魔王「……来ちゃったっ」 勇者「えっ」 6/8

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女商人「……な、無い」

魔王「ん? どうしたの?」

女商人「お父さんの鞄が……ない」

勇者「お、お父さんの鞄?」

女商人「……」

魔王「もしかして、商売道具のこと?」

女商人「……」コクリ

勇者「えっ!? ぬ、盗まれたとか!?」

女商人「……わからない」

魔王「……気配は感じなかったけど……相当場数を踏んでる盗賊なのかも……」

勇者「お、俺、ちょっと宿主に怪しい人物見なかったか聞いてくるよ!」

女商人「……」

魔王「というか……どうしてお父さんの鞄なの?」

女商人「お父さんが……病気に罹ったから。代わりに私が商人として武器を売らないと……生活できなくて死んじゃうから」

魔王(……なるほど……『どうやって商人として生きてきたか』も何も、一時的にやってただけなんだ……。

妙に怪しいとは思ってたけど……なんてことはない、商売の仕方を知らなかったんだね……)

女商人「どうしよう……どうしよう」ウルッ

勇者「聞いてきた! 昨日町に赤い髪のなんでも隣町で有名な盗賊が来てたんだって!

もしかしたらそいつかもしれないって」

女商人「……な、なんで私の……」ウルウル

魔王「目立ってる私達と一緒に行動してたからかもしれないね。標的にされるのには十分な理由だと思う」

勇者「……どうする?」

魔王「……勇者が決めることじゃない?」

勇者「……」

勇者「なんで特訓ついでみたいになってんのぉ!?」タッタッタッタ

魔王「おんぶ&ラン! おんぶ&ラン!」

女商人「すみません……」

勇者「盗賊から取り返しに行くんだよね!? 体力削ってどうすんの!?」タッタッタッタ

魔王「急がないと逃げられちゃうでしょ! 今なら道中に遭遇できるかもしれないし!」

勇者「く、くそおおおっ!!!」タッタッタッタ

魔王「はいおんぶ&ラン! おんぶ&ラン! ほら一緒に!」

魔王「おんぶ&ラン! おんぶ&ラン!」

女商人「がんばれがんばれ勇者くん! ファイトだファイトだ勇者くん!」

勇者「うおおおおおおおおおっ!!!!!!」タッタッタッタッタッタ

隣町付近

勇者「ハァ……ハァ……も、もう少しだな……」タッタッタ

女商人「ごめんなさい、私のために」

勇者「だ、大丈夫……ゼエ……ゼエ」タッタッタ

魔王「ん?」

魔王「ね、ねえ!」

勇者「な、なんだ……?」タッタッタ

魔王「あれ見て! あれあれ!」

勇者「ん……?」

女盗賊「~♪」スタスタ

勇者「……あっ! あ、赤い髪に大きな鞄……!! 間違いない!!」

魔王「犯人はっけーん!」

勇者「そうと決まれば……うおりゃあああ!!」ドドドドドッ

女商人「きゃっ!」

勇者「待ちな!! そこのお嬢」ガッ

勇者「ぢゃっぶへああ!!!」ズザァァァッ

女商人「きゃあっ!」ズサーッ

女盗賊「うわっ! な、なんだよテメェら!」

魔王「ださい……ださすぎるよ勇者……」

女盗賊「いきなりコケやがって……って! ゲッ! お前らは!!」

勇者「そ……その荷物……返せ……」ピクピク

女盗賊「や、ヤベェ!!」ダッ

魔王「おっと、逃がさないよー」シュンッ

女盗賊「なっ!!」

女商人「それは私のお父さんの大切な鞄。返して!」

女盗賊「あァ? 知らねェな、証拠はあんのかよ?」

女商人「か、鞄の横の部分」

女盗賊「鞄の横……?」

『女商人』

女盗賊「ゲッ! こ、こいつこの歳で鞄に名前書いてやがる!!」

女商人「それが証拠だから、あなたは早く私にその鞄を返した方がいいと思う。

じゃないとそこのとても強い二人にあなたは倒されてしまう」

女盗賊「あぁん? そんなよわっちそうなやつに負ける訳ねェだろ」

魔王「……ほーう」ピクッ

勇者(うわっ……やばそう)

