―――貴族領
貴族「この私を差し置いて、爵位もない若造が王だと。許せんなぁ?」
召使「おっしゃるとおりでございます」
貴族「しかもこの私の領地の税金まで下げろと言って来ておる。何様のつもりだ」
召使「王様ではないかと……」
貴族「何か言ったか?」ゲシッ
召使「いえ……」
貴族「私の領土は私のもの。たとえ王であろうと口出しはさせぬ」
召使「あの、旦那様」
貴族「何だ」
召使「先ほど、豪族の方が見えてお待ちですが……」
貴族「なんだと!?早くそれをいわんか!このグズが!」ゲシッ
召使「もうしわけございません……」
貴族「どうせ、商売がうまく進むよう賄賂を持ってきたんだろう」
貴族「豪族は金を持ってるからな。せいぜい搾り取ってやるわ」
貴族「これはよくいらっしゃいました。豪族さん。どうです?良い煙草が入ったのですが、一服」
豪族「煙草は吸わん。気を使う必要はない」
秘書「そうですよー。あ、私秘書です」
貴族(なんだ?この偉そうな豪族は……金で爵位を買った成り上がり風情が……)
豪族「ところで、貴殿。先ごろ王が変わったことは聞いたか」
貴族「ええ、まったく賄賂をなくし、税金を下げろなんて馬鹿なことを言ってますよ」
豪族「不満があるなら戦えばよかろう。武力を持ってな」
貴族「なるほど、今日はそういう話でしたか。商売上手でいらっしゃる。武器を売りに来たわけですな」
豪族「そんなところだ」
貴族「これは、ここだけの話ですぞ?」
豪族「ああ」
貴族「今回の王の即位に周辺諸侯は快く思っていない。武力による蜂起も考えて作戦を練っているところなのです」
豪族「それはちょうど良かった」
貴族「豪族さんは本当に商売上手ですな。機を見る目がある。どのような商品をお持ちで?」
豪族「それは……」
ガシャーン
召使「こら!入るな!帰れ帰れ!」
少女「おねがいです!領主様に会わせてください!」
バタバタッ
豪族「なにやら騒がしいな」
貴族「まったく、なんなんでしょうね。少々お待ちを」バタッ
貴族「何をやっている!」
召使「このガキが突然屋敷に入ってきまして……ほらっ!さっさと出て行け!」グイッ
少女「あ!領主様!お願いです!畑を!畑を返してください!」ガバッ
貴族「あぁ?畑を返せですって?」ズカズカ
少女「畑がなくなったら私達……生きていけません!」
貴族「それは、お前が……」ゲシッ
少女「キャッ!」ドタッ
貴族「税金を!」ゲシゲシッ
少女「ああ……」
貴族「納めないからでしょうが!」ゲシゲシッ
少女「でも……お母さん病気だし……弟も小さいんです……税金を払ったら生きていけません」
貴族「あー、もう、これだから平民は……」
貴族「だったら生きなきゃいいでしょう?召使!処分してしまいなさい!」
召使「しょ、処分って……」
貴族「生きる価値のない人間など不要です。殺してしまいなさい」
召使「で、でもそこまでしなくても……」
貴族「あなたも必要ない人間ですか?」ギロッ
召使「で、でも……」
貴族「もういい!私が手本を見せてあげましょう」
貴族「どれ、首の骨をポキっと折ってさしあげましょうか?」ザッ
少女「や、やめ……」
貴族「ははははは!せいぜい泣き喚き……ぶげらっ!」ダーン
豪族「そこまでにしておけ」
秘書「あー、だめですよー。これからこの女の子が手篭めにされていやーんな展開になるところなのに」
豪族「お前な……」
貴族「な、な……何をする!商品を売りたいのではなかったのか!豪族!」
豪族「ああ、売りに来たぞ?取っておきの商品をな……」
貴族「こんなことをされて誰が買うか」
豪族「買わないなら買わせるさ。私は喧嘩を売りに来たのだ」
貴族「へ?」
豪族「そして喜べ。商品はこの魔王様だ!」
側近「あーあ。かっこつけちゃって」
