勇者「え?ええ!?あれ?なんで俺ホテルの前に……ち、違うんだ、僧侶」
僧侶「僧侶?呼び捨てですか?」
勇者「僧侶様!違うんです!」ガバッ
僧侶「そろそろ町の人への誤解をといてあげてもいいかと思ってましたけど……おしおきが必要なようですね」ガシッ
勇者「ああああああああああ」ズルズルッ
側近「失敗しちゃいましたー」
魔王「さすがは勇者。私の見込んだ男だ。魅了の魔法程度では堕ちんか。ふはははは」
側近「んー、なんかあの僧侶には私と同じ匂いがしますねぇ」
側近「あー、でも今夜の宿代の確保が途中でした!黒龍さん、はやくドラゴンオーブを」
黒龍「やらんといっておろうが!宿代くらいわしが出すわ!これはやらん!」
側近「おー、ふとっぱらー」
魔王「あれ?っというか……勇者は!?また勇者を見失ってしまったぞ!?」
側近「あはははは。また探せば良いじゃないですか」
―――数日後
側近「あった、ありましたよ!魔王様!」
魔王「勇者を見つけたか!?」
側近「ここ!ここのお店美味しいって雑誌に書いてあったんですよー。食べていきましょう」
カランカラン
「いらっしゃいませー」
魔王「そんなことより勇者を探せ!」カランカラン
黒龍「そんなことを言ってお主も入ってきておるではないか」
魔王「……腹は減るから仕方がない」ドスンッ
側近「えっとー、このミートパイと鴨のローストとスープと……」
黒龍「まったく人の金だと思って好き放題頼みおって……」
魔王「はぁー……こんなことならあの時戦っておけばよかった……」
黒龍「もう勇者などほうっておけばよいではないか」
魔王「なんだと?」
黒龍「もともとお主の目的は世界制服であろう?ならばこの国を支配してしまえばよいではないか。勇者など関係になしに」
魔王「勇者を倒さずして何が世界征服だ!そんなことは……」
黒龍「ほれっ、あそこに王城が見えるであろう?あそこを襲って王を倒してしまえばそれで終わりではないか」
魔王「だが……」
黒龍「ええい、ぐだぐだとこだわりおって。もう面倒じゃわい!見ておれ!」ガラッ
黒龍「がおおおお」ゴゴゴゴゴゴゴ
魔王「まさかここから火炎弾を!?」
黒龍「ブオオオオオオオオ!」ドーン
―――王城
王様「良くぞ来た。戦士、魔法使い」
戦士「なんすか?いったい」
魔法使い「そうよ。もうご褒美はもらったから呼ばれる理由ないんだけど」
王様「まぁ、そう言うな。おぬしらに頼みがあってな」
戦士「頼み?」
王様「もちろん成功した際には褒美もあるぞ」
魔法使い「本当!?なになに?」
王様「どうも最近民衆に不満がたまっておるようでな。謀反をたくらんでる輩も多数いると聞き及んでおる」
戦士「だって税金たっけーからな」
魔法使い「なんか新聞に王様が賄賂もらいまくってるって書いてあったわよ」
王様「な、何を言う!わしはなにもしておらんぞ!賄賂で政策なんて決めていない」
戦士「そんなこといってねーんだけど」
王様「ごほんっ!まぁ、それはそれとして置いておいて」
王様「どうだ?お前達わしの護衛につかんか?」
戦士「護衛?」
王様「わしを守ると同時に謀反を企むやつらを一掃してくれればいい。魔王を倒したほどのお前達だからな。報酬ははずむぞ」
魔法使い「魔王倒したのは勇者なんだけどねぇ。勇者は?」
王様「あんな全身病原菌みたいなの使えるか!」
魔法使い「そりゃそっか。じゃあ僧侶は?」
王様「断りよった。こんないい話はないんじゃがな」
戦士「んー、どうする魔法使い?」
魔法使い「そうねぇ……」
ゴゴゴゴゴッ
戦士「なんだ?下から何か飛んで……ちょっ!魔法使い逃げろ!」ガシッ
魔法使い「きゃっ!」
ドゴオオオオオオオオオン!
