勇者「魔王倒すまで何度でも蘇る」 6/8

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盗賊「こ、怖いぜ。兄貴ぃ。俺、初めてこんなに怖くなったぁ……」

盗賊「畜生!!」

盗賊のこうげき! 盗賊のこうげき! 盗賊のこうげき!

ボストロールのこうげき!

盗賊「ぐえぇ……」

ボストロール「ちっぽけで哀れな虫ケラよ。その勇気は無謀だったぞ」

ボストロール「さっさと仕留めろ。私たちは勇者と女を追う!このガキは任せるぞ!」

魔物たち「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ~~~~~~!!」

盗賊「俺はちっぽけでも哀れでも虫ケラでもねぇ! 俺は兄貴の弟分張ってる盗賊さまだ!」

盗賊「うわああああぁぁぁぁ!!!」

盗賊のこうげき! 魔物のむれのこうげき!

盗賊(兄貴、俺ちゃんと恩返しできてるのかなぁ!)

盗賊(僧侶姉ちゃん、夢果たせそうにないや……!)

盗賊のこうげ―――魔物のむれのこうげき!

盗賊は いきたえてしまった

僧侶「はぁはぁ、ゆ、勇者様……しっかりしてください! 盗賊さんの為にも頑張ってくださいよ!」

勇者「盗賊は、あれ何してんだ。し、死んじゃうだろうが……バカじゃないのか!?」

僧侶「バカでしたよ!! う、ううっ」

ボストロール「見ィーつけた」

ボストロールのこうげき!

僧侶「うぐっ……!?」

勇者「僧侶!! お、お前……殺す!!」

ボストロール「貴様は口だけだな。諦めるがいいぞ、貴様たちの逃げ場はもうないのだ」

魔物「ボストロールさま、勇者の仲間を無事倒し終えましたぜ」

魔物は とうぞくのしたいを ボストロールへもってきてみせた

勇者・僧侶「!!」

ボストロール「早いな、ご苦労だった。こちらもすぐに終わらせようではないか」ニタァ

僧侶「ああっ……こんなのうそよ……」

勇者「……盗賊」

ボストロール「人間なんぞ我ら魔物の敵ではないわ。安心しろ、そこの女はすぐに仲間のところへ旅立たせてくれるわ」

魔物たち「へへへ、うへへへへ……!」

僧侶「もう諦めましょうか。勇者様……それがいいですよね……」

勇者「いや、お前は生きるんだ」

僧侶「えっ」

勇者「走れ。とにかく外まで全力で走って逃げろ。立ち止まらず、振りかえらずにだ」

僧侶「勇者様?」

勇者はメガンテをとなえはじめた!

僧侶「勇者様!?」

勇者「走れぇ!!」

僧侶は勇者におされ うしろをふりむかずに はしった!

ボストロール「き、貴様正気か! 自爆して我々を道連れにするなんて、バカか!」

勇者「……」ブツブツブツ

魔物「ぼ、ボストロールさま! 詠唱が終わっちまうぜ!? うわああああぁぁぁ!!」

ボストロール「こ、殺せ! メガンテが発動する前に勇者を殺すのだ!」

ボストロールのこうげき! しかし、勇者はこうげきを ひのきのぼうで うけとめた!

ボストロール「えっ……」

勇者「積もりに積もったこの怨み、晴らさせてもらう」

勇者「メ ガ ン テ」

ボストロール「あべしっ――――――――――」

魔物たち「げぇ――――――――――――」

勇者(ああ、217回目だ―――――――――――)

勇者はメガンテをとなえた! だいばくはつがおき、どうくつが くずれだす!