貴族「マオ王?新しい王の!?なぜこんなところに……」
魔王「どうも私の命令が聞けぬ不届き者がおると聞いてな。身分を隠して視察にきたのだ」
魔王「さぁ、武力蜂起がしたいのであろう?かかってくるがよい」
貴族「ま、まさか!?国軍をつれてきたのか!?」
魔王「貴様などを相手にするのにそのような者をつれてくるわけがなかろう」
貴族「では……マオ王一人で……?」
魔王「当然だ!」
側近「あ、私もいますよー秘書です。キリッ」
貴族「は、はははははは……ひゃははははははー」
貴族「一人で来ただと!?これは飛んで火にいるってやつですね」
貴族「であええええええええ!賊が侵入したぞ!」ピー
私兵団長「貴族様!お呼びですか!」
貴族「ああ、賊だ!あいつを殺してしまえ!」
私兵団長「はっ!お前達取り囲むぞ!」
私兵「サー!イエッサー!」ザッ
ザザザザザッ
側近「んー、50人はいますねー」
魔王「ほぅ?この者たちは強いのか?」
貴族「いずれも百戦錬磨の猛者たちよ!マオ王は行方不明になったということにしておこう。ひゃはははははー」
魔王「面白い!かかってこい!」
私兵団長「突撃ー!」
カッ
私兵団長「ばたんきゅー」
貴族「馬鹿な……私の私兵がこんなに簡単に……」
魔王「この程度か、つまらん」
少女「ううっ……」
魔王「おっと、そうであった。我が国民を傷つけるなど許さんからな」
貴族「た、助け……」
魔王「どれ、怪我を見せてみよ。回復魔法!」パァァ
少女「え……あれ?痛くなくなった……」
魔王「畑も自由にするがよい。だが、勘違いするなよ!私の支配地であるからな!」
少女「あ、ありがとう」
魔王「ふんっ、当然だ。貴様は私のものだからな」
少女「え///」ポッ
少女「マオ……様?」
魔王「なんだ」
少女「私……マオ様のものになる!」
魔王「ふん、貴様などまだ幼くて役に立たんわ!大きくなったら来るが良い。ふはははははは」
少女「は、はい!」
側近「あちゃー。魔王様、そんなこと方々で言ってたらそのうち刺されますよ」
貴族「い、今のうちに逃げ……」
魔王「おっと待て」
貴族「こ、殺さないで……」
魔王「我が国民を誰が殺したりするものか。貴様のその腐った性根!腹黒さ、気に入ったぞ」
魔王「我が手足として馬車馬のように働かせてやるからありがたく思うが良い」
側近「あはっ、また皿洗いがふえちゃいましたねー」ケラケラ
貴族「え」
魔王「ふはははははは!」
―――王城
魔王「ふぅ、貴族どもの支配も終わったな」
側近「なんか最近魔王様いいことばっかしてません?」
魔王「何を言う!悪の王たるこの魔王様が善行などつむものか!」
側近「でも、なんか国民の支持がうなぎのぼりみたいですよ」
魔王「くくくっ、愚民どもめ。我が野望を知らずにのんきなものだ」
側近「野望?」
魔王「経済が活性化して、国政の予算もかなり確保できた」
側近「で?」
魔王「そのあまった金で私の家を修復してやる!どうだ!悪だろう!」
側近「しょぼ!家って魔王城ですか?」
魔王「そうだ!人間達にあらされ住めなくなってしまったのだから当然人間達に直させる!」
側近「まだ気にしてたんですかー」
魔王「このような真っ白な城は私の趣味ではない。ああ、懐かしいな……」
魔王「あの暗くて禍々しい概観、悲鳴のよく響く廊下、ごつごつとした装飾品……」
魔王「夏はマグマのように暑く、冬は北極のように寒いあの環境……すべてが懐かしい」
側近「そんなコンセプトだったんですか、あの城」
魔王「魔王城を復活させるのだ!」
側近「ところで魔王様、もう勇者のこと忘れちゃってませんか?」
―――数ヵ月後
匠「これはマオ様よくお越しくださいました」
魔王「ん?誰だ?」
側近「魔王城のリフォームを依頼した匠ですよー。その道のプロって話ですよ」
