僧侶「えっ!?」
勇者「違うんだ……」
戦士「俺の姉も戦士だったんだがな、昔こいつの仲間だったんだよ……!」
戦士「姉はな、魔物たちに恥ずかし目を受けた上に嬲り殺された!!」
戦士「聞いた話だと、お前も、他の仲間も殺されたようだが、こいつはのうのうと生きてやがる……」
僧侶「そ、それはあなたの」
戦士「逆恨みって事はわかってる。だが許せねぇ、何だよこいつは……!」
勇者「すまない、すまない、すまなかった……」
戦士「くそっ!!」バキィッ
勇者「うっ……」
僧侶「ああっ!?」
勇者「いてて……あの野郎ボコボコに殴りやがって……」
僧侶「すぐにホイミを唱えますから」
勇者「いらん。ここで回復したらあの男に示しがつかないだろう」
勇者「殴られただけで済んだ事を幸運と思って、今日はもう宿で寝る」
勇者「せっかく良い感じに酔えてたのに、お陰冷めちまった」
僧侶「勇者様……」
勇者「これからこういう事がまだ続くかもしれない。だからお前は帰れよ」
勇者「仲間はいらないんだ。あいつら死んだら終わりだから」
僧侶「そうですけど……でも」
勇者「今日はありがとう、僧侶の娘。金まで出して貰ってさ。いつかかならず返す」
勇者「おやすみ。朝になったら一人で宿を出て行ってくれて構わないからな。んじゃ」
僧侶「……」
朝
勇者「お前、どうしているんだ」
僧侶「守ってあげたくなったと昨日お話しましたよ」
僧侶「私は一度決めたことは、そう簡単に曲げたりする性質ではありませんので!」
勇者「バカかお前は!あるいは阿呆か!?冗談じゃない……」
僧侶「一緒に魔王を倒しましょうね、勇者様。真の目的はどうあれ、10年もの時を掛けてきたこの旅を終わらせましょう」
僧侶「それが私の勇者様への失言の償いであり、目的です!」
勇者「バカガキめ……帰れ!!」
僧侶「さぁ、今日も張り切って行きましょー!今日はいっぱいレベル上がると素敵ですね!」
勇者「うるさい!」
僧侶「ご、ご無事でしたか、勇者様!?」
勇者「はぁはぁ……こ、怖かったぁ……!!」
僧侶「申し訳ありません。私としたことがスライム一匹を取り逃してしまうなんて」
勇者「謝られても困る!俺はお前に魔物を倒せと頼んじゃいないんだからな!」
勇者「……とりあえず、手引っぱってくれないか。腰が抜けて一人で立てないのだ」
僧侶「あらあら、よっこらせ」
僧侶「何とか魔物恐怖症を治さなければですね。これでは今後がまた大変ですよ」
勇者「努力しますよ……」
「きゃあー! 助けてー!」
僧侶「勇者様、今の聞こえましたよね?向こうで女の人の声が」
勇者「気にするな。行くぞ!」
僧侶「えっ」
勇者「俺の目的は魔王だけだ。他のことに見向きしている余裕はない」
僧侶「それでも勇者ですかあなた!襲われている人がいるかもしれないのですよ!?」
勇者「それがどうした。何処かで魔物に襲われてる人間は幾らでもいる。魔王を倒せばそいつらは救われるんだ」
僧侶「だからその犠牲になれと!?そんなのダメですっ」タタタ…
勇者「おい! くそぅ……」タタタ…
女「助けてぇー!!」
盗賊「ギャーギャー喚くんじゃねぇ静かにしろ!そんで食い物寄越せ!」シャキーン
女「いやあああぁぁぁ~~~!!」
僧侶「あれは……魔物じゃない。でもやっぱり襲われてますよ!」
勇者「夜盗か、いいじゃないか別に放っておいて。あの様子なら食い物に困ってんだろ」
僧侶「そういう問題では!」
女「あっ……旅の方!どうかお助け下さい!」
勇者「それ見ろ、お前が大きな声出すからばれちゃったじゃないか!」
僧侶「はい!今すぐ助けます!」
勇者「おい!」
盗賊「あーん?何だ、貧弱そうな野郎どもだぜ。近づくとこの女の首を掻っ切るからな!?」
僧侶「ダメです!早まらないで!」
勇者「ふー……」スタスタ
僧侶「勇者様も帰らないでください!!」
盗賊「へっ、貧弱の上にタマ無しと来たもんだ。男のくせに度胸もねーなぁ」
勇者「食い物女から巻き上げようとしてる屑野郎にだけは言われたくねぇな!!」
盗賊「なんだとぉ!」
勇者のこうげき! 盗賊はきぜつしてしまった!
