勇者「お前が勇者をやってみろ」 魔王「どうしてそうなる?」 5/7

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賢者「そう難しいことではないわい。 王城に発動された魔法陣、あれ解除してくれんかのう」

側近「何を言うかと思えば……。 いや、あまりに期待通りの言葉だな」

賢者「根が真面目だと捻りを加えるのも難しいんじゃよ。 ふぉww」

側近「当然、私が何と答えるかも分かっているのであろう?」

賢者「そうじゃの~。 わしも荒事は苦手じゃから、出来ることなら前向きな回答を期待したいんじゃが……」

側近「ふふふ、私は荒事が大好きだ!!」 キィィン!!

―――側近は魔力の塊を賢者に向けて放った!! 賢者の居た場所に黒煙があがる!!

側近「消し飛んだか……。 肩慣らしにもならない。 所詮人間は人間か……」

大臣「しかし、魔王様を倒したパーティーの一員でもありますが……」

側近「ならば、それだけ先の魔王様が惰弱だったのだろう。 此度の作戦で誕生する魔王様の器も魂も、歴代最強を顕現させて見せようぞ!!

はぁっはっはっはっはっは!!」

大臣「そう、なのでしょうか……」

側近「この分だと、魔界を蹂躙した勇者というのも、そう大したものではなさそうだな。

魔王様復活の前に、私が始末しに出向こ……っ!?」

賢者「ふぉw 先の魔王よりは、魔法のセンスがいいのう。 魔力の収束にキレがある。 これはまだまだ伸びるのうww」

―――煙が吹き飛び その中から賢者が現れた!!

側近「……無傷だと?」

賢者「じゃが、密度がまだまだ半端じゃな。 及第点くらいは与えてやるかの」

側近「……ふ、ならば何度でも食らわせてやるわ!! この老いぼれめがぁぁぁ!!」 キィィン!!

―――側近の眼前に 強大な魔力が集まっていく!!

賢者「……小娘が」 ギィィン!!

―――賢者の眼前に 膨大な魔力が収束していく!!

賢者「“あの青年”の決意を踏みにじるような行い、決して見逃しはせぬわ!!」

―――王城 大結界の間

勇者「ふっ!! はぁ!! ちぃ!!」

―――勇者の攻撃!!

魔物Eを倒した!

魔物Fを倒した!

魔物Gを倒した!

魔法使い「……っ。 ここを……魔力の流れが……」

勇者「ふ、間断無く出てくるとは、っく! 良く出来た術式だ」

勇者「(それに、徐々に召喚される魔物の強さが上がっていくとはな)」

魔法使い「勇者様、大丈夫ですか?」

勇者「気遣いは無用だ。 貴様は自分の仕事に集中しろ。 式を崩す時間が早ければ、我の休まる時間も早まる。 期待しているぞ」

魔法使い「……っ。 はい!! 頑張ります!!」

勇者「ふん、その意気だ。 さぁ、まだまだ夜は長いぞ」

勇者「(こやつら……己の意識なく、ただ召喚されるだけの傀儡というだけまだ救われるな。 わが同胞達よ)」

魔法使い「(そちらはどうなっていますか……お師匠様)」

―――魔王城

側近「そんな……がはっ。 馬鹿な……」 ガクッ

大臣「これ程か、よもや、人の身で……」

賢者「終わりか。 お主の腕で、よく戦ったほうじゃ」

側近「お前、本当に、人間か……?」

賢者「人のままで歩もうとすれば、どこまでも行ける。 あきらめなければ、どこまでも、どこへでも」

大臣「……!?」

賢者「わしは人に恵まれた。 道をそれそうになった時、常にそこには人がいた。 だから、高みに至れる事が出来た」

大臣「あ、あなたは……」

賢者「国を思うが故に、道を誤ることもある。 次からは、身近にでもなくていい、いい酒場にでも、愚痴をこぼせる友を作っておくことじゃ」

大臣「あなたは……どうして……」

賢者「なに、人より長く生きていると、見えるものも増えてくるもんじゃよ。 ふぉww」

大臣「それでは、私の事も……」

賢者「まずは、先走らず、人に相談することから初めてはどうじゃ? それができるのも人間じゃてな」

大臣「……私は、私は……っ」

賢者「さて、ではダークエルフのお嬢さんに、魔法陣の解除方法を吐いてもらおうかのう」

側近「っく……っ? そうだ!!」 ガバッ グイッ

大臣「んっ!? っぐ!? 側近様、何を……!?」

―――側近は大臣の首に 鋭利な爪を食い込ませた!!

側近「少しでもおかしな真似をしたら、こいつをの喉を掻き斬る!! おとなしくしていることだな!!」

大臣「がっ、ぁっ……」

賢者「往生際が悪い奴じゃ。 もう完全にわしのグレイトな勝利で決着じゃろう」

側近「黙れ!! こんな、こんな巫山戯たことがあるか!! 私は認めないっ。 絶対に認めない!!」

大臣「に、人間を……裏切っ、た私がっ、人質になど……」

側近「貴様も死にたくなければ口を噤んでいろ」 グイッ!