匠「この度は私の全力をこの城につぎ込みました」
魔王「ほぅ、それは期待できるな」
匠「マオ様のご希望通りに仕上げております」
魔王「おお、楽しみだ」ワクテカ
匠「ではご説明しましょう!魔王城大改造!劇的ビフォーアフターを!」バッ
魔王「な……な……」
匠「いままで悪魔の城として恐れられていた魔王城。それが、この匠の手にかかればこの通り」
匠「まず真っ黒で統一され、暗いイメージであった塀に注目する匠」
匠「もっと明るくできないか。そう考えた匠により大変身。壁一面をショッキングピンクに大改造」
匠「遠くからでもひと目で分かる我が家。方向音痴のあなたでも大安心」
匠「そしてごつごつとした概観に不満を覚えるひとのために電飾で飾りつけ。電飾で作った文字は世界平和を願い『LOVE』の文字を採用」
匠「悪の象徴から愛の象徴と言える城に」
匠「そしておまけで壁に『ご休憩』『ご宿泊』の文字も追加しました。んーっ、決まってるぅ」
匠「そして70室はあるという部屋のすべてに回転ベッドを完備」
匠「オブジェには秘宝館からお借りした秘宝の数々を展示する徹底振り」
匠「若い恋人達からはこんな家なら毎日でもお邪魔したいといわれる事間違いなし!」
匠「いかがですか?マオ様?」ニヤッ
魔王「なんじゃあこりゃああああああああ!」
側近「あはははははははー」ケラケラ
魔王「匠!貴様正気か!」
匠「どうです?いいでしょう?みてください。正面の門にはハートマークをいれ、駐車場には目隠しをしてるんですよ」ニヤッ
魔王「国民の大事な税金でなんてもの作っておるのだ!」
匠「ってそっち!?」
魔王「税金でこんなものを作ったとあっては国民に申し訳がたたん……」ガクッ
匠?「く、くそ!いい王様しやがって……このやろう」
魔王「なに?」
匠?「まぁいいや。へっ!ざまぁみやがれ!」
魔王「なんのことだ?」
匠?「このフードの下の顔を忘れたか!」バッ
魔王「お前は……勇者!?」
勇者「そう!おまえのせいでとっても……とぉおおおおおっても!可哀想なことになった勇者だ!」
魔王「お、おお!勇者!勇者ではないか!探しておったぞ!」バシバシッ
側近「忘れてませんでした?」
勇者「ちょっ!喜ぶな!叩くな!」
勇者「お前のせいでな……俺は汚名も返上できず……イケメンにやられるヘタレとして扱われてな……ううっ」ゴシゴシッ
魔王「よし!決着つけるか!」ワクテカ
勇者「聞けよ!」
魔王「貴様の流儀に合わせて素手で勝負だ!行くぞ!」ザッ
勇者「だからとりあえず俺がなんで怒ってるか聞けって!」
魔王「今度は手を抜くなよ、勇者。ほれほれっ、かかってこい」ワクテカ
勇者「あー!もういい!ぶっころしてやる!」ジャキッ
魔王「なっ、剣だと?」
勇者「魔王討伐の報奨金の全部を使って買ったこの光の剣の錆になりやがれ!」
魔王「貴様!素手の相手に剣を使おうというのか」
勇者「そんなこともう知らん!」
魔王「しかも買ったとはどういことだ。魔王城の財宝はお前が持って行ったのではないのか」
勇者「そんなもんあの王様に接収されちゃったよ!この剣は買い戻したんだ!」
魔王「貴様……かなり可哀想なやつだな……」
勇者「お前が可哀想とか言うなあああああ!」ズバンッ
魔王「おっと!」
ズガアアアアアアアアアアアアン
―――丘の上
側近「おおっと勇者の一撃で地面が吹き飛びましたよー」
僧侶「魔王討伐のときにあのくらいやってくれたら楽でしたのに……あ、ケーキ買ってきたんです。食べます?」
側近「あー、この店のケーキ好きなんですよー。私はスイーツ買ってきました」
僧侶「その店も美味しいですよね」パクッ
僧侶「んーっ、幸せ」パクパク
側近「ねーっ」パクパク
僧侶「しかし、まーあの二人もよくやりますね。あ、勇者様危ない!うしろうしろ!」