勇者「……ああ、お前と盗賊は俺の大切な仲間だよ」
賢者「……」
賢者「ありがとう、ございます……っ」
賢者「ぷっ、ぷぷぷ……!」
勇者「……おい、どうした? 急に笑い出したりして」
賢者「ふふふっ、あははははははっ!!」
勇者「僧侶!? じゃなくて、賢者! おい!」
賢者「あはははっ……ふふっ、えへっ、あ、いえ、すみません……おかしくて!」
勇者「は?」
賢者「盗賊さん! もう出てきても大丈夫ですよぉー!」
勇者「……は?」
盗賊「じゃあ~ん! 俺は誰でしょうか!」パッ
勇者「はぁ!?」
盗賊「にへへ~っ♪ 地獄の底から帰ってきたぜ、兄貴」
勇者「え、何で……盗賊? え、俺いま何が見えてるんだ……?」
盗賊「兄貴ィ。2年経ったぐらいで俺の顔忘れちゃうのかよ? 酒の飲み過ぎでおかしくなったのか?」
勇者「えっ、えっ」
勇者「幽霊じゃないのか……モシャスで誰かが化けてるとかだったら、俺……」
賢者「正真正銘、彼女はあの盗賊さんです。あなたと私の仲間のね」
勇者「何でだ!? あの時確かに死んで」
賢者「ええ、確かに死んでいました。ですが仮死状態、つまりは瀕死です」
賢者「あの時盗賊さんの体をバシルーラで外へ飛ばしてましてね。咄嗟の判断でしたけど」
盗賊「でも本当は俺の死体埋める為にそうしたんだろ? 姉ちゃん、気づくの遅かっただぜ~?」
勇者「……」
賢者「それで、何とか教会へ運んで助けていただいのです。どうです? ビックリしましたか?」
勇者「うるさい……」
賢者「今まで足を引っ張っていた罰ですよ? 勇者様」
勇者「うるせぇ……っ」
勇者「じゃあ、さっきまでの賢者の、僧侶の俺への態度はなんだ」
賢者「勇者様をその気にさせるためには、甘やかしては無意味でしょう。ですから厳しくいかせていただきました」
盗賊「本当は驚かせる為に2年も内緒にしてたわけじゃないんだけどなぁ」
盗賊「僧侶姉ちゃんは賢者として修業を積んで、俺はそのあいだ色々集めてたんだ」
盗賊「兄貴が装備してるのだって俺が手に入れたんだぜ? 兄貴の為に出来ること全部探して、努力させていただきましたぜぇ」ニコ
勇者「お前ら……俺の空白の2年を返せ……」
盗賊「へへ、兄貴は少しの間大人しくしてもらいたかったんだよ。勇者の顔が魔王軍全体にバレ始めた頃だったからなぁ」
賢者「はい。あのまますぐ旅立てば勇者様はとっくに魔王城で雁字搦めに拘束され、幽閉されていたと思います」
盗賊「だから兄貴は勇者としての使命を諦めたと敵へ思わせたってこと」
盗賊「えーっと、なんだっけ……ああ! 敵を騙すにはまず味方から! でしょ?」
勇者「おいおい……マジかよ……」
賢者「とにかく、これで全員集合ですね」
盗賊「兄貴、俺たち滅茶苦茶強くなったんだぜ。頼りにしとけよ?」
勇者「……何でお前らそこまで頑張れるんだよ」
賢者「勇者様だって10年も頑張って来たではありませんか。それと比べたら」
勇者「そういう事じゃない。怖いだろ、魔王だぞ。お前ら俺の為に色々してきたとか、集めてきたとか」
勇者「冗談じゃねーよ……俺がさらに惨めに見えるだろうが……」
盗賊「何言ってんだ。兄貴は惨めなんかじゃねーよ」
盗賊「カッコいいよ兄貴は。マジの勇者だよ、そんで俺にとってヒーローだぜ!」
勇者「そんな事言われたって、俺どうしたらいいんだよ」
勇者「人間爆弾やるの、嫌になってきたじゃないか……」
賢者「勇者様。勇者様ならそんな事なさらずともかならず魔王討てます」
賢者「私の言葉を信じてください」
勇者「ううっ……」
「うおおおおおおぉぉぉぉぉーーー!!」「魔物を倒すぞおおおぉぉぉぉーーー!!」
盗賊「うっわ、すごい熱気だぁ……」
