帽子「!?」ドサ!
赤毛「!」
戦士「ハァ……」
帽子「え? あれ?」
戦士「ごめん。ちょっとムキになっちゃったよ」
帽子「今……見えなかったぞ」
赤毛「……すごい」
戦士「そりゃそうだよ。一応そういうのの専門家なんだから。それより帽子、ズレてるよ」
帽子「!」ササ!
戦士「……ん?」
戦士(傷の跡? いや、見間違いか?)
戦士「ちょっと頭、いい?」
帽子「! 触るんじゃねえ!」
戦士「え?」
帽子「ちくしょう、覚えてろよ!」タッタッタ……
戦士「いや、え?」
赤毛「行っちゃった……」
戦士「えー……」
赤毛「……どうする?」
戦士「いや本当に……どうしろって言うんだよ」
翌日
戦士「ええと……」
帽子「……」
赤毛「……」
戦士「昨日、君が帰った後、少し講釈したんだけど」
帽子「……」ギロ
戦士(うわ目つき怖)
戦士「あー……そのね、僕が教えるのは戦う方法だ。どうやって勝ち、生き延びるかの手段だ」
帽子「……それで?」
戦士「う、うん、えーと。でもね、魔王がいなくなった今、その重要性はどんどん低くなっていくと思うんだ」
赤毛「……」
戦士「それでもとりあえず身を守る方法としては役に立つと思う。この街にはよからぬ集団がいるとも聞くしね」
戦士「今はそれぐらいしか思いつかない。でもそういう技術を学ぶことによって――」
帽子「隙あり!」
戦士「おわ!?」
……
…
帽子「……畜生、なんで勝てねえ」
戦士「君、僕の話の方は聞いてた?」
帽子「全然」
戦士「……うん。やっぱり期待はしてなかった」
帽子「もうながったらしい話はいいから始めようぜー」
戦士「真面目にやってくれる?」
帽子「は? お前の隙を狙うんだからそんな暇ねえだろ」
戦士「……練習する気ないならもういっそ帰ってよ」
赤毛「……」ギュッ
戦士「うん、握り方はそれでいいよ。そしたら少し構えてみようか」
赤毛「……こう?」
戦士「ちょっと低いかな。正眼では剣先が相手の目に向くようにするんだ」
赤毛「……」スッ
戦士「うん。いい感じ」
赤毛「……あの」
戦士「……うん。分かってる」
帽子「……」ジー
戦士(やりにくいなあ……)
……
…
帽子「ていや!」
戦士「……」カキン
……
帽子「こんの!」
戦士「……」パシン
……
帽子「ふんぬ!」
戦士(……諦めてくれないかなあ)ピシン
……
…
帽子「次こそは見てろよ!」タッタッタ
戦士「……」
赤毛「……お疲れさまでした」
戦士「ああ、うん……お疲れ。気をつけて帰ってね」
赤毛「それじゃ……」
戦士「はぁ……」
夜
「酒だ! 酒を買ってこい!」
「もうやめてくださいな……」
「なんだ。お前まで俺に逆らうのか!」
「そういうわけじゃ……」
「この恩知らずどもめが!」
「うっ……ぐっ……」
帽子「……」
数日後の練習後
戦士「あの子、とうとう顔すら出さなくなったねえ……」
赤毛「……」
戦士「まさかこうなるとは……いや、予想してたけど」
赤毛「……なに、してるの?」
戦士「ああ、ナイフや短刀、投剣の手入れ」キュッキュッ
赤毛「剣、だけじゃないんだ……」
戦士「剣士じゃなくてあくまでも戦士だからね。」
赤毛「……たくさん」
戦士「うん。――っと。そういえばちょっと用事があるんだった」
赤毛「?」
戦士「悪いけど、これらを見といてもらえないかな」
赤毛「分かった……」
赤毛「……」
「あれ? あいつはいねえのか?」
赤毛「……あ」
帽子「チッ、今日こそ一本取ってやろうと思ったのによ」
赤毛「来たの」
帽子「わりいかよ。……ん?」
赤毛「……?」
帽子「……ふーん」ヒョイ
赤毛「あ……」
帽子「これ、いいな」
赤毛「ちょっと」
帽子「あん? いいだろ別に。こんだけあったら一つぐらい取ってもわかんねえよ」
赤毛「でも……」
帽子「いいから。お前、チクんなよ」
赤毛「……」
……
…
戦士「ただいまー」
赤毛「……」
戦士「ん? どうかした?」
赤毛「何でも……ない」
戦士「そう?」
赤毛「お疲れ、さまでした」
戦士「うん、お疲れ」
夜 宿にて
戦士「……やっぱり足りないな」
戦士(こっちにあると思ったけど、道場の方に忘れてきたのか?)
