魔王「……来ちゃったっ」 勇者「えっ」 1/8

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魔王「へへ」

勇者「いや……えっ?」

魔王「……どうしたの?」

勇者「ど、どうしたのって……ま、まさか」

魔王「何?」

勇者「ま、まままま、まお、まま、まお、魔王!?」

魔王「……そうだけど?」

勇者「えええええええええっ!?」

魔王「あれ? まずかった?」

勇者「ま、まずいも何もこれから旅立つところなんですけどー!?」

魔王「だよね、始まりの町だもんね、ここ」

勇者「えぇぇ……」

勇者「……ひ、卑怯だぞ!!」

魔王「えっ?」

勇者「ま、魔王っていうのは、ふ、普通最後に出てくるもんだろ!!

なんだ!? 弱い者いじめか!? この卑怯魔王!!」

魔王「なんで『普通』をわざわざ守らないといけないの?」

勇者「そ、そういうもんだろ!!」

魔王「それは残念、私は『そういうもん』じゃなかったみたい」

勇者「こ、こんなのありかよぉ……」ヘナヘナ

魔王「……腰抜かしちゃった。ま、無理もないか。勇者、まだまだ半人前だもんね」

勇者「こんなの聞いてないぞ……。自信満々に勇者に立候補したのに……。

普通じゃない……こんなのあんまりだ……」

魔王「一つ言っておくけど、その普通は人間が勝手に言ってるだけでしょ。別にいつ登場しようが私の勝手ですー」ツン

勇者「……」

勇者「……殺せよ」

魔王「……えっ?」

勇者「は、早く殺せよ!! そのために来たんだろ!! この悪魔!!

人でなし!! 卑怯者!! 無法犯!! 掟破り!!」

魔王「何もそこまで言わなくても……」

勇者「いいから殺せよ!!」

魔王「なんで?」

勇者「はぁ!? なんでって、お、お前が魔王だからだろ!!」

魔王「確かに私は魔王だけど……」

勇者「ま、魔王と勇者はお互い憎み合う運命なんだ!! 相容れない存在なんだ!!

まさかまた『自分は普通じゃない』なんて言い出すんじゃないだろうな!?」

魔王「うーん……あんまりその辺考えずに来ちゃった」テヘッ

勇者「は、はぁぁ!?」

魔王「だって暇だったんだもーん。勇者が私の家に来るまで大体1年はかかるでしょ?

その間私、水晶覗いて『クク……愚かな勇者め』とか言わないといけないんだよ?

もう面倒ったらありゃしないっ!」

勇者「お、おま、何言って……」

魔王「大体いつも疑問に思ってたんだよね。なんで私が勇者を魔王のお城で待ってないといけないの?

世界はそっちペース? なんなの? 人間側が既に主導権握ってるなら魔王倒す必要なんてなくない?」

勇者「い、いや……えっ? ちょ、ちょっと……」

魔王「こっちはとっくに準備できてるんだよね。あ、なんかイライラしてきた。ふんがー!」

勇者「ちょ! おち、落ち着いて!!」

魔王「結構大変なんだよね、魔王って。だってね? 水晶覗いて

『勇者は今○レベルくらいかな? よし、じゃああのダンジョンにはあのボスを……』とか考えてるんだよ?

知ってた? ねえ知ってた?」

勇者「し、知るかよ!!」

魔王「あー、いーけないんだ、いけないんだー。人の苦労をそんな風に吐き捨てたらダメなんだよ?」

勇者「そ、そっちが勝手にやったことだろ!!」

魔王「はいでた。『そっちが勝手にやったこと』」

勇者「……な、なんだよ」

魔王「じゃあ私が急に始まりの町に来たことも文句言えないよ? 私が勝手にやりました」

勇者「うぐっ……」

魔王「はぁ……まあ聞いてよ」

勇者「……」

魔王「もう何年もこの闘い続いてるじゃん?」

勇者「魔王が負けないからだろ……今まで何人の勇者が……」

魔王「そんなに都合よく負けたくないもん。こっちだって自分の命かかってるんだし」

勇者「……」

魔王「とにかくさ、従来通りのやり方だと、各地のダンジョンにいるボスから『いつまで待たせるんだ』とか言われたり……

あ、勇者が変に慎重になって雑魚キャラでレベル上げとかするからだよ?」

勇者「それは仕方ないだろ……」

魔王「とにかく、クレーム対応とか、休憩中のボス呼びだす情報伝達係とか、ボスのお給料とかとか!

全部省いちゃえばいいじゃん、って思ったんだよね。経済的だしなるべく効率化しないとってね」

勇者「……」

魔王「暇つぶしにもなるし、水晶のデスクワークも飽き飽きだし、何より冒険って楽しそうだし!!」ワクワク

勇者「……え?」

勇者「ちょっと待って? ……え?」

魔王「ん?」

勇者「……つ、ついてくるつもりなの?」

魔王「私を倒すのが目的なんでしょ?」

勇者「そ、そうだけど……」

魔王「今倒せるの?」

勇者「む、無理に決まってるだろ!」

魔王「じゃあ強くなるしかないじゃん。つまり冒険するしかないじゃん。

そして私が傍にいた方が何かと都合が良いじゃん? 挑戦とか何回もできるよ! ほっ! たっ!」シュッ

勇者「……ま、まじで言ってるの?」

魔王「まあ断られてもついていくけどね。私を止められるのなんて強くなった勇者だけだし」

勇者「……」

魔王「ついでだから、旅の道中鍛えてあげるよ!」

勇者「はいぃ!?」

魔王「最後の決戦で手ごたえなかったら嫌だし。正直、今までの勇者はちょっと物足りなかったんだよね。

まあ私の情報があまりに少なすぎるから無理もないけど。その点勇者はラッキーだね!」

勇者「き、聞いたことないぞ……魔王と旅する勇者だなんて……」

魔王「まま、今の勇者には何もできないよ。とりあえず私の言うことに同調しておけば?

