戦士「魔王倒したし道場でも開くか」 1/8

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戦士「番号!」

帽子の少年「いーち」

赤毛の少年「に……」

戦士「……」

帽子「なんだよ」

戦士「いや。まさか門下生が二人だけとは思わなくて……それだけ」

帽子「またそれかよ」

戦士「ごめん」

数日前 ある街の宿 部屋の前

戦士(あれから……魔王撃破から、十日か)

戦士「……」コンコン

戦士「賢者。中にいるんだろう?」

「…………」

戦士「返事はしなくていい。ただ聞いてほしい」

戦士「勇者の死体は見つからなかったそうだ」

戦士「……。魔王の自爆に巻き込まれておそらく、その、跡形もなく」

「っ……」

戦士「ごめん……」

戦士「……とても残念なことだよ。この世界には彼がまだ必要だったはずだ」

戦士「彼なしで歩きだすには、僕らはまだ脆すぎる」

戦士「いや、そんな大層なことじゃないな。君は、彼のことが……」

戦士「……」

戦士「祝賀パーティーへの出席は断ったよ。そんな気分じゃないし、彼抜きで、僕らだけが出るわけにはいかない。そうだろう?」

戦士「戦ったのは結局のところ彼一人だった。僕たちは足手まといに過ぎなかった。だから」

戦士「……」

戦士「駄目だな。どうも湿っぽくなる」

戦士「僕はそろそろ行くよ」

「……どこに?」

戦士「褒賞金が出ただろ? 僕は自分の分でこの街に無料の道場を開く」

戦士「僕は勇者の足下にも及ばなかった」

戦士「そんな自分はもう終わりにしたい。何らかの形で。だからその足掛かりになればと思う」

「……」

戦士「もし……もし少し元気が出たら、道場にも顔を出してほしい」

戦士「場所は東区の広場に行けば分かるよ」

戦士「それじゃあ」

「……」

勇者『けっ。ザコばっかじゃねえか』

戦士『ハァ、ハァ……』

勇者『あ? へばってんのか?』

戦士『……ちょっとね』

勇者『それでも最強と名高い戦士さまか? 名前泣いてんぞ?』

戦士『面目ないな……』

勇者『あーあーやんなっちゃうねえ、まったく』

戦士『はは……』

勇者『この旅が終わったらさっさと現役から降りるんだな。その方がてめえのためにもなるぜ』

戦士『……そうかも、しれないね』

戦士(名が泣く、か)

戦士(そうだ。僕はいつだって……)

戦士(こんな僕にも何かできることはあるんだろうか)

戦士(今の僕には分からないけれど。この道場でその答えは出る。はずだ)

ガラガラ!

帽子の少年「ん?」

赤毛の少年「……」

戦士「……え?」

戦士「あれ? ええと」

帽子「あんたがこの道場の?」

戦士「あ、うん。そうだけど……」

赤毛「……」

戦士「いや、二人? 君たちだけ?」

帽子「だな」

戦士「……」

戦士(そんな馬鹿な!)

戦士(た……確かに、確かに魔王の脅威は去ったばかり)

戦士(生活基盤はボロボロで、その立て直しに手一杯なんだろう。それほど人が集まらないことは予想してた)

戦士(けど、けどそれでも二人しか……しかも子供だけって)

戦士「き、君たち何歳?」

帽子「十四」

赤毛「……十一」

戦士「……そうか」

戦士(神さま。一体僕にどうしろと)

帽子「なあなあ」

戦士「……なに?」

帽子「あんたが勇者と一緒に旅したっていう戦士だよな」

戦士「ああ、そうだよ。それよりあんたじゃなくて先生って呼んでもらえないかな」

帽子「勇者の武勇伝はよく聞くのに、あんたの話をほとんど聞かないのはなんでだ?」

戦士「そ、それは」

帽子「あれか? あんたアシデマトイだった?」

戦士「ぐふぅ!」グサァ!

戦士「違うんだ……僕たちはサポートに徹していただけで、そんなに弱いわけじゃないんだ……」

戦士「ていうか勇者が強すぎたんだ……あれは人間じゃない……仕方ないんだ」

帽子「何壁に話しかけてるんだよ」

戦士「……。でもよく分かった。だから、こんなに人が集まらなかったのか」

赤毛「……」

戦士「一応聞いてみよう。君たちはなんでここに?」

帽子「暇つぶし」

赤毛「……なんとなく」

戦士「……いや、期待していたわけじゃないよ」

戦士「ハァ……」

戦士(もし仮に僕が勇者だったら。もっと人は集まったかな)

