戦士「魔王倒したし道場でも開くか」 4/8

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「やーい人殺し! 殺人鬼!」

帽子「……」

「なんとか言えよ、犯罪者」

帽子「……」スタスタ

「おい待てよ」ガシ

帽子「……放せよ」

「ふん。カッコつけてんじゃねーぞ!」ドカ!

帽子「つっ……」

「人殺しのくせに! 犯罪者のくせに!」

帽子「くっ……痛っ……」

「おい、なんとか言ってみろよ!」

帽子「……」

『君の目的はなんだ?』

『何のために戦う?』

『そのために殺すことは本当に必要?』

帽子「……」

「おい、縮こまってねえでなんとか言えっつってんだよ!」

帽子「……」

「聞いてんのか!」

『よく考えるんだ』

帽子「……」スッ

「! ナイフだ!」

帽子「……ッ」ダッ

「う、うわ――!」

ドスッ!

『君ならできる』

「ひ、ひッ……」

帽子「あの時は俺の方から手を出した。だから、俺が悪い」

「あ……あ……」

帽子「でも、お前たちも十分俺に返したよな。じゃあもうおあいこだ」

「……っ」

帽子「次は本当に刺すぞ。嫌ならもう近付くな」

「わ、わあああああ!」ダッ

帽子「……」

帽子「……」フゥ……

帽子「これでよかったのかな。先生」

戦士「さあね」

帽子「……」

戦士「でも、とりあえず今はお疲れ。送ってくよ」

帽子「先生」

戦士「なに?」

帽子「俺、強くなりたい。強い力とかじゃなくて、戦える人間になりたい」

戦士「うん。分かった」

帽子「……」

戦士「じゃあ、帰ろうか」

魔王『グオオオオオ!』

勇者『チッ、あの一撃でも倒れねえかよクソが』

戦士『いや、それどころか……』

賢者『魔王から発せられる魔力が急速に増大しています!』

魔王『ガアアアアア!』

勇者『! こいつ、まさか……』

賢者『勇者?』

勇者『逃げろ! できるだけ遠くだ!』

戦士『何を言って――いや分かった!』

賢者『え?』

戦士『全速で離脱だ! 急げ賢者!』

賢者『そんな! 勇者は!?』

勇者『舐めんな! 俺一人で十分だ馬鹿野郎!』

戦士『絶対生き延びてくれよ!』

勇者『ったりめーだ馬鹿の二人目!』

戦士『行くぞ、賢者!』

賢者『放して――勇者! 勇者ぁッ!!』

……

賢者「――っ!」ガバ!

賢者「ハァ、ハァ……」

賢者「……」

賢者「夢……」

赤毛の家

「身体の具合はどうだい?」

「昨日より少しいいわ」

「そうか、良かった」

「心配かけてごめんなさいね」

「家族に気は使うなよ」

赤毛「……お父さん、お母さん」

「どうした?」

赤毛「あの……ぼくにできることはない?」

「ん?」

赤毛「ぼくもなにか助けになれたら、って」

「そうか、ありがとうな。でもお前まで気を使うことはないさ」

赤毛「……」

「ほら、今日も道場だろう? 行っておいで」

「行ってらっしゃい」

赤毛「……。行ってきます」

……

道場

赤毛「……」

戦士「……?」

帽子「どうしたよ先生?」

戦士「ん。ああ、いや」

赤毛「……」

戦士「何でもない。今日の練習を始めようか」

帽子「うーっす」

練習後

帽子「おつかれっした!」タッタッタ……

戦士「気をつけて帰ってねー」

戦士「……」フゥ

戦士「で、どうかしたの?」

赤毛「……」

戦士「何か困ってることがあるんじゃないかい?」

赤毛「それは……」

戦士「よかったら先生に言ってみなさい」

赤毛「……」

赤毛「実は……」

次の日

賢者「ええと……」

賢者(確か……東区の広場に行けば分かるって)

