―――翌日 宿屋―――
戦士「よし、んじゃ出発しよう」
僧侶「はい」
魔法使い「ふわぁぁぁ」
商人「ぐぅ……ぐぅ……」
武道家「起きろ。商人、起きろ」
勇者「……」
戦士「ゆうしゃ?」
僧侶「どうかしたのですか?」
勇者「なんでもない……行こうか」
魔法使い「うん……」
武道家「……」
勇者(迷うな……!!)
勇者(これは偽りの姿……!!)
勇者(魔王を倒せば……解けてしまうのか……?―――くそ!!どうしたらいいんだ!!!)
―――街道―――
戦士「ゆうしゃー♪」
勇者「うわぁぁ!!!!抱きつくな!!!」
戦士「え……?」
魔法使い「勇者?!」
勇者「あ、ご、ごめん……」
武道家「勇者、どうしちゃったんだ?」
勇者「な、なんでもないんだ……なんでも……」
武道家「凄い汗だ……ちょっと待て、ふいてやるから」
勇者「あ、ありがとう……」
戦士「どうしたんだろう……?」
魔法使い「わかんない」
僧侶「勇者様……」
商人「あれ?ここ、どこ?」
勇者「ほ、ほら。みんなは馬車の中に」
戦士「う、うん……」
僧侶「分かりました」
武道家「じゃあ――」
勇者「あ、武道家」
武道家「え?」
勇者「お、おまえは隣にいてくれ……」
武道家「な、なんで?」
勇者「お、お前が傍にいると……心が落ち着くんだ」
武道家「わ、わかった……」
勇者「ありがとう……はぁ」
武道家「どうしたんだよ、昨日から本当に変だぞ?」
勇者「ごめん……でも気にしないでくれ……いずれ整理するから」
武道家「なら、いいんだ……」
勇者(武道家とならこうして落ち着いて喋ることができる……どうしてだ……もしかして……俺は武道家のことが……?)
―――数日後 夜―――
勇者「みんなは馬車の中で寝ててくれ。俺が見張りをするから」
戦士「うん……おねがいぃ」
魔法使い「おやすみぃ……」
商人「おやしゅみ……」
僧侶「いつもすいません」
勇者「……」
僧侶「あ……はぁ……」
勇者(あれからみんなとはまともに会話してないな……)
勇者(もう魔王の城も近いというのに……こんなことじゃあ、いつか命を……)
武道家「勇者」
勇者「武道家……」
武道家「少し、いい?」
勇者「ああ。武道家なら大歓迎だ」
武道家「……ありがと」
勇者「で、どうしたんだ?」
武道家「いや……あの偽王を倒してからみんなとまともに話してないなぁって思って」
勇者「それは……」
武道家「俺とはこうして話してくれるのに……どうして?」
勇者「……ごめん。言えない」
武道家「勇者……」
勇者「みんなが嫌いになったとか、そういうんじゃない。信頼もしてる。みんな旅立ったときよりも数倍強くなったし」
武道家「うん……」
勇者「魔法使いも僧侶も扱える呪文が15以上もあるし……」
武道家「勇者……」
勇者「ごめん……」
武道家「帰る?」
勇者「え……?」
武道家「辛かったらやめてもいいんじゃないか?―――どうせ、勇者が負ければ世界は終わるんだし」
勇者「武道家……」
武道家「どこかで静かに……暮らしてもいいんじゃないか?」
勇者「……そのときは、一緒にきてくれるか?」
武道家「え……と……う、ん……いい、けど?」
勇者「臆病者の勇者に付き従ってくれるのか?」
武道家「少なくとも俺の前にいる勇者様は臆病じゃない。みんなをいつも守ってくれてるすごい人だ」
勇者「……」
武道家「だから……一緒に逃げても……」
勇者「……ごめん。君は元の姿に戻りたんだろ?」
武道家「あ……」
勇者「なら……ここで逃げるわけにはいかない」
武道家「勇者……」
勇者「好きな人の願いも叶えられないで……君と一緒になるなんておこがましいから」
武道家「勇者……うん……がんばろう」
勇者「ああ。必ず、君を元の姿に戻してみせる!!」
勇者(もう迷わない……俺は魔王を倒すんだ!!!)
―――数週間後 魔王城―――
勇者「ここまで来たか……!!」
武道家「長かった……」
戦士「こわいな……」
魔法使い「ひぃぃ……」
僧侶「かみなりがぁ……」
商人「おしっこ……もれちゃった……」
戦士「うわぁぁぁ!!!!」
勇者「よし。みんなは馬車の中にいてくれ。俺が呼ぶまで絶対に出てきちゃだめだからな」
武道家「うん」
僧侶「お、おねがいします」
魔法使い「勇者、ふぁいとだー」
商人「おまた……きもちゅわるい……」
戦士「僧侶、ティッシュ!!」
勇者(魔王……待っていろ!!!)
