勇者「お前が勇者をやってみろ」 魔王「どうしてそうなる?」 7/7

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―――大結界の間

勇者「……遅いな」

賢者「うむ、手こずっておるのかのう?」

勇者「……流星がうっすらとだが、もう肉眼で確認できるぞ」

賢者「あれか。 ど~れ……。 なるほどのう。 もう、五分もないじゃろう」

勇者「様子を見てくるか?」

賢者「ふぉっふぉww それは無理じゃ。 わし、こう見えて今フルパワーで城に防御結界を貼る準備をしておるからのww 一歩も動けんww」

大臣「……」

賢者「大臣もあまり動くでないぞ。 結界から出たら余波で吹っ飛ぶぞい」

大臣「……分かった」

勇者「……なら、俺が見てくるか?」

賢者「ふぉww もっとだめじゃ。 どこにおるかも分からんのに、そんな事に時間をかけるわけにもいくまいて」

勇者「……」

賢者「流星は間違いなく魔法陣に向かってくる。 なら、お主は二人を信じて待っておれ」

勇者「……」

賢者「万が一、二人が戻らなかった場合……」

勇者「戻らなかった場合……?」

賢者「……力技でなんとかならんかのう?」

勇者「なってたまるか……ん?」

―――空気が振動しだした! 見上げれば、流星の輪郭がはっきりと見え始める!!

勇者「……なるようになるか」

―――城内 深部

兵士長「舐めるなぁぁ!!」 ブン!!

盗賊「え!?」

―――盗賊は兵士長に回り込まれた!

盗賊「こいつ、ただもんじゃない! あたしのスピードに着いてこられるなんてっ」

魔法使い「盗賊さん!!」 ダン!! ダン!!

―――魔法使いは兵士長、兵士に向けてマジックボウを放った!!

兵士長「甘い!!」

兵士「ふっ!!」

兵士見習い「あわわわわ」

―――兵士長 兵士は魔法使いの攻撃をかわした!!

魔法使い「そんな!?」

兵士長「王国を守り続けてきたのが、オーブの力だけだと思ったか!! 我ら兵士の1人1人が、民の為、国の為に鍛錬を重ねているのだ!!」

兵士「この国に、民に危険を及ぼす輩がいる限り、我らは決して膝などつかない!!」

兵士見習い「……です!!」

盗賊「くそぉ!! 急がなきゃいけないってのに……」

魔法使い「(この人たちに、今起きている現状を説明しても、きっと理解してもらえないっ。 いえ、説明している時間すら惜しい……)」

盗賊「ちょっと!! 空からお星様が降ってくんのよ!! それをなんとかしてやるってんだから、あんたら邪魔しないで!!」

兵士長「戯言を言うな!! さっさと大人しくしろ!!」

魔法使い「……もう、時間が……。 どうしたらっ!」

「……そう遠くもないのだろう? 歩いていくがよい」

魔法使い「……っ!」

―――魔法使いはマジックボウの魔石を入れ替えた!!

魔法使い「盗賊さん!! 盾を上に投げてください!!」

盗賊「え!? どうしてさ!?」

魔法使い「早く!!」

盗賊「ああもう!! 分かったわよ!! はい!!」

―――盗賊は伝説の盾を放り投げた!! 盾はクルクルと回りながら宙を舞う!!

兵士長「何!?」

魔法使い「(盾の表は反射してしまう。 盾のウラ面を狙って……!)」

魔法使い「勇者様!! 受け取ってください!!」 ダァン!!

―――大結界の間

大臣「時間……か」

勇者「間に合わなかったか」

賢者「ほう、想像していたよりも大きく見えるのう……」

勇者「ざっと、大型客船分……いや、それ以上か」

勇者「(勇者という存在の能力がどの程度かわからんが、神や精霊の加護を期待して、本当に力技でいくしかないようだな……)」

賢者「わしはどの道、全力で城を守るだけじゃ。 まぁ、流星が防げなければそれまでじゃがの」

勇者「……くっくっく」

賢者「どうしたのじゃ?」

勇者「初日でこれなら、当分この先退屈することはなさそうだ……」

賢者「ふぉ、ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉww 城で引きこもっていた頃からしたら、考えられんじゃろうw」

勇者「あぁ、悪くない」

賢者「まだまだ、冒険に出たらこんなもんじゃないぞい」

勇者「そうか、それなら……」

勇者「勇者としての初仕事、見事成し遂げて見せようぞぉ!!」

―――流星は灼熱を纏い、雲を吹き飛ばし、空気を轟かせ、今まさに落着間近!!