利害の一致ということで!」

勇者「……た、確かに損はないけど……」

魔王「ね、決まり!」

勇者「……でもお前を信用した訳じゃないからな。もし何か怪しい動きがあったら……」

魔王「あったら?」

勇者「……つ、強くなってぶっ飛ばしてやる!!」

魔王「ぷくくっ! オッケー」

魔王「あ、魔物だ」

勇者「えっ!?」

魔物「キシャー!」

魔物「えっ」ビクッ

魔物「……ま、まお、魔王様」ガタガタブルブル

勇者「……えっ?」

魔王「あ、そっか」

魔物「ひい!」

まものは にげだした

勇者「えぇぇ!?」

魔王「てへっ」コツン

勇者「てへじゃねえ!!」

魔王「低級な魔物は私にビビって逃げちゃうんだよね」

勇者「え!? どうすんの!? 俺レベル上がらないじゃん!!」

魔王「ちょっと強いとこ行こっか」ニコッ

勇者「無茶だあ死ぬよお怖いよお」

魔王「……仕方ないなあ。じゃあ私は隠れてるから闘ってみて?」

勇者「た、闘う必要があるのか?」

魔王「実力見ておきたいじゃん」

魔物「キシャー!」

魔王「あ! ほら都合よく来たよ! じゃあ隠れるから!」

勇者「え! ちょ、ちょっと!」

魔物「キシャー!」

勇者「うわあ!」

魔王「がんばれがんばれ勇者! がんばれがんばれ勇者!」ボソボソ

勇者「こ、このっ!」ズバッ

魔物「いてっ!」

勇者「もういっちょ!」スバッ

魔物「うがっ!」

勇者「とどめだ!!」ズバァ

魔物「ぎゃあ!」

魔王「ザオリク!」

魔物「」パァァ

勇者「えぇぇ!? なにしちゃってんの!?」

魔王「特訓だよ特訓! ほらほら!」

魔物「キシャー!」

勇者「と、とりゃあ!」ズバッ

魔物「ぐえっ!」

魔王「ホイミ!」

勇者「ちょ、おりゃ!」ズバッ

魔物「ぎえっ!」

魔王「リホイミ!」

勇者「お、おい!!」

魔王「ん?」

勇者「き、きりないよ!! ちょ、ちょっと疲れてきた!!」

魔王「あ、魔物が来るよ!」

勇者「えぇぇ!?」

魔物「ギエエ!」ポコッ

勇者「いてっ!」

魔王「……」

勇者「俺には何も無しかよ!!」

勇者「ハァ……ハァ……結局7体分も倒す羽目になった……」

魔王「うーん、まあまあかなあ」

勇者「あんまりだろ!!」

魔王「なんで? 実際今のでレベル上がったでしょ?」

勇者「うぐっ……そ、そうだけど! 一回の戦闘の負担が大きすぎて……」

魔王「ちっちっちー。そんなのじゃ強くなれないよ?」

勇者「まだ俺達の冒険は始まったばかりなのに……」

魔王「スタートダッシュに乗り遅れてどうすんの」

勇者「ああもう、わかったよ! でもちょっと休憩させて……」

魔王「3秒ね」

勇者「この鬼!!」

魔王「魔王です」

魔王「よーし! じゃあ走って隣町まで行くよー!」

勇者「嘘だろ?」

魔王「走らないとメラミで燃やされちゃうよー!」ボゥッ

勇者「うわああ!! あっつ!!」

魔王「ゴーゴー!」ボウッ

勇者「あつっ!! あっつうう!!」タッタッタッタ

魔王「がんばれがんばれ勇者! ファイトだファイトだ勇者!」

勇者「ひいい!!」タッタッタッタ

隣町

勇者「死……死ぬ……」グッタリ

魔王「すごいじゃん! 一日で隣町まで辿り着くなんて!」

勇者「……」

魔王「……ありゃ、ちょっとやりすぎちゃったかな」

勇者「……休まないと死ぬ……HP2……」

魔王「う~ん、じゃあそこの宿屋で今日は休もっか! 勇者がんばったし!」

勇者「……よ、よかった……」ガクッ

魔王「ほらほら行くよっ!」

魔王「到着した途端寝ちゃった……」

勇者「グー……グー」

魔王「まあそれもそうだよね、勇者にとっては波乱万丈な一日だったろうし……」

魔王「……仕方ない」モソッ

魔王「私ももう寝y」

勇者「……えーっと」

魔王「」ビクッ

魔王「あ、あれ~? 起きてたの?」

勇者「なんか気配がしたから……。で、なんで俺の布団に入ってるの」

魔王「……へへっ」

勇者「へへじゃなくて」

魔王「いやだなぁ~、勘違いしないでよ? スキンシップだよスキンシップ!」

勇者「勘違いも何もストレートに正解なんだけど」

魔王「ス、スキンシップじゃなくて! ご、ご褒美……とか」

勇者「……え、なんの?」

魔王「が、がんばったで賞を授与します!」

勇者「……」

魔王「……」

勇者「……嘘だよね?」

魔王「……ごめんなさい。誰か横にいないと眠れないのでした……」

勇者「……何歳?」

魔王「……人年齢? 魔物年齢?」

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