王様「ぬおーーーーーーーー!」
―――数日後
側近「あははははは。見てください魔王様。先日のアレ新聞に載ってますよ。あ、コーヒー来ましたよ」
黒龍「人間界のコーヒーはぬるいのぅ」ズズー
魔王「どれ、見せてみろ。なになに?『王様謎の爆発により死亡。殺害容疑で戦士と魔法使い逮捕』?」
側近「いやぁ、よかったですねー。目撃者がいなくて。ハムエッグもらいー」パクッ
黒龍「よいものか!お主らとともに逃げてしまったせいでわしの手柄が台無しじゃ。ってわしのハムエッグに何をする!」
側近「早いもの価値ですよー」パクパク
魔王「何が手柄だ。王城を攻めるのに天守閣を直接狙うなど卑怯千万!」
黒龍「ならばお主のゆで卵をもらうぞ」ヒョイパクッ
側近「あー!私のゆで卵返してくださいよー」ガタッ
魔王「城を攻めるにしても正面から正々堂々と攻めるべきだ」
黒龍「金を払っておるのはわしじゃろうが。」
側近「かっちーん!あー、そういうこと言うんですかー。小さいですねー」
黒龍「なんじゃと!おい、ウェイター!ハムエッグ追加じゃ」
魔王「貴様ら話を聞かんか!」バンッ
黒龍「お主のゆで卵ならもうわしの胃の中じゃぞ?」
側近「ハムエッグはもう私がいただいちゃいましたよ?」
魔王「朝食の話などしとらん!この間城を襲った件だ」
黒龍「だが、この国の王を仕留めたのはわしなのだからわしが次の王になればよいのではないか?」
側近「新聞には王には子供がいなかったみたいで次の王は選挙で決めるとか書いてありますよ」
魔王「選挙?なんだそれは」
側近「多数決で決めるんですって」
魔王「多数同士で戦闘して決めるのか?」
側近「いえ、投票と言ってたくさん人気のある人が次の王になるんですよ」
魔王「なんだと!?強くなくて何が王だ!」
側近「まぁまぁ。あ、ハムエッグもらいー」パクッ
黒龍「またか!この小娘が!もう知らん!お主達などと一緒におれるか!わしはわしで勝手にやるぞ」カランカランッ
側近「あー、もう。魔王様が大声出すから」
魔王「むっ?外の様子が騒がしいな」
ザワザワ
「よろしくおねがいします。清き一票をよろしくおねがいします」
側近「あ、噂をすれば。あれが選挙演説って言って王になったら何をしたいかみんなに知ってもらうんですよ」
魔王「次の王候補だと?どれどれ」
勇者「どうもどうも。勇者です。あなたの勇者をよろしくおねがいします」
魔王「ぶーっ!」
側近「ちょっとー!魔王様コーヒー吹かないでくださいよ、汚い」
勇者「水虫じゃない勇者、足の臭くない勇者、痔じゃない勇者をどうぞよろしくおねがいします」
勇者(なんとか……なんとか汚名を返上しないと……)
勇者「綺麗な勇者、汚くない勇者、次の王様にはあの魔王を倒した勇者をどうぞよろしく」
「勇者様だ」
「でも汚いって噂があるわよ」
「酷いこというなよ。体は汚くたって心は汚くないだろ」
「そうね、あの魔王を倒したって言うし……」
勇者(これは……いけるか!?)
魔王「貴様!今の話は本当か!勇者!」ザッ
勇者「え」
勇者「あ、握手ですか?どうもどうも。投票用紙には勇者と書いてくださいね」ニコッ
バシッ
魔王「ヘラヘラしてるんじゃない!今の話は本当かと聞いておるのだ!」
勇者「今の話?」
魔王「なんの病気でもないという話だ」
勇者「ええ、ええ。本当ですよ、お兄さん。綺麗で健康な勇者をどうぞよろしく」ニコッ
魔王「この嘘つきがあああああああ!」カッ
勇者「え?なんで!?」
魔王「貴様水虫とか言っていたのもうそであったのか!」
勇者「ええ!水虫なんてありませんよ」
魔王「貴様に合わせてフェアに戦ってやったというのに!この外道の卑怯者が!許さん!」
勇者「え?え?なんでそんなこと言われるの!?あんた誰?」
魔王「私は魔王!この世界を制するものだ!」
「なんなんだ?」
「新しい王様立候補者か?」
「マオ・ウー?イケメンだなー」
「いやーん、かっこいい!マオ様ー!」
「あの勇者に挑むとは命知らずなやつだなー」
「やれやれー!やっちまえー」
勇者「え、なにこの雰囲気」
魔王「貴様!いますぐこの場で立ち会えい!」バッ
勇者「えーっと……何を言ってるのかなぁ?はははは。あんたも王様に立候補してるの?」
魔王「王様だと?私こそ王の中の王だ!貴様のような卑怯者が王になろうなど片腹痛いわ。かかってこい!」