お城

王「おお、勇者。死んでしまうとはなさけない!いい加減にしろ!」

王「現在の合計死亡数はー」

勇者「王様、この勇者。しばらく休暇をいただきい」

王「……は?」

勇者「心の整理をしたいのです。前回の旅で私は少し疲れた」

騎士「つ、疲れただと! ふざけるなぁ!」

大臣「ここは冗談を言う場ではないですぞ! 早くいつものようにさっさと」

勇者「うるせぇ……魔王の前にお前らからぶっ殺すぞ、老害どもめ……」

勇者「……では、気が向いた時にでもまた来ます。失礼しました」

王「ゆ、勇者あああぁぁぁぁーーーーーー!?」

あれから2年の歳月が流れた。魔王の侵略は全世界に広がり、世界は魔物に支配されつつある。

一方、勇者は自宅で酒に入り浸るような生活を日々送っていた。何もせずにただ静かに暮らしていたのである。

がしゃーん

勇者「あっ、瓶踏みつけちゃった」

勇者「うひひ~……あー、暇ってのも悪くないなぁ」

勇者「親もどっちもくたばったし、ここはもう俺だけの家だー!」

勇者「魔王なんてもう知らねー……魔物に支配されても今と生活変わりねぇよなー」

勇者「うぃ~……あ、お酒きれちゃった」

がちゃり

?「お邪魔します」

勇者「ほへ?」

?「それから、先に謝っておきます。ごめんなさい」

勇者「あんた誰~……」

?は 勇者を なぐりつけた!

勇者「ぐえぇ~~~!?」

ドンガラガッシャーン

勇者「お、お前何なんだよ!いきなり人ん家上がりこんできて、しかも殴るとか!」

?「先に謝りましたよね。それから」

?は また勇者を なぐりつけた!

勇者「うぶげぇ……」

?「まだ殴り足りません。死んでもあなた、生き返りますよね? なら死ぬまで殴っても問題ないでしょう」

勇者「ま、待てよ……俺は殴られるようなことした覚えないぞ……!」

?「覚えがない? それなら思い出させてあげますよ」

賢者「私は賢者と申します。以前あなたと共に旅をしていた元僧侶です」

勇者「えっ」

勇者「い、痛い痛い! 痛ぇよ! 耳引っ張るな……俺をどこへ連れて行く気だ!!」

賢者「王に旅の前を御挨拶を。それから、教会で祝福を受けておきましょうか」

賢者「旅の支度は私が全て済ませておきましたからご安心を、勇者様」

勇者「何を……大体、俺はもう勇者じゃないようなもんだぞ」

賢者「あなたに神の加護が宿っている限り、あなたは勇者様です」

賢者「この2年間、私は今日という日の為に修行を積んできました。あなたが飲んだくれている間にです」

勇者「うっ……」

賢者「あなた、前に言いましたよね。目的を失ったらただ腐ってゆくのみだと」

賢者「本当でしたね。ですが、まだやり直せますよ。再び立ち上がってください、勇者様」

勇者「うるさい……」

村の外

勇者「ま、待てよおい! 家にまだ飲んでない酒が一杯あるんだ!」

賢者「お酒なら魔王に勝利した時に飲みましょうよ。我慢してください」

賢者「それと、勇者様の装備を一通りこちらで用意しておきました。装備してください。でなければ即死にますよ」

賢者は 勇者へ やいばのブーメラン、ドラゴンメイル、まほうのたて、てつかぶと を装備させた!

勇者「うえぇー!? 何だこの装備!?」

賢者「勇者様の魔物恐怖症は相変わらずのようですので、遠距離からその武器で支援していただこうと思いまして」

賢者「防具は属性攻撃に対して耐性を持つものを多めに。これでレベルが低い状態だろうと、すぐに死にはしませんよね」

勇者「……お、お前本当にあの僧侶なのか?」

僧侶はルーラをとなえた! 一度行った町へひとっとび!

勇者「―――っとぉー! お前、ルーラ使えるようになったのかよ」

賢者「ええ、賢者に転職しましたので。では進みましょう。ここから南東へ真っ直ぐ進むと、魔物が占拠した町があります」

賢者「囚われた民間人解放の為にも、私たちで町へ留まっている魔物を全滅させましょう」

勇者「おい、魔王討伐じゃなかったのか。そいつらは国の騎士たちに任せて……」

賢者「騎士団は今、ほぼ全隊が出撃中です。しかも数は魔物たちに比べて少ない」

賢者「ですからせめて自分たちの町を自分で守れるように、民間人を救出し、彼らは兵士になってもらいます」

勇者「正気で言ってるのか、僧侶……お前らしくないぞ……ていうか、無理だろそんなの」

賢者「僧侶という名は捨てました。賢者とお呼びください、勇者様」

賢者「では、向かいましょう。道中の戦闘は私に任せていただいても構いませんので」

勇者「そ、僧侶……」

賢者はバギクロスをとなえた! 魔物のむれをたおした!

