勇者「俺にはこの鉄の拳があればいい!」ドヤァ 僧侶「……」イラッ 3/8

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魔法使い「さすがだわー」

僧侶「……」

勇者(……手が地面にささって抜けない)グッグッ

勇者「そ、僧侶……手が……」

僧侶「ふんっ」ツーン

勇者(どうする……どうやってごまかす。手が抜けないなんて分かったらかっこ悪いイメージが……)

僧侶「はぁ……しかたないですね」

僧侶「さぁ、みなさん。おしまいですよー。もう何もありませんよー」パチパチ

「おおお!」

「意外と面白かったぞー」

「かえろっか」

「日が暮れるしな」

ゾロゾロ

勇者「ふぅ……」

戦士「じゃ、俺らも宿で飯でも食うか」

魔法使い「ご飯まだだったわねー。お腹すいたわぁ」

勇者「いや、あの、その……」グイグイッ

勇者(抜けない)

僧侶「勇者様はここで、夕日にお祈りをしていくそうです。ねっ?」

勇者「そ、そう!今日は神に御祈りを捧げる日なんだ。アーメン!」

戦士「そんなんあるのか?」

魔法使い「あたしの地方にはそんな風習なかったけど」

勇者「俺の地方にはあるんだよ。先に行って食べててくれ」

戦士「じゃ、先いってるぞ」

魔法使い「あら?僧侶は?」

僧侶「私も勇者様と一緒に御祈りをしていきます」ニコッ

魔法使い「あら、そう。じゃ、お先に」

スタスタ

勇者「ふぅー。助かったよ、僧侶」

勇者「っていうか!瓦固くしたの僧侶だろう!?」

僧侶「鉄の拳を持つ勇者様ならあのくらいがちょうどいいと思ったんです」ニコッ

勇者「かわいいけど!笑顔が可愛いけど、やめてくれない?」

僧侶「だったら言えばよかったじゃないですか。この瓦は私に硬化されていて割れませんって」

勇者「そ、そんなことを言ったら俺のイメージが……」ゴニョゴニョ

僧侶「まだそんなこと言ってるんですか」ムギュ

勇者「くっ、また頭踏まれた……手が抜けないのに」

勇者(やわらかい……いい……)

僧侶「そんなプライドばかり大切にしてたら本当に大切なものが守れなくなると思わないんですか」

勇者「くっ……それでも……」

僧侶「それでも?」グリグリ

勇者「それでも俺はかっこよくありたい!」クワッ

僧侶「そうですか。じゃあ、私もかっこよく立ち去ります」スッ

勇者「え、ちょっと僧侶」

スタスタ

勇者「ま、待って。手が地面から抜けないんだけど!」

僧侶「そうですか。ではそこで夜を明かして町の人に助けてもらうんですね」

勇者「待ってくれ!僧侶!」

僧侶「待ってくれ?僧侶?それが人に物を頼む言葉ですか?」

勇者「待ってください、僧侶さん。お願いします!助けてください」

僧侶「そうですねー。どうしましょうかねー」グリグリ

勇者「くぅ……」

―――翌朝

戦士「おっ、僧侶おはよう」モグモグ

魔法使い「先に朝ごはんいただいてるわよ」モグモグ

僧侶「あら?勇者様は?」

戦士「何か朝早くから買う物があるとか言って出てったぜ」

魔法使い「そうそう。朝ごはんに林檎だけ持って」

僧侶「そうですか。勇者様やっと見栄を捨てて武器を……」

戦士「はぁ?」

魔法使い「そうえいば、あんたと勇者宿に来るのずいぶん遅かったわね」

魔法使い「泥だらけだったし何かあったの?」

僧侶「いえ、もうそんなことになることはないでしょう」ニコニコ

魔法使い「?」

―――武器屋

武器屋「おはよう!兄ちゃん朝はやいねー!」

勇者「しっ!大声出さないで」

武器屋「?」

勇者「何でもない。武器を見せてくれ」

武器屋「あいよ!うちの店はどれでも一級品だよ。みてってくんな」

勇者「うーん」ジロジロ

勇者(どれもこれも既製品で一級とは言いがたいな)