賢者「はぁぁ!!」 ヒュィィン!!

―――賢者は防御結界を発動させた!!

大臣「……っ!? あれは!?」

―――大結界の間に光が輝き、崩れた門の近くに、伝説の盾が現れた!!

勇者「(……っ!? 着たか!?)」

賢者「(しかし、盾まで距離が……っ)」

大臣「……!!」

―――大臣は伝説の盾に向かって駆け出した!!

賢者「も、戻るんじゃ!! 流星の余波が……!!」

大臣「勇者よ!!」 ガシッ ブン!

―――大臣は伝説の盾を放り投げ、勇者はそれを掴み、即座に腕に装備した!!

大臣「……この国を頼ん……っ」

―――超高熱と衝撃波が大結界の間を埋め尽くす!!

勇者「……っ! 我に任せるがよい!!」

―――流星が落着!! 勇者は伝説の盾をもってして全力で受け止める!!

勇者「ぐっ……がぁぁぁぁぁぁ!!」

―――勇者に100のダメージ!!

勇者に150のダメージ!!

勇者に200のダメージ!!

勇者に250のダメージ!!

勇者に300のダメージ!!

勇者に250のダメージ!!

勇者に300のダメージ!!

賢者「勇者!!」

勇者「(ぐぅ、想像以上の力だ……!!)」

―――勇者に200のダメージ!!

勇者に250のダメージ!!

勇者に200のダメージ!!

勇者に300のダメージ!!

勇者に400のダメージ!!

勇者に550のダメージ!!

賢者「(い、いかん! 勇者が押されておる!!)」

―――勇者は両腕で伝説の盾を支える!! 勢いに押され、足首まで地面に陥没した!!

勇者「っぐぅぁあああああああああ!!」

勇者「(体が、バラバラになりそうだ……!!)」

―――勇者に450のダメージ!!

勇者に400のダメージ!!

勇者に500のダメージ!!

勇者に450のダメージ!!

勇者に600のダメージ!!

勇者に700のダメージ!!

勇者に900のダメージ!!

勇者に999のダメージ!!

―――王城 深部

兵士長「何だ!? この振動は!?」

兵士「城が揺れている!?」

兵士見習い「なんなんです!?」

盗賊「や、やばいんじゃない!?」

魔法使い「……勇者様っ」

―――大結界の間

賢者「ゆ、勇者の力を持ってしても……っ」

勇者「うぉぉぉぉぉぁぁぁあああ!!」

―――防御結界を突き抜けた衝撃波が城の壁を、床を抉り、木の葉の様に吹き飛ばす!!

賢者「(わしの魔力も限界じゃ。 城を守り続けるのはもう……っ!!)」

勇者「(……神よ)」 グッ!

勇者「(……精霊よ!!)」 ググッ!!

勇者「(……今、本気で人間をの事を憂いているのなら!!)」 ギギィッ!!

―――パキン!!

勇者「我に奇跡を……授けて見せろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」 パァァン!!

―――勇者の指にはめていた指輪の魔石が弾け、砕け散った!!

全身と伝説の盾に魔力が充実し、堰を切ったかのように迸る!!

勇者「うぉぉぉおおおおおおおああぁぁぁ!!」

―――盾の輝きが太陽の様に周囲を照らし、雷鳴の如き轟音を伴って、盾と流星の接触面が爆ぜた!!

その刹那、衝撃で魔方陣や周囲の壁は吹き飛び、勇者も光に包まれた!!

空気を裂き、雲を吹き飛ばし、引き絞られ、解き放たれた矢の様に、流星は己が生まれた空の彼方へと帰っていった!!

―――静寂が、太陽の光が差し込む大結界の間に残った。

賢者「や、やりおった……。 勇者の奴め、やりおったわい……!!」

―――賢者は防御結界をといた!!