僧侶「えっ!うそ!」
勇者「ざまぁみろ!バーカ!」
女「あ、ありがとうございますぅ~!本当に、本当に助かりましたぁ~!」
僧侶「いえいえ!お怪我もされてないようで良かったです!」
勇者「おい、もう行くぞ。じゃなきゃ置いて行くからな!」
盗賊「うっ……」ぐ~
勇者「何だ今の変な音は?」
盗賊「お腹へったよぉー……」ぐぐ~~
僧侶「この人、本当に飢えで苦しんでいるみたいですね」
勇者「放っておけ。それか雑草でも食うように言っておくんだな」
勇者「初めに言っておくが、これ以上そいつに関わるなよ。面倒だ!」
僧侶「そういうわけには……」
盗賊「……」ぐ~
僧侶「ほら、こんなにお腹が鳴っています。餓死してしまったら大変」
勇者「知るかそんな屑の事なんぞ。なんなら自分の肉でも食わせてやるんだなー」
僧侶「勇者様ぁ!!」
勇者「……ん」ス
盗賊「えっ」
勇者「人様にこれから迷惑掛けないと約束できるなら、このパンをやろう。どうする?」
盗賊「うう、約束します……だから」
勇者「ほれ!」ポイ
僧侶「何だかんだ言って助けるんじゃないですかぁ」
盗賊「うめぇ、うめぇよぉ~~~……」ガツガツ
僧侶「良かったですね。これからは真っ当に生きてくださいよ?」
勇者「屑がそんな簡単に更生できるわけないだろう」
僧侶「じゃあさっきの約束は何ですか!」
勇者「ただでやるには惜しい美味いパンだったからな。ふん」
盗賊「ふいぃー!腹ぁいっぱいにさせて貰ったぜー!」
盗賊「この恩は一生忘れねぇからな!兄貴!」
勇者「今の俺を呼んだんじゃないだろうな……」
盗賊「兄貴は兄貴だろ?へへ、俺このままじゃ済ませられねぇや。なぁ、兄貴!」
盗賊「俺を弟分として旅の仲間に加えてくれ!きっと役に立ってみせるからさ!」
勇者「……おいおい」
僧侶「ほら、仲間になりたがってるみたいですよ」
盗賊「えへへっ♪」ニカァ
勇者「……おい」トボトボ
盗賊「ん?俺を呼んだかい兄貴ィ~!」
勇者「誰がお前をいつ仲間に受け入れた?邪魔だ、帰れ!」
僧侶「私が許可しましたけど」
勇者「はぁ!?」
僧侶「私も勇者様から公式に仲間へ認められたわけではありませんし、とりあえず私の仲間ってことで」
盗賊「そういうわけさ。僧侶姉ちゃんは話が分かる人間で助かるぜ~♪」
勇者「ガキどもがぁ……!!」
盗賊「おっと、兄貴!そこでストップだ!」
勇者「はぁ?」
盗賊「よーく耳澄ましてみな。魔物の足音が聞こえてくる……いっぱいいるぜぇ……」
勇者「ひぃん!?」
僧侶「早速役に立っていただいてますね。魔物嫌いの勇者様には絶好のお供じゃないですか?」
勇者「う、うるさい!道を逸れて進むぞ!」
盗賊「へぇー、兄貴ってあの有名な勇者様なんだ。なんか納得だぜー」
勇者「何がだよ?」
盗賊「だって、俺のピンチを助けてくれたヒーローだったからな!」
僧侶「実際に助けようとしたのは盗賊さんの方じゃないですけどね」
盗賊「えへへ……ていうか勇者なら魔王退治が仕事じゃん。カックイー!」
勇者「そうかよ……言ってろ脳無しバカめ……」
僧侶「そろそろ森を抜けますね。そしたらすぐに町が見えるはずですよ」
盗賊「俺は町の外で兄貴たちを待ってるよ。汚い恰好してるし、たぶん嫌がられるもん」
僧侶「その時は私たちでなんとかしますから。一緒に町に入りましょ?」
盗賊「……兄貴ぃ?」
勇者「俺は、知らないからな!そこの娘に何とかしてもらえよ!」
僧侶「今夜の宿を安く取れて良かったですね。食事も出していただけますし」
盗賊「きっと兄貴のオーラに負けたんだぜ、あの店主!さすが勇者の兄貴ぃ!」
勇者「どうでも良いが、あまり人が多い所では俺を勇者勇者と呼びまくるなよ」
勇者「これでも隠密行動中なんだ。どこに魔王のスパイが潜んでいるか分からない」
僧侶「それは経験談ですか?」
勇者「まぁ、そんなところだよ」
盗賊「へ~!兄貴は何でも知っててすげーや!」キャッキャ
