―――賢者の家
魔法使い「あ、お師匠様! お帰りなさい!」
賢者「ただいまじゃ。 魔法使い、元気にしておったか?」
魔法使い「はい! 課題もばっちり終わっています! それで、そちらの方は……?」
勇者「我か? 我は魔おへぶし……っ!!」 パシイィン!
賢者「ふぉっふぉっふぉwwww こやつは勇者じゃ。 魔王の討伐が終わったからの、一息入れに帰ってきたのじゃ」
魔法使い「お師匠様、そのハリセンはどちらから……って、魔王を倒したんですか!? そんなさらっと……いえ、でもすごいです!! さすがお師匠様!!」
賢者「ふぉっふぉwwww そうじゃろそうじゃろww」
勇者「……っ」
賢者「魔法使いよ、悪いが茶を煎れてくれぬかの? いかにグレイトな天才のわしでも、いささか疲れたわい」
魔法使い「は、はい! ではお掛けになってお待ちください。 昨日町に出た時、いい茶葉を見つけたんです!」
賢者「それは楽しみじゃわい。 のう、勇者よ」
勇者「……あぁ。 所で、あの女はお前の弟子なのか?」
賢者「うむ、魔法使いと言ってな。 元は王国の書物庫で働いておったのをわしがスカウトしたのじゃ」
勇者「ほう、貴様ほどの者がスカウトするとなれば、さぞや才能あふれる逸材なのだろう」
賢者「ふぉっふぉっふぉwwww それがの、魔法使いとしてのセンスは欠片も無かったのじゃ」
勇者「……笑い事か。 ではなぜ弟子にしたのだ?」
賢者「あの子はの、ありとあらゆる文章や絵画を読み説くことに関したら、
この世でもっとも優れていると言っても過言では無いじゃろうな」
勇者「……本当か?」
賢者「古い文献から読み取った道具やアイテムをわしの工房で再生したのは一つや二つではない。
勇者と魔王の精神を入れ替える術を発見したのも、
魔法使いのアイデアをわしが盗み見してちょいといじったものじゃからな」
勇者「それほどの才能、確かに埋もれさせるにはおしいな。 よくぞ見つけだしたと……」
賢者「それにの、やっぱりかわいい子が身近におると、モチベーションが違うじゃろww ふぉっふぉっふぉwwwwwwwwww」
勇者「爺ぃ……」
魔法使い「お待たせしました」 カチャリ
賢者「ふぉっふぉwwwwww それほど待ってはおらんよ」
勇者「あぁ……」
魔法使い「お師匠様は砂糖二つですよね?」
賢者「さすが我が愛弟子。 わしの好みを完璧に覚えておるのww」
魔法使い「勇者様、お砂糖とミルクはお使いになりますか?」
勇者「……」
魔法使い「勇者様?」
賢者「お主の事じゃ」 パコン
勇者「うぉっ!? そ、そうだったな。 うむ、我はストレートで構わん」
魔法使い「そうですか? じゃあ私と一緒ですね。 私も紅茶はストレートで飲むのが好きなんです」
賢者「じゃあわしも!!wwww」
勇者「張り合うな爺ぃ!!」
勇者「ズズ……しかし、魔法を使わない魔法使いというのもおかしな話だな」カタン
賢者「ゴキュッゴキュッ!! ぷふぁ。 なにを言うとる。 しっかり使えるわい」ゴトン
勇者「何? しかし貴様はさっき才能がないと」
魔法使い「あ、あはは。 確かに、私には魔法を使う才能はないんですが、
それを補う方法は持っているんです」
勇者「補う?」
賢者「うむ、魔法使い、見せてあげるのじゃ」
魔法使い「よろしいんですか? お師匠様は以前、こういった道具は誰にも見せてはならないと……」
賢者「ふぉっふぉww ここにはおかしなことを考えたり、腹をさぐり合う者はいない。
どぉーんとお主の才能を見せつけるのじゃww」
魔法使い「ふふ、分かりました。 勇者様、これが、私が魔法使いと名乗れる為のアイテムです」 コトン
勇者「これは、クロスボウに筒が添えられているようだが……弦がない。
それに、クロスボウに比べたらかなり小さいな」
魔法使い「古い文献を見て、私が組み立てたんです。 魔力投射装置(マジックボウ)という名を付けました」
