戦士「魔王倒したし道場でも開くか」 6/8

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賢者「戦士!」

戦士「賢者?」

帽子「お?」

賢者「大変です! あの子が……あの子が!」

戦士「! 彼がどうかしたのかい?」

賢者「来てください」

帽子「なになに? どうしたんだよ?」

賢者「あの子は今、病院にいます」

戦士「……!」

病院

戦士「……」

赤毛「……」

戦士「大丈夫かい?」

赤毛「……先、生」

賢者「腹部に刺傷があります」

戦士「刺された?」

賢者「はい……いえ、違います」

戦士「違う?」

赤毛「ぼく……ぼく、は」

賢者「あなたは喋らないで。わたしが説明します」

戦士「頼む」

……

傷男『久しぶりだな』

『……』

傷男『金は用意できたかよ』

『……すみません』

傷男『あ?』

『返すことが、できません』

傷男『……。そうかよ』

『……』

傷男『ああそうかよ! ふざけんじゃねえぞ!』

『申し訳ありません!』

傷男『どう落とし前つける気だ、ああ!?』

『私の、命でなんとかならないでしょうか』

傷男『……』

『……お願いです。家族にだけは、手を出さないでください』

傷男『てめえの命はありがたく頂戴するよ。でもな……それだけでチャラになるわけねえだろうが!』

『お願いです!』

傷男『この野郎!』ガッ!

『ぐッ!』

傷男『全部だ。全部売れ。店も商品も、家族もだ!』

『それだけは!』

傷男『甘ったれてんじゃねえ!』

『お願いです。――お前?』

傷男『あ?』

赤毛『……』

赤毛『帰って、ください……』

傷男『……』

赤毛『帰ってください……!』

傷男『そのナイフは脅しのつもりか僕ちゃん?』

赤毛『……』

傷男『はー、やんなっちゃうね。こんなガキけしかけてどうするんだよ』

『ち、違います! ――やめるんだ! お前は下がってなさい』

赤毛『帰ってください、お願いします!』

傷男『いいかい僕ちゃん。世の中の道理を教えてやるよ。借りたもんはな、返さなきゃならないんだ』

赤毛『……』

傷男『それとな』

赤毛『……!』

傷男『お前みたいなガキじゃ俺には敵わねえんだよ!』バキィ!

赤毛『ぐ……ッ!』ドサ

『ああっ……!』

赤毛『ハァ、ハァ……』ムクリ

傷男『もう良しとけガキ。俺はこっちのオヤジに用があるんだ』

赤毛『……』

傷男『助けを呼ぼうと無駄だぜ。俺たちに逆らえる奴ぁこの街には――』

赤毛『わ、わあああああああ!』

傷男『!?』

ドスッ!

傷男『……あ?』

赤毛『ぐ……うぐぐ……!』

『な、なんで……!』

傷男『トチ狂ったかガキ。自殺なんざ流行らねえぜ』

赤毛『誰か……助けて!』

傷男『……! まさか』

赤毛『誰か助けて! 助けて!』

『なんだ?』

傷男『チッ……!』ダッ!

……

戦士「いくら街を牛耳るギャングでも、刃傷沙汰になればさすがにまずい」

赤毛「……」

戦士「それを狙って、自分を刺したんだね」

赤毛「勝った、よ……」

戦士「……」

赤毛「ぼく……勝った……」

戦士「なんて無茶なことを……」

賢者「ごめんなさい……わたしのミスです」

戦士「いいんだ。もう、いい」

赤毛「先、生……?」

戦士「君はもう休みなさい」

赤毛「……」

戦士「よく頑張ったね」

赤毛「……はい」

ガチャ

帽子「! 先生!」

戦士「……」

帽子「あいつは!? 大丈夫だった!?」

戦士「君に、頼みたいことがある」

帽子「え?」

戦士「賢者」

賢者「はい」

戦士「行こう」

賢者「ええ」

帽子「え? え? どこに行くんだよ?」

戦士「ギャングのところだ」

帽子「ど、どうしてさ!」

戦士「話を――つけに行く」

夕日の照らす街路を進みながら

戦士「……」

賢者「……戦士」

戦士「……」

賢者「あの」

戦士「分かってる」

賢者「相手は一人ではありません。少し間違えればわたしたちでも危ういです」

戦士「分かってるよ」

賢者「組織の力は、勇者の持つそれとは別種に強い。選択を誤れば――」

戦士「ああ。でもそんなことは関係ないんだ」

ドン!

