戦士「魔王倒したし道場でも開くか」 7/8

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屋敷

傷男「もう一人の生徒?」

戦士「まだ子供だ。でも戦うということを知っている」

傷男「へっ、薄情な先生だな」

戦士「信じてるんだよ」

傷男「物は言いようだ」

戦士「……。こちらの要求の方は呑んでもらえないかな」

大男「さぁてねえ」

戦士「僕たちなら、このギャングを壊滅に追い込むことも可能だ」

大男「脅しか?」

戦士「できるできないの話だ」

大男「そうか。ならこっちも同じ話をしよう。俺たちは大きなファミリーだ。お前に壊滅させられようが生き延びられる奴は生き延びられる」

戦士「……」

大男「そしてその生き延びた奴の怒りの向く先は……」

賢者「……っ」

大男「ははっ!」

戦士(そんなことは分かってる)

戦士(僕たちは勇者じゃない。できないことは必ずある)

戦士(そして、その不可能は、いつか僕たちの前に立ちはだかる)

戦士(……どうしようもないことは、どうしたってこの世に存在する)

戦士「でも、だからこそ人は戦うんじゃないか……!」

大男「ん?」

傷男「?」

賢者「……?」

戦士「取引をしよう。あなたたちがあの家族に危害を加えないなら、僕は何もしない」

大男「で、逆なら俺たちファミリーを潰す、と」

戦士「そうだ」

大男「んっんー、なんとも魅力的だ。なあ?」

傷男「ははは」

戦士「……」

大男「だがな」ギロ

大男「てめえが落とし前つけねえならこっちだってそんなの呑めねえ」

戦士「……」

大男「俺たちにもメンツがある。タダでってわけにはいかねえな」

戦士「……」

大男「そこんとこ、どうするんだ?」

戦士「こうする」チャキ

大男・傷男「……!」

ザグンッ――!

病院前

「おらぁッ!」

帽子「ぐッ!」ドサ

「っは。大口叩いても所詮はガキじゃねえか」

帽子「ハァ、ハァ……」

「すぐに楽にしてやるよ」

帽子「勝つために必要なのは――」

「あん?」

帽子「狙った場所に、狙った威力で、正確に攻撃を加えること。何回、何十回、何百回やっても同じようにできるようにすること。

どんな状態であっても」

「……何言ってやがる?」

帽子「そして、俺は戦うと決めた。だからもう戦士だ」

「ふん」

帽子「だから、戦う! 勝つ!」

「これで終わりだ!」バッ!

帽子「あああああああッッ!」ビュッ!

ガッ――!