賢者「ここ、でしょうか」

ガラガラ……

赤毛「先生、ここ分かんない……」

戦士「えーと、そこはね――」

帽子「早く今日の練習始めようぜー! 待ちくたびれたー!」

賢者「……?」

賢者「あの……」

戦士「あれ?」

帽子「ん? 誰?」

戦士「賢者! 賢者じゃないか!」

賢者「……お久しぶりです」

戦士「うん、久しぶり。もう一ヶ月になるかな。元気にしてたかい?」

賢者「……」

戦士「……そうか」

帽子「なあおい。誰? この人」

赤毛「……」

戦士「あ、そうか、ごめん。初対面だったね。こっちはかつての勇者一行の一人、賢者だ」

賢者「初めまして」

帽子「勇者の仲間? すっげえ!」

戦士「で、賢者、こっちが僕の門下生の二人だ」

帽子「よろしくー」

赤毛「……どうも」

戦士「あー……うん。そうなんだ。二人だけ」

賢者「……なるほど」

戦士「賢者なら察してくれると思ったよ」

帽子「先生がダサいから集まらねえんだよ」

戦士「いや、ダサくはないと……思いたい」

賢者「あの、道場ですよね。見た感じ、武術の練習はしていないようでしたが」

戦士「うん。それなんだけどね」チラ

赤毛「……」

戦士「話しちゃっていいかな?」

赤毛「……」

戦士「多分、この人は助けになってくれると思うんだ」

赤毛「分かった……」

賢者「……?」

戦士「ええと、実はね。この子の家はお店を営んでいるんだけど……」

賢者「お店を?」

戦士「うん。でもあまり上手くいってないみたいで。しかもお母さんの身体が弱いときてる」

賢者「はあ」

戦士「で、この子は少しでも家族の助けになりたいそうなんだ」

賢者「もしかして」

戦士「そう。だから彼に読み書きと計算を教えてたんだよ」

賢者「なるほど」

戦士「でも……」

帽子「なー先生、俺早く練習したいんだけど」

戦士「と、いうわけ」

賢者「……」

戦士「来てもらっていきなりなんだけど、君にも教師業をやってもらいたいなあ、なんて。」

賢者「はあ」

戦士「ごめん、頼むよ。こっちのは君の方が向いてると思うんだ。お願い」

賢者「……まあ、かまいませんけれど」

帽子「シッ――!」ブン!

戦士「まだ振りが小さいな。もうちょっと頑張って」

帽子「おう!」

…………

赤毛「これで、合ってますか?」

賢者「はい正解ですよ」

赤毛「……これ、わかんない」

賢者「そこはですね――」

……

帰り道

帽子「でさでさ、旅はどんな感じだったんだ?」

賢者「勇者がとにかく無茶するので、わたしたちはそれについていくので精一杯でしたね」

戦士「あー確かに。それで死にかけたこともあったりなかったり」

赤毛「……大変だった?」

戦士「そうだねえ。でも、楽しかったかな」

賢者「……」

帽子「ふうん?」

戦士「うん……楽しかった」

赤毛「……」

帽子「そっか。――っと、俺たちはここまででいいよ。じゃあな」

赤毛「送ってもらって、ありがとうございました……」

戦士「うん。じゃあね」

賢者「さようなら」

戦士「……。そうだね、あの頃は楽しかった」

賢者「……」

戦士「僕らは勇者に振り回されっぱなしで、それでもどこか清々しくて」

賢者「……」

戦士「あんなことがなければな……」

賢者「……っ」

戦士「ごめん、無神経だった」

賢者「いえ……」

戦士「たしか賢者はこの宿だったよね。僕はここで失礼するよ」

賢者「あなたは……」

戦士「ん?」

賢者「あなたはなんで平気なんですか?」

戦士「……」

賢者「彼は、わたしたちを庇って死んでしまったのに、なぜ……」

戦士「平気……ってわけじゃないかな。君よりはマシってだけだよ、多分」

賢者「……」

戦士「昔ね」

賢者「え?」

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