魔王「よわっちそう……ね」コオォォ

女盗賊「二人とも青臭ェ、温室でぬくぬく育った臭いがプンプンしやがる」

勇者「そ、それ以上言うのはやめた方が……」

女盗賊「あたしみてぇに幼いころから親に捨てられた身のやつはな、毎日生きるために必死なんだよ。

場数を踏んできた経験の差ってのを知ってからきやがれ。こちとら6歳の頃から人の物盗って生活してんだよ」

魔王「経験の差……? せいぜい生きて100年……見たところ、あなたはまだ22,3かそのあたり……ふふっ、笑えるね」

女盗賊「あァ? ……もういっぺん言ってみろコラ」

魔王「魔物年齢にして800歳。数知れない闘いをこの身体で経験してきた。

数々の強敵と対峙し、勝利をこの手に掴んできた。

多くの血を流し、この身を削ってきた。経験の差? 私からしてみたら、随分と青臭い発言だよ」

女盗賊「はァ? 800歳? 何言ってんだテメェ」

勇者(……う、嘘だろ……)

魔王「覚悟は、できてるの?」

女盗賊「……ケッ、上等じゃねェか」

勇者(ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!)

魔王「……そんじゃ、いくよ」コォォォォォォッ!

女盗賊「はぁぁっ!」タッタッタッタ

勇者「や、やめろ!! 町が消えてなくなっちゃう!!!!」

魔王「ラリホー!!!!!」

女盗賊「」ポヨンッ

おんなとうぞく はねむってしまった!

女盗賊「スカー……スカー……」

勇者「……えっ? あれっ?」

魔王「はい、今の内に荷物取り返してさっさとここから離れちゃおう!」

女商人「……」スッ

勇者「えっ? えっ?」

魔王「ん?」

勇者「……ね、眠らせるだけ? あんなに怒ってたのに?」

魔王「無駄なMP消費は極力避けよう! 最善でスピーディーに。これが強さを極め、長年の経験を積んだ者の答えだよ!

戦闘時に冷静な判断力を欠いちゃったら命なんていくらあっても足りないよ。さ、ほら早く早く!」

勇者「……わ、わかった……」タッタッタッタ

勇者「……」タッタッタッタ

魔王「腑に落ちない?」

勇者「えっ? あ、いや……」

魔王「『どうせなら倒せばよかったのに』とか思ってる?」

勇者「……ま、まあ、正直なところ、そう思ってる。別に痛めつけなくてもさ! ほら、剣士の時みたいに最善でスピーディーにザキで……とか」

魔王「うーん……そうだね。でも今回は剣士とは訳が違うんだよね」

勇者「えっ?」

魔王「女盗賊が息絶えたら、仲間の誰かが教会に連れて行くでしょ? 女盗賊の仲間なんだから盗賊でしょ?

教会で魂呼びもどすにはお金がいるでしょ? じゃあそのお金はどこから来るのって考えたら、

結局私のザキによってどこかの誰かの財産が盗まれることに繋がっちゃうんだよね。

かといって、私達がそのお金を払うほど義理もないし……だから、ラリホー!!」

勇者「……な、なるほど……やっぱり、賢明なんだな」

魔王「もちろんだよ、これでもまおフガッ!」モゴモゴ

勇者「こ、こらっ! 女商人さんにバレるだろ!」ボソッ

魔王「っぷはぁ! ごめん、勇者に褒められて調子に乗っちゃったっ」テヘッ

勇者「賢明っての、前言撤回しようかな……」タッタッタッタ

町の中

勇者「ここまで離れれば大丈夫だろ」

魔王「そだね!」

女商人「ありがとう。お父さんの鞄を取り返すことができた。

一時はどうなることかと思って取り乱したけど、これで今後も生活することができる」

勇者「もう盗まれないように気をつけてね」

魔王「まずは父親の病気を治すのに専念して、治ったら一緒に商人の仕事をすればいいんじゃない?