勇者「ほう、名前から察するに、どうやらこれは矢ではなく、魔法を放つ頃が出来ると?」
賢者「うむ、我が弟子会心の一品じゃな」
勇者「正直に言えば、眉唾な代物だな。 本当にそのようなことが可能なのか?」
魔法使い「このマジックボウには矢の変わりに魔力を込めた魔石を装填します。
魔力自体は他の魔法使いの方に込めてもらえば大丈夫です。
それで、クロスボウと同じように引き金を引けば、魔法が使えないものでも、
即座に魔法を放てるというわけです。 込める魔法によって汎用性も増します」
勇者「それは……実際にその通りだとしたら、この世界のパワーバランスが簡単に崩れさりそうだな」
魔法使い「ですね。 でもご安心ください。 武器の作り方が書いてある文献は、
今ではお師匠様が封印してしまったので、設計図はもう私の頭の中にしかありません」
賢者「まぁ、あれは今の人々にはまだ早い代物じゃ。 今は無い方がいいじゃろう」
勇者「しかし、それが大量生産されていたら、魔界など瞬く間に蹂躙されていただろうな」
魔法使い「いえ、そう簡単な話でもないのです。 このマジックボウは、
本体よりも魔力を込める魔石の方が遙かに重要で、たくさん作れるわけではないのです」
勇者「……そうか」
賢者「魔力を込めることに関しては、グレイトなわしがいるから何にも問題はない」
魔法使い「早く自分で魔力を込められるようになりたいです……」 テレテレ
勇者「(文献を読んだからといって、一からこれほどの物を組み上げるとは……)」
魔法使い「お師匠様、勇者様、まだお時間はありますか?」
勇者「どうなんだ、賢者」
賢者「ふむ、一服も終えて、着替えもすんだ事じゃし、まぁ、まだゆっくりしていられるかの。
どうせわしの転送魔法で一瞬じゃしwwwwww」 ドヤァ
魔法使い「あの、もう少しでクレームブリュレが出来るんですけど、食べてから行かれませんか?」
勇者「クレーム……? なんだそれは?」
賢者「おお、魔法使いの作る料理の中でも、まか格別にうまいやつじゃな!
勇者、食べておいて損はないぞww」
勇者「ほう。 しかし、我が舌を唸らせる程のモノかな?
これでも、魔界の料理はあらかた食べぶふぁっ!?」 パシイィン!!
魔法使い「え、魔界?」
賢者「ほ、ほれ、わしも勇者も腹ぺこなんじゃ。 さっそく持ってきてはくれぬかの?
ふぉっふぉっふぉwwwwww」
魔法使い「あ、はい! 分かりました!!」 タタタ
―――3分後
勇者「な、なんだ、これは……っ!?」
勇者「(表面のパリッとした感触もそうだが、その下にある甘い香りとトロリと溶けるクリーム状の存在感。
一口でも口に入れれば、濃厚な味が下を楽しませ、口腔内の香りが鼻を抜ける際にはまた違った甘さが……っ!?」
勇者「これを、魔法使いが?」
魔法使い「お口に、合いませんでしたか?」
勇者「いや、これほど完成度の高いデザートは初めて食べた。
言葉で飾ることが不可能なほど美味である」 ニコリ
魔法使い「あ、あはは/// そこまで言ってもらえると、私も嬉しいです」 テレテレ///
賢者「(勇者になった甲斐が少しはあったじゃろ)」 ヒソヒソ
勇者「(これほどのものを食べた後では、今だけは否定する言葉を持たん)」 ヒソヒソ
魔法使い「何を話しているんです?」
賢者「ふぉっふぉっふぉww なに、勇者があまりの美味さに魔法使いを嫁に欲しいなんぞ言うもんじゃから、
窘めておったのじゃww」
勇者「うむ、我のそばで毎日作って欲しいくらいだ」
魔法使い「え!?」 ///
賢者「え?」
勇者「ん?」
魔法使い「あ、紅茶が切れてしまいましたね。 同じものをすぐに買ってきます」
賢者「よいよい、別のものでかまわぬわ」
魔法使い「いえ、せっかく長旅から帰ってきたのですから、私もくつろいでもらいたいんです」
賢者「そうか、すまんのう……」
勇者「悪いな」
魔法使い「ふふ、ごゆっくりどうぞ」スチャ
―――魔法使いはマジックボウの射出口を自分のこめかみにあてた!!
