勇者「お前が勇者をやってみろ」 魔王「どうしてそうなる?」 4/7

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―――王城 地下牢

賢者「けほっけほ……。 指向性に難アリじゃな」

勇者「……っぐ、う」

賢者「無事か勇者よ」

勇者「じ、爺ぃ……貴様……」

賢者「うむ、どうやら大丈夫なようじゃな」

勇者「大丈夫でたまるか。 爆心地で直撃だ」

賢者「まぁそう目くじら立てるな。 こうして出口も出来たんじゃ」

勇者「貴様とは一度じっくりと話し合う必要がありそうだな。 人間界の常識を掘り下げて」

賢者「ふぉっふぉww またいつか……む? 魔力の拘束が解かれたようじゃ」

勇者「牢から出たからであろう」

賢者「そうじゃろうか? それにこれは……魔法使いの気配かの」

勇者「なんだ、来てるのか?」

賢者「みたいじゃな。 行ってみるとしよう。 ほれ、この魔法陣に入れ」 ブゥン

勇者「さっきの爆発の件、覚えておくからな」

賢者「まったく、器の小さな男じゃ。 ふぉっふぉっふぉww」 シュイン

―――魔法使いは転送魔法を発動させた!!

―――王城 大結界の間

魔法使い「勇者様!? それに、お師匠様も!?」

賢者「魔法使いよ、一体こんなところで何をしておる?」

勇者「おい、そこの片隅で沈み込んでいるのは誰なんだ?」

盗賊「あたしのお宝……あたしのお宝……あたしの……」

魔法使い「そうです、大変なんです!!」

勇者「どうした?」

賢者「あのねぇちゃん可愛くないかのww」

―――魔法使いは勇者と賢者に事情を説明した。

賢者「大臣が、オーブを破壊したというのじゃな?」

魔法使い「はい。 そうしたら、すぐにいなくなってしまって……」

勇者「今日は大臣に引っ掻き回されてばかりだな」

賢者「……こいつは、まずいことになったのう」

魔法使い「はい……」

勇者「確か、この国のオーブは、一国を覆い尽くすだけ力を持って、魔を退けるオーブだったか。 存在だけは知っていたが……」

賢者「さすがは元まお……ゲフン。 勇者、博識じゃな」

魔法使い「今頃、モンスターを遠ざけていた結界も消滅していると思います」

賢者「要所には見張り台も簡易的な砦もあるから、早々には騒ぎに並んじゃろう、この国の兵は練度が高いからの」

魔法使い「対モンスターの要が、目的ではない?」

勇者「じゃあ、どうして大臣はオーブを破壊したんだ?」

盗賊「ちょっと、あんた達!」

賢者「おぉww ナイスバディーww」

勇者「立ち直ったか」

魔法使い「ちょっと待っててください盗賊さん。 今重要な話を」

盗賊「いいからこれ見てよこれ!! あたしとアンタらの足元!!」

魔法使い「静かにしてください!! もとはと言えば、あなたが扉を……」

―――突如、大結界の間に光が溢れる!!