賢者「しっ。静かに。話を聞いてください」
騎士「これより我々王国騎士団で魔王城の壁となっている魔物たちを引き受ける」
騎士「勇者一行はとにかく魔王城へ侵入することだけを考えろ。いいか、これは最後の、捨て身の作戦だぞ」
勇者「す、捨て身って……」
騎士「恐らく何人もの騎士たちが死ぬことになるだろう。文字通り我々の屍を越えて行けということだ」
騎士「健闘を祈る。今度こそ、人間へ勝利を齎しとくれ勇者よ」
勇者「何で今さら本気になって向かってくんだよ……こんな時だけ期待してんなよ、お前ら……」
騎士「魔物の数が全国へ分散している今が突きどころなんだ。幸い、城周辺の魔物の数はこちらより幾分少ない」
騎士「任せたぞ」
勇者「……これじゃあ、俺が今までしてきた事も、仲間の死も無意味じゃないか」
勇者「ふざけるなよ……おい……!」
勇者「好機を狙ったいただとか幸いだと? お前、俺たちがどれだけ苦しんだか分かってないんだろ」
勇者「だから平気で、仲間を使い捨てられるんだろ!」
騎士「お前がどれだけ苦しんだかは俺には見当もつかない。だがな、勇者。俺の仲間たちも多く犠牲になっていったぞ」
騎士「先輩から後輩、そして友人までも。不幸をお互い自慢したいわけでもないだろう。そろそろ始めるぞ」
勇者「あっ……」
盗賊「兄貴、準備はいいかよ? 城の中に入っても魔物はいっぱいだからなぁ」
賢者「城の魔物は私たちにお任せを。勇者様はただ真っ直ぐ魔王を目指してください」
賢者「今度こそ、勝ちましょう」
勇者「あ、ああ」
騎士たちが 魔物へ どとうのいきおいで とつげきした!
魔物たちと大規模なたたかいがはじまる!
賢者「勇者様、参りましょうっ」
魔王城
盗賊「はぁはぁ、ひぃ~……凄い数だったぜぇー……」
賢者「まだ立ち止まれません。先へ進みましょう」
勇者(今回でここに来たのは4度目だ。あの時は全然違うけれど)
勇者(今度は、絶対誰も仲間を殺させたりはしない)
盗賊「兄貴、作戦は?」
勇者「命をだいじにに決まってるだろう。お前たちは死ぬことを許さん。勇者命令だ、かならず守ってくれよ」
まものがあらわれた!
キングヒドラ「外が騒がしいと思えば、勇者貴様か。久方ぶりの再会だ。喜べ」
勇者「……!」
勇者「う、うう」ガタガタ
キングヒドラ「フン、どうした。体がガタガタと震えているぞ? 俺を前にしてあの時の恐怖が蘇ったか?」
勇者「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……っ」
盗賊「兄貴、何も怖がるこたぁねーよ。あいつはただの魔物だぜぇ」
勇者「わかってるけど、でも……怖い。逃げ出したい」
キングヒドラ「ぐわっはははははぁー!! 最初から負け腰とは、やはり虫ケラよ!」
キングヒドラ「では、更に貴様の恐怖を煽ってくれようか」
魔物が 人間の女の子を つれてきた!
賢者「ひ、人質!?」
勇者「!!」
キングヒドラ「どうだ。あの時と同じだろう。奴隷として遣わせている人間を一人持ってきた」
勇者「あ、あ」
キングヒドラ「貴様らがその場から一歩も動かないと約束するのならば、この娘には傷一つつけぬ」
キングヒドラの手下たちが 3人を かこんだ!
盗賊「あ、兄貴ぃ……どうする」
勇者「 」
賢者「……それなら私の魔法を使うまでですよ」
魔物「おっと、手が滑って首筋に爪が触れちまったぜ~」ス
少女「ん……っ」ガタガタ
キングヒドラ「魔法は許可しない。呪文を唱えた瞬間にその娘の首を撥ね飛ばす」
キングヒドラ「今回も残念だったなぁ、勇者どの?」
勇者(どうする。どうするんだ、俺。このままじゃあの時と同じだ。二人が殺されてしまう……!)
