勇者「魔王倒すまで何度でも蘇る」 4/8

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商人は ナイフで のどをさした !

商人「うげぇえええぇぇぇ~……」

勇者「えっ、何してんだよ……お前、よせよ……!」

商人「へ、へへ。ざまぁ見ろ、一生苦しめクソ野郎……」

商人「」ガクッ

勇者「やめろよぉ……おい……うそだろ」

僧侶(あの出来事から数日が経過しました。勇者様はずっと塞ぎこんでいて、私たちが調子が出ません)

僧侶(さらに厄介なことに、勇者様は新たに刃物恐怖症を抱えてしまったのです)

勇者「おい、ナイフはもっと見えないところにしまってくれ。さっきからチラチラって怖いんだ……」

盗賊「俺ぇ? でもすぐに魔物と戦えるように、出し易いとこ入れてんだ。兄貴、悪いけど~」

勇者「いい、じゃあお前を俺は見ないでいる……」

盗賊「えぇ!? 俺を見てくれよ兄貴ぃー! ほら、ほら!」

勇者「やめろぉー!!」

僧侶「その歳になってトラウマができるとは珍しい話ですが、まぁ、色々ありましたからね」

僧侶「それにしても刃物が怖くて結局ひのきのぼうのままだなんて……」

勇者「うるさい。俺はこれが気に入ったんだ、別にいいだろ……!」

盗賊「鈍器系使うなら兄貴ハンマーとか斧とか似合うんじゃねぇかなぁー」

勇者「嫌だね。俺はひのきのぼうが一番しっくり来るんだ。そんな危ないの振り回してたまるものか!」

僧侶「あ、危ないって……」

盗賊「まぁ兄貴魔物と戦わないし、それでいっかぁ~。戦闘は俺と僧侶姉ちゃんに任せとけよな!」

勇者「不服だが、まぁ……ただ、危なくなったら俺を置いてでもいいから逃げろ」

勇者「いのちをたいせつに。それがお前たちの作戦だ、それだけは絶対守ってくれ」

僧侶「ええ、わかっていますよ。勇者様も無茶だけはなさらないように!」

盗賊「おぉ! 魔物の気配が近づいて来たぜぇ!」

魔物のむれがあらわれた!

勇者「い、いいか。いのちをたいせつにだぞ……頑張れ……!」

盗賊「あいよー!」

魔物のむれををたおした! 勇者はレベルがあがった! メガンテをおぼえた!