勇者「いやぁ、暴力は良くないよ。暴力は、ね?僕はこの世界を平和に導こうと……」
「なんだなんだ、勇者にげるのかー」
「なさけなーい」
「マオ様がんばってー!」
勇者(くっ……だがここで暴力など使っては俺の評判が……勝てるけどね!我慢我慢……)
勇者「ここは平和的に政策で争おうじゃない、ね?」ニコッ
魔王「何を軟弱なことを!私がこの数日この国でぐうたらしていたとでも思うのか!」
魔王「なんだ、この国は!官僚が賄賂を受け取り、国を疲弊させ、人間達が人間達を飢えさせ死なせておったぞ!」
勇者「いや、それは、前の王様が……」
魔王「その王の直属で討伐に来たのが貴様だろうが!これが私と争って手に入れた平和だとでもいうのか!」
勇者「あの……その……」
「マオ様がんばれー」
「勇者ってそういえば王様の手下だったなー」
「あの王様ひどかったものなぁ」
「でもさすがに勇者様にはかなわないだろ」
「やっぱ力がないとねー」
勇者「あー、もう!わかった、相手してやる」スッ
勇者(まぁ、怪我しないように手を抜いて、握手でもして励ましてやろう。お前の勇気は認めるって感じで……)
魔王「ではゆくぞ!」ゴゴゴゴゴゴゴッ
勇者「なっ……!?」
魔王「はぁ!」ドゴォ
勇者「!?」
ガラガラガシャーン
勇者「」ピクピクッ
「……すげぇ」
「……勇者様を……倒した?」
「あの兄ちゃん顔と口だけじゃねぇのか……」
魔王「勇者!真剣勝負で手を抜くとは何事……うおっ!?」
「すっげえええええええええええええ」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「兄ちゃん!俺あんた応援するよ」バシバシッ
魔王「な、なんだ。触るな」
「マオ様ー!素敵!」
「マオ様ー!」
「マオ様ー!」
ワイワイワイワイ
側近「あははははははー」ケラケラ
魔王「こら、側近、見てないで何とか言え」
―――王城
魔王「勇者の居場所は分かったか?」
側近「そんなことより王様になったんだから仕事しないと」
魔王「人気だけでついた王座なんぞに興味はないわ」
側近「でも人間の王様に選ばれたんですよー」
魔王「まったく!まぁよい。どちらにしろ人間を支配してやるつもりであったのだからな。それより勇者だ。やつとの決着がついておらん」
側近「情報によると酒場で愚痴ってたとか、道端で倒れてたとか、木陰で泣いてたとかいろいろありましたけど、結局行方不明になっちゃいましたねー。死んだんじゃないですか?あはは」ケラケラ
魔王「やつがそんなに簡単に死ぬたまか、捜索を続けろ」
側近「あと、なんか地下牢から『俺は無実だー』とか『あたしは関係ないのにー』とか言う声が聞こえるんですけど」
魔王「放っておけ。私には関係ない。それよりも勇者をだな……」
大臣「あ、あのぅ……」
魔王「ん?」
大臣「マオ様、ご機嫌麗しゅう」
魔王「こいつ誰だ?」
側近「この国の大臣じゃないですか?」
大臣「先代の王様には大変お世話になっておりました。それでマオ様の決められた政策についてなんですが……」
魔王「なんだ?文句でもあるのか」
大臣「あのぅ……賄賂や献金の禁止や税金の大幅削減などちょっと無理が多いのではないかと……その……諸侯からも不満の声が……」
魔王「ふんっ、何を馬鹿な。この国は私の支配下に入ったのだ。この国のすべては私のもの。人間一人についても同じだ。私のものを傷つけることは許さん」
大臣「いえ、今までこれで誰も困ってなど……」
魔王「重税につぐ重税、しかも賄賂なしでは意見を言えぬ政策をしておいて何を言う!私の国民が死んでゆくではないか!貴様、この国の死亡率を知らんのか!」
大臣「しかし……」
魔王「それから貴様も大臣はクビだ。お前のようなものに任せてはおけん」
大臣「そ、そんな!それじゃあ私はどうやって生きていけば……」
魔王「安心しろ。貴様も私の大事な国民だ。貴様にふさわしい仕事を与えてやる。そうだな、皿洗いからはじめてみるのはどうだ?」
大臣「な……な……なんですって……」
魔王「肉体労働でその肥え太ったからだを引き締めるが良い!」
大臣「そ、そんなことをして!貴族諸侯がだまっていませんぞ!」
魔王「なんだ?反逆か?望むところよ!すべて返り討ちにしてくれる!」
魔王「支配してやるぞ!人間どもよ!ふはははははははは!」