勇者「あの頃と比べものにならないぐらい強くなってやがる……」

「ありがとうございます!」「このご恩は一生忘れません!」

賢者「構いません。これから国より兵士が訪れますので、彼らの指示で動いてください」

賢者「さぁ、勇者様。あなたのレベルもそこそこ上がったことですし、次の町に行きましょう」

勇者「僧侶、お前本当に変わったんだな。ガキの僧侶とは大違いだ」

賢者「そうですか。どうもありがとうございます。話は歩きながらにしましょう、勇者様」

勇者「……良い意味でも、悪い意味でも変わったな」

勇者「お前、全部坦々とこなしていって……まるで人形みたいだ……」

勇者「何でそんな風に変わった?」

賢者「弱い自分がとことん嫌になってしまったのです。あの頃の私は正真正銘の雑魚でしたからね」

勇者「いや、十分強い方だったぞ……」

賢者「……何なんですか。変わった変わったって、他人事みたいに」

賢者「あなたは何故変わろうと努力しなかったのですか。勇者として使命に嫌気が刺してしまいましたか?」

勇者「……」

賢者「それとも仲間や昔の知り合いの死に耐えられなくなってしまいましたか」

賢者「全部諦めがついてしまったのですか、勇者様」

勇者「うるさい、うるさいぞ。お前は俺に説教するために強くなって帰ってきたのか?」

勇者「お前に俺の何が分かるんだよ!? お前は普通の人間だ。だけど俺は不死身の化物だ!」

勇者「全部俺のこと知った気で言いやがって……何様なんだよ……!」

賢者「……すみませんでした。言い過ぎでしたね」

賢者「さっきの話は聞かなかったことにしていただけますか。私も記憶から消しますから」

勇者「……もう、お前が魔王倒せばいいじゃないか」

賢者「は」

勇者「そんなに強いならお前だけで魔王は倒せるだろ。俺がいたって、いなくたって全部同じだろ」

勇者「いや、むしろ邪魔な筈なんだよ。俺は魔物も怖くて、刃物も怖くて、おまけにアル中だぜ」

勇者「それってどう考えても足手まといの屑野郎じゃねぇか!! また償いとか言って、俺に花を持たせようとしてるんだろ!!」

勇者「違うか!?」

賢者「……いえ」

賢者「勇者様、よくお聞きください。魔王を倒せるのはあなただけなのです」

勇者「うそだ!うそつくんじゃねぇ!」

賢者「嘘でも慰めでもありません。本当なのです。だからこそあなたは勇者として選ばれた」

賢者「不死身の肉体を持ち、何度でも立ち上がれる。そして勇者様が覚えるメガンテ」

賢者「これを駆使すれば魔王を粉みじんにまで破壊でき、勝てます」

勇者「……いや、知ってたよ。想像もついてた」

勇者「勇者なんて聞こえが良い称号をつけられたが、俺はただの人間爆弾として使われてるんだろう」

勇者「あの頃から、ずっと分かってたさ。むしろそれでも良いとさえ思えてたよ」

勇者「いいぜ、行こう。そうと決まれば話は早い。さっさと魔王城まで進むんだ」

賢者「本当に、それで納得がつけたのですか?」

勇者「え?」

賢者「……いえ、何も」

賢者は 例の洞窟跡に 花をそなえた

賢者「……」

勇者「もしかして、お前ずっとここに来たりしてたのか」

賢者「ええ。私の命がまだ消えていないのは、盗賊さんやあの魔物のお陰ですからね」

賢者「そして勇者様にも救われました。その方法は今でも納得がいきませんし、腹が立ちますが、感謝しています」

賢者「ありがとうございました。今こうして賢者になれた切っ掛けを与えてくれたのは、貴方たちです」

勇者「お礼なんて言われる筋合いはない。逆に俺はお前に謝らなければならん」

勇者「足引っ張ってばっかりですまなかった。そして着いてきてくれてありがとう」

賢者「……では、改めて仲間だったと認めていただけますか」

勇者「えっ」

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