賢者「ふぅ、わしの魔力もすっからかんじゃわい。 まったく、お主がさっさと石ころ一つ跳ね返さんからこういう……」

―――しかし、そこに帰ってくるはずの言葉はない。

賢者「……勇者? 勇者よ、どこにおる?」

こうして……。

大臣の謀反から始まり、一夜にして巻き起こった大事件は幕を閉じた。

しかし、そのことを知る者は少ない。

城が半壊し、最悪の目覚めを体験した国王。

数時間内に起きた出来事を水晶に映し出して説明する賢者。

魔方陣の術式が完全に停止したか調査する魔法使い。

オーブどころか、伝説の盾までも手に入らず落ち込む盗賊。

各々が事後処理に、もしくは物思いに耽っていた。

しかし……。

流星の落下を防いだ勇者の姿はどこにもなかった……。

―――某国 大草原

勇者「……む、うぅ」

勇者「……我は、どうなったのだ……」

勇者「ここは、どこだ?」

勇者「(我は確か、流星を受け止めて……)」

*「あなたは伝説の盾が力を発揮した瞬間、流星を跳ね返したエネルギーを受け止めきれず、遥か彼方の大陸まで吹き飛ばされたのです」

勇者「誰だ貴様……。 いつからそこにいる?」

*「つれないですね。 せっかく国を救った英雄を労いに来たというのに」

勇者「……そうか、貴様が」

*「はい。 あなたが奇跡を願った存在です」

勇者「ふん。 我は流れ星に世界で最も近かったのだ。 願い事の一つでも叶えてもらわねばな」

*「……ん? ああ、そう言えば人間界にはそういう素敵な話がありますね」

勇者「……王城はどうなった?」

*「城が若干えぐれた以外は、大きな被害はありません。 ただ……」

勇者「ただ?」

*「一人だけ、犠牲になった人間がいます」

「勇者よ!!」

「……この国を頼ん……っ」

勇者「……そうか」

*「今頃、賢者が事態の収集に追われているでしょう」

勇者「……ほう」

―――賢者の家

魔法使い「これでよしっと。 忘れ物はなさそうですね」

賢者「なんじゃ、もう行くのか? 救国の英雄なんじゃし。もっとゆっくりしとったらどうじゃ?」

魔法使い「英雄なんかじゃありませんよ。 だから、私は本当の英雄を探しに行きたいんです。

冒険にも連れて行ってほしいですし、その練習も兼ねて、世界を自分の足で見てみようかと」

賢者「ふぉっふぉww そうかいそうかいww」

盗賊「ちょっと!! 早くしなさいよ!! 船が出ちゃうじゃない!!」

賢者「何じゃ、一緒に行くのかの?」

魔法使い「いえ、私は何も聞いていませんが……」

賢者「ふぉw まぁ、わしの方でも探してみる。 何かあったら連絡するわい」

魔法使い「はい、お師匠様」

盗賊「ねぇ!! 早く早く!!」

賢者「仲良くやるんじゃぞ」

魔法使い「あはは……。 頑張ります」

賢者「……もはや、多くは語るまい。 気を付けてな」

魔法使い「……はい! 行ってきます! お師匠様!!」

―――某国 大草原

勇者「……しかし、どうにも体が動かん。 まるで全身に鉛が仕込まれたようだ」

*「限界以上の力を使ったから、その反動かもしれない」

勇者「はぁ……。 あと、やけに眠い」

*「ゆっくり眠ればいい。 君はそれだけの事をしたんだ。 悪行への戒めも、既に解いてある」

―――そよ風が勇者の頬を優しく撫でる。

勇者「そうか。 ならば……少し眠らせてもらおうか。 我は、疲れた」

*「ああ。 お疲れ様、勇者。 また何かあったら、よろしく頼むよ」

勇者「ふ、冗談ではない。 またもなにも、次からは最初から、貴様らお得いの奇跡でなんとかするが良い」

*「そう何度もポンポンと使うわけにもいかない。 だから、君のような存在を頼りにするんだ」

―――青空はどこまでも広がっている。

勇者「頼られる身にもなってみろ。 初日でこの有様だ」

*「いや、初日にしてはすごいほうだ。 本当に。 さすが勇者」

勇者「勇者も万能ではない。 それほど勇者に期待を寄せているのなら―――」

「貴様が勇者をやってみろ」

―――雲一つない青空だ。

FIN

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