勇者「むっ」

僧侶「え? 何故メガンテ?」

盗賊「自爆して敵を道連れにするあの魔法かぁ。そいつは兄貴らしくねー魔法だぜぇ……」

僧侶「ていうか、勇者様が覚えるような魔法でしたっけ?」

勇者「……俺だからこそ覚える魔法なんだろうな」

勇者「気にするな。こんな自殺用みてぇな魔法なんぞ滅多に使わない。ほら、行くぞ」

盗賊「兄貴と僧侶姉ちゃんばっかし魔法使えてずるいよなぁー、俺も使ってみたいのに!」

僧侶「でしたら、職を変えればよろしいのでは? 例えば魔法使いにとか」

勇者「そいつには似合わないよ。どうみても魔女っ娘のキャラじゃないぜ」

僧侶「ああ、まぁ確かに」

盗賊「転職かぁー、考えとくかなぁー」

僧侶「わぁ、見てください!海が綺麗ですよぉー! えへへ、船旅も良いものですね」

勇者「ぎもぢわるぅっ……うっぷ」

盗賊「俺、陸に足着いてた方が落ち着くぜ……どっちかっていうと俺山派だったしさぁ~……おえ」

僧侶「私しかはしゃいでないのか。何だか自分がバカらしく思えてきましたよ!」

僧侶「やれやれ、勇者様は船は初めてではないはずでしょう?何故予め船酔いしやすい体質だと言ってくれなかったのですか」

盗賊「そんなのカッコつかないからに決まってんじゃん。なぁ、兄貴ィ?」

勇者「うるさいぃ~……」

盗賊「僧侶姉ちゃんは船旅初めてじゃねーのか? ずいぶん楽しそうだけど」

僧侶「海が好きですからね。船はこれでも小さい頃から経験してます。元々漁師の娘でしたし」

盗賊「……あー、道理で兄貴と俺のことをぐいぐい引っ張ってくわけだナ」

僧侶「え?」

僧侶「船酔いした時は冷たい水をかけると治るんですよ」

勇者「……待てお前、だからってバケツ一杯俺に水ぶっかける気か」

僧侶「はい!」

勇者「風邪引いたらどうするんだ!そんな荒治療なら必要ない!……おえぇ」

僧侶「ああっ、騒ぐからまた……いいですか。いきますよ?」グッ

勇者「やめろくそガキ……!!」

盗賊「兄貴は大変そーだな。僧侶姉ちゃんもウキウキだし、俺はあっちで静かにしとこ」

盗賊「ぼけー……」

行商人「いてて……腰が……」

盗賊「ン? 婆ちゃんどうした? 辛そうだぜー?」

行商人「こ、腰ぃぃぃー……」

盗賊「おっ、ギックリか!?」

行商人「いやぁ、運んでくれてありがとう。恩に着るよ。お兄さん」

盗賊「おに……まぁいいや。とりあえずゆっくり休んどけ! ふふん、俺は良い事したな!」

行商人「ああ、本当さ。そうだ、これをあげようじゃないか」サ

盗賊「何だコレ?本? 婆ちゃん、俺バカだから文字なんて読めねーぞ。食える物がいいなぁ」

行商人「そうかい? 文字を読めなくても、本は開いて見るだけで面白さや魅力があるもんだよ」

行商人「騙されたと思って貰っときな。どうせタダなんだ」

盗賊「んー……よくわかんねーけど、ありがとう?」

盗賊「あとで僧侶姉ちゃんに読んでもらおーっと!」タタタ…

僧侶「あら、盗賊さん。今までどこへ行ってたのですか?」

盗賊「これもらったー。僧侶姉ちゃん今日の夜読んでくれ!」

僧侶「貰った? タダでですか? 危ない物では……あっ、本か」

僧侶「ではこの本を使って今度あなたへ文字の読み方を教えましょう。どうですか?」

盗賊「マジか! 兄貴、兄貴! 僧侶姉ちゃんが俺に勉強教えてくれるらしいぜ!いいだろぉー!?」

勇者「えっ、嬉しいのかよ。俺ならがっくり肩落とすところだけどなぁ」

盗賊「俺ずーっと勉強したかったんだ!だから滅茶苦茶嬉しいぜ!」

僧侶「こんなに盗賊さんは純粋なのに、勇者様はまったく真逆って感じですねー」

勇者「色々あったんだから仕方がねぇだろ……!」

しびれくらげがあらわれた!

勇者「うおおおおぉぉぉーーー!!?」

しびれくらげ「にょろ~ん」

僧侶「魔物!? いつのまに船の上にあがってきていたの!?」

しびれくらげ「にょろ」

勇者「嫌だあああぁぁぁーーー!! 来るなあああぁぁぁーーーっ!?」

しびれくらげ は 勇者にきょうみしんしんだ!

勇者「うわぁあ……うわあああああああああぁぁぁぁぁ!!?」

しびれくらげ「ん」ぴと

勇者「うがががががががが……」ビリビリ

盗賊「あ、兄貴ぃー! くそあの魔物野郎! 兄貴をよくもー!」

僧侶「待って、直接攻撃してはこちらも痺れてしまいます。ここは魔法で――」

しびれくらげたち「にょろり~ん」

しびれくらげのむれが あらわれた!

盗賊「おい、こいつら増えちゃったぜ!?」

しびれくらげたち は 船の船員たちへおそいかかった !

僧侶「ま、まずい……」

大王イカが あらわれた! ふねをぐらぐらとゆすっている!

