戦士「番号!」
帽子の少年「いーち」
赤毛の少年「に……」
戦士「……」
帽子「なんだよ」
戦士「いや。まさか門下生が二人だけとは思わなくて……それだけ」
帽子「またそれかよ」
戦士「ごめん」
数日前 ある街の宿 部屋の前
戦士(あれから……魔王撃破から、十日か)
戦士「……」コンコン
戦士「賢者。中にいるんだろう?」
「…………」
戦士「返事はしなくていい。ただ聞いてほしい」
戦士「勇者の死体は見つからなかったそうだ」
戦士「……。魔王の自爆に巻き込まれておそらく、その、跡形もなく」
「っ……」
戦士「ごめん……」
戦士「……とても残念なことだよ。この世界には彼がまだ必要だったはずだ」
戦士「彼なしで歩きだすには、僕らはまだ脆すぎる」
戦士「いや、そんな大層なことじゃないな。君は、彼のことが……」
戦士「……」
戦士「祝賀パーティーへの出席は断ったよ。そんな気分じゃないし、彼抜きで、僕らだけが出るわけにはいかない。そうだろう?」
戦士「戦ったのは結局のところ彼一人だった。僕たちは足手まといに過ぎなかった。だから」
戦士「……」
戦士「駄目だな。どうも湿っぽくなる」
戦士「僕はそろそろ行くよ」
「……どこに?」
戦士「褒賞金が出ただろ? 僕は自分の分でこの街に無料の道場を開く」
戦士「僕は勇者の足下にも及ばなかった」
戦士「そんな自分はもう終わりにしたい。何らかの形で。だからその足掛かりになればと思う」
「……」
戦士「もし……もし少し元気が出たら、道場にも顔を出してほしい」
戦士「場所は東区の広場に行けば分かるよ」
戦士「それじゃあ」
「……」
勇者『けっ。ザコばっかじゃねえか』
戦士『ハァ、ハァ……』
勇者『あ? へばってんのか?』
戦士『……ちょっとね』
勇者『それでも最強と名高い戦士さまか? 名前泣いてんぞ?』
戦士『面目ないな……』
勇者『あーあーやんなっちゃうねえ、まったく』
戦士『はは……』
勇者『この旅が終わったらさっさと現役から降りるんだな。その方がてめえのためにもなるぜ』
戦士『……そうかも、しれないね』
戦士(名が泣く、か)
戦士(そうだ。僕はいつだって……)
戦士(こんな僕にも何かできることはあるんだろうか)
戦士(今の僕には分からないけれど。この道場でその答えは出る。はずだ)
ガラガラ!
帽子の少年「ん?」
赤毛の少年「……」
戦士「……え?」
戦士「あれ? ええと」
帽子「あんたがこの道場の?」
戦士「あ、うん。そうだけど……」
赤毛「……」
戦士「いや、二人? 君たちだけ?」
帽子「だな」
戦士「……」
戦士(そんな馬鹿な!)
戦士(た……確かに、確かに魔王の脅威は去ったばかり)
戦士(生活基盤はボロボロで、その立て直しに手一杯なんだろう。それほど人が集まらないことは予想してた)
戦士(けど、けどそれでも二人しか……しかも子供だけって)
戦士「き、君たち何歳?」
帽子「十四」
赤毛「……十一」
戦士「……そうか」
戦士(神さま。一体僕にどうしろと)
帽子「なあなあ」
戦士「……なに?」
帽子「あんたが勇者と一緒に旅したっていう戦士だよな」
戦士「ああ、そうだよ。それよりあんたじゃなくて先生って呼んでもらえないかな」
帽子「勇者の武勇伝はよく聞くのに、あんたの話をほとんど聞かないのはなんでだ?」
戦士「そ、それは」
帽子「あれか? あんたアシデマトイだった?」
戦士「ぐふぅ!」グサァ!