勇者(これなんて刃こぼれしてるし、値段も安くない……)

勇者(おっ、これは……)スッ

武器屋「あー、兄ちゃん。それはやめておいたほうがいいよ」

武器屋「そのナイフは刃もこんなに薄くってどうせすぐ折れちまうよ」

武器屋「それより兄ちゃんならこれ!この大剣なんてどうだい!大型のモンスターでもこれなら大丈夫」

勇者(確かに大剣なら敵も楽勝だが、それじゃあ武器を使ってるのがバレちゃうじゃないか)

勇者(それにこのナイフ……このおっさん目利きがなってないな)

勇者(この薄さでこの硬さ……魔法金属のミスリルだな。これなら……)

勇者「おっちゃん!このナイフをくれ」

武器屋「へ?そんなんで大丈夫かい?」

勇者「お、俺が使うんじゃないよ。プレゼント……そう!プレゼントだよ」

武器屋「へぇ、確かに綺麗なナイフだし、女の子にはいいかもしれないけどねー」

勇者「そうそう、ちょっとひ弱な僧侶の女の子が仲間にいるんでね。護身用にさ」

武器屋「それはそうと兄ちゃんは武器がないみたいじゃないか。どうだい?一振り」

勇者「いや、俺にはこの鉄の拳があればいい」ニヤッ

武器屋「あれ?ひょっとしてあんた昨日の勇者じゃないかい?」

武器屋「いやぁ、見てたよ!あの地面割り。すごかったねー」

武器屋「町長があの割れ目を町の名物にしようなんて言ってたよ。はははは」

武器屋「あ、そうだ。勇者さん、なんかやって見せてよ」

勇者「なんかやれって……んーっ、そうだ!やって見せたらこのナイフまけてくれよ」

武器屋「ナイフ?あー、いいよいいいよ。さあ見せとくれ」

勇者(ナイフをマントに下に隠して……っと)

トン

武器屋「それは?」

勇者「林檎。俺の朝飯」

勇者「これを手刀で斬ります!」

武器屋「手刀って手で?ほんとうかい?」

勇者「よーく見てなよ」

勇者(このおっちゃんで試してやる)

勇者「はぁあああああ」スゥ

勇者(両手をフリーにして……すばやくナイフを掴み……斬ってからまた戻す……)

勇者(これを超スピードで……)

勇者「はぁ!」スパパッ

パカーン

武器屋「おおー!手で林檎が斬れた!」

勇者(よし!バレない、いける!)

―――荒野

戦士「勇者、買い物ってなんだったんだ?」

勇者「買い物?ああ、なんでもないよ」

戦士「なんだ、僧侶が武器でも買ってるんじゃないかっていってたんだが」

勇者「武器?俺が?ははははは。何をいってるんだい?」

勇者「俺には武器なんて必要ないよ。まぁ、見てなさい。はっはっは」

僧侶「……」

魔物「ぐるるるる」

勇者「おっ、さっそく出たな」

勇者(よしっ、さっそく試してみよう)サッ

勇者「ん?」スカスカッ

勇者「あれ?」サッサッ

勇者「あれ!?ない!?落とした!?まさか……」

僧侶「たぁ!」スパッ

モンスター「ギャオオオオン」バタッ

戦士「おっ、なんだ、僧侶。そのナイフ。すっげぇ斬れるじゃねーか」

魔法使い「綺麗ねぇ。向こうが透けて見えるみたい」

僧侶「えへへ///勇者様に買っていただいたんです」ペロッ

戦士「なんだ勇者。買い物ってこれかよ」

僧侶「私腕力がないので、護身用にって、ねっ。勇者様」ニコッ

勇者「え?え?」

魔法使い「ずるいー!あたしもか弱い女の子なのにぃ」

勇者「え!?でも、それ俺の……」

僧侶「俺の……なんですか?」ニコッ

勇者「あ……う……俺の……プレゼントです」ガックリ

勇者(手が……手が痛い……)