賢者「む、これは!?」

勇者「赤い光の線? いや、違う……」

魔法使い「魔法陣!? どんどん書き足されて大きくなっていく!?」

勇者「トラップか」

魔法使い「いいえ、この術式は違います」

賢者「ふむ……魔法使いよ、読み取れるかの?」

魔法使い「これは……。 召喚? いえ、呼び寄せる……星?」

勇者「魔法使いは本当に何でも読めるのか」

賢者「すごいじゃろ」 ドヤァ

勇者「なぜ貴様がドヤ顔をする?」

魔法使い「川の淵より……舞い降り……」

賢者「(というか、この術式、魔族のに似ておらんかのう?)」 ヒソヒソ

勇者「(言われてみればそうとも見えるが、少なくとも、我は本当に見たことはない)」 ヒソヒソ

魔法使い「生ある者は、身を捧げ……器は……!?」

盗賊「ちょっと、顔真っ青にしてどうしたのよ」

魔法使い「そんな!? これは、こんな魔法が!?」

賢者「分かったかの?」

魔法使い「これは、これがもし本当に私の推測通りなら……」

勇者「何が起こるんだ?」

魔法使い「あと数時間後に、この国めがけて空から星が降ってきます!!」

盗賊「星? 流星ってこと?」

魔法使い「普通の流星は地表に到達するまでに燃え尽きてしまいますが、

この魔方陣で引き寄せられている星は、確実に落着します。 そういう魔法みたいです」

賢者「被害は? 推測でいいんじゃが」

魔法使い「私には、見当もつきません。 ですが、もしもこの国の大地にその星が衝突したら、

恐らくあらゆる生命や建造物、大地を一瞬で吹き飛ばし、後には巨大な渓谷が出来上がるのではないでしょうか」

盗賊「……」 ゴクリ

賢者「今からじゃと、民の避難も間に合いそうにないのう」

勇者「オーブの守りがなくなったタイミングで魔法陣の発動。

国境の兵士たちはモンスターの監視のために動けず、王城内部の停滞により、民への警告は不可能……か」

賢者「大臣一人の知恵かは分からぬが、大した作戦じゃわい」

魔法使い「……それだけではないのです」

盗賊「え?」

勇者「まだ何かあるのか?」

魔法使い「この魔法陣には、もう一つの術式が組み込まれているんです」

賢者「なんじゃそれは?」

魔法使い「人々の恐怖、憎悪、悲しみといった負の感情を収集し、そのエネルギーで召喚にも近い蘇生術を完成させるのです」

賢者「あまり聞きたくはないが、もしや、その対象とは……」

魔法使い「はい、復活の対象は……魔王です」

―――魔王城

側近「事は順調に推移している。 魔王様復活も、時間の問題だろう」

大臣「多くの人間が理不尽に死ぬ。 その瞬間に発する負の感情エネルギー。

それが魔王様の復活の源となるとは……。 まさに、恐怖の顕現であられますな。 一体、どのようなお方なのか……」

側近「ふふ、実を言うとな、私も魔王様のご尊顔を見たことはないのだ……」

大臣「なんと……。 そうでありましたか」

側近「先代の側近が倒れた時、あらかじめ組まれていた魔術によって発動された選定により、ダークエルフとして暮らしていた私はがその力を受け継いだまま継承という形で“自動的に”誕生したのだ。