戦士「違うんだ……僕たちはサポートに徹していただけで、そんなに弱いわけじゃないんだ……」
戦士「ていうか勇者が強すぎたんだ……あれは人間じゃない……仕方ないんだ」
帽子「何壁に話しかけてるんだよ」
戦士「……。でもよく分かった。だから、こんなに人が集まらなかったのか」
赤毛「……」
戦士「一応聞いてみよう。君たちはなんでここに?」
帽子「暇つぶし」
赤毛「……なんとなく」
戦士「……いや、期待していたわけじゃないよ」
戦士「ハァ……」
戦士(もし仮に僕が勇者だったら。もっと人は集まったかな)
帽子「すげー。真剣は初めてだよ俺」
赤毛「……」ツンツン
戦士「危ないから気をつけてね」
戦士(……考えても仕方のないことだけれど。やっぱり二人よりは多く集まったと思うんだよな)
戦士「ハァ……」
赤毛「……また、ため息?」
戦士「ごめん」
戦士(やっぱり僕は勇者ではないってことで。それはどうしようもない現実なんだろう)
戦士「じゃあ僕にできることってなんだろう」
帽子「さしあたっては俺の手当てじゃねえかな」ピュー
戦士「気をつけてって言ったじゃないか!」
……
…
戦士「さて、まあとりあえずは今日は顔合わせだけって事で」
帽子「解散か?」
戦士「ああ。何か鍛練用の服でもあればと思ったけど、持ってきてないよね?」
帽子「そんなもんねえよ」
赤毛「……ない」
戦士「そうか。じゃあこっちで用意しておくから、明日から同じ時間にここに来なさい」
帽子「うーす」
赤毛「……分かった」
戦士「帰ったか」
戦士「ああどうしよ。前途多難どころの騒ぎじゃないぞ、さすがに門下生が少なすぎる」
戦士「いや、授業料取るわけじゃないから多くなくてもいいんだけど」
戦士「でも、さすがに二人は。二人っていうのは……」
戦士「……」
戦士「むなしい。帰ろう」
「どこいってやがったお前!」
「酒が足りねえからさっさと買ってこい!」
「……ああ?」
「なんだその顔は」
「育ててやった恩を忘れたか?」
「……こっちへ来い!」
――ガッ!
翌日
戦士「まだ時間まで結構あるのに早いね」
帽子「まあな」
戦士「でも道場でごろ寝はできればやめてもらいたいっていうか」
帽子「んー」
戦士「いや、聞いてよ」
ガラガラ……
赤毛「……」
戦士「ああ、君も来たか。じゃあとりあえず二人ともこれに着がえてくれ」
帽子「なんだコレ。だっせぇ」
赤毛「……」
戦士「そんなに不満顔しないでくれよ。動きやすくはあるだろ?」
帽子「そりゃまあ」
戦士「それより鍛練中は邪魔になるから帽子は取りなよ」
帽子「……」
戦士「?」
帽子「別に、いいだろ。取らなくたって」
戦士「いや。でも」
帽子「実戦ではどんな状況でも戦えないと駄目じゃね?」
戦士「うーん」
帽子「……」
戦士「いや、それでも練習で怪我したら元も子もないし」
帽子「いいから! 始めようぜ!」
赤毛「……」
戦士(……?)
戦士「まあ、わかったよ」
帽子「……」
戦士「よし、じゃあ始めようか」
帽子「うーす」
赤毛「……うん」
戦士「それじゃ、姿勢を正して……礼!」
……
…
帽子「なあ。飽きたんだけど」
戦士「いや。まだ準備体操の途中なんだけど」
帽子「だって長くねえか? いくらなんでもよ」
戦士「そんなこと言っても初めてだし、念入りにやっとかないと」
帽子「そんなこと言ってたら日が暮れちまうだろうが」
戦士「怪我するよりマシだよ」
帽子「でーもーよー!」
戦士「でもじゃない。ここでは僕の言うことを聞きなさい」
帽子「こいつだって飽きてるぜ!」
赤毛「……」
戦士「はいはい。次は足首をしっかり回してー」
帽子「なあ、まだおわんねえの?」
戦士「まーだ。はい、膝裏の筋伸ばしてー」
帽子「馬鹿らし」スク
戦士「ちょっと。まだ終わってないだろ」
赤毛「……」
帽子「やってらんねえよ。せっかく木刀まで用意してあんのにこれ以上待てるかっての!」
戦士「あー……もう。分かったよ!」
戦士「まずは握り方だけど」
帽子「そんな細かいことはいいだろ! さっさと実戦に移ろうぜ!」
戦士「ええ?」
帽子「ほら早く!」
戦士「駄目だよ。握り方すら知らない人には教えられない」
帽子「……」
戦士「じゃあいいかい。指はこういうふうに――」
帽子「うりゃ!」
戦士「うわ!?」
帽子「チッ、避けたか」
戦士「いきなり何するんだ!」
帽子「さっさと実戦に移らねえ駄目教師はこうだ!」
戦士「こら! やめろって!」
帽子「どうだ! 俺って才能あるだろ!?」
戦士「こいつめ……」
戦士(いや、落ちつけ僕。相手は子供だぞ。冷静に冷静に)
帽子「やーいアシデマトイー!」
戦士「……」ピキ
帽子「くらえ!」ビュッ!
戦士「……」ビッ!
カァン――!