―――魔王城内―――
側近「まおー!!」
魔王「わかっている……来たのだな……勇者が!!」
側近「ちがうー、おやつー」
魔王「おお、そうかそうか。ドーナツがテーブルの上にあるからなー」
側近「わーい♪」
魔王「ドラゴンちゃんとわけわけするんだぞー?」
側近「はーい」
魔王「……ふふふ。さあ、勇者よ。ここまで来て初めて貴様を優性種と認めてやろう……理想郷を実現させようではないか!!!」
盗賊「もぐもぐ……勇者きたのー?」
遊び人「みたい」
盗賊「がんばれー!!」
幼ドラゴン「もぎゅもぎゅ」
遊び人「あ!それ私のドーナツ!!返せ!!!」
魔王「こらこら、喧嘩はするな」
―――通路―――
勇者「でぁ!!!」
魔物「ぐおぉぉぉ!!!」
勇者「くらえ―――ギガデイン!!!!」
僧侶「きゃぁ!?かみなりー!!!!」
商人「ひゃ……!!」
戦士「ひぃ……すごいなぁ」
魔法使い「うん、勇者が使える最高の呪文だからね」
商人「あ……あぁ……」
武道家「勇者……」
勇者「よし……いくぞ」
馬「ヒヒン!!」
魔法使い「ん?なんか臭わない?」
戦士「かすかなアンモニア臭……うわぁぁ!!!また商人か!?」
商人「あぅ……びっくりしちゃった……ごめんなさい……」
―――謁見の間―――
勇者「―――魔王!!!」
魔王「―――来たか!!」
戦士「よっと……あ、あれが……」
武道家「おっきい……」
商人「こ、こわいよぉ……」
魔法使い「あ、あんなのに人間が勝てるの……?」
僧侶「勝たなくてはいけないんです……全人類のために!!」
盗賊「ゆうしゃー!!!ひさしぶりー!!!」
遊び人「……(ニコニコ」
勇者「二人を放せ!!!」
魔王「勇者……よくここまで来てくれたな」
勇者「……」
魔王「そう睨むな。―――勇者、私はお前の実力を認めた。故に私と手を組み、世界を理想郷へと変えようではないか」
勇者「―――断る!!貴様の野望はここで潰す!!」
魔王「何故だ?清浄なる世界を実現させようではないか」
勇者「全ての人間を幼女化する……確かにそれは美しい世界のあり方かもしれない」
魔王「そうだ。無垢な者たちがこの世を支配する。争いもない清き世界の誕生だ」
勇者「だが、多くの者はそんなこと願っていない!!」
魔王「それがどうした?お前は人類に世界を委ねられたのだろう?」
勇者「……!?」
魔王「ならば、貴様の決断に文句を言う者などいないはずだ」
勇者「そ、そんなことはない!!俺は全人類の願いを……平和を取り戻しにきたんだ!!」
魔王「ならば、尚更私と手を組め。我が理想郷は悠久の平和が約束されている」
勇者「多くの者が望まない平和など、平和ではない!!」
魔王「何を馬鹿な事を言っている?勇者よ、後ろの者たちを見ろ」
勇者「え……?」
魔王「そやつらも元は中年の男だったり、爺だったり、三十路の女だったりしたわけだ」
勇者「い、いうな!!!」
魔王「だが、そいつらは何か苦痛を訴えたか?それどころかその体で毎日を謳歌していたのではないか?」
戦士「……」
魔法使い「それは……」
武道家「勇者……」
商人「……(ウトウト」
勇者「だ、だが……」
魔王「勇者。お前は勘違いをしているな」
勇者「なんだと?」
魔王「私を倒すことで平和など訪れん。人間同士がまた下らぬ争いを始め、戦火に包まれることだろう」
勇者「……」
魔王「だが、全世界の人間が幼女になればどうだ!?幼女では武器も満足に扱えはしないだろう?」
勇者「あ……」
戦士「鋼の剣が持てなかった……」
魔王「争いが起こりようがないのだ。つまりそれは平和だ。違うか?」
勇者「それは……だが……俺は……」
魔王「勇者、お前は誰の為に私に刃向おうとしている?」
勇者「……」
武道家「……勇者」
魔王「なるほど……なるほど、なるほど……ふはははははは!!!!愛する者のためか!!!」
勇者「な、なにがおかしい!!」
魔王「勇者……その女は元は15歳の女のようだな」
勇者「そ、それがどうした?」
魔王「その姿に惚れたのだろう?」
勇者「ち、ちが……」
魔王「隠すな。だが、私を倒せばその者は元の姿に戻り、そしてやがては老いていく」
勇者「……!?!」
魔王「永遠の若さなど人間のままでは得られんよ。勇者、目を覚ませ。お前はただ欲しかっただけだろう?」
勇者「言うな……言うなぁぁ!!!」
武道家「勇者……?」
魔王「魔王を倒すだけの理由が。だが、そんなものはない。なぜなら、愛する者も永遠にその姿を維持し、世界からは争いがなくなるのだからな!!」
魔王「愛する者が私を倒せと望んだから、私を倒す。ちがうなぁ。自分を偽るな。お前は分かっていたはずだ。魔王を倒せば自分が損をすることにな!!」
勇者「……っ!!」
戦士「勇者……?」
魔法使い「魔王……それ以上、勇者を誑かさないで!!!」
魔王「誑かせているのは貴様たちだ。一欠けらの理性が勇者を偽善に押しとどめようとしている」
武道家「やめてぇ!!!」
魔王「勇者よ。お前は我が理想郷にはなくてはならぬ人物なのだ」
勇者「え……?」
魔王「お前という血統が新たな人類を誕生させる」