勇者「な、何をする気だ!?」
魔法使い「では、行ってきます」 ダァン!
―――魔法使いは 転送魔法を放った!!
勇者「……っ!?」
賢者「ふぉっふぉww 魔石に転送の魔法を込めておいたんじゃよww」
勇者「先に言っておけ。 肝が冷える」
賢者「わしは結構見慣れたもんじゃからな。 うっかりしておったわい。 ふぉw」
勇者「爺ぃ……」
―――勇者と賢者、そして魔法使いはまったりとした時間を過ごした。
魔法使い「魔王を倒して、これからどうなさるんですか?」
勇者「(これからも何も、我は人間としての振る舞いなどしらぬ)」
賢者「ふぉっふぉwwww 決まっとるじゃろ。 勇者など、魔王討伐までの肩書きでしかないんじゃ。
その後は何でも好きにしたらいい。 そうじゃなぁ……勇者としての伝説を広めるために、
冒険者なんかいいのうwwww」
勇者「冒険者?」
賢者「(善行を重ねて、戒めを早く解きたいなら、自分からそのチャンスを探しに行かんとのう)」 ヒソヒソ
勇者「(……一理あるか)」 ヒソヒソ
勇者「……そうだな冒険者にでもなるか」
魔法使い「あ、素敵ですね! 冒険かぁ……。 私は地図を見て卓上旅行するのがせいぜいです。
でも、いつか自分の足で世界中を周りたいですね」
賢者「ふぉっふぉwwww お主は珍しい文献が見たいだけじゃろうwwww」
魔法使い「は、はいぃ……」 テレテレ
勇者「そうなのか? なら、共に世界を回るか? 卓上旅行が趣味なら、地図の見方はわかるのだろう?
あいにく、我はそれほどでもない」
魔法使い「ほ、本当ですか?」
賢者「ふぉっふぉwwww お主さらっとフラグたてるのうwwww」
―――賢者の家で落ち着いた時間を過ごし、勇者と賢者の疲れがとれた。
賢者「さて、そろそろ城に出向くとしようかの! ふぉっふぉw」
勇者「あぁ、そうだな。 いい休憩になった」
魔法使い「あの、お師匠様。 工房で使う素材が切れそうなので、私も城下町で買い物をしたいんですが……」
賢者「おぉ、ならば一緒に行くか。 もしかしたら、一緒には帰れんかもしれんが……勇者も構わんか?」
勇者「あぁ」
魔法使い「ありがとうございます!」
賢者「では、行くぞい。 ふぉふぉww」 ブゥン
―――賢者は転送魔法を発動させた!!
―――城下町
勇者「ここがこの国の城下町か。 なかなかの賑わいだな」
魔法使い「王様の人柄と、政への手腕のおかげで、流通が盛んなのです。
大抵のものなら何でも揃うんですよ。 ……あれ、ご存じなかったんですか?」
勇者「い、いや。 もちろん知っていた」
賢者「では、行くとするかの。 まぁ、城で引き止められても深夜までには帰るつもりじゃ。
パーティーではたらふく頂くつもりじゃがなww ふぉっふぉっふぉww」
魔法使い「では、せっかくなので、私も町で食べて帰りますね」
賢者「うむ、ではの」
魔法使い「パーティー、楽しんで来てくださいね。 それでは」 ペコリ スチャ
―――魔法使いはマジックボウの射出口を自分のこめかみにあてた!