僧侶「本当にまずいです! これは、勇者様どうしましょう!?」

勇者「海へ飛び込むんだ。それしかないだろ……」

僧侶「それは今すごくまずいと思うのですがっ」

勇者「あんなバカデカイ魔物を相手に戦えるわけないだろ! それに周りはしびれくらげのむれだ!」

勇者「今回は久しぶり長続きした旅だったな。そろそろ死ぬんだろうな」

僧侶「あなたは良くても、私たちは良くありません! 助けてください!」

勇者「俺がそんな事できるわけないだろ。相手は強い魔物だ。お前、キメラの翼持ってたろ。それ使って盗賊と逃げろ」

盗賊「なら兄貴来いよ!生きるの諦めんな!」

勇者「正直よぉ、俺疲れてきたんだよな……今回のが決め手になったよ」

勇者「俺、すごくつらいわ。もうやだ、誰か俺を助けてくれよぉ……」

僧侶「ゆ、勇者様ぁ!」

僧侶「魔王を倒すと仰っていたではありませんか、今までだって頑張ってこれたじゃないですか!」

勇者「ああ、だからもう疲れたんだ。もう俺は何も考えずに棺桶の中で暮らすよ」

勇者「あ、餓死しても復活するんだったっけ……」

盗賊「兄貴いきなりネガティブすぎるぜ。一体どうしちゃったんだよ!」

僧侶「しびれくらげの攻撃で変なところが刺激されてしまったのかしら……」

盗賊「だから急に弱音吐いちゃってるのか! 情けないぜ兄貴ぃー!」

勇者「畜生……もう船も何もかも沈んじまえ……全部滅びてしまえ……」ブツブツ

僧侶「勇者様しっかりしてください!落ち込んで暇があるのならこの状況をどうにか」

勇者「魔物側に寝返れば助かるんじゃないか?」

僧侶「は!?」

勇者「そ、そうしよう。それしかないだろ!!」

僧侶「正気ですかぁー!?」

勇者「も、もちろんだ……!!」

勇者「盗賊もこっちに来い!作戦会議だ!」

盗賊「おぉ、兄貴らしくなってきたぜぇ~!さすが兄貴!いざという時には頼りなるぅ!」

勇者「……」ゴニョゴニョ

僧侶「……ほ、本気なんですね」

盗賊「兄貴、俺そんな。えっ、マジか……」

勇者「お前たち何引いてるんだ。今この状況下で俺が冗談言うとでも思ってるのか?」

勇者「助かりたいなら、俺が言った通りにしろ。いいな!」

勇者「おお、海を支配する偉大な魔物よ! どうか愚かな私の声に耳を傾けたまえ!」

大王イカ「?」

勇者「よしっ……いいぞ……っ」

僧侶「あなた、本当に勇者ですよね?」

勇者「実は、我々3人は長年魔王様を讃えてきたのです。そして魔王様へ永遠の忠誠を誓いたいのです」

しびれくらげ「それは真か、人間よ……」

勇者(あっ、こっちかよ)

勇者「はい。人間たちなど我らにとってはもうどうでも良い存在、時代は魔物なのです。魔物さまたちが支配する世界こそが我らの理想郷……」

盗賊「えぇー……」

勇者「やめろ、お前は大人しくしているんだ。そうだな、僧侶よ!この娘も私と同意見なのです!」

僧侶「えっ!? あ、は、はい……そうです……」

勇者「ここはどうか我らだけでもお見逃ししていただいて、魔王軍の仲間へ加えては貰えないでしょうか?」

しびれくらげ「貴様の言葉が真に正しいものかは見当もつかぬ。だが我ら魔物が支配する世界が理想。その言葉気に入った」

しびれくらげ「殺すのはやめだ。貴様ら3人はこのままベースキャンプへ連れていくとしよう。幹部サマの意見を聞いてから後の事は考えよう」

勇者「ありがたき幸せ――――うおぉぉーーー!?」

大王イカのしょくしゅが 三人をつかまえた !

勇者「嫌あああぁぁぁ!!離せえええぇぇぇ!!触手は嫌なんだあぁぁぁーーー!!」

盗賊「本当にこれで良かったのか?」

僧侶「勇者様、ちゃんと後先考えての行動ですよね。これは」

勇者「 」

僧侶「勇者様……?」

盗賊「し、失神起こしてるぞ。兄貴、マジで大丈夫なのか!?」

大王イカ「触手苦手な感じっスか? すみません。すぐに基地まで運んじゃうんでもうしばらく我慢してね」

大王イカ「にしても、あんたら変わり者ですね。まぁそんなところをしびれくらげ先輩が気に入っちゃったのかも」

僧侶「そ、そうなんですかー……」

僧侶(魔物と自然な会話してる。変な感じだわ……)