勇者「あの……僧侶。回復を……」

僧侶「え?さっきみなさんにしましたが?」ニコッ

勇者「いや……あの……手だけされてない……」

僧侶「え?鉄の拳に怪我でもしたんですか?」ニコニコ

勇者(怒ってる……ちゃんと武器買わなかったからか……)

勇者(これはまずい……)

勇者(なんとか……なんとかしないと……)

勇者(とりあえず手の怪我はグローブで隠してるから大丈夫だけど……)

勇者(ん?グローブ?そうか、小手のような武器なら……)

勇者(ちょうどこの先の砂漠にレアな武器があるって話を聞いたな……)

勇者「なぁ、みんな。ちょっと行きたいところがあるんだけど」

―――ピラミッド

ファラオ「いいか?せーの!」

ミイラ「うばー」ボコンッ

ファラオ「違う!やり直し!もう一度埋まれ」

ミイラ「えー、またっすかー?」

ファラオ「『うばー』じゃない『ウボァ』だ」

ミイラ「これ何か意味あるんすか?」

ファラオ「黙れ!様式美という言葉を知らんのか!はい、もう一回。棺の中の黄金の爪が取られて台座を降りました。さあ!」

ミイラ「うぼぁ」

ファラオ「もっと真剣に!」

ミイラ「ウボァ!」

ファラオ「んー、まぁいいだろう。私はそのとき『宝を奪うものに災いあれー』と言うから一斉に襲い掛かるんだぞ」

ミイラ「最初から襲えばいいのに……」

ファラオ「何か言ったか?」

ミイラ「別に……」

ドドドドドドドドッ

ファラオ「しっ!誰か来たみたいだ。みんな埋まれ埋まれ」

ミイラ「はぁ……」

勇者「うおおおおおおおおおおおおお!」ドドドドド

勇者「これか!超レア武器黄金の爪は!」バンッ

勇者「すげぇ……文献でしか読んだ事なかったけどこの輝き」

勇者「持ち帰ったものは誰もいないというレア中のレア……」

戦士「おーい!ちょっと待てよ。勇者」

魔法使い「はぁはぁ……早すぎ……」

僧侶「っというかはしゃぎすぎです……はぁはぁ」

勇者「見てくれよ!この黄金のつめを。これをつければ俺は……」

ミイラ(親分、もういいっすか?)

ファラオ(馬鹿!台座を降りてからだ。動くなよ。くくくっ、びっくりさせてやるからな)

ミイラ(楽しんでるっすねぇ)

戦士「おお!その爪なら……」

僧侶「私はその爪に勇者様の拳ほどの価値があるとは思いませんね」

勇者「え」

僧侶「戦士さんはその爪のほうが勇者様の拳より強いと思うんですか?」

戦士「え?あ、そうだなー。んー」

勇者(言うな!言わないでくれ戦士!)

戦士「勇者の拳にはやっぱかてねーだろうなー」

勇者「げ」

僧侶「でしょう?」

魔法使い「そうかしら?」

勇者「お」

勇者(いけ!魔法使い!論破してくれ!)

魔法使い「この爪はかつてこの地の王が地域を統べるのに使われたとか言われてるそうよ。さすがに勇者でも素手じゃ……」

勇者「そうだよねぇ。まぁ、そこまで言うなら仕方ないから……」

僧侶「では試してみてはどうですか?」

戦士「そりゃそうだ!がはははは。やっぱ単純なのが一番だぜ」

魔法使い「なるほど、それはそうね」

戦士「おしっ!勇者!ちょっとこの爪殴ってみろ」

勇者「……」

僧侶「あらあら、勇者様?もしかして怖いんですか?」

勇者「んなわけないだろう!」ザッ

勇者(えー……これって伝説の武器だろ……俺の拳が負ければ俺が酷いことになるが……この美しい武器を壊すのも嫌だ……うぐぐ……)ブルブル

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