盗賊「兄貴、辛いけどあの子は」
賢者「ええ、戦いましょう。勇者様」
勇者「ダメだ……子どもだぞ、そんな酷い事はできない……」
賢者「非情になれた勇者様は何処へ行かれたのですか! ここまで来て甘えてはいけません!」
キングヒドラ「相変わらずといったところか。仲間かガキか、さぁどうするのかね。どちらも殺してしまっても構わないが」
キングヒドラ「その前に……そいつらには魔物の子をまた孕んでもらおうかな?」
賢者「うっ、なんと卑劣な魔物でしょうか。勇者様、私たちのことは気にしないで」
勇者(いやだ。いやだいやだいやだ。どうしたらいいんだ、俺は、俺は)
勇者「……」
キングヒドラ「どうした。困ってだんまりかね、勇者。ではそろそろ―――」
勇者「……」ブツブツ
キングヒドラ「え?」
勇者はメガンテをとなえはじめた!
キングヒドラ「貴様、魔法は禁止と言ったはずだ!? それにその呪文は……まさかメガンテ!」
勇者「ブツブツ……俺は甘いからな、どうせどっちかを生かすなんて選択されても、選べない」
勇者「それなら、ブツブツ、全部木っ端微塵に吹っ飛ばして、ブツブツ、全部終わらせる」
盗賊「兄貴正気かあんた!? 俺たちまで殺すつもりなのかよ!?」
勇者「非情になれってんだろ? ブツブツ……なら、やってやるさ……ブツブツ」
キングヒドラ「よ、よせ! 早まるなァー!!」
勇者「ブツブツ……ふんッ」
勇者は やいばのブーメランをなげた! 人質を こうそくこうそくしていた 魔物のくびがふっとぶ!
魔物「」ブシュー
少女「え……きゃああああぁぁぁ~~~!!」
勇者「今だ、賢者、盗賊!! 油断している奴らの首を全部落とせ!!」
キングヒドラ「え、えっ」
勇者「俺が何度メガンテを覚えて死んでいったかお前には分からないだろうな。呪文なんぞ言うだけなら幾らでも可能だ」
勇者「どうした? 魔法は唱えていないぜ……」
賢者はイオナズンをとなえた! 盗賊のこうげき!
キングヒドラ「ギャアオオオオ――――――」
賢者「……そういえば、まだメガンテを覚えていなかったんでしたね」
賢者「だから、呪文を唱えても何も起こらない。ヒヤヒヤさせられましたよ……!」
盗賊「俺てっきり兄貴が全員道ずれにして自害すんのかと思ってたぜー……こえぇ」
勇者「敵を欺くならまず味方から、だろ。それに一か八かの賭けだったしよ、完璧な作戦とは呼べないぜ」
少女「お兄ちゃん!助けてくれてありがとうっ」
勇者「あっ……えへへ」
勇者(初めて乗り越えられたよ、みんな。俺成長できたのかな)
賢者「その子は後から来た騎士たちへ任せましょう。さぁ、私たちは先へ」
勇者「ああ」
魔物のむれをたおした! 勇者はレベルがあがった! 勇者はレベルがあがった!
勇者はメガンテをおぼえた!
盗賊「兄貴! 大丈夫だったか!」
勇者「ああ、ようやくか……」
賢者「メガンテを覚えたのですね。おめでとう、ございます……と言ってもいいのか分かりませんね」
勇者「こいつは最終必殺魔法で、俺の奥の手だ。素直に喜んでも良いと思う」
勇者「行こう、この先に魔王が待っている。そんな気がするんだ」
盗賊「もしかしたら罠かもしれないぜぇ? いっぱい魔物が待ち受けていたりとかさ」
勇者「その時は俺もさっきみたいに戦おうじゃないか。もう何も怖いものはない」
勇者「というのは嘘で、お前たちを失うことが今一番怖い。だからそうならない為にも、俺は全力でお前たちを守って、魔王を倒す」
盗賊「それ滅茶苦茶大変そうだけどぉー」
勇者「問題ないね。恐怖を克服した俺は最強の勇者でお前の兄貴分だ!」
勇者「兄貴の言葉を信じておけよ。バカな弟にバカな妹よ」
賢者「妹って私のことじゃないでしょうね……」
魔王「来たか。よくぞここまで辿りつけたな、勇者よ」
勇者「ようやく、お前に会えたな魔王。長い間待たせてしまったようだ……」
魔王「ふふっ……」
魔王「我こそが魔物たちを、否、万物を統べる王ぞッ! 哀れな人間どもよ! 我を前に恐怖し、跪くが良い!」
勇者「断る」