ダークエルフとして暮らしていた記憶はそのままだが、第一声を発する前から、既に私の頭は魔王様を復活させることしかなかった」

大臣「なるほど。 それで、私はお声を駆けていただいたのですね」

側近「魔族は人の意識に干渉する術をいくつも持っている。 中でも、大臣ほど変革を望む人間は他にいなかった」

大臣「あの国は平和すぎるのです。 現国王も歴代の王にひけはとらない平和主義者。

しかし、それが他の諸国にも波及し、これまで切磋琢磨していた発展という成長曲線は伸び悩み、いえ、水平飛行しています。 現状の華やかさは、ただの惰性です」

側近「人間は何よりもそれを望むのではないのか?」

大臣「確かに、人々は長きに渡る魔王率いる軍勢との戦いで、平穏を渇望していました。 魔王討伐を果たした事で、それは成就されたと言ってもいいでしょう」

側近「貴様は、そうではなかったと?」

大臣「どれだけ平和な日々が続こうと、それを維持する努力がなければ、国は崩壊します。

我が国は、絶対防御の守りが存在する故に、危機管理能力がほとんどありません。 それが、唯一の欠点とも言えるでしょう」

側近「確かに、貴国の守りは、我ら魔族にとってのみならず、人間に対しても絶大な力を持っているな」

大臣「王はそれを懸念なされてはいたが、今日まで体制が変わることは無かった」

側近「……」

大臣「そんな時、もしも絶対防御をかいくぐる存在が現れたら? 万が一隣国が攻め入ってきたら? 遠征軍が現れたら? 魔物が徒党を組んで襲いかかってきたら?」

側近「対抗すること叶わず、落城するか」

大臣「……我が国の問題だけならいいのです。 そうであれば、犠牲は最小限ですみます。

しかし、安穏とした空気が伝播し、他国の防備をもゆるめてしまうとなれば……それはもはや、悲劇ですらない。

最悪の喜劇です。 人間界最大の敵が破れたとなれば、その勢いも加速する」

側近「だから自国を……病の元を絶つというのか。 多くの民の未来と引き替えに」

大臣「人間は、畏怖の対象が居なければ気がゆるみ、精神は弛緩します。 存在すれば、多くの意志は方向性がまとまり、備えることに前向きとなるでしょう」

大臣「人間には、魔王が必要です」

―――王城 大結界の間

魔法使い「多くの人々が亡くなる瞬間に発生する負のエネルギーがどの程度かはわかりませんが、確実に魔王復活のエネルギーは集まると思います」

勇者「……」

賢者「(どうした勇者? わしを利用して、また魔王に戻れるとでも思っておるのか?)」 ヒソヒソ

勇者「(ふん。 魔王が復活するとしても、それは我ではない。 そのような器に興味はない)」 ヒソヒソ

賢者「(ふぉっふぉww そうか。 それは何よりじゃ)」 ヒソヒソ

勇者「(賢者?)」 ヒソヒソ

賢者「(倒した矢先にまた復活では、“彼”も浮ばれん)」 ヒソヒソ

勇者「(……)」

賢者「魔法使いよ、解呪は出来そうかの?」

魔法使い「お師匠様になら出来るかもしれませんが、私にはマジックボウの為に持ってきた魔石のストックを全て使っても術式の一部を削り取るくらいしか……」

賢者「それで十分じゃわい」

魔法使い「え、お師匠様?」

賢者「わしはこれから、大臣を追ってみる」

勇者「どうやって?」

賢者「魔力の残滓がまだ微かに残っておる。 どこに居かは分からんが、それを追えばたどり着くじゃろ。

それで、解呪法を聞き出す」

勇者「魔方陣の方は? 放っておくのか?」

賢者「そこは、我が愛弟子がなんとかするじゃろ」

魔法使い「わ、私がですか!? 無理ですよ!! というか今言ったじゃないですか! 術式の一部を削るくらいしか出来ないって」 オロオロ

賢者「魔法陣とは、大きければ大きいほど複雑であり、発動までの時間も長い。 そうじゃな?」

魔法使い「それは、そうですけど……」

賢者「これだけの規模の魔法陣じゃ、時計のように、歯車を一つ外せば、正常には機能せんじゃろう」

魔法使い「でも、私なんかじゃ……」

賢者「何を言うとるか。 愛弟子じゃから信頼できるんじゃよ」

魔法使い「お師匠様……」

賢者「わしか魔法使い、どちらかがうまくいけばいいんじゃ。 あまり、肩肘張らずにの」

魔法使い「分かり、ました……。 私、やってみます!」

賢者「うむ、その意気じゃ。 で、勇者よ」

勇者「何だ?」

賢者「妨害が入らないとも限らん。 解呪の間、魔法使いを守ってやってくれんか?」

勇者「ほう、お目付け役がの貴様が我を信用するのか?」

賢者「仕方がないじゃろ。 今頼めるのは、お主しかおらん。 それにじゃ」

勇者「……?」

賢者「(勇者としての初仕事が、女子を守り抜くことなんて、おいしすぎるじゃろww)」 ヒソヒソ

勇者「(爺ぃ……)」

賢者「それに、この善行はポイント高いと思うんじゃよ。 なんせ、一国を救うどころか世界を救うかもしれんのじゃ。

監視も緩み、一気に枷が外れるんじゃなかろうかの~」

勇者「……!? 確かに、言われてみればもっともだ」

魔法使い「監視? 枷?」

勇者「……魔法使い」

魔法使い「は、はい」

勇者「貴様は我がこの剣に賭けて全力で守りぬく。 己の責務を果たすがよい」

魔法使い「勇者様……」

勇者「(我は絶対に自由になってみせるぞ)」

魔法使い「わ、分かりました。 よろしくお願いします。 勇者様!」

賢者「じゃあ、よろしく頼むぞい」 ブゥン

勇者「任せろ。 そっちもしっかりやれ」

賢者「うむ。 おっと、そうじゃ……。 盗賊のお嬢ちゃん」

盗賊「ん? あたい?」

賢者「おぬにも手伝ってもらうかの」ガシ

盗賊「え!? ちょ、ちょっと待っ……」

―――賢者は転送魔法を発動させた!!

勇者「行ったか。 さて……ではこちらも。 ハッ!!」

―――勇者は剣で衝撃波を放った!! 大結界の門がバラバラになった!!

勇者「入口を潰しておけば、そう簡単には邪魔も入ってこれまい」

魔法使い「では、私は解呪の準備に入ります」

勇者「ああ。 安心して始めろ」

魔法使い「はい……」

―――魔法使いは魔法陣に干渉した!!

魔法使い「……あ」

勇者「どうした?」

魔法使い「い、いえ……その……」

勇者「構わん。 言ってみろ」

魔法使い「その、見落としてた術式のトラップに引っかかりました……」

勇者「……それは、どんなトラップだ? かなりまずいのか?」

魔法使い「解呪しようとするものを排除するために、魔法陣の周囲から……」 シュイーン シュイーン シュイーン

勇者「別の魔法陣が……次々と……?」

魔法使い「モンスターを転送させてくるんです……」

勇者「oh……」

魔法使い「ご、ごめんなさい!!」

勇者「扉を壊した意味がなくなったが、まぁいい」

勇者「勇者としての初仕事だ。 派手に参ろうぞ!!」

―――魔王城

側近「む? ……ほう」

大臣「どうされました?」

側近「どうやら、魔法陣に干渉してきた輩がいるようだ」

大臣「なんと……っ」

側近「案ずるな。 そう簡単に破られるような、生半可な術ではない」

大臣「でしたら、良いのですが」

側近「しかし、この作戦に、万が一があってはならぬ。後顧の憂いは断ってくぞ」

賢者「なら、わしは災いの禍根を断たせてもらおうかの。 ふぉっふぉっふぉwww」

側近「……っ!? 何やつ!?」

大臣「お、お前は……!?」

賢者「呼ばれずとも飛び出る天才の具現、賢者じゃ!! ふぉw」

側近「ふん、人間風情がっ。 魔王城に単身乗り込んでくる気概だけは褒めてやろう。

しかし、私は今忙しい。 自殺志願なら、私の見えないところで勝手に自決しろ」

賢者「可愛い顔して辛辣じゃのう……。 しかし、大臣を探すつもりがいきなり元凶に行き着いた感じじゃな」

大臣「お前達は王城地下の特殊牢に入れておいたはず……」

賢者「ふぉっふぉっふぉww その辺は極秘事項じゃ」

大臣「っく、さすがは生ける伝説と言われるだけある」

側近「それで、その生ける伝説とやら。 ここに何のようだ? あいにく人事募集に空きはないぞ」

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