帽子「すげー。真剣は初めてだよ俺」

赤毛「……」ツンツン

戦士「危ないから気をつけてね」

戦士(……考えても仕方のないことだけれど。やっぱり二人よりは多く集まったと思うんだよな)

戦士「ハァ……」

赤毛「……また、ため息?」

戦士「ごめん」

戦士(やっぱり僕は勇者ではないってことで。それはどうしようもない現実なんだろう)

戦士「じゃあ僕にできることってなんだろう」

帽子「さしあたっては俺の手当てじゃねえかな」ピュー

戦士「気をつけてって言ったじゃないか!」

……

戦士「さて、まあとりあえずは今日は顔合わせだけって事で」

帽子「解散か?」

戦士「ああ。何か鍛練用の服でもあればと思ったけど、持ってきてないよね?」

帽子「そんなもんねえよ」

赤毛「……ない」

戦士「そうか。じゃあこっちで用意しておくから、明日から同じ時間にここに来なさい」

帽子「うーす」

赤毛「……分かった」

戦士「帰ったか」

戦士「ああどうしよ。前途多難どころの騒ぎじゃないぞ、さすがに門下生が少なすぎる」

戦士「いや、授業料取るわけじゃないから多くなくてもいいんだけど」

戦士「でも、さすがに二人は。二人っていうのは……」

戦士「……」

戦士「むなしい。帰ろう」

「どこいってやがったお前!」

「酒が足りねえからさっさと買ってこい!」

「……ああ?」

「なんだその顔は」

「育ててやった恩を忘れたか?」

「……こっちへ来い!」

――ガッ!

翌日

戦士「まだ時間まで結構あるのに早いね」

帽子「まあな」

戦士「でも道場でごろ寝はできればやめてもらいたいっていうか」

帽子「んー」

戦士「いや、聞いてよ」

ガラガラ……

赤毛「……」

戦士「ああ、君も来たか。じゃあとりあえず二人ともこれに着がえてくれ」

帽子「なんだコレ。だっせぇ」

赤毛「……」

戦士「そんなに不満顔しないでくれよ。動きやすくはあるだろ?」

帽子「そりゃまあ」

戦士「それより鍛練中は邪魔になるから帽子は取りなよ」

帽子「……」

戦士「?」

帽子「別に、いいだろ。取らなくたって」

戦士「いや。でも」

帽子「実戦ではどんな状況でも戦えないと駄目じゃね?」

戦士「うーん」

帽子「……」

戦士「いや、それでも練習で怪我したら元も子もないし」

帽子「いいから! 始めようぜ!」

赤毛「……」

戦士(……?)

戦士「まあ、わかったよ」

帽子「……」

戦士「よし、じゃあ始めようか」

帽子「うーす」

赤毛「……うん」

戦士「それじゃ、姿勢を正して……礼!」

……

帽子「なあ。飽きたんだけど」

戦士「いや。まだ準備体操の途中なんだけど」

帽子「だって長くねえか? いくらなんでもよ」

戦士「そんなこと言っても初めてだし、念入りにやっとかないと」

帽子「そんなこと言ってたら日が暮れちまうだろうが」

戦士「怪我するよりマシだよ」

帽子「でーもーよー!」

戦士「でもじゃない。ここでは僕の言うことを聞きなさい」

帽子「こいつだって飽きてるぜ!」

赤毛「……」

戦士「はいはい。次は足首をしっかり回してー」

帽子「なあ、まだおわんねえの?」

戦士「まーだ。はい、膝裏の筋伸ばしてー」

帽子「馬鹿らし」スク

戦士「ちょっと。まだ終わってないだろ」

赤毛「……」

帽子「やってらんねえよ。せっかく木刀まで用意してあんのにこれ以上待てるかっての!」

戦士「あー……もう。分かったよ!」

戦士「まずは握り方だけど」

帽子「そんな細かいことはいいだろ! さっさと実戦に移ろうぜ!」

戦士「ええ?」

帽子「ほら早く!」

戦士「駄目だよ。握り方すら知らない人には教えられない」

帽子「……」

戦士「じゃあいいかい。指はこういうふうに――」

帽子「うりゃ!」

戦士「うわ!?」

帽子「チッ、避けたか」

戦士「いきなり何するんだ!」

帽子「さっさと実戦に移らねえ駄目教師はこうだ!」

戦士「こら! やめろって!」

帽子「どうだ! 俺って才能あるだろ!?」

戦士「こいつめ……」

戦士(いや、落ちつけ僕。相手は子供だぞ。冷静に冷静に)

帽子「やーいアシデマトイー!」

戦士「……」ピキ

帽子「くらえ!」ビュッ!

戦士「……」ビッ!

カァン――!

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