大臣「ぐっ……!?」

側近「あと少しで復活なさるのだっ。 こんなところで終わってたまるか!!」

賢者「(さて、ポーカーフェイスを決めてはおるが、わしも結構魔力を消耗してくたくたなんじゃけどなぁ)」

賢者「まぁ、頃合じゃろうな。 ほいっ!!」ヒュン

―――賢者は持っていた杖を頭上に放り投げた!!

側近「余計な真似はするなと……なにっ!? ぐあ!?」 バシッ!!

盗賊「悪いね、気配を消すのは職業柄得意なんだ。 人質は返してもらうよ」

賢者「ナイスじゃ盗賊のお嬢ちゃん!!」 ダッ!

―――賢者は一瞬にして側近との距離を詰めた!!

側近「っく、しかし! 杖のない貴様に、魔法は使えまい!!」

賢者「そんなもんいらんよ」 スッ

側近「……っ!? がはぁ!!」 ドン!!

―――賢者は震脚で地面を割り、側近に発勁を叩き込んだ!!

側近「な……何……が……?」

賢者「わしは、賢者になる前は武闘家だったんじゃよ。 こっちもまだまだ現役でいけそうじゃの。 ふぉっふぉww」

側近「はっ……けい……だと?」

賢者「(足の骨にヒビ、あと肩が外れたかのぅ……。 じゃが、それを顔には出せんわい)」

賢者「そっちはうまくやっておるかのう? 勇者、魔法使いよ……」

―――大結界の間

魔法使い「もう少しです勇者様! もう少しだけ頑張ってください!!」

勇者「了解した。 敵が複数のドラゴンになってきたあたりで手間が増えたが、この調子なら大丈夫だ」

魔法使い「ストックしていた魔石も一つを残して終わりそうです」

勇者「ふ、賢者が認めるだけはあるな。 ハァァ!!」

―――勇者の攻撃!! ドラゴンは大きな音を立てて倒れた!!

魔法使い「勇者様も、剣戟だけでここまで……。 凄いです!」

勇者「あぁ。 だいぶ馴染んできたところだ。 まだまだいけるぞ」

魔法使い「あと……少し……。 これが終われば、私も加勢に……」

―――突然 魔法陣の一部が輝き出す!!

勇者「もう終わったのか? 仕事が早いな」

勇者「(魔力を持たぬ人間が、魔方陣を無力化する……か)」

魔法使い「……ぇ?」 ポカーン

勇者「……魔法使い?」

魔法使い「まだ……終わっていません……」

勇者「……何?」

魔法使い「あともう少しだった。 けど、まだ終わってない……。

そんな……。 流星の時間すらまだなのに……」

勇者「まさか、またトラップか?」

魔法使い「いえ、これは……術式の一部が正常に発動しています……ここの術式は……え、そんな……」 ブルブル

勇者「どうした?」

魔法使い「……やられ、ました。 全て、私の、責任です」 ガタガタ

勇者「しっかりしろ魔法使い!! 一体何がどうしたんだ!!」

魔法使い「は、初めのトラップに掛かった時から……もうすでに……」

勇者「落ち着け、落ち着くんだ。 っ!? オォ!!」 ズバァ!

―――勇者の攻撃! ドラゴンは壁に吹き飛ばされた!!

魔法使い「勇者様、魔王が……魔王が……復活します……」

―――魔王城

側近「く、くくく。 はっはははは……」

賢者「む?」

賢者「何を笑っておる?」

側近「いや、魔法陣のトラップに引っかかった奴、お前の仲間だろう? 思いの外、随分がんばってくれたようだ。 何体魔物をけしかけても倒せそうにもないよ くくく」

賢者「そうじゃろう? 何せ勇者じゃからな。 そう簡単にはくたばらんじゃろうて」

側近「通りで……。ふふ、私でさえ手を焼く大型のドラゴン級でさえ、何体もほふられているみたいだよ。 もう完敗さ……」ニヤニヤ

賢者「なら、もういいじゃろ。 そろそろ魔法陣を解除してもらえんかのう?」

賢者「(何じゃ、何を狙っておる……?」

側近「でもね、そうやって何体も、何十体も何百体も倒してくれたおかげで……」

―――突然 側近の足下に巨大な魔法陣が現れた!!

側近「最低限のエネルギーが集まった!!」

盗賊「えぇ!?」

賢者「なんじゃと!?」

側近「本当によくやってくれたよ!! 最高の勇者様だ。 私たちが同じ事をしようとしても、同族からの反発でこうはならない。

無差別に、一瞬で、慈悲無く大量に殺しまくる勇者様でないと出来ないよ、これは!!」

賢者「(まずい、復活を止めようにも、それだけの魔力が残っておらん……。 盗賊と大臣だけでも転送魔法で……)」

側近「さぁ、あなたを滅ぼし、憎き人間に復讐を果たす時です! 魔王様、今こそ我らの元へ顕現なさいませ!! 復活なさいませ!!」

―――魔法陣が一段と輝きだす!!