その方が、もっともっと商売上手になれるよ!」

女商人「ありがとう……。これ、お礼と言ってはなんだけど、受け取って欲しい」チャキンッ

勇者「えっ!? こんな高そうな剣!? いいの!?」

女商人「これはお父さんが自信作って言ってた。だから相応しい人に使って欲しいって。

お父さんも全部話したら怒らないと思うし、勇者くんが相応しいと私は思うから」

勇者「あ、ありがとう……!」ジャキッ

勇者「じゃ、じゃあ俺も……今まで使ってた剣を、女商人さんにあげるよ」

勇者「お父さんの薬代とか、ちょっとでも足しになってくれると嬉しいし」

女商人「それは……別に必要ない」

勇者「え゛っ!? なんで!?」

女商人「売っても5ゴールドにしかならないから……」

勇者「な、なんだってー!?」

魔王「勇者……初期装備のままだったの……?」

勇者「だって出発前に来てそっから特訓しかしてなかったから! 防具だけはじいちゃんのお下がりだから結構良いのだけど、

武器は……」

魔王(……そ、それで魔物の相手を……? も、もしかして……もう十分……)

女商人「では、私は自分の町に戻る。お父さんが待ってると思うから。本当にありがとう。お世話になった。

後、付きまとってごめんなさい」

勇者「ははっ、もう気にしてないよ」

魔王「また、どこかで!」

女商人「……うん、また!」

魔王「じゃあ、今日のところはもう宿屋n」

勇者「い、いや! 特訓しよう! 特訓特訓!!」キラキラ

魔王(う、嬉しそう……)

勇者「ひゃー、うひょー、かっちょいいなぁー!」ジャキッ

勇者「斬れ味を試したくて仕方ねぇ!! ぬははっ!!」

魔王(嬉しさのあまりありがちな悪役のセリフ言い出した……)

勇者「おーい、魔物ー!」

魔王「……ま、どれくらい強くなったか知りたいもんね」

勇者「うんうん!」

魔物「グオォォッ!!」

まもの が一体あらわれた!

魔王「来たよ!」

勇者「魔王! 早く!」

魔王「え? な、何?」

勇者「何って、ザオリクだよザオリク!」

魔王「え? だ、だってまだ倒してな……」

勇者「もう倒したよ?」

魔王「えっ……?」

魔物「……」グタッ

魔王(い、いつの間に……)

勇者「すっげー!! かなり良いよこの剣!!」

勇者「りゃあああっ!」ヒュンッ シュッ ザシュッ

魔物「ぐぎゃあああ!!!」

魔王「ザ、ザオリク!!」

勇者「ほっ、よっ、そりゃああ!!」シャッ ズバァ!

魔王「ザオリク!」

勇者「はああああああっ!!!!」ビュォッ

魔物「ぐがっ……あが」

魔王「ザオリク! ザオリク!」

勇者「とりゃあっ!!!」ヒュンヒュンッ

魔王「ザ、ザオリク!!」

魔王(お、追いつくだけで……精一杯なんだけど……)

勇者「……ふう」クルクルクルクルヒュンッ、ジャキンッ

魔王「……」

勇者「な、なんかすごい気がしてきた! 俺って実はメチャクチャ強いんじゃないか!?」

魔王「……」

勇者「……ま、魔王?」

魔王「……そ、そうだね。正直、びっくりしてる」

勇者「ははっ、いやー! 女商人さんのお父さんは本物だな! じゃあ、宿屋探しに行く?」

魔王「あ、あぁ! うん! そだ、ね」

魔王(……私のMPが無くなりかけた……こんなこと……いつぶりだろう。

短い時間しか生きられない分、人間の成長スピードは魔物と比べて計り知れないってのは知ってたけど……

まさかここまで……いや、でも異常過ぎる……勇者には……物凄く才能があるんだ、きっと……)

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