大王イカ「あっ、到着っス。今幹部の方がいらっしゃるので、くれぐれも失礼のないようにね」

ぽい

僧侶「きゃあ!」盗賊「痛っ!?」勇者「 」ドサァ

勇者たちは 魔物の巣窟へ はいった

勇者「おい、何だよここは。魔物だらけじゃないか……」

盗賊「兄貴!目が覚めたのか!」

勇者「怖い、怖いぞ……嫌ぁ……!」

僧侶「私たちも同じ気持ちですよ。それより勇者様この後大丈夫なんですか?」

僧侶「これから、ここの魔物たちを統率している幹部とやらにご対面です」

僧侶「何か策があるんでしょうね!?」

勇者「……お、お前たちは隙を見つけて逃げ出せ。ダメなら魔物たちへ上手く取り入って誤魔化すんだ」

盗賊「俺たちって、兄貴はどうするつもりなのさぁ」

勇者「このまま魔王まで一気に接近するつもりだ。幹部に気に入られれば魔王城へも安全に、しかも早く辿り着ける」

勇者「巻き込んで悪かったな。あの時はテンパってて上手く頭が働かなかったんだ」

僧侶「む、無謀だけどしっかり考えていたのですねっ!」

盗賊「すげぇ兄貴ィ~!! 兄貴って頭良いんだな、憧れちゃうぜ俺ぇー!」

勇者「敵を騙すにはまず味方からという言葉がある……時間は掛かるかも知れないが、何とか魔王を倒してみせる」

僧侶「でも、そう簡単に信用していただけるでしょうか? それに勇者様は顔がバレているのでは」

勇者「そうだ。だが、勇者が国に呆れて魔王側へ寝返った、そういうシナリオがあってもおかしくはないだろう」

勇者「何故と尋ねられたら幾らでもその理由を答えられる自信が俺にはある」

盗賊「さすが!……えっ、そこは誉めていいかわかんねぇや!」

僧侶「それでも、完全に信用を得るには相当な時間がかかりそうですよー……」

勇者「覚悟は既に決まったのだ!」

魔物「人間3人。時間だ、そろそろ幹部サマが御戻りになられる! 着いて来い!」

盗賊「おー、遂に幹部とご対面だと!兄貴なら何とかなるよな!」

勇者「……」

僧侶「まさか、緊張していられるのですか」

勇者「バカを言うな、このガキ! い、いいか。お前たちは余計な事を喋るなよ、失敗してしまうかもしれん……」

勇者(デマカセでああは言ったが、本当に大丈夫だろうか)

魔物「件の3名を連れて参りました。通しても?」

?「構わん、通せ」

魔物「はい。いいか人間、くれぐれも無礼のないようにな。あの方はくだらん話を聞かされるのを最も嫌う」

魔物「ダメな時は潔く諦めて死んでしまえ」

僧侶・盗賊「えぇ……」

勇者「……今の声、聞き覚えがあるぞ」

?「通っていい。無駄に時間を伸ばすつもりか」

勇者「は、はい! すぐにー!」

僧侶「部屋の奥から邪悪な気配がプンプン漂っていますね。長居していると気がおかしくなりそう」

盗賊「だ、大丈夫だぜ。だって兄貴が俺たちに着いてんだもん……な?兄貴ぃ」

勇者「……」

僧侶(部屋の奥にいた魔物、ボストロールは下品な見た目からは考えられないオーラをその身に纏っていました)

僧侶(一目見ただけで私たち程度が敵う相手ではないと理解させられ、その恐怖に駆られます。魔王はこれ以上なのかと)

盗賊「あ、兄貴……」

勇者「……」

ボストロール「貴様らが話に聞いていた変わり者か。単刀直入に聞かせてもらうが、何故人間如きが魔王様に―――」

ボストロール「むっ、おいそこの人間。ガチガチに震えているお前だ」

勇者「……何か」

ボストロール「私の間違いでなければ、貴様は勇者だろう? 貴様、まさか」

ボストロール「しかし、あの時貴様らをタコ殴りにしてやった時に比べ、随分弱々しく見えるな!」

僧侶「勇者様、いぜんこのまも……幹部様と戦ったことが?」

勇者「……」

ボストロール「戦うどころか一方的に我々が貴様らを虐殺してくれたのだったなぁ」

ボストロール「人質を一匹見せて脅してやったら、その男が躊躇して黙って殴られ続けたのだ! まぬけよ!」

勇者「……」

ボストロール「ふふっ、あの時犯した貴様の連れの雌豚どもは醜い声でよく鳴いていたものだ」

ボストロール「そうかそうか。遂に勇者も我々へ寝返るのか。バカとはいえ使い道はいくらでもある」

ボストロール「面白い。さっそく貴様の国へ帰って王を暗殺してこい。見事達成できれば魔王様もさぞかしお喜びになるだろう」

ボストロール「ガッハッハッハ!!」

勇者「シテヤル」

ボストロール「何か喋ったか?虫ケラの声はどうも聞き辛くてなぁ……」

勇者「ぶっ殺してやる!! この腐れ野郎ォ!!」

僧侶「えっ!?」

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