僧侶「ふふ、それでは私お風呂で体を流してきますので。勇者様たちも行かれてはどうです?」
勇者「風呂があるなら今のうちに入っておくか。ほれ、行くぞバカ」
盗賊「え!? あ、うん……兄貴……」
勇者「ん?」
盗賊「……」
勇者「あれ、お前どうした。風呂入らないつもりか?見た目通りの汚れキャラってやつだなぁ~」
盗賊「えっとー……そのぉ」
勇者「何モジモジしてんだ気色悪ィな。風呂は服脱いで入るもんなんだよ!入る気ないなら出ろ!」
盗賊「入りたい。入りたいけどぉー、兄貴ぃー」
勇者「はぁ?意味分からんガキだな……」
盗賊「俺、その……女……」
勇者「えっ」
勇者「ウソだろそれー?」
盗賊「ウソじゃねーよ!これでも女!も、もういい……俺、僧侶姉ちゃんのとこ行くからな!」
勇者「えー……本当なら俺、女の子ひのきのぼうで思いっきり殴ったのか……ショックだ」
僧侶「もう!盗賊さんに何言ったんですか、彼女泣いてましたよ」
勇者「えぇ……」
勇者「お前だってあいつ風呂入るまで女だって気付かなかっただろ!」
僧侶「そんなわけないでしょう!勇者様だけです!」
勇者「うそつけ!絶対違うな!」
僧侶「はぁ、勇者様って精神年齢だけは老けないんですかね。すごく子どもっぽいですし」
勇者「ガキが大人おちょくってるんじゃない。こっちは嫌々お前らガキの保護者してやってんのに!」
勇者「いいっ、もう寝るから明日の朝起こせよ!」
僧侶「ああっ……まったく。本当に子どもっぽい人なんだから」
盗賊「僧侶姉ちゃん……兄貴、怒ってるの……?」
僧侶「いいえ、大丈夫ですよ。それにしても最初に出会った時と比べて少しイキイキしてますね、勇者様」
盗賊「んー?」
次の日
僧侶「勇者様?あの、そんなにくっつかれると動き辛いのですが」
勇者「」ヒシッ
勇者「だってこの洞窟あっちこっちから魔物の声が聞こえるんだぞ……普通に怖いだろ……」
盗賊「兄貴カッチョ悪ぅ~……」
盗賊「ていうか兄貴ってどうしてそんな魔物怖がるわけ?怖いのは分かるけど、兄貴のは異常モンだぜ」
僧侶「踏み入ったことをお聞きしますが、もしかして、過去に仲間を殺されたことと何か関係があるのですか?」
勇者「……」
僧侶「今後魔物恐怖症を克服するためにも聞いておいたいい話かもしれませんし、教えていただけませんか」
勇者「うるさい……」
盗賊「兄貴の顔すっげぇ真っ青になってるぞ?大丈夫か!?腹でも痛むのかよ!?」
僧侶「勇者様、どうか。ここまで一緒に来た仲ではありませんか。ね?」
勇者「うるさいって言ってるだろ。俺は昔話する趣味は持ち合わせてないんだ」
僧侶「そ、そろそろ信用してくださっても」
勇者「黙れ!これ以上俺の中へ土足で踏み込むつもりなら、お前たちとはここで別れる!」
盗賊「あ、兄貴ぃー!何変なこと言い出すんだよ?この奥魔物いっぱいいるんだぜ!?」
僧侶「そうですよ。勇者様お一人でこの先を進むには無理があります!私たちがいないと!」
勇者「お前たちと一緒にいても俺が惨めになるだけだ。じゃあな、とっとと引き返すこった」トボトボ
盗賊「ああっ、ちょっと! 兄貴待ってよぉ~!」
盗賊「兄貴、あんなに怖がってたのに一人で走って行っちゃったぜ……?」
僧侶「ただの強がりだとは思いますが、心配です。後を追いましょう」
僧侶「少しは私たちに気を許してくれたとばかり思ってたけど、まだ全然だったんですね……」
盗賊「ええっ、俺まだ兄貴に弟分として認められてなかったのか!」
盗賊「僧侶姉ちゃん、兄貴昔なんかあったのかよー?それなら俺兄貴の心の支えって奴になってやりたいんだぜ!」
僧侶「それは私も同じです。ですが……そうだ」
僧侶「町へ着いたらお酒を勇者様にいっぱい飲ませましょう!あの人酔うとベラベラ自分の話をしますからね!」
盗賊「おぉー!僧侶姉ちゃんがそう言うならマジなんだろーな!やろうぜ、やろうぜ!」
盗賊「……それはそうと僧侶姉ちゃん。今ここどこだ?俺たちどの辺り歩いてんのかなぁ」
僧侶「えっ」