
女勇者「あはは、何だか、変、ですね・・・・・・」
側近「・・・・・・」
女勇者「・・・・・・」
側近「負けませぬ」
女勇者「私も、です」
側近「ふふっ」
女勇者「あははっ」
側近「・・・・・・明日からも頑張ってください」
女勇者「はい・・・・・・強くなります。 皆を、護るために・・・・・・」
側近「104回目」
魔王「もう、動けぬか?」
女勇者「はぁっ、はぁ、はぁっ・・・・・・まだまだッ、です!!」
魔王「うむ、それでこそ・・・・・・では、参る」
女勇者「いやあああああああっ!!」ブン
魔王「甘い」チャキ
側近「105回目」
女勇者「ぅう・・・・・・」
魔王「・・・・・・逆に言えば絶対に当たってはいるのだ。 私は鎧に掠らせているのだから」