「……」

帽子「……」

「……ぐふぅっ」ドサ

帽子「……へっ。こいつ、最後の最後で足滑らせてやんの」

「――」

帽子「ざまあ、見やがれ……」

帽子「……」

帽子「――」ドサ

屋敷

戦士「……」

大男「……」

戦士「……ぐっ!」

大男「……はは!」

戦士「っ……っ……!」

大男「こりゃあ傑作だぜ!」

賢者「戦士!」

傷男「……」

大男「まさか自分の――自分の腕を切り落とすなんてよ!」

戦士「ゼィ、ゼィ……」

大男「それがお前のやり方か」

戦士「……ぅ」

大男「そうか……そうかよ」

傷男「ボス?」

大男「医者に運んでやれ」

傷男「いや、しかし」

大男「チャラだ。全部な。お前の勝ちだよ、若造」

戦士「――」

大男「もっとも、もう聞こえてないだろうがな」

――ドサ

……

数日後 病院

戦士「――と、言うわけで、これでもう解決だ」

赤毛「……」

戦士「呆気なかったといえば呆気なかったかな。なんてね。はは」

赤毛「……」グス

戦士「……」

帽子「なぁにが呆気なかっただよ、馬鹿先生」

赤毛「左腕……ぼくの、ために……」

戦士「……」

赤毛「ごめんなさい先生。ぼくのせいだ」

戦士「……」

赤毛「ぼくのせいで……」

戦士「……」

赤毛「ぼくの、せいで……」

戦士「永遠の愛はない」

赤毛「……え?」

戦士「それと同じで脆くない絆なんかない。死なない人間はいない」

赤毛「……」

戦士「でも、だからこそ人は守りたいと思う。生きたいと願う」

赤毛「……」

戦士「人はあがく。僕も同じだ」

帽子「……」

戦士「だから。いいんだよ」

赤毛「……」

帽子「なんかよく分からねえんだけど」

戦士「そうかもね」

赤毛「先生」

戦士「ん?」

赤毛「これからも、よろしくお願いします」

戦士「ああ」

帽子「ふわぁ~あ」

戦士「さて、僕らは早く身体を治して退院しよう。賢者が待ってる」

赤毛「はい」

帽子「うす」

渦巻く闇の中で

『チッ! しぶてえ奴だ』

『グオオオオオ!』

『もうろくに知性も残ってねえくせにまあ粘ること粘ること』

『オオオオオオ!』

『そろそろ決着つけようぜ!』

『アアアアアア!』

……

騒動から数カ月後 道場

戦士「始め!」

帽子「はッ――!」シュッ!

赤毛「……っ」ガッ!

ガン! ガッ! ズダン!

帽子「やッ!」

赤毛「ふッ!」

賢者「二人とも、だいぶ様になってますね」

戦士「ああ」

賢者「……真剣ですね」

戦士「そうだね。二人とも真面目にやってくれてるよ」

賢者「ふふ。そうではなくてあなたですよ」

戦士「え?」

賢者「子供たちを見る目がとても真っ直ぐです」

戦士「……」

賢者「そしてなにより優しい」

戦士「……そうかな?」

賢者「ええ」

戦士「そっか。そうかも」

賢者「あなたは変わりましたね。とても、大きくなった気がします」

戦士「……」

賢者「わたしも見習わなくちゃ」

戦士「賢者だって僕と同じだよ。変わったさ」

賢者「そうでしょうか」

戦士「変わらないわけないだろ。人間なんだから」

賢者「ふふ。そうかもしれませんね」

戦士「……。あのさ」

賢者「なんでしょうか」

戦士「賢者さえよければ、だけど」

賢者「ええ」

戦士「ずっと、このまま道場にいてくれないか」

賢者「……」

戦士「賢者はもうそろそろ次のやるべきことを考えていたんじゃないかな」

賢者「……」

戦士「もしそうなら迷わせるような事を言って申し訳ないけど」

賢者「……」

戦士「でも、もし。もしよかったら僕と一緒に――」

ズズンッ――!

戦士・賢者「!?」

帽子「なんだ?」

赤毛「地震……?」

戦士「いや……この気配は……」

賢者「戦士、行きましょう!」

戦士「ああ!」

帽子「ど、どこ行くんだよ!?」

南の城壁

「な、なんだ? 城壁が崩れて――」

「あれはなんだ?」

「ば、化け物……化け物だ!」

タタタッ――ザッ!

賢者「戦士! あれは!」

戦士「ああ……間違いない! 魔王だ!」

魔王「キシャアアアアアアア!」

帽子「え? は? 魔王!? 死んだんじゃねえのかよ!」

戦士「どういうことだと思う、賢者?」

賢者「分かりません……ですが」

戦士「ああ――二人とも!」

帽子・赤毛「!」

戦士「警衛兵と協力して街の人々を避難させるんだ!」

帽子「人出足りるか!?」

戦士「なんだったらギャングを駆り出してもいい! なんとかするんだ!」

赤毛「先生たちは……?」

賢者「あれを食い止めます」

帽子「……分かった!」

戦士「頼んだよ!」

帽子「おうよ!」ダッ!

赤毛「……」ダッ!

魔王「グオオオオオオ!」

戦士「……さて。勇者なしでどれくらい持つと思う?」チャキ

賢者「五分持てば上出来でしょうか」スチャ

戦士「同意見だ。でもその二倍は持たせるぞ」

賢者「……はい」

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