戦士(たかだかナイフ一本……とはいかないか)
戦士「気になる。道場に戻ろう」
街路
戦士「あれ?」
赤毛「……」
戦士「こんな時間にどうしたんだい?」
赤毛「……あの」
戦士「この街にはギャングもいると聞いてる。危険だ。送ってくよ」
赤毛「先生」
戦士「?」
赤毛「助けて、ほしいんだ」
戦士「……どうした?」
……
…
赤毛『ぼうしのお兄ちゃんの家。ぼくの家の近くなんだけど……』
赤毛『家族の仲……あまりよくないみたいなんだ』
赤毛『どなり声とかも聞こえることもあって』
赤毛『……』
赤毛『今日、先生のナイフをもってったのは、お兄ちゃんなの』
赤毛『すぐに教えなくてごめんなさい……』
赤毛『……先生。お兄ちゃんを助けてあげて。お願い』
……
…
「くそっ、このっ……なんてことしやがる!」
帽子「……」
「クソガキが……親に刃を向けるか!」
帽子「……お前なんか親じゃない」
「くそ、いてえ……血が……」
帽子「死んでしまえ。お前なんか」
「この!」バキィ!
帽子「ぐっ!」ドサ
「……いいナイフだな」
帽子(くそっ……取られた)
「この馬鹿が! お前こそ死んじまえ!」ヒュッ!
ドゴッ!
「がッ――!」ドサ
帽子「あ……」
戦士「ふぅ……大丈夫かい?」
帽子「あんた……なんで?」
戦士「生徒を守るのが先生の仕事だからね」
帽子「……」
戦士「遅くなってごめん」
帽子「……手遅れだ」
戦士「……」
帽子「親を殺そうとした奴は重罪だ……俺は、終わりだ」
戦士「僕は夜の街路を歩いていたら近くの家から言い争う声を聞いた」
帽子「……?」
戦士「気になって近付いてみると、『殺す』という恫喝も聞こえた」
帽子「……何を、言ってんだ?」
戦士「慌てて飛びこむと、父親と思しき男が、子供に刃物を振り上げていた」
帽子「だから、何を言ってるんだよ!」
戦士「……僕は、それを止めようとしてもみ合いになり、その際男に"多少"怪我を負わせてしまった。でも、正当防衛だ」
帽子「まさか。あんた……」
戦士「生徒を守るのが先生の役目だ。言ったろ?」
戦士「明日は道場に来なさい」
帽子「え?」
戦士「僕はね、今ようやく分かった気がするんだ」
帽子「なにがだよ」
戦士「僕が教えられるのはただ相手を殺したり自分の身を守ったりするだけの技術じゃないってこと」
帽子「……」
戦士「僕は君たちに"戦う方法"を教えたい。弱い自分を鍛え、醜い自分と戦う方法」
帽子「……」
戦士「広い意味で戦うということだ。まだ上手く表現できないけど。役に立つと思う」
帽子「……なんだよそれ」
戦士「僕は君のお父さんを医者に連れていくよ。それじゃあまた明日」
帽子「……」
……
…
翌日
戦士(警衛兵には金を積んでおいたし、あの子が罪に問われることは多分ないだろう)
戦士(これでとりあえずは大丈夫だ)
戦士「さて、二人とも来てるかな」
ガラガラガラ……
帽子「……」
赤毛「……」
戦士「うん。そろってるね」
帽子「あの」
戦士「ん?」
帽子「よろしくお願いします……先生」
戦士「……ふふ。ああ、よろしく」