勇者「ちょっと待て!!」
魔法使い「は、はい?」
勇者「……そう遠くもないのだろう? 歩いていくがよい」
魔法使い「え……?」
勇者「(二度目でも慣れぬな。 魔法使いの頭が吹き飛ぶ光景を幻視する)」
賢者「ふぉっふぉww その魔石は、町から家に帰るときにでも使うのじゃww」
魔法使い「は、はい……。 分かりました」 ニコ
賢者「どうする勇者よ。 多少見物でもしていくか?」
勇者「これから嫌と言うほど見ることになるのだろう? さっさと向かおう」
賢者「ああ、それとのう、勇者よ」
勇者「何だ?」
賢者「王の前で余計なことをして、わしの仕事をふやさんでおくれよ」
勇者「……あぁ」
―――王城 執務室
兵士「ほ、報告!!」バタン
大臣「何事だ!? 会議中であるぞ!」
兵士「はっ、 しかし……」
王「かまわぬ、何があった?」
兵士「勇者が、勇者様が……ご帰還されました!」
王「何!? 勇者が帰ってきたと!?」
大臣「……!?」
兵士「はっ! 御仲間と思われる方とご一緒に、現在来賓室でお待ちいただいています」
王「すぐに向かう!! 英雄をいつまでも待たせるわけにはいかん!!」 タッタッタ
兵士「はっ!」 タッタッタ
大臣「っく。まさか、このタイミングで……」
―――王城 玉座の間
王「よくぞ、よくぞ戻った勇者よ!! 私は今日、いや、今日まで生を受け、これほど感極まったことがあろうか!」
勇者「……」
賢者「お初にお目に掛かります、国王陛下。 わしは勇者の旅の途中、仲間に加わった賢者という者です。
この度は謁見の場に加えてくださり、ありがとうございます」
勇者「(貴様、真面目に話せるんじゃないか)」 ヒソヒソ
賢者「(男が格好つけれる場面というのは、一生のうちでも数えられる程じゃからな)」 ヒソヒソ
王「そなたが賢者か。 世界屈指の魔法の腕、その点に疎い余でも聞き及んでおる。 本当によくやってくれた。
魔王討伐というその大業、そなた達二人の名は、永遠に語り継がれるであろう」
勇者「(しかし、これが人間達の……この国の王か。 貫禄はあるが、魔力を封じられた俺にも簡単に殺れそうだな)」 ヒソヒソ
賢者「(懲りない奴じゃ。 またぶっ倒れるぞ)」 ヒソヒソ
勇者「(……あぁ。 思っただけで軽く冷や汗が出た。 監視体制完璧すぎるな)」 ヒソヒソ
賢者「(神や精霊は、いつでもそばにおる)」 ヒソヒソ
王「む? 勇者よ、顔色が優れぬようだが、如何なされた? 思えば、出立した頃よりも髪が……」
賢者「陛下、勇者は魔王討伐戦にて心身ともに限界以上の疲労がその身に溜まっています。 お許し頂けるならば……」
王「おお、そうであったな。 すまぬ、英雄に対して配慮が欠けていたようだ。 しばしその身を休めるがよい。 そして、英気を養えたなら、国中より集まったシェフが食べきれぬ程の食事を用意しよう。 今宵のパーティーに出席願えるなら、顔だけでも出して頂きたい。
皆、英雄の姿を見たいと思っているのだ」
賢者「分かりました。 お心遣い、感謝します。 では勇者、行くとしようかの」
勇者「……わかった」
王「大臣、勇者と賢者の休める部屋を用意するのだ」
大臣「畏まりました。 勇者様、賢者様。 ご案内いたします……どうぞこちらへ」