「――ってえな! 誰だ!」

戦士「……」

……

「なんだぁ兄ちゃん。俺を誰だと思ってやがる?」

戦士「この街を牛耳るギャングの構成員、その一人だね」

「……そうだ。それが分かってんなら――」

バキィッ!

「ぶへ!?」

戦士「分かってるから君に伝言を頼むよ。僕たちは君のボスに用がある。今からそちらに直接出向く」

「な……な……?」

戦士「伝えろ。行け」

「ひ、ひぃ!」ダダッ!

戦士「……」

賢者「戦士……」

戦士「僕は……僕を許せない」

賢者「……」

戦士「君に言われた通りだよ。悠長すぎた。気楽過ぎた」

賢者「……」

戦士「行こう」

賢者「ええ」

日暮れ 屋敷の前

賢者「ここが……」

戦士「そうだ」

賢者「大きいですね」

戦士「こんなところに堂々と居座れる程に力をつけているということさ」

賢者「……」

戦士「門は空いてる。行くよ」

大男「へえ」

戦士「……」

大男「存外に若ぇじゃねえか」

戦士「……僕は、あなたに話があってきた」

大男「ああ、こいつに聞いてるよ」

傷男「へっ」

大男「どうやら噂によれば勇者と共に旅をして、魔王を打ち破ったそうじゃねえか」

賢者「……」

大男「そんな御仁を招けるとは、俺も偉くなったもんだなぁおい」

戦士「あの家族にはもう手を出すな」

大男「ん?」

戦士「聞いているんだろう。そっちの男が金を貸した人の家族だ」

大男「ふぅむ」

戦士「金を借りた当人はわずかながらも借金の返済を続けている。これからも続けさせる」

傷男「……」

戦士「いつかは完済もできるだろう。だから、それまで待ってほしい」

大男「だとよ。どう思う、お前」

傷男「完済ねえ……いつになるのやら全くはっきりしない。話になりませんな」

大男「つーことだ」

戦士「……」

大男「そんな怖い顔するな」

戦士「……後悔するぞ」

大男「どっちが?」

戦士「試してみるか?」

大男「くく……ははっ!」

傷男「あー、ごほん。ちょっといいか若造」

戦士「……」

傷男「お前が言ってる家族の……あーなんといったか、あのガキ」

戦士「……」

傷男「ちょっと世話になったし、怪我もさせちまった。だから下のもんにアイサツに行かせたんだ」

戦士「そうか」

傷男「……? 気にならねえのか?」

戦士「問題ない。そちらは僕のもう一人の生徒がもてなすよ」

病院前

「ここだな」

帽子「この病院に何か用か?」

「……!?」

帽子「みたところ怪我人でもなさそうだけど」

「なんだお前」

帽子「あんたが用があるだろう子供の、兄貴分だ」

「……?」

戦士『いいかい。良く聞くんだ』

戦士『あの子は、ギャングを敵に回してしまった。もしかしたらなにかしら報復があるかもしれない』

戦士『だから』

戦士『……』

戦士『いや、君を信じる。僕がギャングと話をつける間、あの子を守ってやってくれ』

帽子「先生からのお達しだ。お前をもてなせとさ」

「へえ……」

帽子「いくぜ。あいつには指一本触れさせねえ」

「ふん、ガキが! 木刀一本で何ができる!」

帽子「戦うこと。それで十分だ!」ダッ!

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