賢者「っく……、盗賊のお嬢ちゃん!! 大臣と一緒に逃げるんじゃ!!」

盗賊「あ、あんたはどうすんのよ!?」

―――賢者は転送魔法を発動させた!!

賢者「(もう二人分を送るくらいしか魔力がないんじゃ!)」

賢者「後から行くわい! 頼んだぞ!」

盗賊「わ、わかった!!」 シュン!

―――大結界の間

盗賊「わわわ……!」 シュン

大臣「っく……!」 シュン

勇者「貴様達、無事だったか」

大臣「……」

勇者「死に損なったか。 まぁ、挽回できるチャンスをもらったと思え」

盗賊「こっちは、大丈夫なの?」

勇者「ああ、魔法陣が光った後、魔物の出現が無くなった」

魔法使い「あ、あの、お師匠様は?」

大臣「すぐに、来るとは言っていたが……」

盗賊「そ、そうだっ! 大変なんだよ!! 魔王が復活しちまうんだよ!! あのじいさん、先にあたし達だけ逃がしたんだ!!」

魔法使い「そんな……まさか……お師匠さま」 ポロポロ

勇者「そう悲観するな、魔法使い」

魔法使い「勇者様……」 グスッ

勇者「あの爺ぃがそう簡単にくたばるわけがないだろう。 今は、信じて待っているんだ」

魔法使い「ですがっ!」

勇者「世界最強の“二人”からお墨付きをもらっているんだ。 大丈夫だ」

―――魔王城

賢者「(かつて、ここまでグレイトな窮地に陥ったことがあるだろうか?)」

―――魔法陣からでる粒子が人型をなしていく!!

賢者「(ふぉっふぉっふぉww やばすぎじゃなww 終わったかもww)」

―――光が収まり 漆黒のローブを纏った魔王が現れた!!

魔王「……」

側近「おお!! 魔王様!! 復活おめでとうございます!!」

賢者「なんと、いうことじゃ……」

賢者「(空気が帯電するほどの魔力、間違いなく魔王じゃ)」

側近「(素晴らしい。 想像以上の力です、魔王様!! これなら人間共も、この忌々しい老いぼれ賢者も、一瞬にして消し炭だ!!)」

魔王「……」

側近「私は側近と申します、あなた様の片腕であり、補佐をする者です。 お見知りおきくださいませ」

魔王「……」

賢者「(う、動けん……っ。 今少しでも動いたら殺られる」

側近「魔王様、その賢者は我々の未来に仇なす存在です。 おかしな考えを思いつく前に、灰塵へと帰しましょう」

賢者「ぐぅ、これ、までか……」

側近「くくく、さらばだ、賢者!!」

魔王「……」

側近「……?」

―――魔王の間に静寂が訪れた。

魔王「(……)」

賢者「(……)」

魔王「(……賢者)」 ヒソヒソ

賢者「……ん?」

側近「(魔王様? 老いぼれの目前で足を止め、一体何をしておられるのか?)」

魔王「(……えっと、これ、どういう事? どういう状況?)」 ヒソヒソ

賢者「……? 何を言っておるんじゃ?」

魔王「(……俺、確かに賢者に消滅させてもらったよな?)」 ヒソヒソ

賢者「……!?」

側近「魔王様? 如何なされました?」

魔王「(あそこの際どい服着た超絶美人誰? 知り合いか?)」 ヒソヒソ

賢者「なんと、このような事が……奇跡がダースで送られたかのようじゃ」

側近「まさか、復活したばかりでお加減でも悪いのですか?」

魔王「(魔王って言ってるけど、それ俺の事だよな? 復活とか……何? 俺、生き返った的なSomething?)」 ヒソヒソ

賢者「(……YESww)」 ヒソヒソ

魔王「(……なんだってそんな事に? 全然状況がつかめないんだけど?)」 ヒソヒソ

賢者「(実は今、お主が死んでおった間に王国が吹っ飛びそうなんじゃよ。 言いたいことは色々あるじゃろうが、

今は何も聞かずに、あそこにいる側近のお嬢さんに、魔方陣を解除するように頼んでみちゃくれんかのう?)」 ヒソヒソ

魔王「(マジかよ。 そりゃまたぶっ飛んだ話だな)」 ヒソヒソ

賢者「(ふぉっふぉww)」 ヒソヒソ

魔王「(いや、まぁ、聞くのはいいけど……大丈夫なのか? 初対面だぜ?)」 ヒソヒソ

賢者「(なぁに、今のお主は魔族の頂点に君臨する魔王じゃ。 いけるじゃろww)」 ヒソヒソ

魔王「(かなぁ?)」 ヒソヒソ

賢者「(さぁさぁ……ww)」 ヒソヒソ

側近「魔王様……?」

魔王「……ゴホン。 あぁ、君、側近て言ったっけ」 クルッ

側近「あ、は、ははぁっ!!」 ドクンッ

側近「(な、何だ? 魔王様のお顔を見た瞬間……いや、瞳を覗かれた瞬間に、む、胸が……」 ドキドキ

魔王「君が、俺を復活させたのかい?」

側近「作用でございます!!」

魔王「そうか。 それは、その……」

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